稲葉クリニック
明るく、清潔感のある院内。待合室は広々としており、ゆったりと過ごすことができる空間だ。院長の稲葉義方先生は、お父様である前院長の跡を継いで1998年からこのクリニックで診療を行っている。地元住民の皮膚の健康はもちろん、わきが治療やレーザー治療の専門家として、幅広い患者層の信頼を集めている。稲葉先生は、専門的なことを誰にでもわかりやすく話してくれる気さくな人柄だ。患者が疑問を抱きやすいことを、ユーモアを交えながら優しく教えてくれる。肌のトラブルが起きたら、真っ先に相談したくなる存在である。そんな稲葉院長に診療のうえで大切にしていることや、力を入れていることなどたっぷりと語っていただいた。
(取材日2013年2月4日)
わきがの悩みの3分の1は気のせい?正確な診断で患者に安心感を与えたい
―先生は、腋臭(わきが)の治療に力を入れているそうですね。
先代の院長だった父が「皮下組織削除法」というわきがの手術を開発し、今は私が受け継いでいます。わきがの手術には、ほかにもいくつか種類があるのですが、臭いの原因になるアポクリン腺を完全に除去できなかったり、皮膚のつっぱりなどの合併症が懸念されます。「皮下組織削除法」はそうした問題が少なく、確実な治療効果がある手術として日本医師会も認めています。もちろん、出血や合併症の可能性はゼロではありませんが、手術後のケアをきちんと行うことで大部分は回避できます。長年わきがに悩み、「ほかの医療機関の手術で治らなかった」という患者さんが、当院の手術を希望して来院されることがよくあります。遠方からも多くいらっしゃいますね。
―診療をする上で、大切にされていることを教えてください。
まずは丁寧に症状を診察すること。そして正確な診断をすることです。特にわきがの治療に関しては一種の病気としてとらえ、正確な診断のもと、「きちんと治してさしあげる」ことに重きを置いています。ところが患者さんの「臭いが気になるから手術してほしい」という理由で、きちんとした診断をせずにわきがの手術を施してしまうクリニックも少なくなく、わきがではないのに手術を受けていらっしゃる患者さんも多いんです。当院にわきがの悩みで相談に来られる患者さんの3分の1はそういった「臭う気がする」といった思い込みによる患者さんです。ですから私は、当院にわきが手術を希望する患者さんがいらしても、診断後にその必要性のない方にははっきりとお伝えします。どのような治療を行うにしても、診断が正確でないことには患者さんにとって良い結果になりません。患者さんの話をよく聞き、しっかりと検査を行って正確な診断をすることを心がけています。
―わきがでは深くお悩みの患者さんが来院されるのですね。
だいたい小学校高学年くらいから臭いが気になり始めて、思春期の頃や20代に手術を希望される方が多いですね。中には70代を超えて、「介護を受ける時に周囲に気兼ねしたくないから」といってご相談に来られるケースもあります。ただ、当院ではご希望された方すべてに手術をするというわけではありません。あくまでも、わきがであるとハッキリ診断がつき、出血などのリスクに耐えられるかどうかなどを判断したうえで、手術を行っています。先ほどもお話したとおり、わきがに悩む患者さんのおよそ3分の1は、実際には臭いがしないにもかかわらず「自分はわきがである」と思い込んでしまう「自己臭妄想」の状態にあります。もしかしたら臭うのではないか? という不安から周囲の反応に敏感になり、「電車に乗ったら周囲の人が顔をしかめた」「自分が臭うからいつも人が離れていく」などと気に病んでしまうのです。しかし、実際には臭いはしないわけですから、手術を含め、どんな治療をしても状況は改善しません。むしろ、「手術までしたのに治らないほど、自分のわきがは重症なんだ…」と以前にも増して深く悩むようになる方もいます。結果、医療機関を転々と渡り歩くこととなってしまうわけですから、「自己臭妄想」の方には手術をすべきではないですし、患者さんご本人に納得していただくためにも正確な診断が必要なんです。