ほ・す【干す/乾す】例文一覧 16件

  1. ・・・ 可惜、鼓のしらべの緒にでも干す事か、縄をもって一方から引窓の紐にかけ渡したのは無慙であるが、親仁が心は優しかった。 引窓を開けたばかりわざと勝手の戸も開けず、門口も閉めたままで、鍋をかけた七輪の下を煽ぎながら、大入だの、暦だの、姉・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  2. ・・・ 気候は、と言うと、ほかほかが通り越した、これで赫と日が当ると、日中は早じりじりと来そうな頃が、近山曇りに薄りと雲が懸って、真綿を日光に干すような、ふっくりと軽い暖かさ。午頃の蔭もささぬ柳の葉に、ふわふわと柔い風が懸る。……その柳の下を・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  3. ・・・物干へ蒲団を干す時である。 お嬢さん、お坊ちゃんたち、一家揃って、いい心持になって、ふっくりと、蒲団に団欒を試みるのだから堪らない。ぼとぼとと、あとが、ふんだらけ。これには弱る。そこで工夫をして、他所から頂戴して貯えている豹の皮を釣って・・・<泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」青空文庫>
  4. ・・・「満蔵、今日は朝のうちに籾を干すんだからな、すぐ庭を掃いてくれろ」 姉はもう仕事を言いつけている。満蔵はまだ顔も洗わず着物も着まいに、あれだから人からよく言われないだなどと省作は考えている。この場合に臨んではもう五分間と起きるを延ば・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  5. ・・・きょうは青空よい天気まえの家でも隣でも水汲む洗う掛ける干す。 国定教科書にあったのか小学唱歌にあったのか、少年の時に歌った歌の文句が憶い出された。その言葉には何のたくみも感ぜられなかったけれど、彼が少年だった・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  6. ・・・いたく古びてところどころ古綿の現われし衣の、火に近き裾のあたりより湯気を放つは、朝の雨に霑いて、なお乾すことだに得ざりしなるべし。 あな心地よき火や。いいつつ投げやりし杖を拾いて、これを力に片足を揚げ火の上にかざしぬ。脚絆も足袋も、紺の・・・<国木田独歩「たき火」青空文庫>
  7. ・・・ 主客の間にこんな挨拶が交されたが、客は大きな茶碗の番茶をいかにもゆっくりと飲乾す、その間主人の方を見ていたが、茶碗を下へ置くと、「君は今日最初辞退をしたネ。」と軽く話し出した。「エエ。」と主人は答えた。「なぜネ。」・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  8. ・・・上は男の子供ばかりの殺風景な私の家にあっては、この娘が茶の間の壁のところに小乾す着物の類も目につくようになった。それほど私の家には女らしいものも少なかった。 今の住居の庭は狭くて、私が猫の額にたとえるほどしかないが、それでも薔薇や山茶花・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  9. ・・・最早山の上でもすっかり雪が溶けて、春らしい温暖な日の光が青い苔の生えた草屋根や、毎年大根を掛けて干す土壁のところに映っていた。 丁度、お島は手拭で髪を包んで、入口の庭の日あたりの好いところで余念なく張物をしていた。彼女の友達がそこへ来た・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  10. ・・・晴れた日には庭一面におしめやシャツのような物を干す、軒下には缶詰の殻やら横緒の切れた泥塗れの女下駄などがころがっている。雨の日には縁側に乳母車があがって、古下駄が雨垂れに濡れている。家の中までは見えぬがきたなさは想像が出来る。細君からして随・・・<寺田寅彦「イタリア人」青空文庫>
  11. ・・・ もう一つのを開いて見ると、それはからだの下半が干すばって舎利になっていた。蚕にあるような病菌がやはりこの虫の世界にも入り込んで自然の制裁を行なっているのかと想像された。しかし簔虫の恐ろしい敵はまだほかにあった。 たくさんの袋を外か・・・<寺田寅彦「簔虫と蜘蛛」青空文庫>
  12. ・・・すると父は崖下へ貸長屋でも建てられて、汚い瓦屋根だの、日に干す洗濯物なぞ見せつけられては困る。買占めて空庭にして置けば閑静でよいと云って居られた。父にはどうして、風に吠え、雨に泣き、夜を包む老樹の姿が恐くないのであろう。角張った父の顔が、時・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  13. ・・・血の如き葡萄の酒を髑髏形の盃にうけて、縁越すことをゆるさじと、髭の尾まで濡らして呑み干す人の中に、彼は只額を抑えて、斜めに泡を吹くことが多かった。山と盛る鹿の肉に好味の刀を揮う左も顧みず右も眺めず、只わが前に置かれたる皿のみを見詰めて済す折・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  14. ・・・孔子は十二君に歴事したりといい、孟子が斉の宣王に用いられずして梁の恵王を干すも、君に仕うること容易なるものなり。遽伯玉の如き、「邦有レ道則仕、邦無レ道則可二巻而懐一レ之」とて、自国を重んずるの念、はなはだ薄きに似たれども、かつて譏を受けたる・・・<福沢諭吉「徳育如何」青空文庫>
  15. ・・・ 女監守は自分のものを干す物干竿と女囚のとをやかましく別にしていて、うっかり間違えて女監守の竿にかけでもすると、「オイ、オイ! 誰だい? きたならしいじゃないか! 誰が間違えたんだ!」と、すぐはずさせ、その物干竿に石鹸をつけても・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  16. ・・・こんな日に干すのでもあるまい。毎日降るのだから、こうして曝すのであろう。 がらがらと音がして、汽車が紫川の鉄道橋を渡ると、間もなく小倉の停車場に着く。参謀長を始め、大勢の出迎人がある。一同にそこそこに挨拶をして、室町の達見という宿屋には・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>