• 2016/6/1 05:00:09

食の仕事人第33回オーガニック日本酒のお話

日本酒。ワインやビールなど数ある酒のなかでも国名が冠された酒は世界にも類がありません。今回はオーガニックな作り方で日本酒を仕込む茨城県の蔵元『月の井酒造店』さんを訪ねました。

「月の井酒造には150年あまりの歴史がありますが、オーガニック日本酒は十年ほど前に出した新しいお酒です。母が自分たちは食べ物には気をつけているのに、なんで売っている商品がオーガニックじゃないんだろう、と疑問に思ったのがきっかけでした」

お話を伺ったのは月の井酒造店の八代目で専務取締役の坂本直彦さん。

「まずお米の確保をしなくちゃいけない。酒造好適米(タンパク質の少ない酒造りに向いている品種)を探すことからはじまりました。有機JAS認証を受けるためには三年間、無農薬の田でないといけない。すると限られてきますよね。私たちの場合はたまたま茨城県内の農家さんとの出会いがあって、有機の美山錦にたどりつきました」

──有機の日本酒というと作り方も異なるんですか?

「はい。細かいところで違いますね。これは蔵が旧い故に可能だったのですが、例えば酒蔵の壁も合板のような有害な化学物質を含んだものは使っていません。また掃除も違います。薬品を使えば簡単なのですが、すべて熱湯消毒です。手作業で雑巾を使い、壁はもちろん道具一つ一つまで洗っていきます」

材料だけではなく掃除も手作業、熱湯消毒とは驚きです。オーガニックと名乗るためには注意しなくてはいけないことが多いのだそう。

「でも、有機JASっていうマークがついた日本酒はないんですよ」

──え? そうなんですか。

「有機JASというのは農水省が発行しているマークで、お酒づくりは国税庁の管轄ですから。その代わりにラベルを見ると清酒(有機農産物加工種類)という表示がされています」

たしかにラベルには有機農産物加工種類の文字が。今度、お酒を買う時はこの表示を探すと安心かもしれませんね。

「他との違いを見ただけでわかれば一番いいんですけど、自分たちがやっている酒造りは結局、口頭でしか説明ができないと思っています。酵母の選定をはじめ、打栓から出荷にいたるまでうちでは有機と名のれる酒造りを心がけていますから」

ところで現在は日本酒ブーム。お店でも様々な日本酒が楽しめるようになりました。

──今後の蔵元に必要なことはなんだと思いますか?

「自分たちの個性を出し、それを発信していくことだと思います。どんなに同じ材料、同じ手法で酒造りをしても、環境や水の違いもあり蔵によって出来上がるお酒って違うと思うんです。自分たちにとっては「地元(大洗)で酒造りをしている」ということは誰にも真似できないことです。蔵がある場所柄とか地域性をもっと掘り下げて、背景や想いをお酒に落とし込めると、もっと特色が出るんじゃないかな、と思うんです」

──地域の良さと組み合わせていくということですね。

「それが地酒なんだと思うんです。このところ人気の地酒は都内で飲めるけど逆に地元では飲めないというのも結構あるじゃないですか。もちろん都内で沢山の方に飲んでもらい広く認知してもらうのも大切なことですが、飲んだ方が『この酒、どこでつくられているんだろう』と興味をもち、実際に足を運んでもらうのが地酒の良さなんだと思います」

ワインは土がつくるとよく言われますが、それに相当するものが日本酒にとっては水でしょうか。那珂川の伏流水と潮風が月の井酒造の味を特徴づけている。現地に足をのばし、あるいは訪れてからお酒を口にふくむと海の風景が頭に浮かびます。

日本酒は土地と深く結びついていて、一つ一つ物語を持っています。舌だけではなく心も満足させる、そのことが最近の再評価に繋がっているのでしょう。

 

『取材後記』

月の井酒造の酒はやさしい味がした。それは製法だけではなく、つくる人の心まで込められているからだろう。世界中のレストランのメニューにオンリストされるようになった日本酒。私たちはそれを最も身近に享受できる特権的な立場にいる。いい酒は人と地域に幸福を与えてくれる。

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