闘病生活中は「また美容の世界に戻りたい。」想いと、「同じ苦しみは味わいたくない。」という二つの想いがいつも綱引きして苦しみました。
しかし、心の病が完治した1年後、私はふたたび美容の世界に戻ることを決心しました。
この時に私が心に決めたことは、私自身が化粧品研究に携わるということです。
「あれだけこだわりを持って作った化粧品が、どうしてダメだったのか?」
「どうして、知らぬ間にたくさんの人の肌を傷つけることになってしまったのか?」
まずは、それを知らない事には前に進めないと感じていたからです。
「あの時、信頼を裏切ってしまったお客さんに、もう一度信頼してもらえるようになりたい。」
この思いが、私が美容成分研究所を立ち上げたきっかけでした。
化粧品研究に携わるようになり、その世界のことを知ると、今までの自分が化粧品について知っていた常識がガタガタと崩れていきました。私が知っていた知識が未熟で偏っていたのだというのを教えられました。
特に驚いたのが、化粧品研究という世界の構造でした。
実は、化粧品の研究者を大きく分けると2種類に分けることができます。
同じ化粧品研究の世界でも、「浅い世界にいる研究者」と「深い世界にいる研究者」がいるのです。
「深い世界の研究者 」というのは、まったく新しい化粧品を生み出すことができる研究者のことです。
まだ世の中に存在していない配合レシピを、一から生み出して化粧品を作ることができます。
一方、「浅い世界の研究者」というのは、「深い世界の研究者」が作り出した配合レシピを基にして化粧品を作ったり、既存の配合レシピに手を加えアレンジして化粧品を作る研究者のことです。新しいものを生み出すことよりも、既存の化粧品をアレンジすることに比重を置いた研究をしています。
化粧品研究の世界は、この2つの世界の研究者がお互いに協力し合い補うことで、良い化粧品を生み出してきたのです。
ところが最近は、配合レシピを一から生み出して化粧品を作る研究者(深い世界の研究者)が減ってきています。
理由は、化粧品研究の世界を取り巻く環境が大きく変わってきているからです。
商品の入れ替わりサイクルが激しくなり、次から次へと新しい商品を発売しなければ化粧品会社は生き残っていくことができません。
そのため化粧品研究にも効率化が求められるようになりました。
一から配合レシピを研究するための十分な研究時間や開発コストも削減されています。
今の化粧品研究では、「いかに効率よく研究開発するか」、「いかに短期間で新しい化粧品を完成させるか」ということの方が重要視されるようになっていて、昔ながらのこだわりを持った研究を続けることが難しい状況になっているのです。
ですから、当然、いま売られている化粧品についても、既存の配合レシピに少し手を加えただけの化粧品が増えてきています。
処方の8割が予め決まっていて、残りの2割の部分だけをアレンジして新しい化粧品として売り出しているのです。
開発期間が短くなりコストも抑えられることによって、お客さんは新発売の化粧品を手ごろな値段で手に入れることができます。
しかし、アレンジ化粧品の中には十分な検証がされていない化粧品も紛れ込んでいます。
既存の配合レシピに手を加えると「どういうリスクが発生するか・・?」「新たな肌トラブルを引き起こさないか・・?」手を加えたことによる影響をしっかりと検証しなければいけません。
一度完成された配合レシピというものは、絶妙のバランスの上に成り立っているため、バランスが崩れることで、肌にトラブルをあたえる可能性も出てくるからです。
ところが現実には、検証が中途半端なままのアレンジ化粧品が今の化粧品市場には紛れ込んでいます。
その理由は、化粧品研究においても効率化が求められるようになり、研究開発の期間が短縮されて検証に使える時間がどんどん削られるようになってしまったからです。
検証がまだ十分にできていない場合には、商品の発売時期を延期して検証するための時間を確保するのが当たり前のことです。
ところが、検証するためだけのために、わざわざ商品の発売時期を遅らせるくらいなら、簡単な検証で終わらせて商品を発売してしまおうと考えてしまう人たちがいるからです。
以前の私は、このような化粧品研究という世界の構造や、アレンジ化粧品が抱える問題点というものについて、まったく知識がありませんでした。
そもそも、あの時のお客さんの肌を傷めてしまった化粧品が「既存の配合レシピに少し手を加えただけのアレンジ化粧品なのか?それとも一から配合されたオリジナル化粧品なのか?」ということさえも知りませんでした。
そして、新成分を高濃度配合することにこだわれば、よい化粧品が作れると盲目的に信じていました。
でも、現実には私のその考えは間違いでした。
どんなに新成分と高濃度にこだわっても"あの時の化粧品"はアレンジ化粧品であり、しかも十分に検証がされてないままの化粧品だったからです。
私は、自分自身が化粧品研究に携わるようになって初めて、自分の化粧品が多くの人の肌を傷めた本当の理由を知りました。
この世界に飛び込んだからこそ知りえた事実です。