ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 君を想い、言葉の代わりにこの花を2016年12月28日 23:59いつからだろうもう、「それ」がいつから始まったか、だ、なんて思い出せない。♪~♪~かつてはあまり鳴らなかった携帯電話。持っていたとしても、秋葉原通いが小学生のころからあった小野田の身を心配して、中学生の時から持っていたのだが、母との連絡以外はほとんど使われることはなく、着信音を鳴らすのもほとんど母からの連絡によるものであった。小野田からもアニメの録画を頼みたいときくらいしか使っていなかった。今は、部活を始めて、今泉、鳴子・・と、友達が増えてそれなりに鳴るようになった。当初はアニメ研究部への入部を希望していて、運動部に苦手意識を持っていたのだが、今は自転車競技部へ入部して本当に良かったと彼は思えるようになった。それに伴って、前より少し、電話やメールが好きになれた♪~♪~今日もまた、誰かからの連絡だ。同級生の誰かだろうかと思い、ディスプレイを見てみると携帯電話に表示されていたのは、普段充電しているのかも、それどころかきちんと「携帯」しているのかさえも怪しい少年の名前だった「!?」どうしてまた、彼が自分に連絡を急にしてきたのだろうか。でも、同時にとても嬉しかった。なかなか連絡のつかない相手でもあったのだから「も、もしもし!!ひ、ひひひひ、久しぶりだね真波君!?」『あはは、坂道君すんごい声返ってる!ねぇ、今度の日曜さ、坂道君予定開いてる?』「う、うん!その日は大丈夫だよ!」『良かったぁ、じゃあ久しぶりに会わない?山で思いっきり走って、それから君が好きだって言うあの街を見に行くの』「一緒にアキバに!?ホントに!?すっごい楽しみだよ、じゃあ、またその日に!」『喜んでもらえてよかったじゃあ、また日が近くなったら連絡するね。じゃ!』真波からの急な連絡、そして誘いは嬉しかった今はお互いに学校にいる、まだまだ授業がある。部活が始まるまでの時間に受ける授業が憂鬱だなぁなんて思っていたのがどこかへ飛んでしまうくらいには、小野田は舞い上がるくらい嬉しく感じていた。「なんや小野田君、えらいご機嫌やな?なんや、でっかいのん出たんか?」「鳴子君!?もう、そんなんじゃないよ!」鳴子が小野田に声をかけてくるが、彼は相変わらずのトイレネタを振ってきた。もちろんそんなはずはないので、そこは素直に否定する小野田。「じゃあ、あれやな!カノジョやな!」「え、え・・・、ええぇえええ!?」「お、否定ナシなんやな!小野田君やるやないか!うちの学校の子か?どの子や!?こっそり教えてぇな、言い振らしたりはせんよって」「え、っと・・・」「その辺にしといてやれ」まさに鶴の一声と言ったところか、二人の間に割って入ってくる声がする。「なんや、スカシやないけ!存在感なさ過ぎて気ぃ付かへんかったわ」「さっきからここにいたんだがな?気付かなかったということは、鳴子、お前は近々眼科にでも行くことを勧めておくよ」「カーッ!!急に現れて高身長アピですか!ホンッマお前は・・・」「ところで、誰かと連絡していたみたいだったが、相手は誰だったんだ?あの様子だと、昔の友達とかそんな様子に思えたんだが」「ワイの話無視かい!」鳴子の話を一切スルーし、今泉は小野田に話しかける。「ああ、うん、真波君がね、今度久々に会わないかって」「なんや、真波君かいな。良かったやないか!でもまぁ、ハコガクさんの方も元気そうで良かったわ」「お前たち、たまに連絡取っていたんだな。何となく、あのクライマーが自分から連絡するイメージがあまりなかったが」「・・・ああ、なんか分かる気ぃするわ」「あはは。でも、真波君だって忙しいんだし。話すときは結構喋るんだ・・・・」友達に話すときだって、その嬉しい気持ちをそのまま伝えてしまうくらい嬉しいはずなのにそれでも、「アレ」は起きてしまう。「・・・っ!!・・っっ」真波に会える約束が出来たのは嬉しい、しかもそれを真波のほうから連絡してきて約束をしてくれた。この興奮をそのまま、今泉たちにぶつけてしまいたいくらい、嬉しいはずなのに「おい、小野田?」「どないしたんや・・・・」「ごめん、僕、ちょっとトイレ・・!!」何故だろう、今泉や鳴子に対しては特にこの現象は起きない。誰よりも尊敬する先輩の巻島に手紙を書いているときでさえ、こうはならない。だけれども唯一、真波のことを考えるだけで、小野田は苦しくなるのだった。その原因は何なのか、彼自身にも分からず、その気持ち悪さに病院に行っても特に異常はないと帰されてしまった。確かに風邪は引いていない、悪いウイルスはいない。それが分かっただけ安心していたが、吐き気が治まることはなかった。しかし、最近それが何なのか、体が小野田に教えてくれた「げほ・・・が、はっ」トイレに駆け込んだ小野田の口から出たのは、名前も知らないような色とりどりの花「・・また、か」その花を見て、嘲笑が漏れてしまう、自分に対して、である花吐き症叶わぬ恋をした人間がかかる病気病院で、決して治療できない病気想いが積もれば積もるほど、花を吐き続け、いずれその花が命を奪う『花を吐くようになってから、君への想いが、今泉君や鳴子君達への物と異質なものだと知ったんだ強くて、格好良くて、でも、どこか可愛くもあって、優しい、自由に空へ羽ばたいていってしまいそうな君に、僕はいつのころからか恋をしてしまったんだ』************************************************************************************************************「さんがく、どうかしたの?」一人の少女が、カーテンの向こう側にいるであろう幼馴染に声をかける。いつも通り、遅刻はしてきたものの登校した時はいつもとなんら変わらない様子であったにも関わらず、誰かに電話をしたと思ったら、急に苦しみ出し、保健室へ行ってしまったのだ。宮原は、そんな真波を心配し、付いてきたのだが。「どうしたのよ?電話の相手に嫌なことでも言われたの?私で良ければ、話くらい聞くわよ?」「そんなんじゃ・・、ない、・・っ」「やっぱりあなた苦しそうよ!?早退してお医者様にかかったほうが」「いい・・・、すぐに落ち着くから」「でも、」「大丈夫だよ、いいんちょ・・・・俺、ちゃんと追いつくから先に、・・戻ってて」「・・・・・・・・・」こういう言い方をしてくるということはよほど弱っているようだ、そしてその弱っている姿を見せたくないのだろうと、宮原は察した。「分かった。保健室の前にいるから、何かあったらすぐに声かけてね」「・・・うん、ありがと」宮原が保健室を出て、扉を閉める音を聞くと、真波はほっとした。彼女が心配してくれるのは、とても有り難いし、そんな子が幼馴染で本当に良かったとも思える。「・・・・う、え・・・っ・・・・・・ぇぇ・・っ」真っ白なベッドのシーツの上に、真波はそれを吐き出す。黄色い胃液でもなく、真っ赤な血でもない、青い美しい薔薇の花弁を『ありがと、いいんちょ。でも俺、君だからこそやっぱ言えないよ。最近、俺、好きな人が出来たんだって、こうして花まで吐くようになっちゃったんだ、なんてさ』************************************************************************************************************「坂道君、大丈夫?なんだか顔色が悪いけど」「そ、そうかな?」後日、真波との約束の日。電話があって、花は何度か吐いてしまったけれど、それでもやはり他校性である真波とこうして時間を取って会うのは、小野田にも楽しみであることには違いなかった。きっと、今、自分はにやけ顔を抑えきれていないのだろうと小野田は思っていたが、それに反して、真波の小野田を見る表情が心配気で、どこか暗いものだった。「もしかして俺、無理に君のこと誘っちゃったかな?」「そんなことないよ、気にしないで」『君にこの想いを伝えたら、君はどんな顔をするのかな?君は優しいから、いつものように僕の目を見て話を聞いてくれるのかもしれない。そして、その話を聞いた後、君は困ってしまうんだろうねそりゃあそうだ、自転車で知り合った友達だと思っていた相手が、同性の自分に恋をしていただなんて知ったら、困ってしまうだろうし、もしかしたら絶望してしまうかもしれない』「坂道君」気にしないで、それ以上のことを答えられないでいる小野田に真波は顔を近づけてくる。「ち、近いよ・・・!!ど、どうしたの?」「やっぱりいつもの君と違う気がするよ?なんだか、前より少し痩せちゃったみたいだ」「あ、あはは。最近練習忙しくって食欲ない日もあるんだ!多分そのせいじゃないかな!」「そう?そんな痩せ方には見えないよ?なんだろう、病気で痩せちゃった、そんな感じだよ?」ぎゅううっ急に、自分の体が暖かいものに包まれる感覚を覚える。小野田の体が、真波にそっと抱きしめられたのだ。「ほら、前より細いよ?坂道君、一緒にいられるのは嬉しいけど、無理はしないでほしいな?」『暖かい君の優しさが、そのまま伝わってくる本当に、心配してくれてるんだろうって思う。君は本当に優しい人だからでも、ごめんねその優しさが、今の僕には毒にもなるんだ』「・・っ・・、く、う」「坂道君!?」『どうか見ないでほしいどうか知らないでほしいこの毒で苦しむのは僕一人で構わない』「・・ごめ、僕、ちょっと」『もし、この想いを花とともに伝えたとして、君はどんな顔をするのだろうか?』真波の腕からすり抜けて、ふらついた体で、小野田は走り出す。自転車に乗り走って逃げる気力は、吐き気に苦しむ彼にはなかった。時折転んで擦り傷を作ってしまったとしても、彼はまた立ちあがり、構わず走り続ける。男の自分が、彼の前で花を吐くわけにはいかない。その一心で、小野田は真波から離れようとする。「待ってってば!」しかし、自転車競技部入部前にはほとんどスポーツと縁のなかった小野田が、自転車に乗らずに、自然と遊ぶことが好きな真波から逃げられるはずもなかった。「坂道君、どうしたんだよ、急に行かないで。やっぱりどこか悪いの?」逃げ出そうとする小野田の腕を、真波はもう一度掴む。「・・・っ!!」また、強い吐き気が襲ってくる。小野田は、真波を突き飛ばし、逃げようとするが、「が・・、、はっ・・!!」それは、無駄な抵抗に終わってしまった。小野田の口からは、何種類もの黄色い花がぼろぼろと、口から溢れ出てくる。真波に見られてはならないと、必死で口を押さえ、花が口から出るのを少しでも抑えようとするが一度花が溢れ出てしまうと、もう止まらなかった。「坂道君、それ」「・・・あはは、びっくりした、よね?ごめんね、こんな姿、君には見せちゃいけないって思ってたのに。せっかく今日誘ってくれたのに、こんなの見たくなかったよね」「・・・・・・・・・・・・」坂道が花を吐き出す姿を、真波は拒絶もせず、ただただずっと見守っていた。「僕、ね。好きな人がいるんだ。だけど、・・・僕にはとても手が届かない子で。きっと、僕はこの先、この花と付き合って行かなきゃいけないんだと思うんだ」「・・・・・・・・・・・・・・・」「あ・・・・、う、ぐぅぅっ」「・・・・・・・・・・・・・・・」「大丈夫だよ、真波君。もう、いつものこと、なんだ・・・・・僕なら平気だから、そんな顔しないでよ」先程までは心配そうなどこか暗い顔をしていた真波だが、花を吐く小野田を前にしてだんだんその表情が変わっていった。「真波君、泣きそうだよ?」本当なら、小さな子どもをあやすように、その頭を撫でてやりたい。だけども、今の自分はそれが出来ない。花吐症は、片思いで発症する病気であるが、患者が吐いた花を触れることでも感染する。今、小野田の手には吐き出した花の花弁がたくさん付いている。こんな手で真波の頭は撫でてやれない。せめてもの、安心させるように声をかける。「そりゃ・・・、そうだよ」「うん。ごめんね。そうだよね、急にこんなの見たらびっくりしちゃうよね・・・・・っ・・・・・、は・・・、が、・・っっ」小野田は、またも吐き気に襲われ、花を吐き出す。今度は、水色の花が小野田の口から溢れ出す。小野田は必死に首を横に振り、「苦しくない、大丈夫だ」と、アピールするが、真波はそれを見て静かに首を振るだけだった。『・・・・・・うん、当然の反応だよね。僕が、真波君に想いを伝えて、それが実るはずがなかったんだ。真波君も、そして僕もどっちも男なんだから』「泣きそうだねって、そりゃ、そうだよ。好きな人が、ここにはいない手の届かない人が好きなんだって言いながら花吐いてるとこなんて見たら、さ・・・・・」『え・・・?』真波の口から出た言葉に、思わず小野田は顔を上げる。「まな、み君・・・?」「だって、その花はここにはいない、手の届かないくらい遠くにいる人への物、なんでしょう?」遠くにいる人、巻島さんかぁ、それじゃあ敵わないなぁなんて言いながら真波は口調こそいつも通りでいようとするが、その表情は先ほど以上に泣きそうなものだった。「なんで、巻島さん?確かに巻島さんは僕が一番憧れてるクライマーの選手だけど、僕の花の相手は違う人なんだよ?」小野田は、今度は自分の指を口の中に入れ、無理やり喉の奥から花を吐き出す。その吐き出した花は、先程吐き出した黄色い花と、水色いの花の上に落ちた。「空みたいな青に、ティアラみたいな黄色、天使の大きな羽根みたいな白・・・・・・この花達の色、誰かさんみたいじゃない?」何度も吐き出したせいか、少しだけ弱弱しい表情で小野田は笑ってみせた、が、真波はうつむいてしまった。「真波君?」「・・・、・・・、よ」「え?」「俺、ちゃんと君が手の届くところにいるよ!今だって、俺、手を伸ばしたら届くくらいに近くにいるよ」「うん、うん・・・そうだね」小野田は両手を伸ばし、真波の頬に触れて、俯いてしまっている彼の顔を上げさせる。もう、真波は泣きそうな顔をしていなかった。少しだけ顔を赤らめ、淡い桃色の花が咲いたように笑っていた。「ねぇ、真波君」「なぁに?」「口からあんな花が出るくらい、僕は君のことが好きなんだ。この好きっていうのは友達とか、それとはまた違った感情なんだ。真波君、僕、君のこと好きでいてもいいかな?」真波は返事の代わりに、小野田に一本の花を挿し出した。それは、花吐症の完治を示す、白銀の百合。花吐症を患ったものが、恋を実らせ、その病を乗り越えた証、そのものだった完