口腔乾燥症(ドライマウス)は臨床と研究両方で専門分野としてきました。そういった経験を踏まえて今回は口腔乾燥症の原因から治療法まで少しだけお話ししてみようと思います。ちなみに個人的な経験から書いているものなので、学会等の公式な見解(そんなものはありませんが)と異なる場合があります。実際に症状のある方はかかりつけ歯科医にまずご相談ください。

概要
 唾液腺の細胞で産生された水成分は、そのほとんどがK+とCl-が細胞から出ていくことによって浸透圧差が生まれ、タイトジャンクションを通過して細胞外へ放出されます。また、一部は管腔面の細胞膜上に存在する水チャンネル、アクアポリン5によって放出されます。
 唾液分泌はほぼ耳下腺(20%)・顎下腺(65%)・舌下腺(8%)の三大唾液腺から分泌されていて、口腔内をキレイにしたり、食塊を形成したり、嚥下を助けたりします。教科書や多くの本には唾液は一日に1.5Lの分泌があるとされているのですが、実際はそんなに流出せず計算上せいぜい600ml程度だとされています。なんらかの原因で、唾液分泌が低下して口腔乾燥症状を呈するのが口腔乾燥症(ドライマウス)です。

原因
 唾液が減少する理由としては①加齢による唾液腺萎縮 ②薬剤の副作用 ③自己免疫性疾患 ④放射線照射等の唾液腺障害が考えられます。
 ①の加齢性口腔乾燥症ではないかという診断は他の②~④の原因の可能性が否定された場合に診断されます。
 ②の薬剤の副作用は重要で、降圧薬や抗精神薬、抗アレルギー薬等、さまざまな薬剤が原因となります。ストレスが増し超高齢化社会の昨今、薬を飲んでいない人を探す方が難しいですから、薬剤性の口腔乾燥症は疫学的にも無視できません。経験的に薬剤性の原因で多いのは抗うつ薬によるものです。このような処方薬は副作用軽減のために処方薬の種類が多くなる傾向にあります。薬剤性口腔乾燥症の改善に減薬は必要不可欠ですが、自己中断は絶対にやめてください。
 ③の自己免疫性疾患(例えばシェーグレン症候群)の方は血液検査や口唇生検等で鑑別します。残念ながら日本の歯科医療保険制度で認められた血液検査項目ではシェーグレン症候群の詳しい検査はできません。なのでもし、シェーグレン症候群である可能性が高い場合はリウマチを専門とする診療科に対診し、他臓器に疾患が無いか等の検索を行います。
 ④は口腔がんや多臓器がんの頸部リンパ節転移などで放射線照射野に唾液腺が含まれる場合に発症します。重篤な口腔乾燥症を引き起こすことが多く、口腔乾燥症の治療は難しくなります。しかし、実は加齢性のものよりも軽快する可能性は高いものです。

治療法
 口腔乾燥症の治療は主に薬物療法が主になります。唾液腺のマッサージが効果的とする本もありますが、研究による統計学的なエビデンスはありません。塩酸セビメリン(サリグレン、エボザック)、塩酸ピロカルピン(サラジェン)の唾液線刺激薬は原因③と④の場合に適応となります。唾液腺刺激薬は最初から通常量を処方すると発汗等の副作用により、服薬しなくなってしまうケースを経験していまして、通常の半量を1~2週間処方してその後、通常量を処方するような工夫をしています。
 ③と④以外の場合は唾液腺刺激薬を使用することができませんので、含嗽剤や漢方製剤を処方することになります。最近、口腔保湿剤(オーラルバランスやリフレケアH等の保湿ジェル)の進歩に目覚ましいものがあり、とても有用だと実感しています。以前はよく処方されていたスプレータイプの人工唾液ですが、今は持続時間や味など口腔保湿剤に劣るためほぼ処方しません。ぼくがよく処方する漢方製剤は麦門冬湯(ばくもんどうとう)です。喘息などの慢性的な咳に出すイメージがありますが、苦味が少ないために継続しやすく口の渇きを癒す優れた漢方です。麦門冬湯と口腔乾燥症について十分説明したにも関わらず、薬の説明書に咳に対して服用するとしか書かれていませんので「咳は出ないから飲まなかったよ~」と言う患者さんがいたのですが、口腔乾燥症にも効果があり多くの論文が出されています。あと、専門外の先生が教科書やハンドブックを見て白虎加人参湯を処方されているのをよく見かけるのですが、その性質を考えるとなかなか改善は難しいと思います。

合併症と対策
 口腔乾燥症をもつ患者さんに多いのが口腔カンジダ症です。カビの一種であるカンジダが口腔内に増殖し口腔内の違和感、疼痛、口角炎を引き起こします。これは唾液の自浄作用が失われることによるものですが、口腔内を清潔にするとか、免疫力を付けることである程度予防が可能です。冬は空気が乾燥していますのでマスクを着用することも有効です。唾液を出そうと飴をなめる方がいらっしゃいますが、口が乾燥している方はう蝕のリスクが健常の方よりも高くなりますのでやめたほうがいいです。歯周病も悪化する傾向にありますから定期的な歯科医院への受診をおすすめしています。

 大学の専門外来を仰せつかり、一冊の本が書けるくらい多くの経験をさせていただきました。口腔乾燥症の全てを書くことは難しいですが、何かの参考にしていただけたら幸いです。