「食べちゃダメ!」と自分に強いるダイエットは確実に失敗する。その理由はとても単純だ。極端な食事制限は、もともと体に備わっている“ラクに生きていこう”とする本能に逆らう行為だからだ。

 体にとっての“ラク”はすなわち、明日の食料を気にせず安心して生きていくこと。そのためには脳のエネルギー源となる糖分が安定的に補給される必要がある。そして、それが足りなくなったときにとり崩す定期預金となる体脂肪も、ある程度ためておく必要がある。

 そのため、食事を制限して口から入ってくる糖分が減ったり、体脂肪が減ってくると、危機を察知した脳がなんとか食料を得ようと食欲ホルモンのグレリンを増やす。「体脂肪が減ると、そこから分泌される満腹ホルモンのレプチンも減り、これも脳の食欲中枢を刺激する」と青木さん。だから食事制限ダイエットは食欲との闘いになる。これが“我慢ストレス”の正体。

 さらに、「長い空腹期間があると、体はそれを覚えていて、次に食べ物が入ってきたとき、もれなくそれらを体脂肪としてため込もうとインスリンなどのホルモンの働きを高める仕組みが働く」と中里さん。

 これが、我慢するダイエットでリバウンドする仕組みだ。我慢してその場その場はなんとかしのいでいるつもりでも、体の方は少ない食料でやりくりするワザを身につけてしまうというわけ。こうなると、我慢しても、もうやせない。極端な食事制限をした場合に、最初はやせても、そのうち下げ止まり、やがて同じ量を食べても太るケースが出てくるのも同じ。食べ物の供給状況に体が適応したからだ。

 上手なダイエットは体を恐慌状態に陥らせないよう、だましだまし摂取カロリーを減らすのがコツ。そのカギになるのが実は、嫌われ者の炭水化物だ。

炭水化物を抜くと食事の満足感が減る

 女性は一般にダイエットというと、まずご飯を抜きがちだ。しかし、ご飯抜きはイコールおかず食いになるので、たんぱく質と一緒に脂肪の摂取量を増やす原因になる。人は脂肪をおいしいと感じるが、満腹中枢が刺激されにくいため、ちょうどいいところで止めにくい。

 一方、炭水化物は食べたい欲求を作り出す脳をおとなしくさせる重要な役割をもつ。

「グレリンはもともと炭水化物を食べさせようと食欲中枢を刺激している。炭水化物は脳のエネルギーである糖に素早く変換されるからだ」と中里さん。実際、炭水化物をとるとグレリンの分泌はすぐに止まるという。

「炭水化物には気持ちを落ち着かせる効果もある。これは血糖値が上がると脳でセロトニンというホルモンの分泌が増えるから。食事の満足度も上がって欲求不満による食べすぎも防げる」と上原さんも口をそろえる。

 炭水化物を我慢するとストレスがたまって、食パン1斤、菓子パン5個……といった炭水化物の大食いに陥りかねない。月経前にイライラしやすい女性もやはり炭水化物=甘い物を渇望する。これらはすべて脳のセロトニンを増やして気持ちを落ち着かせたいという欲求の表れだ。

 だからといって、気晴らし食いを繰り返しても、問題は消えない。「気晴らし食いは癖になる。しかも気持ちを落ち着かせるのに必要な炭水化物の量は次第にエスカレートしていきやすい」と上原さん。

急激に減量すると体の警報装置が騒ぐ

極端な食事制限をすると食欲ホルモンが増えたり脂肪をためこむホルモンの活性が上がって、やせるのが大変になる。

手っ取り早い「米抜き」は食事の満足感を減らす

炭水化物を減らすと血糖値が上がりにくくなり満腹感が減って逆に食べ過ぎたり、脂肪のとりすぎにつながりやすい。

ストレス食いや、まとめ食いでリバウンド

ストレス解消には食パン1斤、菓子パン5個……など大量の炭水化物が必要になる。これを繰り返してはやせられない。

Profile
上原兼治 代表
眞健堂薬局・薬剤師
「女性ホルモンのエストロゲンは食欲を抑制しますが、これが効かない月経前の炭水化物渇望はあめ玉でしのぐのが手です」
青木 晃 准教授
順天堂大学大学院医学研究科
加齢制御医学講座

「昼夜逆転の生活は自律神経の働きを悪くします。寒いときは鳥肌を立て暑いときは汗をかいて自律神経を使う心がけを」
中里雅光 教授
宮崎大学医学部神経・呼吸器・内分泌・代謝内科学講座
「動物は必要量しか食べませんが、人はおごられると余計に食べたりと“脳で食べる”部分が多い分、食欲の調整が難しいのです」

取材・文/蓬莱明子、北村昌陽=日経ヘルス編集部

日経ヘルス 2008年11月号掲載記事を転載
この記事は雑誌記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります

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