「抗うつ剤って太るんですよね?」という質問はよく患者さんから聞かれます。
同時にジェイゾロフトに関しては「痩せると聞いたのですが本当ですか?」という質問もされたことがあります。
SSRIには体重増減の副作用がありますが、「痩せる」方向一択であることが検証されているSSRIは日本では未発売のお薬です。
とはいっても、「ジェイゾロフトで痩せる・太る」はどちらも副作用として起こります。
ここではジェイゾロフトの体重増減についてお話します。
ジェイゾロフトは痩せるの?太るの?
うつ病・うつ状態に対して最初に出されることが多い抗うつ剤には「SSRI」「SNRI」「NaSSA」という3種類があります。
ジェイゾロフト錠(ジェネリックはセルトラリン錠)はSSRIで「太る」ことも「痩せる」という副作用もあります。
痩せるならまだしも、太ると聞いてしまっては抗うつ剤を飲み続けていくうえで無視できない副作用ですね。
特に女性にとっては太る・太らないは聞いてなかったではすまされない問題だと思います。
とは言っても、抗うつ剤を飲むと確実に太るというわけではありません。
同時に痩せることも100%起こるわけではありません。
抗うつ全般に添付文書(お薬の説明書)での「体重増加」の頻度を見ると多いもので5%前後です。
抗うつ剤によってなぜ太るのかというメカニズムについては、まだすべて明らかになっていません。
正確には、抗うつ剤で治療をすると「太ることがある」というのが正しい表現かもしれません。
ジェイゾロフトはSSRIに分類される抗うつ剤ですので、まず一般的にSSRIのお話をしますと、飲み始め初期では太るより逆に痩せることがわかっています。
そして長く薬を飲むと太ることが言われています。
ジェイゾロフトのデータではないのですが、同じSSRIの抗うつ剤で、最初の3か月で0.35㎏体重が落ちて、1年後に3㎏増えていたというデータが示されています(日本未発売のSSRI:フルオキセチン)。
体重が落ちることは、ジェイゾロフト(販売会社:ファイザー)の社内資料の動物実験でも示されています。
(動物実験のデータでは1年投与後も体重は落ちていますが、飼われているので食事量がコントロールされているためでしょう。)
副作用の頻度
欧米でのデータを示しますとSSRIによる体重増加は6%の頻度で認めるとされています。
これは日本の抗うつ剤の添付文書全般でみられる頻度(1-5%)と同等か海外の方がやや高めです。
このあたりは食習慣の違いもありそうですが、どうもそれだけではないかもしれません。
実際には日本でもまあまあの頻度で「太る」副作用を見かけますし、ジェイゾロフト錠の添付文書を見ても、体重増加も減少も副作用報告は1%未満とされています。
先に説明した通りジェイゾロフトをはじめとするSSRIは飲み始め最初数か月は痩せて、長く続けると「太る」という特徴があります。
ただ、もともと太っている場合にはむしろ痩せる傾向があることもわかっています。
他の抗うつ剤との太りやすさの比較
SSRIでどのくらい太ってしまうのか
SSRIの中でも種類によってその体重の増え方の違いが報告されています。
この中にジェイゾロフトのデータは残念ながらありません。
パニック障害の患者さんに、1年間抗うつ剤(SSRI)を飲んでもらったときの体重の増え方のデータがあります。
海外のデータですので、日本人にそのまま適応はできませんが太りやすさの指標にはなります。
- パキシル(パロキセチン) 8.2㎏
- フルオキセチン(日本未発売) 5.2㎏
- シタロプラム(日本未発売) 6.9㎏
- デプロメール・ルボックス(フルボキサミン) 6.3㎏
2年~2.5年間SSRIを服用したときに体重はどうであったか検証した米国のデータがあります。
すべてSSRIで、日本未発売の薬(フルオキセチン)、パキシル、ジェイゾロフトをそれぞれ50人弱を対象に比較しています。
日本未承認の薬(フルオキセチン)はやや体重減少、パキシルは7%以上の体重増加(体重50Kgの人なら3.5㎏以上太った)、ジェイゾロフトでは体重は増えていたもののパキシルのように7%には満たない程度という結果だったのです。
このように同じSSRIでも薬によって太りやすさの程度がかわります。
抗うつ剤全体でみたときに太りやすいものはどれ?
SSRIに限定せず抗うつ剤すべての中でみると、特に太るのは三環系抗うつ薬に分類されるトリプタノール・アナフラニールと、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)に分類されるリフレックス・レメロンです。
抗うつ剤すべての中ではNaSSA(リフレックス/レメロン)が最も太りやすいようです。
「NaSSA > 三環系抗うつ薬 > SSRI、SNRI」
<「太る」副作用頻度が特に高い抗うつ剤>
- 三環系抗うつ薬(トリプタノール、アナフラニール)
- NaSSA(リフレックス・レメロン)
一覧表に示してみましょう。
| 抗うつ剤 | 体重増加 | 抗うつ剤 | 体重増加 |
|---|---|---|---|
| SSRI | 三環系 | ||
| ルボックス デプロメール フルボキサミン | +- | トリプタノール アミトリプチリン | +++ |
| パキシル パロキセチン | + | トフラニール イミドール | ++ |
| ジェイゾロフト セルトラリン | +- | アナフラニール | ++ |
| レクサプロ | +- | ノリトレン | + |
| SNRI | アモキサン | + | |
| トレドミン | +- | 四環系 | |
| サインバルタ | +- | テトラミド | + |
| イフェクサー | + | ルジオミール | ++ |
| NaSSA | その他 | ||
| リフレックス レメロン | ++ | デジレル レスリン | +- |
| ドグマチール スルピリド | +- | ||
ジェイゾロフトで「痩せる・太る」理由
ジェイゾロフトをはじめSSRIに分類される抗うつ剤は、一般的に飲み始めた最初数か月は体重が落ちる傾向があり、その後長期に飲んでいくと次第に太っていくという傾向があります。
その機序について説明していきます。
まず大前提として、薬を飲むだけで太っていくわけではないことを知っておいてください。
動物実験でもわかっていますが、抗うつ剤をラットに投与するだけでは体重は増えません。
「食欲」と「脂肪の代謝」が関わっているのです。
あたりまえですが太るには食事からカロリーを摂取することが必要なのです。
さらに4つの因子がからみます。
- セロトニンやヒスタミンなど神経伝達物質やホルモンへの作用
- 活動量が下がり(鎮静作用)カロリー消費量が下がる
- 食事の嗜好が変わる
- 口が渇いてしまい飴や甘い飲み物を飲んだり食べたりしてしまう
抗うつ剤は神経伝達物質に作用します。
神経伝達物質に関しては「セロトニン」「ヒスタミン」と「レプチン」という3つのキーワードがでてきます。
どれも「食欲」と「脂肪の代謝」に関連します。
これらに作用することで食欲がでてさらに脂肪の代謝はされにくくなるので「太る」のです。
ここからは少し難しい内容なので、飛ばす場合はこちらをクリックして「副作用の対処法」へ飛ぶことができます。
神経ヒスタミンには抗肥満作用、すなわち太りにくい作用があります。
具体的にはヒスタミンによって食欲の抑制や脂肪の分解を促すわけです。
そしてレプチンも食欲を抑える方向に働く脂肪で作られるホルモンで、具体的には上記の神経ヒスタミンを助ける働きです。
- ヒスタミン(H1):抗肥満作用(食欲を抑える、脂肪の分解を促す)のある神経系の神経伝達物質
- レプチン:食欲を抑えるホルモン
つまり、ヒスタミンをブロックすると食欲は出てしまいますし、脂肪の分解も悪くなり太ってしまうわけです。
(厳密にはヒスタミン自身が食欲に作用するというよりは、胃で多く分泌される強力な食欲増進ホルモン「グレリン」を増やしてしまうことが太りやすさと関連しています。)
ちなみにここで言っている「ヒスタミン」は胃薬で有名なガスターがブロックしているヒスタミン(H2)ではなく、神経ヒスタミン(H1)ですから胃薬でも太るのじゃないかとは思わないでくださいね。
さて抗うつ剤に話を戻します。
抗うつ剤によって、モノアミン(セロトニン、アドレナリン、ヒスタミン、ドパミン、ムスカリンなど)に作用します。
もうお気づきかと思いますが、この中に「ヒスタミン」いうワードが入っていますね。
太りやすい抗うつ剤として紹介しました三環系抗うつ薬やNaSSA(リフレックス・レメロン)は特にヒスタミン(H1)をブロックする作用が強いのが特徴で、ヒスタミンが抑えられて食欲が出てしまい、脂肪の代謝も抑えてしまうのです。
(実はこの2種類の抗うつ薬が他より太りやすいのは、他に抗肥満作用をもつアディポネクチンを抑えることも関連しますがここでは省略します。)
一方、神経伝達物質の「セロトニン」に注目してみましょう。
ジェイゾロフトはセロトニンを強めるお薬です。
神経から次の神経にセロトニンという物質を介して伝達するので、イメージとしてはポストにセロトニンという荷物を届けてくるイメージです。
そしてセロトニンのポストは脳にだけではなく消化管など全身の神経に存在し、マンションのように部屋番号が振り分けられており、その部屋のどこにセロトニンが届くかで作用が異なります。
太ることと関連するセロトニンのポストは主に「2c」番の部屋に関連します。
「セロトニン2c」の部屋(5HT2c受容体)は食欲を抑える働きをもつ作用です。
具体的にはレプチンを上昇させることで食欲をおさえます。
そうですこの作用は痩せる方向に働きます。
そうSSRIを飲み始めた初期には食欲が抑えられるので体重は減りやすくなるのです。
(ちなみに体重にだけ着目していましたが、レプチンには食欲を抑える以外にも抗うつ作用もあります!)
レプチンがSSRIを飲み始めた初期に増えることが一過性に痩せる方向に働くことはわかりました。
一方で長くSSRIを飲んだときに今度は体重が増える方向にいってしまう理由はまだ解明されていませんが、一過性にセロトニンが大量に届けられると、まるで迷惑メールをブロックする動きをしますので、これによって「セロトニン2c」のポストにセロトニンが届かなくなる(セロトニン受容体の脱感作)ことで逆に太りやすくなると考えられます。
ただし長く飲み続けるとセロトニン2cの部屋には作用しづらくなっていき最終的には太る方向にいってしまう
ジェイゾロフトで太るのを予防するためにできること
ここまでで抗うつ剤によって太る理由は食欲増進と脂肪の代謝が落ちてしまうことによるのがわかっていただけたかと思います。
しかもその原因は自身の意識で制御できるようなものではなく、セロトニン、神経ヒスタミンなどの神経伝達物質、レプチン・グレリンなど食欲を調整するホルモンが関連しているのでどうにもならないのです。
そして抗うつ剤を飲むだけで勝手に太るわけではなく、食事の摂取が一因であることは大事な点です。
また、脂肪の代謝が落ちるのでいつもと同じ食事量であっても、薬を飲む前よりは太りやすくなっていることも大事な点です。
それではどんな予防策があるか説明します。
1.抗うつ剤を変更する
ジェイゾロフトはSSRIの中でもともと体重増加が目立つ副作用ではありませんが薬を変えたり、減量することは有効と思われます。
ただ抗うつ剤の効果や特徴がすべて一緒というわけではないので、主治医の先生がその抗うつ剤を選択したことには意味があるはずで、太ることを過度に恐れるあまり本末転倒にならないように注意して主治医と相談するようにしましょう。
ちなみに、抗うつ薬は抗うつ効果の面においてその量は大事ですが、抗うつ剤の内服量と太る度合いの相関関係は明らかになっていないため、減薬が体重増加の副作用にどの程度有効かは実際にはわかりません。
また医療者側は体重増加に気づいていないときもあるので、気になれば自分から言うことも大切です。
衝動の発散として過食がみられるときは、抗うつ薬の太る副作用というよりアクチベーションシンドロームの可能性もあります。
アクチベーションシンドロームは、衝動性が強くなって過食になったり、不眠になったり、攻撃性が増したりする副作用です。
このときにはうつ病と診断されていても、双極性障害(躁うつ病)が背景に潜在していることも考慮に入れ、抗うつ剤ではなく気分安定薬や抗精神病薬への切り替えをしたほうが良いときもあるので主治医にきちんと報告しましょう。
2.生活習慣を見直す
間食が多くなっていないか、一回の食事量が多くなっていないか、カロリー過多になっていないかには気を配りましょう。
適度な運動も大事です(できたら有酸素運動)。
筋力が落ちてしまってはこれだけで基礎代謝が落ちてしまい、薬とは無関係に太りやすい体質になってしまいます。
よく過度なダイエットをしているとあとで反動で太るのは筋肉が落ちてしまって基礎代謝が落ちることによります。
かえって以前より太りやすい体質になっているのです。
筋肉は太りにくい体質には重要なのです。
また、神経伝達物質のヒスタミン(H1)がおさえられていると、脂肪の代謝が落ちているため、薬を飲む前と同じ食事量でも太ることがあります。
よく噛むことはダイエットに重要なこと!?
抗うつ剤によってヒスタミン、レプチンなどの食欲をコントロールするホルモンの働きが変化してしまうと食べ物を求めるようになってしまいます。
こうなると食欲が自分のコントロール下にはなく制御できずになってしまっているのです。
食事をするときに咀嚼(噛んでたべること)をしっかりすることは健康に良いことは聞いたことがあるかもしれませんが、ダイエットにおいても科学的に根拠のあることです。
実際、咀嚼しているときの口の中の感覚を脳に伝えることは、神経ヒスタミンがよく作用する方向に働くのです。
神経ヒスタミンは食欲をおさえ、脂肪の代謝を上げる方向に働く作用があるので満腹感を促進させるようにはたらきます。
こうすることで過食を抑制させることができますし、ヒスタミンをブロックすることは抗うつ剤の作用に対抗するのに非常に合理的なのです。
【参考】
第124回日本医学会シンポジウム「肥満症治療のアプローチ」吉松博信
まとめ「ジェイゾロフトは痩せる?太る?」
- ジェイゾロフトを始めSSRIは、最初の数か月は体重はむしろ落ちる側に作用することがある
- SSRIをそのまま長期に服用すると体重は増加して太る傾向がある
- もともと太っていた場合には痩せることが多い
- 太ってしまったとき、もしくは太らないための対応法は間食をしないこと・食事の摂取量を意識することが大事
- よく噛んで食べることで満腹感を得ることは、抗うつ剤の副作用の機序からは合理的に太ることを抑える効果がある
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