農学部特別研究費
平成25年度 研究経過報告書
- 研究者名
- 伊藤 智広
- 研究課題名
- ウニ殻色素成分の美白および皮膚老化予防の検証とその作用機構の解明
研究目的・内容
女性の7割以上の人が美白意識に関心があり、そのうちの約半数がシミやソバカスに悩んでいる。多くの研究機関や香粧品メーカーでは、これら色素沈着を緩和する美白成分の開発が進められている。その多くの美白剤は、メラニン生成の律速酵素であるチロシナーゼの活性阻害または発現抑制を示すものである。我々は、これまでに5%塩酸エタノールを用いて抽出したウニ殻色素のチロシナーゼ活性阻害およびチロシナーゼ発現抑制を明らかにしている。本研究では、ウニ殻色素に含まれるメラニン生成抑制成分の同定およびその抑制メカニズムの解明をすすめ、さらには新しい美白機構の知見を得るために、メラノサイトから分泌されるメラノソームのケラチノサイト輸送機構に対する影響についても検討した。
また、紫外線照射によるメラニン生成と同時に惹起される皮膚老化(シワ・たるみ)が、ウニ殻エキスによって抑制されるか(コラーゲンを分解するマトリックスメタロプロテアーゼ1(MMP-1)の発現抑制)検討した。
研究の経過
(1)ウニ殻色素に含まれるメラニン生成抑制物質の同定
ムラサキウニ殻に5%塩酸エタノールを加え、色素を抽出後、減圧下にて乾固させた。その後、水を加え、クロロホルム、ブタノールにて順次溶媒分配を行った。以後、メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)刺激によるB16-4A5マウスメラノーマにおけるメラニン生成量を指標に活性成分を追跡した。その結果、クロロホルム画分に活性がみられ、さらに本画分をシリカゲルクロマトグラフィーに供し、分取HPLCにより5つの化合物を単離した(図1)。これら単離化合物のメラニン生成量を検討したところ、echinochrom Aおよび2,3'-dimethyl-[9,9'-bianthracene]-10,10'(9H, 9H')-dioneに顕著なメラニン生成抑制作用を確認した(図2)。
(2)ウニ殻色素より単離したメラニン生成抑制物質echinochrome Aのメラニン生成抑制メカニズムの解明
前項でメラニン生成抑制物質と同定した2,3'-dimethyl-[9,9'-bianthracene]-10,10'(9H,9H')-dioneは、多少ではあるがメラノーマ細胞に対する毒性が見られたことから、本研究では、ウニ殻色素より単離したメラニン生成抑制物質echinochrom Aのメラニン生成抑制メカニズムについて検討した。その結果、echinochrom Aは、メラニン生成の律速酵素であるtyrosinaseやtyrosinase related protein 1(Trp-1)およびTrp-2の発現を有意に抑制した。これら分子の発現は転写因子であるmicrophthalmia-associated transcription factor(以下Mitf)により制御されていることから、echinochrom A処理によるMitfの低下がtyrosinase、Trp-1およびTrp-2の発現低下を導いたものと示唆された。 また、メラノサイトで生成されたメラノソームは微小管上を移行し、細胞膜周辺のアクチンへ受け渡しされ、樹状突起からケラチノサイトに受け渡される。このアクチン輸送にはmyosin-Va、Slac2-a/melanophilinおよびRAb27aの3分子が複合体を形成してアクチンフィラメントに沿って細胞膜へ移動する。そこでechinochrom A処理による各分子の発現変化を検討したところ、チロシナーゼ、Trp-1およびTrp-2の発現低下と同じようにMitfが制御するRAb27aの発現が低下した。この結果から、echinochrom A処理はメラニンの生成を抑制するだけではなく、メラノサイトで生成されたメラノソームのケラチノサイトへの輸送も抑制することが示唆された。
(3)メラノサイト含有ヒト皮膚3次元培養表皮を用いたechinochrome Aのメラニン生成抑制効果
マウス由来株化メラノサイトにおけるメラニン生成抑制効果を示したechinochrom Aのメラニン生成抑制能をさらにヒト皮膚3次元培養皮膚を用いて検討した。その結果、echinochrom Aはヒト皮膚3次元培養皮膚においても有意にメラニン生成抑制効果を示し、10および20 µMの処理濃度では、約40%のメラニン生成を阻害した(図3)。40 µMの処理濃度では、メラニン生成を半減させたが、マウスB16メラノーマ細胞を用いた実験と同様に細胞増殖に影響を与えた。
(4)ウニ殻エキスによる紫外線照射による皮膚老化抑制(MMP-1発現抑制)作用
ウニ殻エキスによる紫外線照射による皮膚老化抑制効果を検討する前に紫外線照射量による皮膚老化の指標として用いるMMP-1の発現変化について検討した。その結果、UVB照射量として30 mJ/cm2からMMP-1の発現量が上昇する傾向が見られた。このMMP-1の発現を皮膚老化の指標とすることから、ウニ殻エキス処理による発現変化の観察しやすい90または120 mJ/cm2の照射量を実験条件として選択することがよいことが分かった(図4)。
本研究と関連した今後の研究計画
本研究では、ウニ殻エキスのメラニン生成抑制作用、活性成分の同定およびその抑制機構については、ヒト皮膚モデルにおける検証まで計画通り確認できたが、なぜメラニン生成に関わる転写因子Mitfの発現が抑制されるのかなど、今回検証した分子よりさらに上流で機能している分子(p38MAP kinaseなど)への影響について検討できていないので今後取り組む必要がある。
今回、UV照射装置を購入し、培養ケラチノサイトへの照射時間の調整により皮膚老化の指標とするMMP-1の発現量が異なってくることから、照射時間の設定など、さらに試験条件を明確にした上でウニ殻エキスの皮膚老化機構を検証する必要がある。また、細胞レベルで効果が得られれば紫外線照射マウスの皮膚老化についても今回購入できなかったDermaLabを用いてエキスの効果の検証を進めていく。
(平成26年3月31日現在)