トラバタンズ(Travoprost)の構造は次の通りです。
ルミガン(Bimatoprost)の構造は次の通りです。
いずれもPGF2αの誘導体で、キサラタンに類似しています。違いはトラバタンズがフェニル基にトリフルオロメチル基(CF3)を組み込んでいること、ルミガンはイソプロピルエステルの代わりにエチルアミドであることです。両薬とも2001年に米国で市販されました。
当然のことながら、これらの薬剤はキサラタン側から特許侵害で提訴されることになりましたが、いずれも2002年に和解が成立し、特許問題はクリアーされています。(かなり高額なロイヤリティ代を支払っているようですが詳細は不明です)
特徴としてトラバタンズは保存剤として塩化ベンザルコニウム:Benzyl Ammonium Chloride(BAC)を用いておらず(米国では本来トラバタンはBACを含んでいましたが、BACフリーのものをトラバタンZとして売り出しました。我が国では最初からBACフリーのトラバタンで、和名がトラバタンズとなりました)、角膜上皮細胞への毒性が軽減されていることで、これがこの薬の売りになっています。(角膜に対しての刺激性は他のPG製剤と変わりないと言う意見もありますが)
効果としてはキサラタンと同程度と考えて良いと思います。ただ、キサラタンの効果が見られない症例で眼圧下降効果が見られることがあります。
キサラタンが角膜に取り込まれた後、エステラーゼで加水分解され、前房中では遊離酸として活性を示し、FP受容体に結合し効果を示すのに対し、ルミガンはc1端末がエチルアミド基となっていて、角膜ではほとんど代謝されず、前房中でそのままの形で作用します。
こちらもキサラタン同様な眼圧下降効果が見られましたが、そのメカニズムは不明でした。最近、FP受容体とは別のプロスタマイド受容体に結合して作用することが明らかにされましたが、FP受容体を介しての作用もあるようで、未だに分からないところもあるようです。(Liangによるとルミガンの眼圧下降効果はFPがない場合は見られず、FPとFP遺伝子のスプライシング・バリアントでできた変異FPとの結合体FP-altFPを受容体とするのではないかと言うことです。)
その眼圧下降効果はキサラタンと同等以上に認められますが、充血や刺激感などが少々強いようです。
これらPG製剤の米国での売り上げシェアーを見ますと、
2004 2005 2006 2007 2008
キサラタン 62% 55% 51% 49% 48%
ルミガン 22% 23% 25% 25% 23%
トラバタンズ16% 22% 24% 26% 29%
キサラタンの売り上げはやはり群をぬいており、ルミガン、トラバタンズはライバル関係になっている図式が見えます。
PG製剤は他の薬物には見られない、いろいろな副作用があります。充血や刺激感はともかくとして、虹彩の色素沈着、眼瞼の色素沈着、睫毛乱生が特徴的な副作用です。眼瞼の色素沈着や睫毛乱生は使用を止めれば元に戻りますが、虹彩の色素沈着は戻ることがありません。(幸い、虹彩が茶色の日本人には目立ちません)
米国にマイケル・ブリンケンホフという眼科医がいます。奥様が乳がんの抗がん剤治療を受けた結果、脱毛症を生じ、まつげもすっかり抜け落ちてしまいました。不憫に思った彼は、抗緑内障薬に睫毛が増加する副作用があることを知っていましたので、ルミガンを彼女の眼瞼に毎日塗ることを思いつきました。
その結果奥様のまつげはすっかり元通りになり、快気祝いのパティーの席でそれを披露しました。これを見た参加者はその効果に驚き、こぞって彼にルミガンをせがんだのでした。そこで彼は各種の添加物を入れ、まつげの毛生え薬として商品化し、リバイタラッシュ(RevitoLash) と名付けました。
この製品は150ドルもしますが、瞬く間に売り上げを伸ばし、人気商品となりました。それを黙って見ていなかったのがFDA(米国食品医薬品局)です。2007年11月に警告を出しました。ルミガンは抗緑内障薬として認可したものであり、これを他の美容目的に使用するのはけしからん、と言うわけです。
さらには不適切な使用で、肝心な緑内障の人で緑内障治療薬が効かなくなる可能性があり、場合により失明に至ることもあるとしたのです。
この警告を受け、リバイタラッシュは成分を変更しました。ただし、ほとんど同じPG製剤で側鎖を少々変えたに過ぎませんが。これにより効果が少々減じ、元の製品にはプレミアがつく事態になったのです。
一方ルミガン製造会社は、この事態をみすみす放って置くはずがありません。2008年12月にルミガンのまつげ毛生え薬としての効能を申請し、FDAもこれを認めました。(リバイタラッシュに対する対応とに違いがあったのは不思議ですが)
FDAの認可を受けた唯一のまつげ毛生え薬ということになります。現在これはラティス(Latisse)と命名され、米国では医薬品として売られています。(日本未発売)