これを書いたのももう3年前なんだな〜人間をつくるはなし。
食人鬼はお腹がすいたけれど、自ら人間を捕まえに行くのが面倒臭かった。それにさいきん、逃げられることが多い。力の弱い美少女ばかりを選んでさらっているはずなのに、彼女ら、意外と足が速い。能力の低い食人鬼のつもりはない、油断が過ぎるのだろう。食人鬼は自分のさらってきた美少女たちのあまりの可愛らしさに見とれてしまい、その隙にあっという間に逃げられてしまうのだった。おかげで食人鬼はこのところいつも空腹で、自分の爪の欠片ばかりかじっていた。
そろそろ限界だ。しかし、出かけたくはないな。雨も降っていることだし。そう思って冷蔵庫を漁ったら、運の良いことに、『インスタント人間の素』が見つかった。以前セールで買い込んだものが残っていたようだ。賞味期限は、切れていないと思う。食人鬼は早速エプロンをつけた。アニメの美少女がプリントされたエプロンである。きれい好きな食人鬼であった。
『人間の素』を使えば人間を作るのはカンタンである。袋の中に入っている粉をボウルに入れて、卵と牛乳を入れて泡立て器でかき混ぜれば良い。食人鬼は幼女が食べたかったので粉の量を半分くらいにして残りはまた冷蔵庫にしまっておいた。初めは粉がもたついて重いのでかき回すのに苦労するが、ボウルをしっかり押さえて、粉が飛び散らないよう慎重に、「だま」を押し潰すようにしていけばそのうち滑らかなクリーム状になる。とろりとしたそれを、食人鬼は型に静かに流し込んだ。もちろん星やハートの形の型ではない。人間の形の型である。へこんだ面とふくらんだ面の開きになっており、へこんだ方に素を流し込んでばたんと両面を閉じる。そしてそれを、オーブンで三十分じっくり焼けば完成である。食人鬼は人間ができるまでの間、歌を歌ったり、植物に水をやったり、腕立て伏せなどをしてみたりして楽しみに待った。
チーンと甲高い音に呼ばれて、食人鬼はオーブンを開ける。閉まった型の隙間から、おいしそうな匂いが家中に広がる。食人鬼はキッチンミトンをしっかりつけた手で、それを引きずり出した。留め金を外し、慌てずゆっくり型を開ける。良かった、加熱時間は足りていたようだ。できたばかりの人間はふんわり膨らみ、きつね色に焦げ目がついていた。これで冷ませば髪や肌の色がはっきりしてくるはずだ。食人鬼はきれいな布を敷いた上に人間を座らせるような格好で置くと、洋服を取りに行った。ひらひらとレースを使った、白と薄桃色のエプロンドレス。もちろんこれは食べられない。しかし、気分というものがある。「おいしそうに見えるか」ということは、とても大事なことだ。サイズは、大丈夫だろうか。前作ったときはこれで丁度良かったんだけど、今日は少し粉が多かったかもしれない。
立ち上る湯気の収まってきた人間は、見事な少女の形を成してきていた。腰に流れる髪が、徐々に金色に輝いてきている。瞼は閉じられているが、瞳は青だったはずだ。インスタントなので顔などはあまり選べないが、あのメーカーの素を使うときりりとつり目がちになるので気に入っていた。ふっくらした手足。ぽこりとくびれのないお腹。余分な体毛は生えておらず、どこもつやつやしていた。食人鬼はナイフとフォークを持ち、下準備として、少女のお腹をすぱりと裂いて内臓を出した。赤黒い胃、肝臓膵臓腎臓、びろびろと長い小腸が出てくる。これらを食べる食人鬼もいるけれど、生臭いのであまり好きでない。ホルモン好きで有名な友達の食人鬼にあげようと思う。
食人鬼は内臓の代わりに、自分の好きなものをお腹に詰め込んだ。即ちショートケーキだとか、ドーナツだとかマシュマロだとかクレープだとかクリームソーダだとか。いっぱい詰めて、上から服を着せた。ああ、白とピンクのエプロンドレス、とてもよく似合う。震えそうなくらい長い睫毛、ちょこんと高い鼻、リンゴみたいな頬、愛らしく咲いた唇。我ながら、なんておいしそうなんだろう。口の中が唾液でいっぱいになる。いただきます、と呟いて食人鬼は口を開けたそのとき、少女が睫毛を挙げた。
「………。」
海の底を思わせる瞳が、まっすぐに食人鬼を捉えている。食人鬼は大口を開けたまま固まってしまった。少女の吐息が聞こえる。微かな、花の匂いのする。少女は食人鬼に向かって、ゆっくり首を傾げて、微笑んだ。それは光差す薔薇園に佇んでいると錯覚させるような、微笑だった。食人鬼の脳裏に様々な思いがよぎる。食べるのがもったいないな、飾っておこうかな。でもそれじゃ腐るしな。そうだ、処女のまま死ぬのは可哀想かもしれない、生みの親として責任取って処女を貰ってから食べようか、スカートを捲ろう。いやでも、お腹にショートケーキが入ってる女の子に中出ししたら、いったいどうなっちゃうんだろう。そんなことを考えている間に、少女は微笑んだまま動き出している。その手にナイフが握られていることに、食人鬼はまだ、気が付いていない。