はじめに
ペプチド合成は、いかに効率的で信頼性のあるカップリング試薬を用いるかに左右され、中でも、ラセミ化の起こりにくさが最も重要なポイントでしょう。特に固相ペプチド合成の場合、分子量の大きなペプチドを合成するためには、短時間で定量的に反応が進行することが最も重要です。
ペプチドの合成法については数多くの報告がなされています。現在、最も成功しているアプローチは、ウロニウム塩/グアニジウム塩により発生する活性エステルを経由する方法です。HOBt やHOAt などのベンゾトリアゾール誘導体を基本とする一連のペプチド合成試薬がもっともよく知られており、両者ともカルボジイミドを用いるペプチドカップリングでも添加剤としてよく利用されます。
Scheme 1:ベンゾトリアゾール誘導体であるHOBtやHOAtは、ペプチドカップリング反応においてラセミ化を抑制する添加剤としてよく用いられています。HOBtやHOAtから派生したカップリング剤としてHBTU, TBTU, HATU は最も優れた試薬です。
HBTU,TBTU およびHATUは、HOBtやHOAtから派生した最もよく知られているペプチドカップリング試薬です。では、これらはさらに改良できるのでしょうか?最近、スペインのFernando AlbericioとエジプトのAyman El-Fahamのグループは、カップリング試薬のイミニウム部位に水素結合アクセプターを付与すると著しくカップリング反応が改善されることを示しました1。さらに、1つのジメチルアミノ基をより極性の高いモルホリノ基で置換すると最大の効果が得られます。
一般に、HOBt誘導体は爆発性が高いとみなされており、安全性の改善も課題でした。最近の危険等級の再分類によれば、経済的な輸送や保管はますます困難になってきています。ベンゾトリアゾール類に代わる効果的なカップリング剤を検討した結果、AlbericioとEl-Fahamのグループは、エチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタート(Oxyma)がHOBtやHOAtの有力な代替になりうることを見出しました。
エチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタート(Oxyma)
Scheme 2: Ethyl (hydroxyimino)cyanoacetate(Oxyma、233412)
HOBt やHOAt と比較した結果、エチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタート(Oxyma)はカルボジイミドを用いるアミド結合形成の添加剤としてラセミ化を阻害する力が強いことが示されました。固相および液相ペプチドカップリングにおいて、HOBtよりも優れ、HOAtと同等のカップリング能を有することは興味深い点です2。OxymaのDSCとARC測定では、熱に対する危険性も低いという結果が得られています。
エチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタート(Oxyma)の利点
- 爆発性がなくHOAtと同等のカップリング能を有する、HOBt/HOAtの代替試薬である
- 立体障害の大きなペプチド結合形成ではHOAtを上回る
- カルボジイミドを用いるペプチドカップリングに適している
- フラグメント縮合反応では、HOBtよりもエピマー化が起こりにくい
COMU
Scheme 3: COMU – the ultimate coupling reagent. (712191)
ペプチドカップリング試薬におけるモルホリノ基の優れた効果と脱離基としてのベンゾトリアゾール部位に代わるエチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタートの有効性-この2つを組み合わせ、Albericio と El-Faham は、より安全で効率的なカップリング試薬であるCOMU(712191)を開発しました3。
HBTU, HATU および類似のベンゾトリアゾール系ペプチドカップリング試薬は、ウロニウム塩(O-form )よりも反応性の低いグアニジウム塩(N-form)として大部分が存在します4。
Scheme 4: Guanidinium and uronium form of HATU (also called N-and O-form)
特筆すべき点は、COMUにおいては、反応性の高いウロニウム構造でのみ存在することです。比較研究の結果、COMU は、現在ペプチドカップリングで最良とされているHATUとよく似たカップリング能を有することがわかりました3。下表は、困難な固相合成で他の一般的なカップリング試薬と比較した結果であり、COMUの優れた特性が示されています。
Table 1:異なるカップリング試薬を用いた場合のペンタペプチドH-Tyr-Aib-Aib-Phe-Leu-NH2の固相合成の収率および目的でない欠失した配列des-Aib (H-Tyr-Aib-Phe-Leu-NH2)の収率
| Coupling reagent | Pentapeptide yield [%] | Des-Aib [%] |
|---|
| HBTU | 47.0 | 53 |
| HATU | 83.0 | 17 |
| HOTU | 99.0 | 1.0 |
| COMU | 99.7 | 0.26 |
ペプチドカップリング試薬としてCOMUはきわめて有用です。高活性、高効率的であることに加え、ラセミ化が起こることもきわめて少ない、もしくはラセミ化が認められません。HOBtやHATUに比べて、フラグメントカップリングにおけるエピマー化も低くなっています。COMUは、DMFやNMPなどの一般にカップリング反応に用いられる溶媒に非常によく溶け安定であり、固相合成に理想的です。COMUがもたらす副生物は水溶性であり、単純な抽出操作で分離できるため、液相合成においても利点があります。また、反応中の色の変化により目視や比色分析による反応の追跡が可能です。DSCやARCデータによれば、COMUは爆発性ではないとみなせます。
反応法は、HBTU, TBTU, PyBOPやHATUなどの一般的なカップリング試薬と同様です。ラセミ化が大きな問題になる困難な反応においては、極性の高いモルホリノ基が内部塩基として作用するので、1当量の塩基をCOMUと共に用います。
利点
- HATUと同等もしくはそれを上回る機能
- 爆発性がない(ベンゾトリアゾール骨格を含まない)
- 固相・液相ペプチド合成に適している
- コンフィギュレーションの保持が強い -ラセミ化を抑制する
- 一般的な溶媒に対する溶解性が高く溶媒中で安定である
- 目視や比色分析による反応の追跡が可能である
- 副生成物が水溶性であるため分離が容易である