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大企業の新陳代謝の起こし方と、「発明王」をいかに育てるか
IBM | NewsPicks Brand Design
2016/7/21
「20年後の日本のケーパビリティとは何か」。大企業内のイノベーターと、気鋭のスタートアップ起業家による鼎談シリーズ。今回はパナソニック先端研究本部でヒューマンエージェント技術のトップを担っている仙田圭一氏と、“Pepperの開発リーダー”として知られ、今年3月にGROOVE Xを創業した林要氏、そして日本IBMの的場大輔氏による、日本独自のAI・ロボット技術の発展の可能性を探る鼎談をお届けする【2/3】。
大企業は自力で新陳代謝を起こせない
的場:前回、パナソニックのような日本の伝統的大企業のなかにも新しい動きが生まれているという話をしました。続いて、「日本の技術力」のポテンシャルについて掘り下げていきたいと思います。
まず、今回林さんが起業をされたときに、シリコンバレーを拠点にした方が絶対的に有利だという話が世間では言われていたわけです。しかし、予想を裏切ってあえて日本を拠点として選んだ。その理由を聞かせてもらえますか?
林:私がシリコンバレーを巡ってきて何を見たかというと、振り返ると当たり前ですが「スタートアップが独力で大きくなって、EXITして、ハッピー」という、スタートアップだけが切り離された生態系、というわけでは決してない、ということです。
前回も話が出た通り、大企業は成長するほど「計画外」の動きができなくなります。新しい商品企画を立てるときも、第一声が「初年度の計画台数は?」という話になり、実績のないチャレンジングな企画は通りづらい。
それに対してスタートアップはまず最初に、大企業が打ち破れないチャレンジングな商品企画の第一歩を打ち破ることで生まれてきます。でも、まあスタートアップの作る製品やサービスなんて大企業の規格目線で見たらボロボロなことも多いでしょう(笑)。
スタートアップはマーケットの求める新しい価値は提供できるけど、大企業から見ればハリボテに見えてもおかしくない。大企業の中でやるとハリボテ呼ばわりされて出てこられないものが、スタートアップではそれでもとにかく市場に出してくる。
林要(はやし・かなめ)
GROOVE X 創業者兼 CEO。トヨタ自動車で空力技術者としてスーパーカー「LFA」やドイツでFormula-1の開発に従事。2011 年よりソフトバンク孫正義 CEO が立ち上げた「ソフトバンクアカデミア」に参加。12 年、同 CEO から誘いを受けて「Pepper」の開発リーダーに着任する。15 年にGROOVE Xを創業。数億円の出資金を集めてスタートアップしたGROOVE Xの最終調達額は、国内スタートアップでは異例の規模になると期待されている。
GROOVE X 創業者兼 CEO。トヨタ自動車で空力技術者としてスーパーカー「LFA」やドイツでFormula-1の開発に従事。2011 年よりソフトバンク孫正義 CEO が立ち上げた「ソフトバンクアカデミア」に参加。12 年、同 CEO から誘いを受けて「Pepper」の開発リーダーに着任する。15 年にGROOVE Xを創業。数億円の出資金を集めてスタートアップしたGROOVE Xの最終調達額は、国内スタートアップでは異例の規模になると期待されている。
言ってしまえば「ただそれだけ」の仕事にも見えるので、大企業の担当マネジャーは「社内でもできる」と考えがちですが、実際はやれない。だから、アメリカの大企業はスタートアップをリスペクトせざる得なくなった。大企業の目線で見たらボロだということは百も承知で、自分たちにはできないことを理解しているから、プレミアムをかけてでも買う。
実際、いま西海岸ではスタートアップのEXITの主流はIPOではなく、約9割がバイアウトと言われています。
以前は、文化が異なるスタートアップを大企業が買っても、うまく磨けず、結局潰してしまっていたのが、幾多の失敗を重ね、スタートアップ出身者なども大企業の組織に取り込みながらスタートアップと大企業という文化の違いを乗り越えて磨いていくと、たまには当たりが出る。新陳代謝の原資として、大企業側にとって打率が悪くても必要と理解されてきたんですね。
成功の確率的にはギャンブルですが、大企業にとって唯一の新陳代謝の方法だと分かっているからリスクをとって、プレミアムを払って、賭けに行く。そういう意味では大企業にとってこそ大事な生態系で、決してスタートアップだけで回っているわけではない。
的場:大企業との融合の形態ができ上がりつつある。
林:ただ、そのスタートアップをドライバーにした大企業の新陳代謝の実現のためには、大企業側の深い理解が重要です。一つは文化のギャップを乗り越えて吸収できるように、お互いの目線を合わせること。具体的には、そういう目線を持つ人に、権限を与えること。これが難しい。
さらにもう一つ、要素技術を含めてどうやって協業するかという点もあります。
例えばわれわれも何社もの大メーカーと実際に取引をしていますが、「こういうことをやりたいんです」というと、最近ではそれに使える技術が先方から出てきたりする。そういった技術の中には私が「ゾンビ技術」と呼んでいる、企業が長年投資をして開発したけれども、商品化に至らず今まで使い道がなかった技術なんかもあります。
これが新しいマーケットを作るという視点に立つと、極めて有用な技術になる場合がある。新しい市場なので、今までと異なる需要があるんですね。そして日本の大企業には、このゾンビ技術が相当な数、眠っています。
われわれにしてみると、既存の市場には出てないが、自分たちで開発するのは大変だなと思っていた技術が「ゾンビ技術」としてすでにあるわけで。その辺りがマッチすると、大企業とスタートアップが協業でき、互いに大変良いのではないかと思います。
スタートアップの本質は「プロデュース能力」
林:技術面、資本面、そして新陳代謝という面において、スタートアップと大企業は「両輪」になるべきと僕は思っています。大企業が片方の車輪だけでがんばっても、どうしても新陳代謝が進まない。たとえば日本の部品サプライヤーの部品をうまくプロデュースして成功したのがアップルですね。
日本には身近にすごいサプライヤーがいるのだから、プロデューサーも日本から出したほうが効率は良い。それができれば、日本のスタートアップと日本のメーカーという組み合わせになり、そのスタートアップが育ったら大企業が新陳代謝に使うという生態系ができるのも不可能じゃない。
スタートアップの使命は「リーンスタートアップ」などに代表される方法論にあるのではなく、リスクをとって産業の新陳代謝を促進するためのプロデューサーとしての役割にあると思っています。
ここまで考えると、日本にもちゃんとプロデューサーとしてのスタートアップが出てこないと、日本の大企業の新陳代謝が進まない、ということがよくわかるかと思います。
的場:逆にいえば、日本だからできる可能性がある。
林:要素技術の大半は日本製が優秀です。あえて西海岸にスタートアップの拠点を置いて製品企画し、日本から部品を取り寄せなくても、日本で最初からやるほうがずっといい。何よりその結果として日本でそういう生態系ができることで、日本の産業の新陳代謝になるというメリットがあります。
日本の大企業が海外スタートアップをM&Aするときに何が難しいかといえば、情報量の少なさです。大抵、ペイパル・マフィアあたりの情報網を一通りあたって、それでも買われなかった残り物の情報が、ようやく日本のメーカーやベンチャーキャピタルにくる。そこを拾ったところで当然打率は悪くなりますよね。
それに対して、日本のスタートアップを日本のメーカーが吸収するなら、最初に情報が入ってきやすい。そこで真っ先に取捨選択ができるわけです。そういう生態系がうまく回っていけば、スタートアップ側、大企業側、双方にとってハッピーです。僕が大企業に在籍時代、足りないと感じていたのが、まさにこの点なんですよ。
日本には地政学的優位性がある
仙田:すごくよくわかります。パナソニックは任天堂さんとも取引が多いんですが、昔から密にお付き合いをする中で、「われわれは枯れた技術が欲しいんです」とよく言われました。技術をうまくアレンジして、新しい価値をクリエイトすることに命を懸けているんですね。
われわれが持っていて使い切れていない技術だったり、自分たちだけでは広げられなかった技術が、どんどん商品化されて市場に出て行った経験が実際に多くあります。
的場:林さんが目指していることが、実際にパナソニックで過去にあった。
仙田:そうなんです。ゾンビ技術はもちろん、核となる技術も含め、任天堂さんとはいろいろなコラボレーションをしてきました。それと同じようなことは、これからも何度もあるんじゃないかと思います。
林:任天堂とパナソニックという会社が、どちらも日本にあったことも大きかった。そのときに任天堂が全然違う国にあったら、パナソニックにリーチできなかったかもしれない。
的場:日本企業に眠っているゾンビ技術は、スタートアップの発想と組み合わさったときに、新しく市場を創りだすカギになる。これは日本の地政学的な優位性と言えますね。
的場大輔(まとば・だいすけ)
日本アイ・ビー・エム グローバル・ビジネス・サービス事業 ビジネス・コンサルティング コグニティブ・イノベーションセンター統括エグゼクティブ。自ら起業経験を持ち、東京大学大学院学際情報学府及びGCL(グローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム)にて認知科学を研究しながら学界・業界の境界を超える新たなビジネス創出を専門的に手がける。著書「SNSビジネス・ガイド」(インプレス)、「生き残る企業のIT戦略」(日経BP)。
日本アイ・ビー・エム グローバル・ビジネス・サービス事業 ビジネス・コンサルティング コグニティブ・イノベーションセンター統括エグゼクティブ。自ら起業経験を持ち、東京大学大学院学際情報学府及びGCL(グローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム)にて認知科学を研究しながら学界・業界の境界を超える新たなビジネス創出を専門的に手がける。著書「SNSビジネス・ガイド」(インプレス)、「生き残る企業のIT戦略」(日経BP)。
AIが人のクラスタリング能力を超えるとき
的場:次に話したいテーマとして、スタートアップと大企業がどうやって出会うか?という問題が出てきます。シリコンバレーでのミートアップは、私が知る限り、「人から人への紹介」という人的ネットワークが中心です。
しかし、今後コグニティブ技術が発展していくことで、そういう人的ネットワークがなくても、ニーズのあう人・企業同士がマッチングできるような仕組みが作れるのではないか? という可能性も感じています。その辺り、お二人はどう考えていますか?
林:シリコンバレーに象徴される今のスタートアップ界隈では、人的ネットワークを軸として、人間が持つフィルタリング能力とクラスタリング能力のおかげで、素晴らしいメンバーや ビジネスの組み合わせができ、イノベーションが加速しているとも言えます。
ただ、おっしゃる通り人と人というネットワークには大きな制約もある。とはいえ、直接オンラインで解決、というのもまだ難しい。仮に僕が「こんな技術がほしい」とインターネットに上げようものなら、多くの情報が押し寄せてフィルタリングコストが高くなるとか、正しく理解してもらうために、説明コストが高くなる、なんてことが想像できます。
ですが今後、センシングの進化と共に、AIも人をクラスタリングする能力が発達していくでしょう。それが実用的なレベルになった時点で、各人の人脈が一気に世界規模に広がるはず。そのとき、僕らが困っている問題を助けてくれるのは、知り合いの知り合いではなく、世界の裏側の人になる。
それだけにコンピュータがいかに正しく人間を理解していくのか、コグニティブしていくのかがキーポイントになると思います。
トヨタ自動車やパナソニックでもそうだと思いますが、それこそ大企業になると、もはや社内の人間同士でもミートアップしていくのも大変だったりしますから。
パナソニックの「発明王」の頭の中身
仙田:確かにその通りですね。うちの社内でも新しくとがった製品、新規事業のようなものを立ち上げる人というのは限られていて、そういう人は情報の取り方が独特なんです。
弊社に“発明王”と呼ばれる名物社員がいるんですが、彼は社内での目利きがすごく上手で、事業部を超えてバラバラの技術を組み合わせて、新しい製品をどんどん生み出す。たとえばパナソニックが手ぶれ補正技術でデジカメに参入できたのも、彼の発明、マッチング能力のおかげだったりします。
本人も技術者としてカメラやテレビなど複数の領域に関わっていたんですが、「えっ、なぜそこに?」というようなつなげ合わせ方をする。会社としても、そういう感覚が非常に大事と思っているところがあります。
的場:それはすごい。その発明王の頭の中にある目利きやクラスタリング能力をビッグデータとして機械学習させてもらって、パターンを読み込めたらコグニティブ技術はさらに発展しそうですね。
仙田圭一(せんだ・けいいち)
パナソニック先端研究本部 インタラクティブAI研究部 部長。技術者として3D-CGを活用した車載ナビ、デジタル家電向けシステムLSIの開発などを手がけた後、「VIERA Link」や大画面ホームシアターシステムの立ち上げなどを手がける。2014年に未来の技術展示「Wonder Life-BOX」をプロデュース。16年より現職。
パナソニック先端研究本部 インタラクティブAI研究部 部長。技術者として3D-CGを活用した車載ナビ、デジタル家電向けシステムLSIの開発などを手がけた後、「VIERA Link」や大画面ホームシアターシステムの立ち上げなどを手がける。2014年に未来の技術展示「Wonder Life-BOX」をプロデュース。16年より現職。
コグニティブは発明王を育てられるか
林:そういう意味では、AIの可能性として、「発明王の育て方」というのも面白いかもしれません。発明は人がやるけど、育てるのはAIの助けを得る、といった組み合わせです。
仙田:それは興味を引かれますね。
林:その発明王の方も生まれつきの目利きではないはずで、そういう傾向の性質や姿勢は生来あったかもしれないけれど、それらを元に結局は何度もトライして経験することで学習し、今の独特なクラスタリング観を持つネットワークを脳内に構築したんだと思います。
AIも同じで、ディープなニューラルネットワークに特定のデータセットを与えることで、はじめて個性のあるニューラルネットワークになります。それを考えると、大企業の中で新たなアイデアを出せるような“発明王の卵”はたくさんいるはずなんです。
ただ、発明王になるような人は経験の積み方が普通とはちょっと違う。どういう経験を積み重ねると発明王が育つのか、それを分析することが今後すごく重要になっていくと思います。
仙田:おもしろいですね。実は社内でもよく議論になっているんですよ。いかにして第二の発明王を育てるか、と。
林:人はエピソード記憶を使いながら、無関係なことを学習して結び付けられるという、かなり特殊な能力を持っていますが、人生を俯瞰して解析することが苦手なため、「発明王の育て方」はわからないんですね(笑)。
これはまさにビッグデータ解析なので、むしろAIを中心としたコグニティブ・テクノロジーが、環境も含めて発明王の育て方を教えてくれるはず。例えば人間なら若手に「独力ではい上がって来い」と言いがちなところを、もう少し大事に育てることができるかもしれない。
的場:「匠」のような技術伝承をどうしていけばいいのかということですね。まずは足元から、地政学的条件の中でどう生かしていくかを考えていくことができれば、それが今後の日本の成長を大きく左右するカギになる気がしますね。
※明日掲載の#1-3「日本が作るAI・ロボットが愛される条件は『無意識』と『時間』」へ続く。
(編集:呉 琢磨、構成:工藤千秋、撮影:岡村大輔、撮影協力:DMM.make AKIBA)
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