1.はじめに

炭素弧光灯治療器は、およそ100年前、Niesls Finsenがカーボンアーク灯(フィンゼン灯)の光線を用いて常性狼瘡を治療し、ノーベル生理学・医学賞(1903年)を受けたことから、世界的に広まった。

当時、欧州では、日常生活に必要な紫外線の不足から、不治の難病であったくる病に悩まされていた。カーボンアーク灯は公園などの広域照明に用いられており、夜な夜な、暖を求めてカーボンアーク灯に集まる浮浪者たちのくる病が、薬も使わず治癒したことをきっかけにして、カーボンアーク灯に含まれる紫外光の治療効果が発見された。

「キセノン光線治療器」は、このカーボンアーク灯の短所を改善し、使い勝手をよくしたキセノンフラッシュランプやキセノンランプ(キセノンショートアークランプ)1)を光源に用いた治療器である。

カーボンアーク灯

2本のカーボン(「+」 極と 「-」 極)を接触させて電流を流し、カーボンを離すと電極間にアークが発生する。このアークによって電極は高温になり、「+」 極の先端には 「-」 極からの電子の働きでくぼみ(クレータ)ができ、ここから強烈な光が放射される。この光を利用したものがカーボンアーク灯である。しかし、光色は青白く低効率であり、安定器、電極の送り装置など操作上の複雑さのほか、光の不安定さ、騒音、カーボンの蒸発にともなって起こる空気の汚れなど、短所が多い。

キセノンフラッシュランプ

フラッシュランプは放電ランプの一種で、閃光ランプとも呼ばれている。通常の連続発光をする蛍光ランプや水銀ランプに比べ、瞬間的には1万倍以上の高い強度の光を放射する。フラッシュランプは、目的に応じて特定のガスが封入されるが、発光効率が高いこと、発光電圧が低いこと、不活性ガスのため構成材料の選択が容易なことなどから、キセノン(Xe)ガスが主に用いられ製品化されている。キセノンガスの封入圧力は1-0.1気圧程度、あるいはそれ以下で、発光時の温度は数千度から一万度程度になる。その結果、キセノン全体のガス分子の数ないしは数十%が電離し、Xe+と電子に分離される。放電中の電子は電場によって加速され、エネルギーを得る。この高エネルギー電子は封入ガス分子に衝突し、それを励起または電離する。

このようなエネルギー転移過程において、光は次のような過程で放出される。

  • (1) 励起分子がより低い励起状態へ転移するときの、初めと終わりの状態間のエネルギー差の波長の光が線スペクトルで発光。
  • (2) 自由電子がイオンに捕獲(再結合)されるとき、自由電子の運動エネルギーが光に変わり、連続スペクトルとして発光。
  • (3) 自由電子がイオンまたは他の電子近くを通過するとき、両粒子間は静電場のため、自由電子は減速し、連続スペクトルを放出。

上記の(1)から(3)の光が同時に放出されるため、フラッシュランプの場合は(1)の輝線スペクトルは(2)(3)に対し弱くなり、はっきり認められないこともある。図1に、代表的なキセノンフラッシュランプ(殺菌用)の分光分布図を示す。

フラッシュランプは当初、1960年にMaimanによってルビーレーザ励起用に使用され、その後、固体レーザ(ガラス、YAG等)励起用として、キセノンガスを封入したフラッシュランプが多用された。現在では、小型なものでは、カメラやゲーム機などの写真撮影用、タイミングライトやディスプレイなどの照射用、旅客機や超高層ビルの高所などの信号用に、大型なものでは、半導体の加熱用2,3)、OA機器や製版機の画像用、殺菌、前述のレーザ励起などに用いられている(図2、3参照)。ランプ設計範囲は広く、1ショットのパルスエネルギーは1mJ~105J、パルス幅は1μs程度~100ms程度、発光の繰返しはシングルショット~数十KHz程度まで可変可能である。

図1.代表的なキセノンフラッシュランプの分光分布図(殺菌用)

図2.さまざまなタイプのキセノンフラッシュランプ(ウシオ電機製)

図3.直管型キセノンフラッシュランプの構造(ウシオ電機HP「光技術用語解説 」より)

キセノンランプ

図4に代表的なキセノンランプ(キセノンショートアークランプ,図5,6参照)の分光分布を示す。キセノンランプは、1957年に牛尾工業(ウシオ電機の前身)がシネマ映写用として開発し、その後の1964年には、世界で初の水平点灯型がウシオ電機で開発されている。

キセノンランプの光は出力波長そのものがブロードで、IR域に強い輝線を持っている。このため冷却が十分必要であり、フィルタ等でカットしても、発熱を伴う放射光の一部が直接患部に照射され、患者に熱感を与えるといった問題がある。このことから、熱傷を与えず治療効果をあげることが最大の課題である。しかしながらキセノンフラッシュランプと同様に、紫外線から赤外線にかけてブロードな波長を有していることから、炭素弧光灯治療器と同じく、いろいろな疾患の治療の効果が期待できる。

図4.代表的なキセノンランプの分光分布図(700wシネマ映写用)

図5.キセノンランプ(ウシオ電機製)

図6.キセノンランプの構造(ウシオ電機HP「光技術用語解説」より)