むろいちさん性別男性将来の夢座右の銘投稿済みの作品1ターンオーバ 昼ごはんは弁当を作り、水筒も持参している。 上司から誘われる飲み会には行くが、基本的に割り勘なので「もったいないな」と思いながら参加している。 このように節約、倹約を信条としながら、月に一度、給料日にケーキを買っている。 しかも1ピースだけ。 自分としては高価な買い物。 だって、それだけではお腹が満たされるわけではないのに、牛丼を食べられるくらいの値段がするのだから。 ケーキを買うのはいつも近所の商店街の洋菓子屋。 今の所、6カ月連続。 いつも同じような時期に同じもの(ショートケーキ)だけを買っているので、そろそろ顔を覚えてくれても良いと思うが、この店を経営している老夫婦は商売っ気がないのか、その気配も愛想も特にはない。 だが、この店の味がどうもしっくり来て美味い。 一ヶ月働いたぞ。また明日から頑張るぞという活力を与えてくれる。 何か入っているんじゃないかと疑ってしまうほど、その店のケーキの虜になっている。 今日は待ちに待った給料日。 出勤途中、ケーキ屋のまだ閉じられているシャッターに思わず片手を上げて挨拶をしそうになったくらい気持ちはすでにケーキにいっている。 月末が近い金曜なので、勤め先の銀行も大忙しだった。 仕事柄、基本的に書類や数字を相手にしているが、窓口の方を見ると立ちくらみしそうなくらい大勢のお客さんがいた。 こういう時は、ミスが起こりやすいというのは本当で、定時に何とか終わるかなと思っていると締め上げが合わず、原因究明に一時間かかった。 結局は伝票の入力ミスだった。 この時間なら大丈夫だろう。 ケーキ屋に到着。 シャッターが閉まっていた。 Why? まだ営業時間内だし、臨時休業的な張り紙もない。 食べたくて、食べたくて仕方がない。 やっていないのは仕方がない。他のケーキで誤魔化すのも癪だ。 こうなったら休日の明日まで我慢しようと決断し、肩を落として家に帰った。 翌朝一番で向かった。 シャッターは上がっている。 良かった。 だが店のカーテンは閉まっている。 What’s happen? 今日も休みなのだろうか。カーテンの隙間から中を覗けないかウロウロしていると店からおばあさんが出て来た。 いつものおばあさん。 買えると安堵したのも束の間、おばあさんは一枚の紙を窓ガラスに貼って中に引っ込んだ。 長らくのご愛顧ありがとうございました。 いきなり閉店。 通っていた客がいても対応せずに紙一枚でで済ませるとは本当に商売っ気も愛想もない豪胆な店だ。 これから先、何を楽しみにすれば良いのだろう。 新しい店探しも大変だし、あの味でないと満足できない。 食べたい。とても食べたい。 どうしたら食べられるのだろう。 ううむ。どうしよう。 しばし考えて閃いた。 自分で作るのだ。 店のガラス戸を叩いて、おばあさんかおじいさんを呼び出し、レシピを授かろう。 戸を叩く、おばあさんが出てきたから尋ねた。困った顔をしておじいさんを呼んだ。 けんもほろろに断られた。 月一とはいえ、半年通っていたのになんて冷たいのだろう。 自分だったら、お客さんの顔を覚えて「こんにちは」くらいは言うのに。 自分だったら… 修行を始めた。 まずは菓子作り教室で基本的な知識を得た。 試作したケーキはあの味とは違っていた。 次に夜間の製菓学校に通った。 会社で昇進の声もかかったが、学校があるので断り、製菓衛生師の資格を取得したのをきっかけに退職し、修行のために渡仏した。 結婚もしていなかったし、両親も勝手にしろというスタンスであったので菓子作りに没頭し、幾星霜を経た。 ささやかながら店を持ち、お客さんが喜んでくれている。 ちゃんと挨拶もしている。 でも、あの店の味とは違う。 自分の味に納得していないわけではないが、改善の余地があると思っている。 研鑽を積まなくてはいけない。 扱っているものは甘いのにななんて思う。 思い立って、あの店に行ってみた。 まだあるのだろうか。 商店街はうら寂しい感じになっていたが、まだあった。 あの時のままだ。 老夫婦は生きているのだろうか。 あの時みたいにカーテンの隙間から中を覗けないかウロウロしていると店からおばあさんが出て来た。 おばあさんも全然変わっていない。 不思議そうにこちらを見て来たが、その目に一瞬、光が宿った。 思い出してくれたのだろうと思った。 何せ、レシピを教わろうとしただからインパクトがあったはず。 「あら、お久しぶり」の一言を期待した。 おばあさんは会釈もせず、ガラス戸に挟まった新聞を取って中に引っ込んだ。 味の秘密が分かった気がした。(了)コメント・評価を投稿するコメントの投稿するにはログインしてください。コメントを入力してください。このストーリーに関するコメント
昼ごはんは弁当を作り、水筒も持参している。
上司から誘われる飲み会には行くが、基本的に割り勘なので「もったいないな」と思いながら参加している。
このように節約、倹約を信条としながら、月に一度、給料日にケーキを買っている。
しかも1ピースだけ。
自分としては高価な買い物。
だって、それだけではお腹が満たされるわけではないのに、牛丼を食べられるくらいの値段がするのだから。
ケーキを買うのはいつも近所の商店街の洋菓子屋。
今の所、6カ月連続。
いつも同じような時期に同じもの(ショートケーキ)だけを買っているので、そろそろ顔を覚えてくれても良いと思うが、この店を経営している老夫婦は商売っ気がないのか、その気配も愛想も特にはない。
だが、この店の味がどうもしっくり来て美味い。
一ヶ月働いたぞ。また明日から頑張るぞという活力を与えてくれる。
何か入っているんじゃないかと疑ってしまうほど、その店のケーキの虜になっている。
今日は待ちに待った給料日。
出勤途中、ケーキ屋のまだ閉じられているシャッターに思わず片手を上げて挨拶をしそうになったくらい気持ちはすでにケーキにいっている。
月末が近い金曜なので、勤め先の銀行も大忙しだった。
仕事柄、基本的に書類や数字を相手にしているが、窓口の方を見ると立ちくらみしそうなくらい大勢のお客さんがいた。
こういう時は、ミスが起こりやすいというのは本当で、定時に何とか終わるかなと思っていると締め上げが合わず、原因究明に一時間かかった。
結局は伝票の入力ミスだった。
この時間なら大丈夫だろう。
ケーキ屋に到着。
シャッターが閉まっていた。
Why?
まだ営業時間内だし、臨時休業的な張り紙もない。
食べたくて、食べたくて仕方がない。
やっていないのは仕方がない。他のケーキで誤魔化すのも癪だ。
こうなったら休日の明日まで我慢しようと決断し、肩を落として家に帰った。
翌朝一番で向かった。
シャッターは上がっている。
良かった。
だが店のカーテンは閉まっている。
What’s happen?
今日も休みなのだろうか。カーテンの隙間から中を覗けないかウロウロしていると店からおばあさんが出て来た。
いつものおばあさん。
買えると安堵したのも束の間、おばあさんは一枚の紙を窓ガラスに貼って中に引っ込んだ。
長らくのご愛顧ありがとうございました。
いきなり閉店。
通っていた客がいても対応せずに紙一枚でで済ませるとは本当に商売っ気も愛想もない豪胆な店だ。
これから先、何を楽しみにすれば良いのだろう。
新しい店探しも大変だし、あの味でないと満足できない。
食べたい。とても食べたい。
どうしたら食べられるのだろう。
ううむ。どうしよう。
しばし考えて閃いた。
自分で作るのだ。
店のガラス戸を叩いて、おばあさんかおじいさんを呼び出し、レシピを授かろう。
戸を叩く、おばあさんが出てきたから尋ねた。困った顔をしておじいさんを呼んだ。
けんもほろろに断られた。
月一とはいえ、半年通っていたのになんて冷たいのだろう。
自分だったら、お客さんの顔を覚えて「こんにちは」くらいは言うのに。
自分だったら…
修行を始めた。
まずは菓子作り教室で基本的な知識を得た。
試作したケーキはあの味とは違っていた。
次に夜間の製菓学校に通った。
会社で昇進の声もかかったが、学校があるので断り、製菓衛生師の資格を取得したのをきっかけに退職し、修行のために渡仏した。
結婚もしていなかったし、両親も勝手にしろというスタンスであったので菓子作りに没頭し、幾星霜を経た。
ささやかながら店を持ち、お客さんが喜んでくれている。
ちゃんと挨拶もしている。
でも、あの店の味とは違う。
自分の味に納得していないわけではないが、改善の余地があると思っている。
研鑽を積まなくてはいけない。
扱っているものは甘いのにななんて思う。
思い立って、あの店に行ってみた。
まだあるのだろうか。
商店街はうら寂しい感じになっていたが、まだあった。
あの時のままだ。
老夫婦は生きているのだろうか。
あの時みたいにカーテンの隙間から中を覗けないかウロウロしていると店からおばあさんが出て来た。
おばあさんも全然変わっていない。
不思議そうにこちらを見て来たが、その目に一瞬、光が宿った。
思い出してくれたのだろうと思った。
何せ、レシピを教わろうとしただからインパクトがあったはず。
「あら、お久しぶり」の一言を期待した。
おばあさんは会釈もせず、ガラス戸に挟まった新聞を取って中に引っ込んだ。
味の秘密が分かった気がした。
(了)