第一章「バラの章」バラを愛する人
美しい花々を創り出すことに長けている群馬県。心を込めて作られたバラ、アジサイ、シクラメン、カーネーション、胡蝶蘭、鉄仙など。
花は多くの人に夢を与え、人々をつなげている。歴史や物語にその面影を求めながら、
まずは花々の女王「バラ」について語る。
前橋市の花は、イギリスと同じバラの花。赤城山麓には育種家や切り花業者が集結して造成された広大なバラ栽培地があり、多くの優良な銘柄バラを育てている。その若手生産者の一人で、バラのPRにも熱心な「大谷バラ園」の大谷宝さん。2015年には「全国ばら切り花品評会」で、繊細な白バラ「ブルゴーニュ」にて、みごと金賞に輝いている。大きなビニールハウス数棟以外にも、難しいとされる地植えのバラや、ブルガリア原産のダマスクローズなどを育てている。大谷さんの仕事は、市場に出すバラを見極めて育てること、珍しいバラにもその可能性を見つけること、素晴らしいバラたちを一般の人の手にも届けることである。
「バラでも品種によってその特性は一長一短。ただ、弱すぎる花はだめなんです。病気や虫が付くと、他のバラがやられてしまうから、置いておけない。珍しい魅力的なバラでも、極端に棘が多すぎて扱いにくいものや、花持ちが悪いものは省いていかなければならない。バラを市場に出す裏には好き嫌いだけではない、そんな苦しみがあります。日の目を見ない多くのバラが眠っているものなんです。」市場の条件を満たしたものだけが私たちの手に入る仕組み。しかし大手フローリストが先に大量のバラを買い占めてしまうこともある。そのラインに乗れずに消えていく希少なバラたちも。そうした競争は年々、熾烈を極めている。
大谷さん自慢のバラの1つが「マニエル・ノワール」。細目の茎に花首をもたげる、どこか寂しげな可憐なバラだ。「全体は淡いベージュ色なんですが、濃いピンクの縁取りがあり、開くとそれが消えていく。咲く前と後で、まったく雰囲気が違うのがけなげで美しい。小さくとも見応えのあるバラなんです。」
大谷さんのバラ園には希少バラの1つ「マタドール」もある。黒ずんだ真っ赤な花びらをぎっしりと巻いた、ふてぶてしく刺々しいワイルドなバラ。散りぎわと言えば円形の花びらがいっぺんに落ちて、点々としたたる血を思わせる。まさに闘牛士(マタドール)の花だ。「こればかりはあまりに魅力的なので、捨てきれずにおいてあります。細かく鋭い棘が多くて非常に扱いにくいのですが、なんとかして見せたいと思わせる、独特の魅力がある。」
その感性と惜しまぬ努力が、バラの成功を左右するのだろう。大谷さんの秘密の花園には今夜も香り高く、幻のバラたちが眠る。
春から秋にかけて毎年50種のバラを咲かせ至るところにいつもバラに飾られている「アルバート邸」
さて、バラを売るのはフローリストの仕事。日本で最も大きな市場で、日本中の花屋とデザイナーが買い付けを争うのが「東京大田市場」だ。そこには日本のみならず、世界中の花が集まってくる。その仲買人たちはもとより、生産者にも一目置かれているのが高崎の街のフローリスト「レフェ」の久保麻美さん。パートナーの片岡竜二さんが支えるフランス風の花屋だ。片岡さんは、2009年「いけばな展」で新人賞を受賞し、銀座・日本橋の某有名デパートの花木装飾を手掛ける有名デザイナーである。
しかしそんな片岡さんもバラ好きな久保さんには頭が上がらない。
「それぞれの産地に、それぞれの素晴らしいバラが有るので、あまり産地にはこだわらず、自分の目で見て選びます。季節でも違うし、その日の気分や流行もある。でも私が好きなのはカップ咲きのオールドローズタイプのバラ。中でもとびきり花びらの多い、珍しいバラに惹かれます。 蕾の時、咲いた時、咲ききる手前で、まったく可愛らしさが違うのが素敵。ウエディングにはぴったりです。」久保さんは好きなバラを贅沢に使えるウエディングの仕事、中でも花嫁が持つブーケを作るのが一番好きだと言う。彼女の作るブーケにはいつもたっぷりと新鮮な珍しいバラが入っている。
「値段の高いバラが必ずしも持ちが良いとは限りません。変種であるほど弱るリスクも高い。その特性を見極めながら、結婚式の日に一番きれいに咲かせるために、たくさんの花を仕入れます。咲きが悪ければストーブで暖めたり、蕾が固ければ温かい息を吹きかけたり。週末は眠る暇もありません。」
そんな久保さんに仲買人たちも優先的に良いバラを渡す。価値がわかりきっと大切に使ってくれるフローリストに、自分のバラが選ばれて買われるのは嬉しいものなのだろう。バラ冥利につきる。
バラをめぐるそれぞれの想いは同じ。バラの美しさ、素晴らしを多くの人に見せて、その価値を知って貰うことなのだ。そんな愛を込めたバラのブーケを持つ花嫁は、きっと幸せになれるに違いない。