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『あの悪夢の始まりはプラネテューヌだった』
ここは神次元界。
四つの大国が存在し、それぞれ四人の女神が統治している世界だった。四国は文化や意見こそ違えども、お互いを理解し、手を取り合って共存の道を歩んでいた。
だが、そんな平和なゲイムギョウカイに悪夢が訪れる。
「かみのぷりん――その伝説のアイテムを食することで『シェア』が神次元級に上がるという効力があるとまことしやかに囁かれております」
イストワ―ルが何気なく放ったその一言が平和に終止符を打つことになろうとは誰も想像しなかっただろう。その言葉が争乱を呼び起こし、たちまちゲイムギョウカイは混沌に包まれた。
これは冷たい冷蔵庫から始まり、温かな食卓で終わる物語。
黄金の旋風が巻き起こす奇跡。
※本作品は2012年12月30日にて、東京ビッグサイト(冬コミ二日目)のネプテューヌ合同本にて掲載された短編小説「かみのぷりん」を元に、雪鈴が大幅に改訂・改変を加えた作品です。あれとは別作品になるのでよろしくお願いします。言わせてもらうならば、つまらないモノを生み出してネプテューヌを穢してしまった雪鈴なりのけじめのつもり。
かみのぷりんここは神次元界。
四つの大国が存在し、それぞれ四人の女神が統治している世界だった。四国は文化や意見こそ違えども、お互いを理解し、手を取り合って共存の道を歩んでいた。
だが、そんな平和なゲイムギョウカイに悪夢が訪れる。
「かみのぷりん――その伝説のアイテムを食することで『シェア』が神次元級に上がるという効力があるとまことしやかに囁かれております」
イストワ―ルが何気なく放ったその一言が平和に終止符を打つことになろうとは誰も想像しなかっただろう。その言葉が争乱を呼び起こし、たちまちゲイムギョウカイは混沌に包まれた。
これは冷たい冷蔵庫から始まり、温かな食卓で終わる物語。
黄金の旋風が巻き起こす奇跡。
※本作品は2012年12月30日にて、東京ビッグサイト(冬コミ二日目)のネプテューヌ合同本にて掲載された短編小説「かみのぷりん」を元に、雪鈴が大幅に改訂・改変を加えた作品です。あれとは別作品になるのでよろしくお願いします。言わせてもらうならば、つまらないモノを生み出してネプテューヌを穢してしまった雪鈴なりのけじめのつもり。
黄金の旋風:序章
食べ物の恨みはいつの世でも恐ろしいものだ。
食欲とは生物の三大欲求の一つであり、それが満たされないとなれば生き物は心に生じた不安やその脅威に脅かされ、常時落ち着かなくなる。
そもそも食欲とは何であるか――
食物を食べたいという願望の現れであり、それが満たされなければ、お腹の虫がぐーぐーと身体に空腹を訴えかけるのである。一見、邪魔なものでしかないが、それは身体の異常を示す極めて重要なサインの一つであり、新陳代謝の維持をする為に充分なエネルギーを取り入れるのに貢献しているともいえる。しかし、それを無視をしてしまうと身体に様々な悪影響を及ぼしてしまう。度を越した食事制限や断食など、いわゆる無理なダイエットなどがその典型的な例の一つだ。
人は適度に欲に素直になるべきである、という良い例なのかもしれない。
そんな長い前置きはさておき、そろそろ本題に入るとしよう。
舞台は変わり、ゲイムギョウ界――
そこには人を超越した、特別な存在がいた。
人々から敬意と畏怖をもって、女神と――そう呼称されている存在。
四国には、それぞれ女神がおり、人々からの信仰で支えられている。
国は女神一人では成り立たないのである。
人々の信仰あってこその国家であった。
四人の女神が、四つの国を統治する世界――
プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックス。
通称、神次元界と呼ばれている場所でもあった。
そのゲイムギョウ界で、とある事件が起こることとなる。
きっかけはとある食べ物だった。それは四国の女神を巻き込み、ゲイムギョウ界そのものを揺るがすとんでもない争いへと発展しようとは誰が想像するだろうか。
全てはプラネテューヌで始まり、プラネテューヌで終わる物語。
黄金の旋風が導く、伝説の宝。
それもこれも、神次元界のお話である。
第一章――かみのぷりん
全ての始まりは冷蔵庫からだった。
プラネテューヌの教会は今日も騒がしい。ここは他国と比べても、国力が劣っているため経済力に乏しく、いくらか整備が行き届いていない箇所が多々ある。この教会もその一つだった。ましてや大人数が集まることを想定して作られてはいないためか、集会をするには不向きな場所だ。それを知ってか知らずか、お構いなしとばかりに、ただでさえ狭っくるしい教会に人が溢れ返っているのは最早、プラネテューヌでは見慣れた日常の一つであった。それはなにもプラネテューヌの住人――ネプテューヌやプルルートやイストワ―ル、コンパとアイエフ、ピーシェ――だけに限った話ではない。おかしなことに、本来なら競争関係にあたるラステイションやルウィー、リーンボックスの女神の姿もごくありふれた風景として混ざっていた。
そう――ここ、プラネテューヌの教会は、すっかり女神の溜まり場となっていたのだ。
「ピーシェちゃんはプリンが大好物なんですわね」
ピーシェがプリンを食べている姿を、ベールは微笑ましそうな目で見つめている。それは子供を見守る母親のように慈愛に満ちた瞳だった。
「うんっ、ネプのぷりんだから、おいしいんだもん!」
元気よくプリンの容器を掲げる。市販で売られているような何の変哲もないプリンである。ただ市販のモノと違うのは容器の底に、マジックで「ねぷの」と汚い字で書かれていることくらい。ピーシェにとってはそれが美味しさの秘訣であり、秘密でもあるようだった。
「たしかピーシェのワガママから、ネプのぷりんが出来あがったのよね」
アイエフは懐かしそうな声で言った。
「ええ、そうです。ねぷねぷのぷりんじゃなきゃイヤだって、ぴーちゃんが駄々をこねてましたね」
コンパがしみじみとうなずいた。
「まだぁ~、三人とも、こんなにちっちゃっかった頃だもんね~」
プルルートがうっとりと微笑みながらこちらへと歩いてくる。
三人はきっと十年前に思いを馳せているのだろう。自分やコンパ、ピーシェがまだまだ小さい背丈で、喋れる言葉づかいもたどたどしかった頃のことである。
といってもピーシェ自身はとある事件がきっかけとなり女神となったため、彼女自身の時は十年前から止まっているため外見での成長はほとんど見られない。おそらく内面の変化も。
「……良い話じゃない」
ブランがぼそりとつぶやいた。他人から見れば無愛想でいかにも素っ気ない振舞いにしか映らないが、誰もそれを気に障った様子はない。それが彼女らしさだとここにいる誰もが理解しているからだ。
「まあ、あなたと精神年齢が一番近いでしょうし、似た者同士通ずる何かがあったのでしょうね」
ノワールが髪を払った。どこか自慢と余裕を感じさせる物腰から、よほどプライドの高い性格であることが窺える。ネプテューヌはむっとなって、
「ノワールったら、いくらなんでも失礼しちゃうよ。それだとピーシェがバカみたいじゃん!」
「自分がバカだって自覚はあるのね……」
ノワールが呆れたように言った。
「みなさん、お茶が出来ましたよ!」
奥の方からイストワールの声が上がった。
「ありがとう。い~すん、今行くよ~」
プルルートがイストワールのそばへ赴こうとしたそのとき、
「うわぁ~っ!」
足元に放置されたぬいぐるみにプルルートがつまずき、盛大に転げてしまった。しかも運が悪いことにぬいぐるみの山にそのまま突っ込んでしまう。
「プルルート!?」
みんなが驚愕の声を放った。
ぬいぐるみの山が崩壊し、成す術もなくプルルートは雪崩に巻き込まれてしまう。
「ぷるるん、大丈夫!?」
ネプテューヌがぬいぐるみ達をかき分けながら慌ててかけよった。
「いったぁ~……」
当の本人は、尻もちをついた状態で頭をさすっている。特に大事はなさそうだ。
「全く、いつもぼや~っとしてるのが悪いのよ。もうちょっとしっかりしなさい」
声は辛辣そのものだが、安堵したようにほっと一息ついている。ノワールはノワールなりに彼女の身を案じていたらしい。
「……怪我がないようで何よりだわ」
ブランが言った。
「ほら、捕まって。ぷるるん」
ネプテューヌがプルルートに手を差し伸べた。
「ありがとう、ねぷちゃ~ん」
ネプテューヌがプルルートをぬいぐるみの山から救いだしたとき、ひらりひらりと何かが宙を舞った。
「あれ? ぬいぐるみの山から何かが出てきたよ?」
「キャーッチ!」
蝶々のように舞うそれを、ピーシェが子犬のようにつかみとった。
「ピーシェちゃん。それ見せて下さる?」
ピーシェの手から、紙切れをベールが受け取る。
「これは……」
「――宝の地図?」
ブランが目を見張った。
宝の地図と聞いてか、その場にいた全員が珍しそうな目で覗きこんでいた。
相当年季が入っているのか、紙切れはぼろぼろのくしゃくしゃだ。地図らしき図面にはプラネテューヌとルウィーを挟む山脈にバツ印が刻まれていた。あたかもそこに何かが隠されていると指し示すように。
「ちょっと見せて下さい」
イストワールは、ベールの手からひょいと地図を奪った。
字がかすれているためほとんど判別不能だったが、かろうじて読み取れた。
「ふむふむ。かみの……ぷりん。ここにはその在りかが記載されています」
「かみの……ぷりん?」
予想だにしなかった単語に、不可解そうに顔をしかめる側と、ぷりんと聞いてよだれをたらしている者と二つの顔ぶれに別れた。
「いーすん何か知ってる?」
ええ、とイストワールが頷いた。
「そういえば、こんな言い伝えを聞いたことがあります。史書イストワールの中に残された記録の中に」
イストワールは滔々と語りはじめた。
「かみのぷりん――それは太古の女神によって造られたロストメモリーの一つだとか。言い伝えによれば、なんでも神次元級の美味しさを誇ると噂され、万人が涙を流して感激するほどだといわれています。どんなに味にうるさいグルメでさえも目からうろこがこぼれ落ちてしまい、三日三晩その食材との出会いに痛烈な感動を全国に訴え続けたのだとか」
だけど、とイストワールは前置きした。ここからが本題だと強調するように。
「その本質は『味』ではありません。まさに特筆すべきは、それを食することで付与される、付加効果こそが本質であると言えましょう。それは、食することで『シェア』が神次元級に上がるという効力があるとまことしやかに囁かれております。……とまあ、そんな具合で真偽の程が曖昧なゴシップだったんですが、こうして宝の地図が出てきたということは実在するのかもしれないですね。そして、そのプリンがどのようにして造られたかと言うと――」
「イストワール。その話はもうやめてちょうだい」
アイエフがぴしゃりと口を挟んだ。
「なんですか、アイエフさん。今いいところなのに――……」
そこで、イストワールがはっとなった。自分が取り返しのつかない過ちを犯したことに。
そのことを後悔した時には、全てが手遅れだった。
ここにいる六人の目つきが、別の何かへと豹変していた。
「みんな……どうしちゃったですか?」
コンパが心配そうな声で教会を見回している。
案の定、むわっとした熱気が部屋に立ち込めていた。
シェアの独占が可能となれば他国へ神経を張り巡らす必要はないし、事実上シェアの争奪戦を繰り広げることもない。それはすなわち世界を統べる覇者――いや、この世界の神になることと同義なのである。
そんな話を聞けば、神経を尖らせてしまうのも当然の帰結であろう。現に、ばちばちとした不穏な火花が六人の間を飛び交っている。
ノワール――(まずいまずいまずい! これは非常に危険だわ。そんなモノが使われた日には、私の努力が全て水の泡に帰してしまう! 僅差とはいえ、せっかくラステイションがトップに躍り出ている状態を維持し続けているというのに。いや、待てよ。逆に考えるのよ。ここでそれを手に入れてしまえば歴然たる差をつけられる。不動のトップとして君臨できるチャンスがあるってことじゃない!)
ブラン――(……シェアの底上げ、か。そうすればこんな新米女神なんかに遅れをとらない。大国としての名誉と失態を取り戻すには十分なものとなるわ)
ベール――(わたくしのシェアが高まれば、不評だったハードにも、もう一度陽の目が当たる時が来るかもしれない。もう二度と誰にもカステラだとか糞箱だなんて言わせませんわ!)
ネプテューヌ――(シェアも手に入って、美味しい思いが出来るなんてチートじゃね!? ちょっとプリン手に入れてくる!)
プルルート――(ぷりんかぁ~。とっても美味しいよね~。それになんだかぁ~、よく分からないけどみんな面白そうな顔してる~)
ピーシェ――(ぷりん? ぴい、ぷりんたべたい! おっきなぷりん食べたい!)
「み、みなさん落ち着いて下さい」
イストワールはぴりぴりとした空気を和らげるように言った。今にも一触即発の雰囲気を回避するべく。
「あははは、まったくもー、みんな大げさなんだからー」
ネプテューヌが頭をかく。
「そうですわ。たかがプリン一つでそんなにいきりたって、はしたないですわよ」
ベールが腕を組む。
「ちゃんとした根拠もないのに、みっともないったらありゃしない」
ノワールが深々とうなずく。
「……ええ、そうね。裏付けのない噂に踊らされることほど滑稽なことはないわ」
ブランが冷めたような目で一同を見渡している。
「……」
だが、和気あいあいとした雰囲気とは裏腹に、じっとイストワールへと視線が集中していくのを感じた。正確にはイストワールの手元にある地図へと。
アイエフとコンパは内心唖然としながらもそそくさとその場を離れていく。あまりにも白々しい態度になにかぞっとするモノを肌で感じ取ったに違いない。例えるなら、それは嵐が起こる前の静けさのような――
「な、なんですか。みなさん」
イストワールが一歩、後ろへ引いた。肉食獣と草食動物をいっしょのオリに入れればどうなるかは自明の理である。そう、彼女は逃れらぬ運命にあった。
それぞれの想いこそ違えど、心の叫びはみな一つだった。
“プリンは私のモノだッ――――!!”
我先にと、ものすごい形相で地図に殺到。もみくちゃにされていくイストワール。
「や、やめてください――っ!」
「やたーっ、ぷりんの地図げーっと!」
「あ、ピーシェちゃん! それはわたくしのですわよ」
「待てーっ、ピー子!」
「テメェ、待ちやがれぇっ!」
そんな訴えも虚しいかな。きゃっきゃっと猿のようにはしゃぎながらピーシェは教会から去っていく。
その小さな後ろ姿を、五人の影が、亡霊のような執拗さでもって追いかけていく。
かくして事件はここから始まった。
国家の存亡を委ねた聖戦が、幕を開けたのである。
黄金の旋風に導かれた女神達は、それぞれの思惑を胸の内に秘め、熾烈を極めた戦いが始まろうとしていた。
己の全存在を賭した、争いの火蓋がここ、プラネテューヌにて切って落とされたのだった。
~(2)へと続く~
食べ物の恨みはいつの世でも恐ろしいものだ。
食欲とは生物の三大欲求の一つであり、それが満たされないとなれば生き物は心に生じた不安やその脅威に脅かされ、常時落ち着かなくなる。
そもそも食欲とは何であるか――
食物を食べたいという願望の現れであり、それが満たされなければ、お腹の虫がぐーぐーと身体に空腹を訴えかけるのである。一見、邪魔なものでしかないが、それは身体の異常を示す極めて重要なサインの一つであり、新陳代謝の維持をする為に充分なエネルギーを取り入れるのに貢献しているともいえる。しかし、それを無視をしてしまうと身体に様々な悪影響を及ぼしてしまう。度を越した食事制限や断食など、いわゆる無理なダイエットなどがその典型的な例の一つだ。
人は適度に欲に素直になるべきである、という良い例なのかもしれない。
そんな長い前置きはさておき、そろそろ本題に入るとしよう。
舞台は変わり、ゲイムギョウ界――
そこには人を超越した、特別な存在がいた。
人々から敬意と畏怖をもって、女神と――そう呼称されている存在。
四国には、それぞれ女神がおり、人々からの信仰で支えられている。
国は女神一人では成り立たないのである。
人々の信仰あってこその国家であった。
四人の女神が、四つの国を統治する世界――
プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックス。
通称、神次元界と呼ばれている場所でもあった。
そのゲイムギョウ界で、とある事件が起こることとなる。
きっかけはとある食べ物だった。それは四国の女神を巻き込み、ゲイムギョウ界そのものを揺るがすとんでもない争いへと発展しようとは誰が想像するだろうか。
全てはプラネテューヌで始まり、プラネテューヌで終わる物語。
黄金の旋風が導く、伝説の宝。
それもこれも、神次元界のお話である。
第一章――かみのぷりん
全ての始まりは冷蔵庫からだった。
プラネテューヌの教会は今日も騒がしい。ここは他国と比べても、国力が劣っているため経済力に乏しく、いくらか整備が行き届いていない箇所が多々ある。この教会もその一つだった。ましてや大人数が集まることを想定して作られてはいないためか、集会をするには不向きな場所だ。それを知ってか知らずか、お構いなしとばかりに、ただでさえ狭っくるしい教会に人が溢れ返っているのは最早、プラネテューヌでは見慣れた日常の一つであった。それはなにもプラネテューヌの住人――ネプテューヌやプルルートやイストワ―ル、コンパとアイエフ、ピーシェ――だけに限った話ではない。おかしなことに、本来なら競争関係にあたるラステイションやルウィー、リーンボックスの女神の姿もごくありふれた風景として混ざっていた。
そう――ここ、プラネテューヌの教会は、すっかり女神の溜まり場となっていたのだ。
「ピーシェちゃんはプリンが大好物なんですわね」
ピーシェがプリンを食べている姿を、ベールは微笑ましそうな目で見つめている。それは子供を見守る母親のように慈愛に満ちた瞳だった。
「うんっ、ネプのぷりんだから、おいしいんだもん!」
元気よくプリンの容器を掲げる。市販で売られているような何の変哲もないプリンである。ただ市販のモノと違うのは容器の底に、マジックで「ねぷの」と汚い字で書かれていることくらい。ピーシェにとってはそれが美味しさの秘訣であり、秘密でもあるようだった。
「たしかピーシェのワガママから、ネプのぷりんが出来あがったのよね」
アイエフは懐かしそうな声で言った。
「ええ、そうです。ねぷねぷのぷりんじゃなきゃイヤだって、ぴーちゃんが駄々をこねてましたね」
コンパがしみじみとうなずいた。
「まだぁ~、三人とも、こんなにちっちゃっかった頃だもんね~」
プルルートがうっとりと微笑みながらこちらへと歩いてくる。
三人はきっと十年前に思いを馳せているのだろう。自分やコンパ、ピーシェがまだまだ小さい背丈で、喋れる言葉づかいもたどたどしかった頃のことである。
といってもピーシェ自身はとある事件がきっかけとなり女神となったため、彼女自身の時は十年前から止まっているため外見での成長はほとんど見られない。おそらく内面の変化も。
「……良い話じゃない」
ブランがぼそりとつぶやいた。他人から見れば無愛想でいかにも素っ気ない振舞いにしか映らないが、誰もそれを気に障った様子はない。それが彼女らしさだとここにいる誰もが理解しているからだ。
「まあ、あなたと精神年齢が一番近いでしょうし、似た者同士通ずる何かがあったのでしょうね」
ノワールが髪を払った。どこか自慢と余裕を感じさせる物腰から、よほどプライドの高い性格であることが窺える。ネプテューヌはむっとなって、
「ノワールったら、いくらなんでも失礼しちゃうよ。それだとピーシェがバカみたいじゃん!」
「自分がバカだって自覚はあるのね……」
ノワールが呆れたように言った。
「みなさん、お茶が出来ましたよ!」
奥の方からイストワールの声が上がった。
「ありがとう。い~すん、今行くよ~」
プルルートがイストワールのそばへ赴こうとしたそのとき、
「うわぁ~っ!」
足元に放置されたぬいぐるみにプルルートがつまずき、盛大に転げてしまった。しかも運が悪いことにぬいぐるみの山にそのまま突っ込んでしまう。
「プルルート!?」
みんなが驚愕の声を放った。
ぬいぐるみの山が崩壊し、成す術もなくプルルートは雪崩に巻き込まれてしまう。
「ぷるるん、大丈夫!?」
ネプテューヌがぬいぐるみ達をかき分けながら慌ててかけよった。
「いったぁ~……」
当の本人は、尻もちをついた状態で頭をさすっている。特に大事はなさそうだ。
「全く、いつもぼや~っとしてるのが悪いのよ。もうちょっとしっかりしなさい」
声は辛辣そのものだが、安堵したようにほっと一息ついている。ノワールはノワールなりに彼女の身を案じていたらしい。
「……怪我がないようで何よりだわ」
ブランが言った。
「ほら、捕まって。ぷるるん」
ネプテューヌがプルルートに手を差し伸べた。
「ありがとう、ねぷちゃ~ん」
ネプテューヌがプルルートをぬいぐるみの山から救いだしたとき、ひらりひらりと何かが宙を舞った。
「あれ? ぬいぐるみの山から何かが出てきたよ?」
「キャーッチ!」
蝶々のように舞うそれを、ピーシェが子犬のようにつかみとった。
「ピーシェちゃん。それ見せて下さる?」
ピーシェの手から、紙切れをベールが受け取る。
「これは……」
「――宝の地図?」
ブランが目を見張った。
宝の地図と聞いてか、その場にいた全員が珍しそうな目で覗きこんでいた。
相当年季が入っているのか、紙切れはぼろぼろのくしゃくしゃだ。地図らしき図面にはプラネテューヌとルウィーを挟む山脈にバツ印が刻まれていた。あたかもそこに何かが隠されていると指し示すように。
「ちょっと見せて下さい」
イストワールは、ベールの手からひょいと地図を奪った。
字がかすれているためほとんど判別不能だったが、かろうじて読み取れた。
「ふむふむ。かみの……ぷりん。ここにはその在りかが記載されています」
「かみの……ぷりん?」
予想だにしなかった単語に、不可解そうに顔をしかめる側と、ぷりんと聞いてよだれをたらしている者と二つの顔ぶれに別れた。
「いーすん何か知ってる?」
ええ、とイストワールが頷いた。
「そういえば、こんな言い伝えを聞いたことがあります。史書イストワールの中に残された記録の中に」
イストワールは滔々と語りはじめた。
「かみのぷりん――それは太古の女神によって造られたロストメモリーの一つだとか。言い伝えによれば、なんでも神次元級の美味しさを誇ると噂され、万人が涙を流して感激するほどだといわれています。どんなに味にうるさいグルメでさえも目からうろこがこぼれ落ちてしまい、三日三晩その食材との出会いに痛烈な感動を全国に訴え続けたのだとか」
だけど、とイストワールは前置きした。ここからが本題だと強調するように。
「その本質は『味』ではありません。まさに特筆すべきは、それを食することで付与される、付加効果こそが本質であると言えましょう。それは、食することで『シェア』が神次元級に上がるという効力があるとまことしやかに囁かれております。……とまあ、そんな具合で真偽の程が曖昧なゴシップだったんですが、こうして宝の地図が出てきたということは実在するのかもしれないですね。そして、そのプリンがどのようにして造られたかと言うと――」
「イストワール。その話はもうやめてちょうだい」
アイエフがぴしゃりと口を挟んだ。
「なんですか、アイエフさん。今いいところなのに――……」
そこで、イストワールがはっとなった。自分が取り返しのつかない過ちを犯したことに。
そのことを後悔した時には、全てが手遅れだった。
ここにいる六人の目つきが、別の何かへと豹変していた。
「みんな……どうしちゃったですか?」
コンパが心配そうな声で教会を見回している。
案の定、むわっとした熱気が部屋に立ち込めていた。
シェアの独占が可能となれば他国へ神経を張り巡らす必要はないし、事実上シェアの争奪戦を繰り広げることもない。それはすなわち世界を統べる覇者――いや、この世界の神になることと同義なのである。
そんな話を聞けば、神経を尖らせてしまうのも当然の帰結であろう。現に、ばちばちとした不穏な火花が六人の間を飛び交っている。
ノワール――(まずいまずいまずい! これは非常に危険だわ。そんなモノが使われた日には、私の努力が全て水の泡に帰してしまう! 僅差とはいえ、せっかくラステイションがトップに躍り出ている状態を維持し続けているというのに。いや、待てよ。逆に考えるのよ。ここでそれを手に入れてしまえば歴然たる差をつけられる。不動のトップとして君臨できるチャンスがあるってことじゃない!)
ブラン――(……シェアの底上げ、か。そうすればこんな新米女神なんかに遅れをとらない。大国としての名誉と失態を取り戻すには十分なものとなるわ)
ベール――(わたくしのシェアが高まれば、不評だったハードにも、もう一度陽の目が当たる時が来るかもしれない。もう二度と誰にもカステラだとか糞箱だなんて言わせませんわ!)
ネプテューヌ――(シェアも手に入って、美味しい思いが出来るなんてチートじゃね!? ちょっとプリン手に入れてくる!)
プルルート――(ぷりんかぁ~。とっても美味しいよね~。それになんだかぁ~、よく分からないけどみんな面白そうな顔してる~)
ピーシェ――(ぷりん? ぴい、ぷりんたべたい! おっきなぷりん食べたい!)
「み、みなさん落ち着いて下さい」
イストワールはぴりぴりとした空気を和らげるように言った。今にも一触即発の雰囲気を回避するべく。
「あははは、まったくもー、みんな大げさなんだからー」
ネプテューヌが頭をかく。
「そうですわ。たかがプリン一つでそんなにいきりたって、はしたないですわよ」
ベールが腕を組む。
「ちゃんとした根拠もないのに、みっともないったらありゃしない」
ノワールが深々とうなずく。
「……ええ、そうね。裏付けのない噂に踊らされることほど滑稽なことはないわ」
ブランが冷めたような目で一同を見渡している。
「……」
だが、和気あいあいとした雰囲気とは裏腹に、じっとイストワールへと視線が集中していくのを感じた。正確にはイストワールの手元にある地図へと。
アイエフとコンパは内心唖然としながらもそそくさとその場を離れていく。あまりにも白々しい態度になにかぞっとするモノを肌で感じ取ったに違いない。例えるなら、それは嵐が起こる前の静けさのような――
「な、なんですか。みなさん」
イストワールが一歩、後ろへ引いた。肉食獣と草食動物をいっしょのオリに入れればどうなるかは自明の理である。そう、彼女は逃れらぬ運命にあった。
それぞれの想いこそ違えど、心の叫びはみな一つだった。
“プリンは私のモノだッ――――!!”
我先にと、ものすごい形相で地図に殺到。もみくちゃにされていくイストワール。
「や、やめてください――っ!」
「やたーっ、ぷりんの地図げーっと!」
「あ、ピーシェちゃん! それはわたくしのですわよ」
「待てーっ、ピー子!」
「テメェ、待ちやがれぇっ!」
そんな訴えも虚しいかな。きゃっきゃっと猿のようにはしゃぎながらピーシェは教会から去っていく。
その小さな後ろ姿を、五人の影が、亡霊のような執拗さでもって追いかけていく。
かくして事件はここから始まった。
国家の存亡を委ねた聖戦が、幕を開けたのである。
黄金の旋風に導かれた女神達は、それぞれの思惑を胸の内に秘め、熾烈を極めた戦いが始まろうとしていた。
己の全存在を賭した、争いの火蓋がここ、プラネテューヌにて切って落とされたのだった。
~(2)へと続く~
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