矢野経済研究所推計
注:メーカー出荷ベース
注:予測は予測値

バイオメトリクス(生体認証)は、銀行ATMやPCのログインなどで一般に広く知られるようになってきた。その上で、ユーザーは、バイオメトリクス(生体認証)は利便性が優れており、携帯する必要がなく、なりすましができないといった特徴も認識してきたように考えられる。
昨今では、スマートフォンやタブレットPCの紛失リスク対策や震災に伴うBCP(緊急時企業存続計画または事業継続計画)対策の一環として在宅勤務形態の導入、海外拠点から国内サーバへのアクセス管理、シングルサインオン環境の導入、仮想デスクトップ環境の導入やクラウド環境における認証手段としてバイオメトリクス(生体認証)の認知度は確実に向上している。また、コンプライアンスへの注力度から、ユーザーの理解も深まっている。

一方では、バイオメトリクス(生体認証)は、セキュリティシステムであっても、実質的にユーザーが求めているものは利便性である場合も多い。これは特に管理者側の視点から、セキュリティシステム運用の負荷を下げたいというニーズが主流となっているが、このようなニーズについてもバイオメトリクス(生体認証)システムはメリットを提供できる。
特に顔貌認証などの場合、認証方法は非接触のカメラのみであり、製品によっては装置に読み取らす行為すら不要のものもある。つまり、対象者が通路を通過するだけで認証するというものである。

これまで、バイオメトリクス(生体認証)システムのソリューション/アプリケーションについてブレイクダウンしていくと、出入管理などの物理セキュリティと、PCログインなどに代表される情報セキュリティの2大アプリケーションに集約することができた。細かいアプリケーションには多様なバリエーションがあるものの、それら全てこの枠組みへの収束が可能である。
多様化の代表例を挙げると、文教分野でのeラーニングが分かりやすい。このアプリケーションは、単なるPCログインによる情報セキュリティであることに違いはない。しかし、バイオメトリクス(生体認証)の技術を単なる情報セキュリティに利用するだけでなく、個人認証による履修証明の機能を持たせたことで、eラーニングという教育(指導)方法に拡張性と将来性を与えたといっても過言ではないだろう。現に、この技術を利用した民間大学が全講義を自宅などのPCで行うことを可能にしており、卒業までに通学の必要はないといわれている。また、当アプリケーションは、企業の研修や民間資格の取得などにも活用されている。

このように、ユーザーから見たメリットやビジネスとしての将来性などを展開してきたが、バイオメトリクス(生体認証)が抱える課題もある。
代表的なものは、100%の本人確認や他人排除が行えない点である。この課題がバイオメトリクス(生体認証)システムの最大の短所ではないかと考えられる。その他にも、利用者プライバシーの侵害、抵抗感、導入/運用コスト、認証速度が遅いなどがある。
昨今では、これらのデメリットもちゃんと理解して、うまく付き合っていこうと考えるユーザーも増えてきており、導入への障壁は少しずつではあるが、下がってきたように見える。ただし、リーマンショックからの世界同時不況や東日本大震災などがあり、個人、法人ともに消費マインドが冷え込んでいる。加えて、企業の設備投資も控えられており、予算的に執行できないなどのケースもあるようである。

バイオメトリクス技術と市場背景

バイオメトリクス(生体認証)は、ICカードや磁気カード、鍵、免許証などの所有物や、暗証番号、パスワードなどの秘密情報でなく、人間の持つ固有の生物学的特徴を個人の識別/照合に利用するものである。人がそれぞれ持っている固有の特徴に基づいているため、複写することも、盗まれることも、紛失することも、忘れることも、置き忘れたりすることもない。
これまでセキュリティを実現するシステムの多くは、管理が煩雑なものであり、紛失や盗難の危険性を孕んだ脆弱なシステムであった。銀行のカードなどではID入力のかわりにカードを用いる場合もある。

パスワードは本人しか知らない情報であるということを前提としてユーザー認証を行っていたが、パスワードを盗み見られて他人になりすまされる危険がある上に、忘れてしまえば情報にアクセスできなくなるという不便さがある。
また最近、様々なシステムでパスワードを要求されるようになっているが、同一のパスワードを使うのは危険であるため、複数の異なったパスワードを記憶しなければならず、ユーザーの負担は大きなものとなってきている。
これらの問題を解決するため、本人であることを生物学的な特徴を用いて判別しようという考えから誕生した認証技術が、バイオメトリクス、生体認証である。

【図表】バイオメトリクスの主な種類と特徴