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義肢メーカー社長 中村俊郎さん(65)

精巧な義肢は「アート」

 事故で失われた腕や、乳がん患者の乳房など約70種類の義肢や装具を作る。肌の色や爪の形、体毛を精巧にシリコーンなどで再現し、完成まで3か月かかることもある。その技を求め、石見銀山で知られる山間部の町を多くの人が訪れる。

  • 「メディカルアート」の義手を手にする中村社長。マニキュアをした爪や赤みのさした肌など、本当の手のようだ(島根県大田市で)=近藤誠撮影

 高校卒業後、姉が勤めていた病院の医師が、京都の義肢装具メーカーを就職先として紹介してくれた。椎間板ヘルニア患者らが使うコルセットなどを作る仕事だった。

 義肢や装具は当時、米国が最先端だった。「米国を見てみたい」。23歳の時、自分の貯金と家族の助けを合わせた70万円で、1か月間休みをとって渡米した。飛び込みで病院などを訪ね、驚く。

 当時、日本では医師が言う通り義肢を作っていた。米国は「患者が生活しやすい」ことを第一に、医者と、義肢装具を作る人が対等に話し合う。翌年、カリフォルニアの義肢メーカーに転職、大学の装具士養成講座で学んだ。

 「日本でも患者の目線で義肢や装具を作らなければ」と、26歳で創業した。実家にあった築200年の納屋を改造して仕事場にした。張り切って国内各地の病院に営業に出かけたが、実績もなく、なかなか扱ってもらえない。

 ある時、腰痛で苦しむ伯父に面ファスナーを使ったコルセットを作った。通気性のいい素材を使った自信作だ。当時は腰だけでなく、上半身全体を締め付け、ひもで固定する形が主流で、圧迫感があり、使いにくかった。伯父が近所の人に勧め、口コミで広がった。

 「田舎にある会社は、人と違うことをやらないと発展しない」。その思いが、ユニークな製品を生み出す原動力となった。

 精巧な義肢や人工乳房を「メディカルアート」と呼び、専門の研究所も作った。医師から「乳房を切除した乳がん患者が喪失感に苦しんでいる」と相談を受け、1991年に始めた。

 精巧に作るには手間がかかる。材料費や人件費を考えると、どの部位でも100万円くらいになるが、保険がきかない。患者の負担を考えると、10万~20万円がだいたい限界だ。シリコーンを靴の中敷きに応用し、膝痛や外反母趾(がいはんぼし)の治療向けに販売するなどして、メディカルアートの赤字を埋める。

 義肢や装具を作る上で、最も大切なのは「患者さんに納得してもらうこと」だ。何日かけて調整しても、微妙な色合いの差や感触の違いを受け入れてもらえないことがある。抗がん剤で治療中の患者さんは時に情緒が不安定になり、「自分の肌の色と違う」など厳しい苦情も聞く。

 社内には、社員の目に入るように、顧客が喜びをつづった手紙が何通も貼ってある。小学生の女の子は生まれつき片手がなく、「手をジロジロと見られていた」という。届いた義手を「みんなに見せびらかし、自慢しました」。便箋の、伸びやかな字に勇気づけられる。

 これまで延べ7000人以上に義肢や装具を提供した。創業間もないころ、両足を切断し義足を作った10歳の男の子がいた。その子は使いやすい義足に出会った感激を忘れず、高校を卒業して入社し、今では常務で義肢製作の責任者だ。

 約70人の社員は、石こうまみれになって義指などを作り続けている。

 「人の役に立っている仕事なんだから」。ほめて、励まし、才能を伸ばす。そして、自分も奮い立たせる。(井戸田崇志)

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◆略歴 1948年、島根県大森町(現・大田市)生まれ。66年、県立大田高校卒業後、大井義肢製作所(現大井製作所)に入社。71年、近畿短大商経科(通信課程)を卒業。74年に中村ブレイス(大田市)を創業した。石見銀山資料館理事長など多くの公職も務める。

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 日本義肢協会に加盟する義肢装具メーカーは約300社だが、加盟社以外も含めると国内に約600社あるとされている。義足や義手は単に作るだけでなく、体の変化などに合わせ、調整を続けることが欠かせない。このため、地域に密着した中小企業が多い。

 高齢化が進み、今後、装具のニーズは高まるとみられる。近年は、スポーツをする障害者が増え、ランニングなどにも対応した耐久性が求められている。

 海外では、ドイツ、アメリカに義肢メーカーが多い。アメリカはベトナム戦争で傷ついて帰国した兵士向けに需要が増加、開発が進んだ面があるという。

 中村ブレイスの2012年9月期の売上高は、約10億円。製品の約9割は保険が適用される。「メディカルアート」はデザインなどを学んだ6人が担当している。精巧さが評価され、07年にものづくり日本大賞の特別賞を受賞した。義肢を作る人が安心して調整などに通えるよう、宿泊施設も作った。

2013年10月26日Copyright © The Yomiuri Shimbun