ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 こんにちは。 あら、あなた初めての子ね。今日はどうしたの? 腹痛? それとも怪我かしら? ――え? 怪談? うーん、こんな放課後に保健室に来る生徒がいるなんて珍しいと思ってみたら。百藤の子たちって、本当に怪談好きよね。 へぇ、従姉妹のお姉さんからの命令で怖い話を集めているって? ひょっとして、あなたが冬慈くん? いえ、そういう子がいるって、この前保健室に休みに来た子が言ってたから。 ふふ、まぁ、そういうことなら、協力してあげるわ。 知ってるかもしれないけど、私は養護教諭の喜連川 景子(きつれがわ けいこ)。よろしくね。 って言っても、私の話はそんなに怖くないと思うけどね。 あぁごめん、ちょっと椅子が塞がっちゃってるから、そこのベッドにでも座って。今誰もいないから。 それじゃ、準備はいいかしら? あら、緊張してるの? 大丈夫よ、力抜いてね。 この保健室にまつわる怪談、ね。 それはベッドのシミに関することなんだけど――。 やだ、そういう話じゃないのよ、ふふ。 まぁ、そういう用途のことに関しては……ここの主は私だから――私の知る限り、ないと思うけど、ね? ふふ。 いきなり話が逸れちゃったわね。だって、冬慈くんがあまりにもいい反応するから。 いいかしら? まだ私がここに赴任する前のことだから、私も人伝てに聞いただけなんだけど。 昔の保健室、知ってる? 今は部活動棟の空き部屋になってる教室ね。まだあそこを保健室として使ってたころの話。 昔、高等部の男子生徒で、すごく病弱な子がいたらしいの。 その子はしょっちゅう病院にかかって入退院を繰り返していたんだけど、学校が大好きでね。だから少しでも体調のいい時は、無理して授業に出たがったのね。 でも教室で授業を受けている最中に倒れちゃうことも多かったみたいで、そんな時は保健室のベッドに運ばれたそうよ。 そのうち彼が学校で過ごす時間は、教室より保健室のベッドの上でのほうが長くなった。それでも保健室に教科書を持ち込んで、ベッドの上で勉強を続けた。 そんな彼の姿を見て、クラスメイトも授業のノートを持ってきてくれたりした。だから彼は保健室にいても、寂しくなかったのね。 大好きな友達と一緒に、卒業したい。 その気持ちが、彼を学校に来させていた。 でも結局、その望みは叶わなかった。 卒業まで半年を残したある日、その子は病気が悪化してとうとう亡くなってしまったの。 悔しかったでしょうね。 それ以来、彼が使っていたベッドにシミが現れるようになったそうよ。 ちょうど彼が寝ていたように、人型のシミが。 授業中や放課後――生徒が保健室を使って立ち去った後なんかに、何かの影みたいな感じでベッドの上にそれは現れた。 その話はすぐに学校中の噂になって、生徒たちは不気味がってあまり保健室に近寄らなくなってしまった。 するとますます、そのシミはベッドに濃く張り付くようになった。 でも当時養護教諭をしていた先生は、不思議と怖さは感じなかったらしいわ。 なんだか、その子がまだそこにいるような気がしたんだって。 一人ぼっちは寂しい――。 そんなふうに、その子が言っているように感じたそうよ。 その先生は、彼が生きていた時によく保健室に来ていた生徒に、その話をした。あの子が寂しがってるって。 それで卒業式の日、彼のクラスメイトたちは保健室で彼のための卒業式をした。彼がいつも使っていたベッドに、卒業証書と花束を添えて。 皆で一緒に卒業しようって。 以降、ベッドのシミは出て来なくなったそうよ。 その時からずいぶん年月が経って保健室の場所も変わっちゃったけど、今もたくさんの生徒が保健室を利用しに来るから、きっとその子も寂しくないわね。 うん、今冬慈くんが座ってる、それ。 それが、例の彼が使ってたベッドよ。備品は再利用してるの。 ――ふふ、そんなに驚かなくていいわよ。何も怖いことなんてないんだから。 あぁでも、この保健室にはもう一つあって。 以前、仮病を使ってここでゲームをやってた男子生徒がいたんだけどね。 そのゲーム画面が突然消えて、プログラムにない声が聴こえたり、怖ろしい文字がモニターに映し出されたりしたことがあったそうよ。 案外、まだここにいるのかもね、例の彼。 さぁ、これで私の話はおしまい。 役に立ったかしら? ――あぁ、それなら良かったわ。 ふふ、なんだか従姉妹のお姉さんの気持ちがわかる気がするわ。 だって冬慈くん見てると、ちょっと意地悪したくなっちゃうんだもの。 ごめんなさい、気にしないでね、ふふ。 あら、もう行くの? またいつでもいらっしゃいね。もちろんサボり以外で。