高分子・レオロジー研究

化粧品には水溶性高分子をはじめとする増粘剤が多く使われています。その機能としては、

  • 連続相の粘度の調整
  • 製剤の安定化

のほかに、

  • 「さっぱりさ」「みずみずしさ」「ぬるつき」「べたつき」といった使用感触をコントロールする

といった目的があり、その性質は非常に重要です。

資生堂ではこれらに対して、新たな増粘剤の開発と感触の定量化におけるレオロジー的アプローチの2面から取り組んでいます。
ここではその具体的事例について紹介します。

さっぱり・みずみずしい感触の増粘剤の開発

一般的な増粘剤は直鎖・分岐状のポリマーであり、溶媒中で分子鎖が大きく広がり相互に絡み合うことで粘度が発現します。この場合、「リッチ・コク」といった使用感は得られますが、一方で、糸曳きが生じ、「べたつき」といった使用感となり、」「さっぱりさ」や「みずみずしさ」は得られません。
そこで、注目したのがミクロゲルによる増粘効果です。これは粒状のゲルがぎっしり詰まることで流動性を低下させ粘度を発現するもので、これを利用した「さっぱりさ」や「みずみずしさ」が得られる新たな増粘剤を開発しました。

ミクロゲルで高い増粘効果を得るためのポイントは、いかに粒子を微細化できるかです。そのために我々は、逆相マイクロエマルション重合法により微細な水膨潤性ミクロゲルを得ることにしました。
水-油-ノニオン界面活性剤の三成分系においては、低温ではO/Wエマルションが、転相温度を境に高温ではW/Oエマルションが形成されます。一方、この転相温度近傍では、界面張力が極限まで小さくなるため、弱い攪拌力でも自発的にごく小さな微細エマルションとなる領域が現れます。この相をミクロゲルの重合場として利用したものが、逆相マイクロエマルション重合法です。

〈水-油-ノニオン界面活性剤の三成分系相図〉

〈合成したゲルの化学構造式の一例〉

〈水膨潤性ミクロゲルの
原子間力顕微鏡画像〉

〈見かけ粘度と濃度の関係の比較〉

このようにして得られたミクロゲルの水分散液はなめらかで且つみずみずしい感触となります。また、従来、みずみずしい感触を得るために使用されていた増粘剤であるカルボキシビニルポリマーとの比較でも、実用的な濃度領域においてより高い増粘特性を示すことが確認されています。

使用感触を定量評価するためのレオロジー的アプローチ

使用感触を物理的に捉え定量化することは、現象を正しく理解するだけなく化粧品開発の精度を高めていく上でも非常に重要です。
乳液やクリーム、ジェルといった製剤は、粘弾性を示す非ニュートン流体であり且つ加える力により見かけの粘度が下がる擬塑性流体の特性を示すものが多くあります。そこで、擬塑性流体を流動特性を表す経験式であるHerschel-Bulkley式を適用し、そのパラメータから感触を把握しようとする試みがこれまで行われてきました。

ここで、nはH-B指数と呼ばれ擬塑性流動性(シェアーシニング性)を表し、これまでの各種サンプルの測定値や官能評価結果の関係から「さっぱり」「みずみずしさ」といった感触を表す指標となることが分かっています。しかしながら、みずみずしいサンプル間の詳細な差の検出には課題が残ること、また「なめらかさ」「しっとりさ」「べたつき」といったその他の感触とは相関がなく、これらについても評価可能なパラメータが求められていました。

そこで我々は、複雑流体の硬さを評価する経験式Nuttingの式を導入し、そのパラメータを感触の評価指数とする試みを行っています。

Nutting式では、硬さを表すパラメーター「φ」が、時間「t」と応力「σ」との間に指数則が成り立つことを表しており、指数αは時間依存性の指標、指数βは応力依存性の指標です。例えば、時間依存性ない場合(α=0,β=1)はフックの式となり完全弾性体を、また時間に対し一次式が成立すれば(α=1,β=1)ニュートンの式となり粘体を現すといったように、弾性体と粘性体という対極に位置する物性を1つで表すことができます。

ここでは特性の異なる美容液6品において検証を行っています。その結果、使用感に関する官能評価項目を「五段階評価」で数値化したものと、Nutting パラメーターとの相関を検証したところ、「ぬるぬる感」「さっぱり感」「浸透感」との間に強い相関関係があることが分かりました。

方法:自宅使用テスト
実使用期間:9日間
対象:20~30代女性100名
テスト品:美容液6品(P~U)
使用方法:1人3品各3日間使用。朝晩、洗顔後手使用
アンケート:各評価項目に対して5段階評価(絶対評価)

このように、レオロジー手法を用いることで、美容液の使用感触にとって重要である「さっぱりさ」「べたつき」「ぬるつき」「しみこみ」の感触を定量化することができました。本手法を用い様々な粘弾性挙動を示す増粘剤を組み合わせることで、化粧品の感触をコントロールが可能となっています。