大企業では味わえない経験が積める

― そこまで社員とコミュニケーションをとっていても、ベンチャーにくる人って、いつか起業するからここで一生働くつもりはないという人も多いですよね。経営者から見てどうですか?

辻:まあ、一生ここで働こうと思っている人はほぼいないんじゃないですか(笑)。そこに関しては感情とロジカルな部分の両方があって、人間としては寂しいですけど、会社としては適切な新陳代謝が行われるということでもあるんですよね。新陳代謝率はおよそ5%から10%と言われていますが、新陳代謝がないと上が詰まってきてしまうんですよね。

僕がいつも思うのは、頭の良さというのは人によって変わらず、変わるのは経験だけだと思うんです。ベンチャーに来るメリットとしては、大企業では味わえない経験がいかに積めるかということが挙げられます。

僕たちが2年前に採用した初の新卒は、入社していきなりプロダクトオーナーに就任し、今は「MFクラウド請求書」というサービスを自分で立ち上げて、25歳でグループ会社の取締役です。年齢に関係なく、できる人はできるんですよね。

採用は共鳴・共感を重視

辻:採用に関しては、会社の文化と合うかどうかはかなり見ていますね。地頭、チームワーク、ビジョンへの共鳴の3つを大事にしています。たまに個人としてはすごい優秀なんだけど……という人がいますが、そういう人がいると結局周りが気を遣い、雰囲気が悪くなってしまうんです。

今も昔も猫の手を借りたいくらい人材は欲しいですが、やせ我慢してでも共感を重視しています。だからうちの会社は急成長していても離職率がすごく低いです。実際、6人で始めた会社ですが、1人を除いてその創業メンバーがまだ残っていますからね。

ただ、200名以上の会社になってバリバリのベンチャー志望者が少なくなった。本当は全然違うんですけどね。だから最近、グループ会社を作りました。社長が29歳、取締役も25歳。熱気もあるし、本当に楽しそう。僕も創業時は高田馬場のワンルームでやっていたので、当時のことを思い出します。

― つい口を出したりしませんか?

辻:いや、自分も言われたら嫌なんで、あまり口出しはしないです。助けてほしいときだけ言ってほしいと伝えています。もちろん誰にでも口を出さないというわけではなくて、社内では議論もします。でも人によって言われたくない人っているじゃないですか。クラウド会計を作って、今は「MFクラウド経費」を立ち上げた黒田という社員は、自分の意見と僕のいうことが違う場合、ほとんど僕の意見聞かないですよ。彼とは議論もしましたが「僕はこう思います!」って言って、もう勝手にやっています(笑)。

でも、プロダクトって“思い”が作るので、そういう人のほうが開発スピードも速いし、いいものを作ります。もちろん、いいものを作ったら売れるというわけではないので、売れる仕組みも必要ですが、やっぱりいいものがあったほうが楽ですよね。

新しい社是は社長ではなく社員がつくった

― マネーフォワードの社是ってありますか?

辻:ミッション、ビジョン、バリューを定めていますね。ミッションは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」で、テクノロジーを使ってユーザーの人生をより良くする。ビジョンは、すべての人に向けたオープンかつ公正なお金のプラットフォームになること。

バリューは3つあります。ユーザー視点の「User Focus」、世界を変えるのはテクノロジーだと思っているので「Technology Driven」、そしてフェアかつオープンでいる「Fairness」。

当初、社是は創業メンバーで10個ぐらい作っていたんですが、社員から10個も覚えられないと言われて。でも、すべて大事なんだと伝えたら、デザイナーには「辻さんは結局、何が言いたいんですか。そんなの伝わらないですよ」とボロクソに言われました。

結局、社是を作り直すときは、僕は入らず、デザイナーや人事部長が中心で全部作ったんです。そうしたら、僕が作るよりいいものができてしまった……(笑)。

― 辻さんって結構言われたい放題なんですね。その社風を作っている創業時のメンバーはどうやって集めたのでしょうか?

辻:最初は僕と現Fintech研究所長の瀧で考えていたんですよね。彼は当初、別の事業をやりたかったのですが、研究者だったためビジネス経験がなかった。それで、彼の同期が僕を紹介してくれたんです。そこからこういうサービスがあるといいよねと話しながら妄想が膨らんでいき、そこに前CTO(最高技術責任者)の浅野が入りました。その後、インフラセキュリティが大事だという話になり、CISO(最高情報責任者)の市川をピックアップして。

結局、会社って一人じゃ無理ですよね。でも、一緒の船に乗る以上は「こいつが意思決定したなら失敗してもしょうがない」って思える人でなければ嫌だなと。だから、そう思えるメンバーを口説いていきました。