そろそろ「第二の一斉退職」の時期。組織の新陳代謝を図りつつ、技術・ノウハウの継承を進めるには? ~高齢社会にみる、雇用延長制度と上司と部下の関係[後編]
これが上司と部下の生きる道(24)
中尾ゆうすけ(日本メンタルヘルス協会 公認心理カウンセラー)
法改正によって、60歳以降の高齢者の雇用確保が企業の義務となっています。しかし、豊富なノウハウと人脈を持つ“ハイパフォーマー高齢層”に対して、どう向き合えばよいのかについては、多くの企業でまだ試行錯誤の段階にあるのではないでしょうか。今回は、雇用延長後のベテラン社員に「頼り過ぎる」ことで起こり得る弊害を考えてみます。(編集部)
しかし、一方で、雇用延長後のベテラン社員に頼り過ぎることについて、弊害がないわけでもない。いくつか紹介しよう。
①組織の新陳代謝
組織は常に新陳代謝を図らなければならない。ベテランにしかない味があるのと同様に、若者にしかない勢いやパワーも必要だからだ。また、ある程度は若手に仕事を任せて経験を積ませることも、育成するためにも必要なことといえる。
年齢は企業によって異なるが、概ね30代後半~40代になると管理職になりはじめる。一方で、ベテランたちが定年を過ぎても管理職のポジションにい続ければ、当然次の世代のポストはない。
それによって、若い人材のモチベーションや、能力アップに対する弊害が生まれてしまう。
定年と同時に、役職から外すということを徹底したり、あるいは定年年齢前の一定の時点で役職を解く「役職定年制度」を導入したりすることが、新陳代謝を図るうえで適してはいるが、こういった方策を取るのであれば、ベテランのモチベーションの維持も忘れてはならない。
また、組織のリーダーであれば、ある程度の年齢になったら、自身の後継者の育成にも力を注がなければならない。またその部下も自分自身のステップを考えながら、経験や人脈、判断基準などさまざまなことを受け継いでいき、自分自身が次のリーダーとなる意気込みと覚悟を持たなければならない。
②職場の人間関係
定年後に雇用延長し、役職が外れた場合、当然現役時代とは立場が変わる。それまで、部下だった者が上司になり、上司だった自分が部下になるのだ。
最近では年上の部下というのは珍しくなくなったが、元上司が部下になるということは、当然上司としてもやりにくいし、部下としてもやりにくい。そんな空気があるため、自ら「雇用延長を希望しない」とするベテラン社員も少なくない。
事業継続上問題がないのであれば、人件費の面から企業として望ましいことではあるが、その人が「宝」だとしたら企業としては大きな痛手といえる。
回避策として、雇用延長者はラインから外し、専門職のような立場である程度の裁量を与えて仕事を任せる方法がある。ただし、経験を積んだベテランがライン・マネジメントから外れるため、組織としての総合力は落ちてしまう。
人間関係だけで解決するならば、新しいリーダーは元上司に対して、敬いつつも遠慮をしないでモノがいえることが望ましい。そのためには、雇用延長される者が、後任のリーダーを立てるよう、後方支援に自ら回るぐらいの気持ちがあれば、お互いにやりにくいということはないだろう。
③技術・ノウハウの継承
前編で紹介した、筆者の知人のようなケースの場合、あまりにもその人物に頼りすぎてしまっている部分もある。
たしかにベテランのノウハウや人脈は宝ではあるが、いつまでもそこに頼っていては、将来はない。ベテランにしかないものをいかに次の世代へ引き継いでいくかは、事業継続において非常に重要である。
2007年当時、団塊世代の一斉退職が、事業継続において大きな問題だと騒がれた。現状、振り返ってみると、それほど大きな悪影響は顕在化していない。これは、計画的にノウハウの継承がされた場合もあるだろうが、雇用延長制度などでベテラン層が職場に残っているため、救われているケースも多いだろう。
しかし、当時雇用延長された者も、64歳~65歳になる。雇用延長された者もそろそろ第二の一斉退職の時期がやってくる。彼らにいつまでも頼るわけにいかない、という企業も多いのではないだろうか。
まずは、ベテラン社員は自身の持っているもの(経験、人脈…)をいつまでも自身の中に留めることなく、若い人材へ引き渡して欲しい。そして若い世代は、積極的にそのノウハウを吸収していかなければならない。
「敬老の日」……老人と呼ぶにはまだまだ早い、雇用延長者の方々が社内に増え始めてきたこの時代。年金制度の関係もあり、これから先はもっと増えてくるだろう。とかく企業の中では煙たがれがちだが、互いに尊重しあい、企業としていかに限られた人材で業績へつなげていけるのかを考える良い機会としてもらいたい。