「深剃り」と「肌へのやさしさ」をどのように両立したのか
シェービング後の肌のヒリヒリ感の大きな要因は、剃り残しが気になり、シェーバーのヘッドを何度も往復させる使い方にある。逆に考えると、少ないストロークで剃り残しがなければ、肌へのダメージは最小限で済む。そこでたどり着いた結論が、「究極の肌へのやさしさ」と「深剃り」という、相反する課題の解決だった。従来のシェーバーで実現が不可能と思われていた「深剃りと肌へのやさしさ」を両立させる鍵は、“ワンストロークで効率よくシェービングできること”と考えたブラウンが開発したのが、より多くのヒゲを一度でとらえる「デュアル連動刃」だ。
「デュアル連動刃」は、「くせヒゲキャッチ刃」と「極薄リフトアップ刃」の2つのトリマーで構成されている。「くせヒゲキャッチ刃」は、さまざまな方向を向いているヒゲを整え、「極薄リフトアップ刃」は寝ているヒゲを立たせる役割を担う。今までだったら一度で捕らえることができなかった2種類のヒゲに対応する、2種類のトリマーの開発に成功したことで、より少ないストロークで効率よくヒゲをカットすることを可能にしたのだ。
「デュアル連動刃」に関して春日さんはこう語る。
「シェーバーを進化させようとすると、普通なら“もっと剃れるように”と考えて、ヒゲをカットする刃に目が向かいがちだと思いますが、“剃りやすくするためにヒゲを起こす”という、カットする前段階に着目したところがおもしろいですね。既成の考え方にはない、まったく別の視点から発想することは、私も『VAIO』や『AIBO』の開発を担当したソニー時代からずっと意識していることです」
「深剃りと肌へのやさしさ」を両立させるため、“ワンストロークで効率よくシェービングできること”に注目したブラウンだが、これまでのシェーバー開発にはない新しい視点だっただけに、実現にはさまざまな困難が立ちはだかったという。特に「極薄リフトアップ刃」を薄くするのが最大の課題であったが、それを克服するためブラウンは、水と電流の働きを利用して金属をより正確に加工するPECM(精密電解加工)という、これまでのシェーバー製造にはなかった手法を採用している。これは水と電流の働きを利用して、極めて精密に金属を加工する手法だ。この開発には5年以上の歳月を要したという。また、どんな顔のヒゲでも快適なシェービングを実現することを目指すため、欧州、アジア、中東系など、あらゆる人種約5000人以上の消費者に対してシェービングテストを行ったという。
「シェーバーの開発に5年以上の歳月を費やしていることや、徹底したシェービングテストを繰り返していること知り、驚きました。開発に際してのこういう物語を知ると、うらやましいと感じるエンジニアがたくさんいるはずです。現代は製品開発のサイクルが短く、優先されるのは理想よりも利益。出来るだけコストをかけず、70点の開発でもよしとする傾向が強くなっています。でも、誰も成し遂げていないこと、市場にない価値を提案するには、時にはコストも期間も度外視した決断をしなければいけない。それが真のエンジニアリングですし、そういう場に立ち会えるエンジニアは幸せだと思います」
「モーションフィギュアー」も、仮説と試作を繰り返しながら、「これだ!」と思える手応えをつかむには約2年の歳月を費やしたという。そうやって生まれたテクノロジーこそが本物であり、社会に新しい価値を提案できるのだ。
「深剃りできるのに肌にやさしい。想像ですが、これはシェーバー開発に携わるブラウンのエンジニアの夢だったのではないでしょうか。『シリーズ9』をシェーバーの一つの到達点だとするなら、同じエンジニアとして敬意を表したいですね。私もロボットに対する夢を忘れず、人々の暮らしに溶け込める存在になれるよう、『モーションフィギュアー』の開発を進めたいと思います」
ブラウンの「シリーズ9」と、春日さんの「モーションフィギュアー」に共通するのは、他にはない視点から生まれた「独創者」である点。唯一無二の存在であり、その背景にあるのは、夢と情熱、そして技術がベースとなるエンジニアリングだ。春日さんが納得するテクノロジーを搭載した「シリーズ9」の感触とはどんなものか。ぜひ体験してみてほしい。