人気ハーバリストによる連載コラム

 

石田佳奈子のフランス便り

~ハーブと共に生きる~   vol.2

第2話:モロッコとフランスのローズ事情

ここ一帯が「ローズの谷」といわれるのはダマスクローズとこの土壁の色からきている。

<石田佳奈子プロフィール>

「生産者の気持ちが見える精油」Lien創設者であり、代表。

英国IFA認定アロマセラピスト、仏国農業省認定ハーブコースサティフィケート取得。

アロマセラピストとして講師をしていた傍ら、自身の手でエッセンシャルオイルを造るため、フランスへ渡り、ハーブ農家さんの元10年ほど修行を重ねる。

Lienとはフランス語で「つながり」の意味。

製品には、”伝統的蒸留を受継いでいる農家と消費者を結び、精油を通じて自然と一体化しながら心と身体も一つにつながってもらえますように”、という願いがこめられている。

ローズの谷

 

モロッコではケラーア・メグナという砂漠のオアシスのような小さな町がダマスクローズの名産地で4月から5月にかけてダマスクローズの収穫が行われます。

 

いつもは静かなこの町に大勢の人が行き来し、収穫時期を迎える1ヶ月の間だけ毎日がお祭りのように騒がしくなり、町の景観は大きく変貌します。

 

この土地はダマスクローズが名産物ということと、土の色が赤茶色をしていることから、別名「ローズの谷」と名付けられています。

 

その名前に惹かれてここを私が初めて訪れたのは学生時代、放浪の旅をしていた2004年。フランスの農業研修で再び訪れたのがそれから約10年後。まさかまたこの地に戻ってくるとは思っていませんでしたが、この土地柄と地元先住民ベルベル人の人懐っこさと優しさにすっかり魅了され、それから毎年この時期になると必ずローズの収穫に訪れています

 

ダマスクローズの産地

地元ベルベル女性によるダマスクローズの収穫の様子

 

 ローズの収穫はまだ陽の出ていない早朝の涼しい時間からお昼前まで行われます。5月でも灼熱になるこの砂漠地方では、お昼を過ぎるとローズの精油が揮発してしまいます。香り高いものを収穫するために、現地の女性はこの1ヶ月間毎日早起きして作業をしなければなりません。

 

この一帯は北アフリカの先住民族ベルベル人がアトラス山脈の雪解け水が流れる豊かな川沿いに集 落を築き、古くから生活を営んでいます。その川のお陰で緑が多く茂り、農業が行われ、とうもろこし、麦などが主に育てられています。初めはその作物を守る生け垣としてローズが植えられたそうですが、今では世界有数のダマスクローズの産地となりました。

 

アトラス山脈の雪解けの水がこのムグナ川となり、砂漠地帯に植物をもたらす

現地の女性達と一緒に働きながら、衝撃的な事実に気づいた事がありました。

 実は現地の女性はローズの使い方を知らないのです。収穫したものは全て地元の工場に安く引き取られます。そこで蒸留されてローズウオーターとなり、世界中に輸出されていきますが、すでに地元の女性の手が出るような値段ではなくなってしまいます。

 

そこで私は考えました。誰でも畑から採ってきたローズが手軽に使えるように、インフューズドオイル(注1)の作り方とそれを使った美容クリームのワークショップを地元の女性に向けて行うプロジェクトを地元の友達と立ち上げたいと思っています。今年の訪問の際に試験的に行う予定です。

香水の街、グラースの「今」

 所変わって、この北アフリカから地中海を挟んで少し北に移動すると、南フランスのグラースという香水の街があります。気候的に芳香植物栽培にはうってつけだったグラースは、古くからローズや ラベンダー、ネロリ、ジャスミンなど様々な花が咲き乱れ天然香料の産地でした。さらに香料抽 出技術が発達し、グラースは世界的に香水の一大産地となりました。

しかし科学技術が進み合成香料が開発されてからは、その生産の必要性がなくなり、近年は原料で ある芳香植物の生産が著しく低下しました。一方で地元の生産者には原料の質にこだわり続け、何世代にも渡ってその伝統的天然香料の技術を守り続けた方々も存在します。そして現在、16世紀から 伝わるグラースの農業を含めた伝統的香料産業技術を残そうという動きがあり、「ユネスコ世界遺産」の文化遺産部門の登録に向けて活動が進んでいます。

 (注1)オリーブオイルなどの植物油に植物を漬け込んで芳香成分を抽出させたオイル

Lien(リアン) 代表

 英国IFA認定アロマセラピスト

  石田 佳奈子