ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 【腐向け】ロボリツィスト32017年6月11日 01:38「しかし…どうもおかしい。送るから見てくれ」「おう」二人だけの特別な暗号化回線を接続し、ルートヴィッヒからギルベルトへ監視カメラの映像のデータが飛ぶ。「ケッ、ご丁寧にセキュリティタグつけてやがる。ワールドワイドネットに無断転載したらブチのめすって脅しだな」ギルベルトは瞼を閉じた。ルートヴィッヒと違い、視覚情報を遮断しないと画像や映像を脳を制御する内蔵チップが再生しない仕組み。微睡みに似た感覚の中、脳裏に浮かぶ映像。---今となっては監視カメラは録音機能付き。殺害された、よく肥えたローウェン議員が絵画が飾られた廊下を歩く。「なんだね、さっきも会ったが…まだなにかようかね。館長」振り返る議員。カメラの端に、館長らしき人物。館長と呼ばれた壮年の男は、ポケットから眼鏡を取り出してかけたようだ。「君、眼だけはいいと自慢していなかったか?」「あぁ、お気になさらず」「それで?言っておくが、今度の議会でここの廃館案の提出は必ず行うぞ。併設の科学館が手狭でね」「そうですか」「仕方なかろう。ここは科学の街ホルムガルドだ。芸術など二の次三の次。住民も観光客もそんなものを求めてここに来るわけではないからね」「とても残念です」「私としても惜しいがね。しかしここを潰して美術品を売れば、改築費にまわせる。改築を頼む業者には私と君に謝礼が入る仕組みだ。悪くないだろう?」ローウェン議員は歩み寄り、館長の肩を叩いた。「っ…ぐ…!?」館長の腕は議員によってカメラの死角となりよく見えない。しかし、血が廊下を汚し、銀のナイフの切っ先のようなものが議員の腹を突き破っているのは辛うじて判別できる。「そう、大変残念で仕方ありません。貴方のような人は、存在するに値しないのですよ」刃を引き抜かれ、議員は倒れ込んだが館長の足を掴み、見上げる。「そして、この街も。芸術を解さない人間も、機械も」その脳天を、無慈悲な針が刺し貫く。即死だろう。やがて館長のような男は、カメラに気づきこちらに首を向けた。次の瞬間カメラのレンズが割れ、映像は終わった。---「…!」「終わったか?」「あぁ…」瞼を開け、赤い瞳を見開くギルベルトはゆっくり口元に左手をあてがう。「兄さん?」予想しなかったギルベルトのリアクションに、ルートヴィッヒは心配になった。「どうした?」今更人1人が死んだ映像でショックを受けるほどナイーブでもないだろうに。「………ルッツ…、お前の言う通りだ」「?」「フィリップス館長は、無罪確定だ」「だろう。メガネのくだりとか…」「あぁ、あぁ、そう。フィリップス館長にあったが、メガネはしちゃいなかった」「ふむ」視界の中のギルベルトの表情、顔の生体細胞の発する熱、呼吸により、ルートヴィッヒは兄がかなり動揺していることを知る。「兄さん、どうしたんだ?」「いや…」ギルベルトはブラックコーヒーを飲み干す。「ルッツ、犯人は人間じゃないかもしれねぇぞ」「どういうことだ?フィリップス館長に変装した反対派の仕業では?」「違う。………っ」下唇を噛むギルベルト。「兄さん、貴方が動揺してるのはわかるが、話してくれないとさすがになにに動揺しているのかわからない」「…おう」運転代われ、と顎で示されその通りにすればギルベルトは愛車のアクセルを踏んだ。ホルムガルドの街並みが通り過ぎていく。超高層ビルだらけで下層を走ると太陽の光が届きにくく、日照権など知らぬ存ぜぬ。片側6車線というありえない大通り、真ん中を走るのは高速路線バスで各駅は地下に通路があり、歩道につながる。地下道も迷路のようで、この街の雑多ぶりを表している。ふと、二人乗りの銀色の大型バイクが割り込んで来て、ギルベルトは舌打ちしながらクラクションを鳴らした。赤信号で止まった折に窓を開けて怒鳴りつける。「指示器くらい出せボケ!」「あらごめんなさいねノロマさん!」「あァ!?」「兄さん、よさないか。…エリザベータ?」「あらまぁ」フルフェイスヘルメットの向こうのエメラルドグリーンがルートヴィッヒに微笑んだ。「おいコラ警視、てめぇが道交法無視ってどうすんだ」「出したわよ指示器。見えてなかっただけでしょ?」「出してちょっとしてから曲がってこいよ」「なんの話です?エリザベータ」後ろの同乗者が首を傾げた。「気にしないでください、ローデリヒさん」「そうですか…?なにやらもめているようなので…」「ローデリヒィィ!?」ギルベルトは赤を見開き、身を乗り出した。青になってしまい、後ろからクラクションを鳴らされる。「おい!後ろの!メットとれ!」進みながら横の車線に移った。「アンタばかじゃないの!?走ってる最中に…」「とればよろしいので?」「ローデリヒさん!」淡々と、同乗者はヘルメットを外してみせた。黒髪に、アメジストの瞳。食いしん坊ホクロが特徴的。 「てめぇ、やっぱり生きてやがったのか!!」「兄さん、知り合いか?」「ローデリヒさん、ギルベルトとお知り合い?」「………」メットをかぶり直し、ローデリヒは首を傾げた。「さぁ」「はぁぁぁ!?」「ちょっと、ちょっと横で話しましょ?」右指示器を出し、端に止める。豊かな髪をなびかせヘルメットを取ったエリザベータと同乗者ローデリヒ。その後ろに停車するなり、ギルベルトは運転席から飛び出してローデリヒの胸ぐらを掴んだ。「てめぇなんの真似だ!!」「兄貴!」「ちょっと!」ルートヴィッヒがギルベルトを後ろから掴み、エリザベータもその手を振りほどかせた。「放せルートヴィッヒ!!おいエリザベータ!!お前こいつとどんな関係だ!!」「ど、どんなって…」ぽ、と頬を赤らめたのでギルベルトはまた舌打ち。「デートのお相手だろう」「デートぉ?こいつとかよ?」「もう、なんなのアンタはさっきから。今からクラスナヤ・ハローシャヤ最後の上演なの、遅れちゃうじゃない」ローデリヒを軽く馬鹿にされたからか、エリザベータはギルベルトを睨んだ。「ローデリヒさん、思い出しました?」「…いいえ」「はぁ…?」「とりあえず…こうだな?兄貴は、このローデリヒという人を知っている」「おう、知ってるってレベルじゃねー」「ローデリヒ氏は、知らない」「覚えがありません」「エリザベータとローデリヒ氏は、その…男女の仲…と」「男女だなんて…。えっとね?ローデリヒさんは今から3ヶ月くらい前に保護されたの」「お前方向音痴だからな」「よく知ってるわね。…でもそれだけじゃなくて」「?」「記憶が…ないらしいの」「はい?」「記憶喪失か…」「お前ふざけんなよ!?頭叩きゃ治る!!」「だから兄貴!暴れるな!」「そうよ、暴行で現行犯逮捕するわよ」「やれるもんならやってみろ!クラスナヤのオペラに遅刻させてやるぜザマァみろ!」「兄貴!」舌を出すギルベルトに、エリザベータはカチンときて次ローデリヒに掴みかかろうとしたら本当に逮捕しようと、腕時計型端末の警察身分証を起動させホログラムに映し出す。「それよかお前、ふざけんなよ!?この街での俺やルッツの立場ぶち壊す気か!?」「なんの話です?」「クソッタレ!メモリ全消しされたら無罪放免ってのをイヴァンが認めるとは思えねぇし…!」「ねぇ、なんの話なの?本当に。アンタ一人がヒートアップしてる」「………っ」ギルベルトは赤を宙に彷徨わせた。「…おいエリザベータ」「なに?」「クラスナヤ・ハローシャヤってオペラ座、今日が最後なんだってな」「そうよ。最後の上演に招待されたから、今行くところ」ルートヴィッヒはなるほど、と得心がいった。よく見ればエリザベータの警官の制服は儀礼用の堅苦しいものだし、ローデリヒもコートだがその下はスーツのようだ。と、ルートヴィッヒはようやく異変に気付く。「最後…最後ね。取り壊されるんだっけ?」「…えぇ。子供の頃から通っていたし、一時期、あそこで歌いたくて歌手を目指して親が決めた警察への道に反抗したこともあったわ。…だから、とても残念」本当の本当に残念そうに肩を落とすエリザベータを、ローデリヒはじっと見ていた。その様子にギルベルトは片眉を上げる。「っと、そろそろ時間ヤバいんじゃねーの?」「あっ」言われて、エリザベータは顔を青くした。「ローデリヒさん、乗ってください!急がなきゃ!オーナーとお茶する約束の時間!!」そうしているうちにエリザベータの端末に着信があり、銀色の大型バイクに跨った。「今回の件はまた追って話してよ?ローデリヒさんの身元引受け人やるなら特に!」「誰が腐れ坊ちゃん引き取るかよヴァーカ」しっしっとギルベルトは手を払い、先に車に乗って去って行く二人をじっと見送る。遅れて入ってきたルートヴィッヒは、ため息をついた。呼吸はしていないが、感情を表すものとして息を飲んで吐きため息に見えるようにするのだ。「一体なんだったんだ?知ってる人だとは言えどいきなり絡むし摑みかかるし、かと思えば追い払うように…」「ルートヴィッヒ」「なんだ」「今すぐクラスナヤ・ハローシャヤの閉館理由を調べろ」「は、はぁ?」「俺よりお前の方が情報収集得意だろ。早く」「む…」有無を言わさないという気迫を感じ、ルートヴィッヒは腕時計型端末のホログラムを展開させた。便利なもので、ホログラムをタッチパネルのようにタップすれば動く。全世界と繋がれるワールドワイドネットの検索エンジンに接続し、ホルムガルド市のクラスナヤ・ハローシャヤのホームページへ。その間に、ギルベルトは車を発進させた。あまり長々と止めていては、こうるさい交通課が来てしまう。「…ホームページには理由は載ってないか…」ギルベルトの端末が鳴ったので、通話に切り替える。「なんだ」『お腹空いたんだぞー!!!』アルフレッドの甲高い声に、やれやれと首を振った。「はいはいこちらバイルシュミットデリバリー。ご注文はぁ?」『ハングリーバーガーの、トリプルチーズ2個とダブルミート4個にポテトLLが5つとナゲット4つ、あとそれからコーラとバニラシェイクをスーパーメガジャンボで3本ずつ!よろしくなんだぞ!』一方的に切られ、ギルベルトこそ本物のため息をつく。「食い過ぎだっつーの」車線変更し、バーガーチェーン店へ向かう。「で?調べはついたか?」「…あ、あぁ。土地を買収されたらしい。インダストリアル・テクノロジー社のホルムガルド支部として建て替えるそうだ」「そのなんとか社ってのはどこの会社だ?」「ホルムガルドの会社ではないようだな…」ドライブスルーももマイク越しではなく、タッチパネルで欲しいものを欲しいだけ操作しお金を入れれば済む。どっさりと詰め込まれたファストフードの匂いに、朝も昼も抜きの腹が鳴るギルベルトだがそれどころではない。帰り道は座標をインプットしてある自動操縦に任せ、長い脚をハンドルに乗っけた。「兄さん、行儀が悪い」「俺に行儀の良さを求めるなよ」「貴方こそ、俺にマナーどうこうを口酸っぱく教えるくせに」「お前にはきちんとして欲しいんだよ。兄心ってやつ」「理解しがたい…。まぁともかく、インダストリアル・テクノロジー社は首都に本社がある。名前の通りテクノロジーの会社だ。前々からホルムガルドに支部を置きたがっていて、今回クラスナヤ・ハローシャヤの土地を買うことでそれに成功したらしい。カークランド・マシナリーのライバルがホルムガルドに首を突っ込んで来た、ととればいいのか?」「それはそうだが、それよりもっと今日のことが問題だ」「今日?」「チャールズストン社社長殺害事件、ローウェン議員殺害事件。それぞれ共通してることがある」「なんだ」ギルベルトが自身の端末をネットに繋いで出したのは、ブレダ・ヘーデルヴァーリという男性の情報。「エリザベータの爺さん」「ふむ」「このブレダっつーおっさんは金持ちで、エルントリス美術館に寄贈したりクラスナヤ・ハローシャヤにも寄付したりしてる。…おそらく事の始まりは、チャールズストン社がヘーデルヴァーリが経営してるエーデルシュタイン劇場を買収しようとしたこと」「事の始まり…?」「チャールズストンがなんで買収しようとしたかまでは知らねぇが、ブレダは猛反対して、イヴァンに仲裁を頼もうとした。が、チャールズストンはブレダの口を封じた」「…殺した…のか?」「十中八九そうだろうな。この街じゃ金と権力を持ってさえいれば、何しても許される。エリザベータが敵討ちがわりに犯人を捕まえても、そいつはチャールズストンのトカゲの尻尾切り。真犯人かもわからない。情報なんか金で全部抹消されてる」「そうか…悔しかっただろうな…」「それ。まさにそれだ。この事件は3ヶ月くらい前。結局エーデルシュタイン劇場はチャールズストンの手に落ちた。ところでエリザベータは歌が上手い」「は?」「きっと爺さんが経営する劇場にガキの頃から何回も通ったに違いない。クラスナヤ・ハローシャヤのオーナーとも知り合いならあそこのオペラもよく見たことだろう。爺さんが寄付したくらいなんだから、エルントリス美術館にもな」「…全部、エリザベータが関係している…?」「そう」「…っだが、エリザベータが人を殺すとは到底思えない!」「俺もそう思う。ブレダは金はあっても権力はなかった。報復に社長を殺しても証拠を消せるくらいヘーデルヴァーリの家柄に力があるなら、そもそもチャールズストンに負けて泣き寝入りはしなかったはず」「…じゃあ、誰が…」「………」後部座席の袋をあさり、ナゲットを一箱取ってつまみ口に放り投げ、咀嚼。「お前も食え」「しかしこれはアルフレッドの…」「多めに買ったんだよ」「そうか…」ルートヴィッヒが飲み込む頃に、ギルベルトは口を開いた。「ルッツ、心を学ぶ授業をしよう」「…?」「記憶喪失、すなわちなにも知らない、右も左も分からない、己が誰なのかなんなのかもさっぱりな状態。お前も経験あるな?」「あ、あぁ」「俺もある。物凄い不安で物凄い恐いよな」「……そうだ」「その時、手を差し伸べてくれた奴がいた」「…俺の場合は、貴方だ」「アハァ、そうだな。さてそいつは色んなことを教えようと、または思い出せればと、あちこち連れて回るわけだ」「ショッピングモールは楽しかった」「だな。俺もショッピングモールは好きだ。また冬服買いに行こうな」「あぁ」もう一つつまみ、食べる。「ところが、その思い出の場所が一つずつぶっ潰されていく事態になるとする。恩人はとても悲しそうだ。さて、どうする?」「どうと…言われてもだな…」「潰そうとする奴らを説得するか?」「聞いてくれるものならそうするが、代替案もなし、解決できる金や当てもないならやっても無駄だろうな…」「そうだ。他の方法は?」「他?他…。む…」ルートヴィッヒはナゲットをとった指についた油が不快でたまらなく、スーツのジャケットから取り出したハンカチで拭いた。「…待てよ…除去…」拭き取ることで油はもうついていない。不快な思いはしなくて済む。兄を見た。いたって大真面目な目が見つめ返してくる。「………兄さん…まさか、貴方が言いたいのは…」「…わかったか?」「ローデリヒが…?」「………」「兄さん、貴方の知り合いなんじゃないのか?知り合いを疑うのか?」「知り合いどころのレベルじゃねーよ。他人じゃねぇ。俺にとって他人じゃないなら、お前にとっても他人じゃない」カークランド・マシナリー社の駐車場に着き、荷物を持って出た。社員証でゲートを開き、エレベーターで45階へ。「…ローデリヒを見ていて、おかしいと感じたことがあった」「なんだ」「俺のいくつか入っている対人用ステータスアプリは全て熱、呼吸、声のトーン、表情を参照する。どれか一つでも欠けたら、エラーが出る」「へぇ」「そのうちで、ローデリヒには呼吸がなかった」「だろうな」45階に着く。吹き抜けではルートヴィッヒが大嫌いなロボットアームが相変わらずなにかを造っているところだ。「…他人じゃないというのなら、答えは一つしかないだろう」「そういうこと」奥のオフィスを開けた。「遅いんだぞ!!」「連絡寄越してから20分だぜ?優秀だろうが」「お腹空きすぎて1分が10分に感じるほどの苦痛だったんだよ!」部屋の主、アルフレッド・F・ジョーンズはぷりぷりしながらギルベルトが差し出した袋の一つを開けた。中の包みを暴けば、チーズたっぷりのハンバーガー。「ってこれなんだい!」「新作って書いてたから買ってやったんだよ。ダブルチーズに目玉焼きとクリームチーズソースとオニオンソースがぶっこまれた恐怖の産物」「ん〜!デリシャス!!」朝昼晩と、ルートヴィッヒのヘルスケアアプリが心配を訴えるほど食べまくるアルフレッド。「それよか、例の件の犯人のおおよその目星がついた」「本当かい?」ギルベルトがアルフレッドの座るデスクの横のテーブルの椅子に座ったのでルートヴィッヒも横に座った。「つっても、人じゃねぇわ」「ほぇ?」「俺の…兄貴なのか弟なのかちょっとよくわからねーけど、そんな感じの奴」「………ルートヴィッヒみたいなのってことかい?」「いいや。本当の本当に俺と同じトコの生まれの」「………」アルフレッドはせっかくの新作バーガーを、力なく落としてしまった。「兄貴と同じ?同じ工場でということか?」「まぁ…そんなところだ」「まずい…すこぶるまずいんだぞ、それ…」とりあげ、何度か息を吹きかけてまた齧る様にやや潔癖の気が個性として現れ始めているルートヴィッヒは眉を寄せた。「君しかいないからって、たった一つの例外だからって、10年前の件でイヴァンも庇ってくれたんだろう?さすがに、二件目は厳しくないかい…?」「…しかも2人殺してる。もしかすると3人目が出るかもだ」「まずいよ…世間に知られたら、その君の兄だか弟だかもそうだけど、君も、ルートヴィッヒも…!」「だからだ。俺のことはいいが、ルートヴィッヒは、こいつのことだけは何としても守る。それが兄の役目だからだ」ギルベルトは立ち上がった。「絶対に取っ捕まえて、やめさせる。なんならぶっ壊してやる」右手首の端末を取り、テーブルに置いた。「おい、兄貴…」「ルートヴィッヒ、お前は来るな。もし殺人現場とか出くわして巻き込まれたら、お前は全身金属の塊なんだし今日みたいなイェーガーからの追求が恐い」「さっきから、一方的が過ぎるぞ!」「………俺が一方的なのは、いつものことだろ」出て行く背中を追おうとしたルートヴィッヒに、アルフレッドのstayがかかる。ドアが、閉まる。「なんなんだあの人は…」独自回線を開こうとしたが、向こう側から遮断されているようで繋がらない。「アルフレッド、俺はさっぱり理解できない」「………」もっしゃもっしゃと咀嚼し終えると、アルフレッドは目の前のパソコンデスクの棚からバインダーを一つ手に取り、ルートヴィッヒに投げつけた。今時珍しい紙媒体。「なんだこれは」「読めば君の知りたいことの半分くらいはわかるよ」その間に食べちゃうからさ、とアルフレッドは音を立ててコーラを飲んだ。***「ぺ、ぺ、ぺ、ペーペペペーチカこっこーろともして〜♪」「随分ご機嫌だな」「わぁ」SPから銃口を向けられても、涼しい顔。風が銀髪を撫でる。「ズドラーストヴィチェ、ギルベルトくん」市長、イヴァン・ブラギンスキ。金と権力の街ホルムガルドのボス。ルートヴィッヒに負けず劣らずの男として恵まれた体格を持つが、紫の瞳はいつもニコニコと機嫌良さそうというかもはやこれが素の状態の瞼の奥にいる。「あのね?アポなしはやめてっていつも言ってるよね?」「今べつになにか大事な用事してるわけでもねぇだろうが」市庁舎の中庭の庭いじりをしていて、かいた汗を首から下げたタオルで拭うイヴァンはあいも変わらず笑ったまま、立ち上がった。「結構大事な用事だよ?じゃがいもが採れたんだぁ。はい、ポーズ」イヴァンがギルベルトの肩に腕をまわし、傍らのカメラマンに向けて愛想をした。「明日の市長便りに載せるからねぇ。君も、ブログとかに載せていいよ」「考えておいてやる。…あ、睫毛抜けた」「じゃがいもいる?よく出来たんだけど」「あー…、それどころじゃねぇって本来なら言うところだけど…後でもらっていいかよ?」「もっちろぉん!」「シャイセ、じゃがいもの誘惑には勝てないぜ…。って、そう、それどころじゃねぇ」イヴァンはじゃがいもを頭陀袋に入れ、軍手を取ると中庭のベンチに腰掛けた。「で?」一気に気温が下がるような気配がして、ギルベルトはぞくりと背中が粟だった。「…許可をもらいに来た」「なんでかな?さすがに理由もないのに許可は出せないよ」「……ヴィッセンシャフトの廃棄物が残ってた」「ふーん」長い足を組んだ。土と泥だらけでも、やはりこの男はこの街のドン。今からでも、どうでもいいや君を殺すと、笑いながら言いそうな。「君さ」「なんだ」「ルートヴィッヒくんのこと、すごく大事にしてるんだってね?アルフレッドくんが言ってたよ」「…おう」「なんでかな?」「なんで?そんなの、決まってる。あいつは、俺の…」「俺の?」ギルベルトの中の感情に基づけば、続けようとする言葉に嘘が混じる。しかし、だからと言って。こう答えるしか、ない。「弟、だから」「そう。そっか。わかるよ。僕にも姉と妹がいるし、2人とも大事な家族だもの。優劣なんかつけられない。君はどう?」「どうとは?」「ルートヴィッヒくん以外の家族は全部、どうでもいいのかな?」「…どうでも、いい。今は、あいつが俺の存在する理由だから。お前は10年前に俺に言ったよな。なぜ存在することを許されたのか、どうして壊されなかったのか、その理由は自分で見つけろと。それが、俺の今の所有者イヴァン・ブラギンスキからの唯一の命令だと」「そうだよ。よく覚えてたねぇ」「ようやく、見つけたんだ。俺のこれまでは、あいつと出会うためにあった。運命さ、わかるだろ」「そう」「このまま奴を見逃して、奴が捕まりでもしたら。人間はきっと自我を持つロボットを恐怖する。それは即ち、ルートヴィッヒに恐怖という名の人間からの牙が向けられることも同じ。俺はそれが恐い。恐くて恐くてたまらない。その毒牙にかけられて、ルッツが壊されるなんて考えただけで震えが走る…!」満足そうに頷くと、イヴァンは口を開く。「それは素敵な感情だと思うよ」「素敵だと…?恐怖だ、これは」「失うことが恐いんでしょ?わかるよ。それは君がルートヴィッヒくんに執着してるから。執着って、それって即ち、好きってことだね?」「………っ」誰かに言われれば改めて、ギルベルトはこの胸の中のものを飲み込むことができた。ずっと頭の中の制御チップが三大欲求の一つをセーブしてきた。その原因。「いいよ。許可をあげる」「!」「その代わり、万事抜かりなく。わかるよね?」「…ヤヴォール・マインヘル」***「………フリードリヒ・バイルシュミット」アルフレッドの寄越したファイルを開けた真っ先に、よく見た顔。直接会ったことはないが、ギルベルトの机に飾られた写真たての中にいつもいる。「イェーガーを設計した男だな」「そうだね」「兄貴のOSもこの人がつくったから、俺たちは兄弟だと兄貴が言っていたが」「まさにそうだよ。厳密に言うと、君たちのそれぞれの開発チームのリーダーが彼さ」「チームの、リーダー…」ページをめくると、それは20年前の大見出し記事の切り抜き。「『血も凍る、恐怖の人体実験!バイオソルジャー計画』…?」「確かに血も凍る話だと思うよ、俺でも思うんだから暴いたサイボーグ技術反対の市民団体なんか発狂モノだったろうね」バイオソルジャー計画。それは、精子と卵子の段階からDNAを改造したデザイナーベビーに制御チップを埋め込み自我を抑制、死への恐怖も命令への疑問も持たない完璧な兵士を造る計画。義肢や臓器のサポートとして機械を埋め込むサイボーグ技術は普及して久しいが、それでも本来の身体を改造する行為は神への冒涜だと反対する団体もいた。その市民団体によって、秘密の研究チームだったヴィッセンシャフトとその計画が暴かれてしまった。「すでに開発された試験体10体を破棄し、ヴィッセンシャフトは逃亡…その後は全員行方不明」「そ。表社会にはそれで十分だった。バイオソルジャーのような行為が悍ましいと感じる世論が大多数だったわけだし、人間の倫理がまだ地に落ちてないことの証明になった事件だったよ」「…俺でもわかる。フリードリヒ・バイルシュミットはこのヴィッセンシャフトのリーダーだったわけだな?」「そうだね」「そして、このバイオソルジャーの1体が…兄貴だと」「ご明察」ページをめくった。焼けた切れ端ばかりのスナップ。「君さ、一年一緒にいて疑問に思わなかったのかい?」「なにがだ」「ギルバートは、息をして、ご飯食べて、グースカ寝て、充電はしないし、怪我したら血が出る」「…かなり精巧に造られた愛玩ロボとかそういう類だと思っていた。たまたま自我に目覚めてあの性格だから、厄介ごとを仕事にしてるのかと」「愛玩ロボではないけど、似たようなものかなぁ。金属探知器レーダーは大昔からあるから、それらに引っかからない兵士、しかも強くて、従順で、恐怖や痛みを感じないような。それらが欲しいってどこかからのオーダーだったんじゃないかな。ギルバートはその試験体の一つとして造られた。人間の身体をベースに、制御チップと基盤を脳に埋め込まれてる」「…兄貴と通信したりできるのも?」「チップのおかげ」「………兄貴は、人間…なのか?」「君と同じさ。ロボットだ。本当は、人間として生きる道もあった。でも、ロボットとしてモノとして存在する方を選んだ」「……なぜ?」「人間として生きることの方が辛かったんじゃないかい?」「………」ページをめくる。あってはならないものが貼ってあった。フリードリヒ・バイルシュミットの、カークランド・マシナリー社の社員証。「なぜ…」「彼の姪の夫の従姉がブラギンスキ家でね。ヴィッセンシャフトの解散と逃亡の折、フリードリヒをこの街に呼んだのがイヴァンの母親。つまりは君たち他人ではないってこと」「…ここに雇わせたと」「そう。そこで彼はどん詰まりだった新型ロボリツィストの開発を、さささーってやってしまった。そうしてイェーガーが造られたのさ」「………父さんの行いが悪なのかどうか、俺には判断がつかない」「一つ一つをとってみればいい行いと悪い行いがあると思うけど、それらを総合して彼を善人か悪人かを断ずるのは本当に難しいと思うよ」「…でも、兄さんを造ってくれたこと、イェーガーを開発してくれたこと…それらは間違いなく」その次のページは、古い写真。そっと、撫でた。フリードリヒと、幼いギルベルトが写っていた。微笑むフリードリヒに対して、ギルベルトは全くの無表情。「俺にとっては、感謝すべきことなんだと思う」染み入る気持ちをおちょくるように、アルフレッドのアイスシェイクを飲み干す音が響いた。「………兄貴はなにをしようとしているんだ?」「多分、ズズッ、破棄されたはずの、ん〜〜、ブラザーが、ぷはー」「飲み終わってから話せ、何を言っているのかわからん」「ごめんよ!多分、破棄されたはずのブラザーが1人まだいたから破壊する気だと思うよ」「破壊?なぜ?」「わざわざ変装?までして殺人を犯すくらいに自我に目覚めてるわけだ。彼の存在が公になってしまったら、世間に自我を持つロボットへの恐怖が広がる。そうそういないけどね。でもそれらの徹底排除が始まるわけだ。君にとって他人事じゃない」「……ローデリヒは息をしてないから兄貴よりロボット寄りだろうな…」「へぇ、ローデリヒっていう人間みたいな名前つけてもらってるのかい?」「三カ月に保護されたそうだ。記憶喪失で」「…ヴィッセンシャフトの事件は20年前だ。これまでどこでなにをして生き延びたんだろうね?」「わからん。…しかし確かに、自我を持つロボットへの恐怖からの排除は恐ろしい」「ギルバートは、そんな君を守るために兄だか弟だかを破壊するつもりだと思う」「………」ルートヴィッヒは立ち上がった。「どうしたんだい」「殺人を犯したのはいけないことだが、きっとそれには、理由があった」「理由」「右も左も分からない未知の中で手を差し伸べてくれた人がいた。その人と作った思い出の場所が壊されていく。これは復讐だ。排除だ。こんな複雑な感情を持つ彼はロボットじゃない。人間だ。兄貴は、殺人を犯そうとしている」「今更だぞ?君もサマリオートを誘拐犯ごと撃ち落としたじゃないか」「それとこれとは話が違う。止めなくては。俺にとってギルベルトは兄だが、…ローデリヒも兄だ…!」