ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 アストレアの天秤2014年11月2日 01:20●二期放送前に間に合わなかった第二弾 ●一期十三話後あたり ●槙島と自身の命だったら槙島をとった狡噛ですが、槙島と他人の命だったらどっちをとるか、なお話 ●と言いつつ単に朱ちゃんのピンチに狡噛さんが…!を書きたかっただけのお話 ●切るとこがなくて1Pがやたらと長い…すみません;;今はもう使われていないホテルの一室かつてはセレブが利用する贅の限りをつくしたホテルとして有名だったが、今では壁も床も年月を経て黒ずみ、天井からぶら下げられた丸裸の電球が不規則に点いたり消えたりを繰り返している細い廊下と錆び付いたドアが無数に広がる先、ひときわ大きい部屋の一つに朱はいたところどころ破けて中身が見えている革張りのソファに座っている―正確には両手を縛られた状態で座らせられていた部屋には、他に二人の男の姿があったそのうちの一人、白い髪に金色の瞳が印象的な男が聖者のような微笑を浮かべ口を開く「相変わらず隙だらけだね、常守朱監視官」「槙島聖護…っ!!」全身に憎悪と嫌悪を滲ませて睨みつける槙島は まるで期待通りの行動だ、と言わんばかりに笑みを深くした「まさか二度も同じ手に引っかかってくれるとは思わなかったよ」その言葉に、朱は自身の迂闊さを呪うしかない…事の始まりは今朝、まだ太陽が昇るか昇らないかといった時間まで遡る自宅の寝室で眠っていた朱のもとに来たのは、友人―圭織からのメールだった「んー…?」寝起きのぼんやりとした頭でメールを読む『ゆきの件で、話したいことがあるの今日の午後三時、添付した地図の場所に来て』メールの内容はこれだけであった添付された地図に指定された場所は、都内のとある一画繁華街ではあるが廃棄区画と隣り合わせになっているせいか違法薬物の売買の噂が常に飛び交っているという、少々異質な場所だとはいえ昼間…太陽が空にある時間帯ならば気軽に遊びに行けるくらいには安全が保証されているだからこそ、多少の疑いはあっても槙島の罠だとは思わなかったのだ今思えば、この時宜野座なり狡噛なりに一言相談すべきだったのだろうが、今日の朱のシフトが夜勤であったことと、少々デリケートな話題ということも相まって誰にも相談せずに地図に指定された場所に向かったのである待ち合わせ場所に着いたところで背後から羽交い締めされ、廃棄区画の中核を成す廃ホテルへと拉致された―あれからどれくらい経ったのだろうか部屋の中にある窓は分厚い板がぬい付けられていて、外の様子を知ることはできない時間を確認しようにも、手を後ろに縛られた状態では確認しようがなった現在時刻の確認を諦め、もう一度部屋をぐるりと見回す部屋にいるのは朱と槙島、それに重度の薬物中毒者と思われる男が一人言葉が通じるのか怪しげなくらい理性が飛んだ顔をしているが、今は部屋の隅でおあずけをくらった犬のように佇んでいる何度見回しても朱の予想していた人物―圭織は見当たらない「圭織は…」掠れるような朱の言葉に、槙島は掌で弄んでいた端末を見せた「心配しなくても、彼女には指一本触れてないよ以前手に入れたデータをね、少しだけ利用させてもらった」その意味を汲み取り、視線を一層厳しくする「まさかゆきの…」「有効活用させてもらったよそれともあの時のように君に問うた方が良かったかな?」す、と槙島の視線が冷えるその黄金の瞳に射抜かれて、ぶわりと背中が粟立った「命の重さを君の決断と意志の重みを」ゆきの最期を思い出すあの悲鳴は、血の赤さは、脳裏に焼き付いて永遠に消えないだろう「…もう二度と、あんなことはさせない」それは自身に対する誓いでもあったくじけそうな心を奮い立たせるように、きつく睨みあげるだが槙島は臆することなく真正面から視線を受け止めた互いの息遣いが聞こえそうなほど顔を近づけ、低く甘く囁く紡がれる言葉は詩人の朗読のよう「再び君たちに問おう刑事としての決断と、行動を」背後でピ、という電子音がした何をしたのか、理解する前に右手で口をふさがれる「っ!」そのまま朱の頭部をソファに押しつける拘束されていない両足で必死の反抗をするも、右足一本であっさりと固定させられてしまう完全に身動きがとれなくなったところで、唐突に音声が聞こえた「…常守?」電話越しの若干不鮮明な声ではあったが、誰かはすぐに分かった分からないはずがない大事な部下であり先輩であり、相棒でもある狡噛だそして同時に、さきほどの電子音の意味も理解した朱の端末で、狡噛に電話をかけたのだ「…おい常守?」困惑する狡噛の声を聞いて、槙島はニヤリと笑い朱の口をふさぐ力を強くする鼻で息はできるが、口は開くことも閉じることもできない「突然の電話すまないね、狡噛慎也執行官」槙島の言葉に狡噛が息を飲んだのが、分かった「…常守はどうした」狡噛の声音は普段と変わらず冷静だった槙島はふ、と笑う「元気すぎて困っているところだよ彼女の安否確認も済んだし、次は位置情報を割りだすために時間稼ぎでもするのかな」「…」否定しないということは、実際に端末の位置情報の特定を行っているのだろう場所が割れるのも時間の問題だそんなことは槙島にも分かっているはずだだが、彼は笑顔を崩さない「今からこの部屋に番犬を解き放つ」槙島の言葉に、部屋の隅にいた男がびくり、と反応した先ほどとはうってかわって興奮した面持ちの男たちに、恐怖を覚える「彼女を救いたければ一人でここまで来るといいでもそこに僕はいない」そう言うと、空いていた手で朱の手首から端末を外し、何やら操作しはじめた「ふざけ…!」「僕のことを殺したいと思うなら、これから示すポイントまで来るといい君のことを評価して、一人で待っていよう」槙島は狡噛の返答も待たずに電話を切ると、朱を押さえつけていた腕の力を緩めた「さて彼は君を助けに来るか、それとも僕を殺しに来るか君は…そして僕は、彼の正義の天秤を傾けるに足る存在だろうか?」哲学者のように語る槙島に、朱は目をあわせられず項垂れた絶対に助けにくる、と思った同時に、くるはずがない、とも思う彼は五年前、地位も名誉も将来も全て捨てて槙島を追うと決めたのだ親友だった宜野座ですら引き留められなかった狡噛が、知り合って一年も経たない自分のことを気に留めるのかいや、それよりも「…あまり私を見くびらないでください」自分は監視官刑事なのだ狡噛の助けを待って怯えているわけにはいかないドミネーターは持っていないが、腰には護衛用のスタンバトンが挟まっている一人でも、十分対処できる対処してみせる改めて槙島を睨みあげる相手は、ほんの少しだけ驚いた顔をして満面の笑顔を向けた「それが君の決断か、常守朱」槙島が投げた朱の端末が、眼前に落ちるそれは天秤が傾く音に似てガツン、とやけに大きな音がした「君の命の輝き、しっかり見せてもらうよ」そう言って槙島は部屋を出て行ったガチャリ、という重い金属の音がするそれを合図に、部屋にいた男がうめき声を上げ始めた「…っ」素早く自身の状態をチェックする縛られている腕以外は自由に動かすことができる縛られている感触からして、手錠などではなく布紐の類だろうしかし軽く動かしてもびくともしないところを見ると、相当きつく縛られている解くのは容易ではなさそうだそこまで考えてから、相手の状態へ意識を移した相手は一人その巨体を構成するのは筋肉ではなく脂肪だろう獣のような声をあげ、濁った瞳はどこか虚空を見つめていた恐らく説得や交渉は通じない武器類は確認できないが、素手で勝てる相手でもないそこまで考えたところで、男と目があったまずい、と思った時には既に男に突進されていた腕が使えない状態で上手く避けられず、衝撃と共に埃だらけの床に仰向けに倒れる「ぇほ、っ」舞った埃が喉に入り、思わず咳き込むひねり潰されるような力で両肩を掴まれ、痛みに顔を歪める男は下卑た笑みに口の端からボタボタとよだれを垂らしていた悲鳴を上げたくなる気持ちを必死で抑え、どうにか解けないかと両腕を動かす「くすり」不意に男が、声を出した「…え?」「くすり よこせ」そう言って、子供のように手を突き出してきた「あっち…あのクローゼットの中にあるわ」なるべく自分から離れた所にある家具を顎で示す男はそれを信じたのか、嬉しそうな顔をして朱が示した方へ向かったクローゼットの中を手荒く漁る後ろ姿を見て、はっ、と短く息を吐いたこんなの一時しのぎにすぎないなにか、手を打たなければ縛られた手を解こうとして、スタンバトンの柄がぶつかった今度は強く叩き落とすように衝撃を加えると、スタンバトンは腰から外れて床に落ちた足を使って位置を動かし、じっと相手を観察する男はクローゼットの引き出しを全てひっくり返し、中にあったものを踏みつけながら薬を探していた「ない!」突然声を張り上げた男が、床が抜け落ちそうなほど大きな音をたてて地団太を踏む朱が体を強ばらせると同時に、男が再び突進してきた「っ!」足を使ってスタンバトンを伸ばす突進の勢いを殺せなかった男は真正面から直撃したバリバリという音と、雷のような白い閃光が走り思わず目を閉じる数秒後、恐る恐る目を開くと男は白目を剥いて倒れていた微かに胸が上下しているから、気を失っているだけだろう「…誰か!」手首を縛られたまま、槙島が消えた扉に向かって声を張り上げるも、返ってくるのは沈黙のみ思い切り扉を蹴りつけてみるも、びくともしなかったせめて端末が使えれば誰かに連絡がとれるのにふと人の気配を感じて振り向いた先にいたのは、「嘘…」気絶したと思っていた男の姿強い衝撃と共に仰向けに倒され、上から男がのしかかる薬、薬と連呼する男の気をそらす手段はもうない混乱する朱の耳に、ビリビリと何かが破ける音がした「ちょ、何して…!!」男がストッキングを破っていた「薬!」こんなところにあるわけないなどと叫ぶ余裕はない「離して!」蹴りあげようと足を上げるも、逆に足首を掴まれる下半身の動きを封じた男が次に狙いを定めたのは、上半身のジャケットとブラウスだった「…っ!!」乱暴に服をまさぐる男に、抵抗の意味はほぼなかったブラウスのボタンが飛び、肌には男の口からこぼれ落ちる涎が気味の悪い感触を残す助けを求めるわけにはいかない期待してはいけないと、願ってはいけないと、分かっているのに「狡噛さん…」祈りにも似た呟きの後、視界が真っ白になったそして男が呻き倒れる音と、体全体にのしかかる重み「常守!」珍しく焦った声と共に現れたその姿に、朱の緊張の糸は途切れた目に涙がたまるのが分かる「なんで…なんで来たんですか!」ほっとした自分が情けなくて、それを隠そうと虚勢を張る震える声が一層情けなかった「槙島を捕らえるチャンスだったのに…」狡噛は朱の上に倒れている男を乱暴に引き剥がすと、ぐしゃぐしゃになった頭を軽く叩いた「あんたの安全確保のが先だ心配しなくても、槙島が示したポイントにはギノたちが向かってる」宜野座たちでは取り逃がしてしまうだろう朱がそう直感するくらいだ、狡噛はもっと分かっているはずだ「でも…」そう言おうとして、しかし狡噛に遮られた「大丈夫か」言いながら、自身が着ていたジャケットを投げてよこす何が、と言おうとして自分の姿を確認するストッキングは破け、乱れたスーツから覗く素肌は男の唾液でびちゃびちゃだ「っ!?」慌ててジャケットを握ろうとして、自分の腕が縛られたままだということを思い出した「そんな状態でよく持ちこたえたな」朱の腕に気付いた狡噛が縛っていた紐を解いた「ありがとうございます…」じんじんと痛む手首をさする強引に解こうとしていたせいもあり、縛られていた部分は赤紫色になっていた「さっさとここを出るぞ」言いながら狡噛は、宜野座と連絡をとっていた話を聞くに、指定した場所に槙島はおらず、まだ見つかっていないらしい通信を終えた狡噛は朱を見やる「あんたはここを出たら医務室でケアを受けろ」「いえ、大丈夫です私も槙島を追います」「馬鹿いうな、そんな格好で追えないだろう」そう言われたので、ところどころ縒れてボタンの飛んだブラウスを脱ぐキャミソールの上から狡噛のジャケットを羽織り、ビリビリに破けたストッキングは脱ぎ捨てたそうじゃない、と言わんばかりに狡噛がため息をつく「責任を感じての行動なら、この件はあんただけのせいじゃないぞ」「いいえ、私のせいで槙島を追い詰めるチャンスを逃してしまった」「まだ奴が完全に逃げ切った訳じゃない」「だから、追いたいんですみんなの…狡噛さんの足手まといじゃなくて、刑事として槙島に向き合いたい」―あなたの天秤に、もう二度と私がのらないように私だけじゃない、誰の命ものらないように決意を込めて狡噛を見上げる彼の表情が、少しだけ柔らかくなった「…行くぞ」そう言って渡されたのは、ドミネーター「はい」しっかりと握ると、指向性音声が耳に流れ込むその声を聞きながら、朱は狡噛の背中を追った**[newpage]自ら指定した場所から少しだけ離れたビル屋上のヘリポートカメラを介して事の顛末を見届けた槙島は、ふぅとため息をついた紫がかった夕焼け空に髪が舞い上がる「どうやら、彼女に軍配が上がったようですね」背後に立っていた狐目の男―チェ・グソンが僅かに笑って言う「残念だね」そう言った槙島の顔は、満面の笑顔その顔を見て、グソンは苦笑を浮かべる「言葉と表情が釣り合っていませんよ」「結果は残念だったけど、過程は中々楽しめた」にわかに周囲が騒がしくなった騒音と風とを撒き散らしながら、二人の頭上からヘリが降り立つ槙島は開かれた扉に手をかけた「さて、そろそろ行こうか」「はい」飛び立つと同時に、ヘリポートへとやって来る人影があったその二人の姿を見て、グソンは僅かに焦りの表情を見せた「さすが、優秀ですね」対する槙島は嬉しそうに笑う「でも残念、時間切れだ」機体は既に上昇し、彼らからこちらの様子を捉えることはできないだろう「また今度」二人の刑事の姿は夕闇に覆われ、すぐに見えなくなった