加味逍遥散にはどのような効果・副作用があるのか【漢方薬】

漢方薬の中には精神に作用するものがあります。

穏やかに効き、副作用が少ないという特徴を持つ漢方薬は患者さんから好まれることも多く、精神科領域でもしばしば用いられます。

不安や落ち込み、めまいやほてりといった自律神経症状に対してよく用いられる漢方薬に「加味逍遥散(かみしょうようさん)」があります。よく用いられる漢方薬であり「ツムラの24番」などと呼ばれることもあります。

主に女性に対して用いられることが多く、不安症状やそれに伴う自律神経症状に効果が期待できます。不安障害(神経症)や心身症、うつ病をはじめ、PMS(月経前症候群)PMDD(月経前気分不快障害)、更年期障害、不眠症にも用いられることもあります。

漢方薬は多くの生薬が配合されているため、どのように使えばいいのか分かりにくいものです。しかしその特徴をしっかりと知れば、こころの健康を助けてくれる強い味方になります。

ここでは加味逍遥散にはどんな効果や副作用があるのか、どんな人に向いているお薬なのかについてお話していきます。

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1.加味逍遥散の成分とそれぞれのはたらき

漢方薬は様々な生薬(しょうやく)が配合されています。加味逍遥散も同様で、10種類もの生薬が配合されたお薬になります。

加味逍遥散について知るためには、まずは配合されている生薬とその代表的な作用を知りましょう。たくさんあるため分かりくく感じるかもしれませんが、それぞれの主な作用は次のようになります。

生薬含有量主な作用
柴胡(さいこ)3.0g熱を下げる(解熱)、炎症を抑える(消炎)、肝臓の解毒作用を整える(疎肝)、気分を安定させる(解鬱)
芍薬(しゃくやく)3.0g血液の流れを改善させる、イライラを鎮める、筋肉のコリをほぐす
蒼朮(そうじゅつ)3.0g胃腸を整える(健胃)、発汗を促す
当帰(とうき)3.0g血液の流れを改善する、腸の動きを促進する
茯苓(ぶくりょう)3.0g体力を増強する、尿を出す(利尿)
山梔子(さんしし)2.0g熱を取り(清熱)、のぼせやイライラ、不眠を改善する
牡丹皮(ぼたんぴ)2.0g熱を取り(清熱)、血液の流れを改善する、イライラを鎮める
甘草(かんぞう)1.5g緊張を和らげる事で痛みやけいれんを抑える
生姜(しょうきょう)1.0g代謝を良くする(発汗)、胃腸を整える(健胃)、食欲を上げる
薄荷(はっか)1.0g気持ちを鎮める、胃腸のはたらきを高める、ばい菌をやっつける(抗菌)

加味逍遥散はこれら10の生薬が配合されており、これらの作用があります。

これらの生薬を全て合計すると22.5gになりますが、これらを混ぜて乾燥させたもののうち4.0gを取り、それに添加物を加える事で計7.5g(1日使用量)としたのが加味逍遥散になります。

ではこれら10種類の生薬を配合した加味逍遥散は、どのような漢方薬なのでしょうか。

加味逍遥散というのは「逍遥散(しょうようさん)」という漢方薬に牡丹皮、山梔子という清熱作用を持つ生薬を「加えた」ものになります。

逍遥散は、血の巡りが悪く、肝臓のはたらきが弱っている事により気鬱が生じている方に適した漢方薬です。このような状態を「肝鬱血虚」と呼びます。漢方の考え方では、肝臓は精神に関係しており、肝臓のはたらきが弱ると精神的に不調になるという概念があります。イライラする事を「肝の虫が騒ぐ」と言ったりしますが、このように肝臓の不調は精神の不調につながると考えるのです。

肝鬱血虚では、

・イライラする
・眠れない
・ゆううつ
・だるい
・顔色が悪い
・食欲が沸かない
・胸が張って苦しい
・月経不順

などの症状が認められます。

逍遥散は血液の巡りを改善させ、肝臓のはたらきを整える事で、これら「肝鬱血虚」の症状を改善させます。これを「疎肝解鬱(肝臓のはたらきを整え、気持ちを安定させる)」と呼びます。

そして、これに「牡丹皮(ぼたんぴ)」と「山梔子(さんしし)」を加えたものが「加味逍遥散」です。

牡丹皮と山梔子は清熱(悪い熱を改善する)に優れる生薬です。不調の原因になる悪い熱(肝火、鬱熱など)を和らげる作用があります。

これにより、

・イライラ
・不眠
・めまい・発汗などの自律神経症状

をより強く改善させてくれます。

まとめると、加味逍遥散という漢方薬は、

  • 肝臓のはたらきを整える
  • 気分を安定させる
  • 血のめぐりを良くする
  • 自律神経を整える

といった作用を持つお薬だという事です。

またそれ以外にも、

  • 発汗や利尿を促して代謝を良くする
  • 胃腸のはたらきを促進させる
  • 解熱(熱を冷ます)、鎮痛(痛みを抑える)

といった作用も期待できます。

2.加味逍遥散の証は?

漢方薬には「証」という概念があります。証は西洋医学には無い漢方独特の考え方なので、慣れないと分かりにくい概念かもしれません。

証とは、かんたんに言えば「あなたの体質」のようなものです。同じような症状でも、証(体質)が異なれば適した漢方薬も違ってくる、というのが漢方医学の考えなのです。

証にはいくつかの分け方がありますが、ここでは代表的な2つの証を見てみましょう。

まずは「虚実」という考え方があります。漢方医学では、実とは体力が強いこと、虚とは体力が弱いことを表します。「実」「虚」、そしてそれらの間である「中間」に分けられます。

次は、「寒熱」という考え方があります。これは代謝の良さや患者さん本人が自覚する身体の熱感を表します。寒熱は体温の高さではありませんので間違えてはいけません。この証も「熱」「中等」「寒」の三段階に分けて考えます。

このうち、加味逍遥散は、

虚実:虚証
寒熱:寒証

の方にもっとも効果があると考えられています。

つまり体力が弱く、代謝が低めで熱感がないような方に向いている漢方薬だという事です。

実際に加味逍遥散の適応には、

体質虚弱な夫人で、肩が凝り、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸証

と書かれています。虚証、寒証に向いた漢方薬だという事がここからも分かりますね。

なお漢方医学には多くの流派があり、証の考え方はそれぞれで違いがあります。「実虚」「寒熱」以外にも証はいくつかあります。しかし、このコラムは「証」を専門的に説明するものではないため、証の概念の説明はこれくらいにさせて頂きます。

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3.加味逍遥散はどのような疾患に効果があるのか

加味逍遥散はどんな疾患に効果があるのでしょうか。

添付文書を見ると、

体質虚弱な夫人で、肩が凝り、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸証:
冷え性、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道証

と書かれています。

加味逍遥散の主な作用は、

  • 疎肝解鬱:肝臓のはたらきを整え、気分を安定させる
  • 補血調経:血液のめぐりを良くする
  • 清熱涼血:肝臓の鬱熱を冷ますことで、気分を安定させる

の3つだと考えられています。

精神的な効果は「肝」に作用することで得られます。漢方医学では、「肝の虫」という言葉からも分かるように、肝臓が不調になるとイライラや興奮が生じると考えます。これを抑える加味逍遥散は、

・イライラ、怒りっぽい
・不安や興奮で眠れない

という精神状態に特に効果が期待できます。

また、血液のめぐりを良くすることから、

・のぼせ
・ほてり
・発熱
・頭痛
・寝汗

などといった自律神経症状にも効果が期待できます。これは「月経不順」「更年期障害」など女性特有の疾患で生じやすいため、加味逍遥散は特に女性に用いられることが多い漢方薬になります。

このような特徴から、加味逍遥散は、

  • 不安障害
  • 自律神経失調症(めまい、発汗、肩こりなど)
  • 不眠症
  • PMD(月経前症候群)、PMDD(月経前気分不快障害)
  • 子宮内膜症
  • 更年期障害

などに用いられます。

また肝臓や胃腸を整える作用から、

  • 肝炎、肝硬変
  • 胆石症
  • 胃炎、胃潰瘍

に用いられることもあります。

もちろん、これ以外の疾患でも主治医の判断によっては使用することもあります。

4.加味逍遥散の実際の効果

加味逍遥散が効く疾患についてみてきましたが、実際の精神科臨床での加味逍遥散の効果や評判はどうなのでしょうか。

「漢方薬に興味があるんですが、これって実際に効くんですか?」という事は患者さんから非常に多く頂く質問です。みなさん、安全性の高い漢方薬に興味を持っている方は多いのですが、「本当に効くのだろうか?」という不安から使用に躊躇してしまう事も多いようです。

まず、これは漢方薬全体に言えることですが、漢方薬は効果の個人差が非常に大きいです。西洋薬と異なり、特定の疾患を対象に開発されたお薬ではなく、あくまでも自然界にある生薬を配合したものであるため、ピンポイントの効果ではなく、広い効果を持つお薬だからです。

効く人には著効することもあります。しかし効かない人には全く効果を示しません。特に証から大きくはずれている患者さんや、症状の程度があまりに重度な患者さんは効果が乏しいことが多いと感じます。

強さとしても穏やかであり、飲めばガツンと不安が治まる、というものではありません。緩やかに不安を和らげていくという印象です。

即効性も乏しく、緩やかに効き始めます。抗不安薬のように即効性があって、すぐに発作をバシッととってくれるような作用は期待できません。ゆっくりと穏やかに、自然に症状を取っていってくれる印象を持ちます。

含有される生薬のうち生姜(しょうきょう)などは即効性があるのですが、これは加味逍遥散の主作用ではないため、全体的には即効性は乏しいお薬です。生姜はいわゆる「しょうが」です。風邪を引いた時にしょうがを飲むと、すぐに身体がポカポカして食欲が出てくることがありますが、ここからも分かるように生姜には即効性があるのです。

対象患者さんはほとんどが女性になります。男性に効果がないわけではないのですが、女性の更年期障害や月経不順に使われることが非常に多く、精神科・心療内科以外でも産婦人科医もよく使う漢方薬になります。

5.加味逍遥散の効果的な使い方

加味逍遥散に限らず、漢方薬は食前に服薬することが推奨されています。ほとんどのお薬は食後に服薬するのに、なぜ漢方薬は食前なのでしょうか?

これは漢方薬に含まれる「配糖体」という成分が関係しています。

配糖体には糖が含まれていますが、これはこのままでは体内に吸収できない構造になっています。腸管で腸内細菌によって糖がはずされると、体内に吸収できる構造に変化し、これによって腸管から血液内へ吸収されていきます。

腸内細菌が糖をはずしてくれないと、配糖体は吸収されずにそのまま排泄されてしまうのです。

漢方薬を食後に服薬すると、腸内細菌は食物を処理するのに大忙しのため、漢方薬の配糖体をはずすヒマがありません。そのため、漢方薬の吸収効率が落ちてしまいます。空腹時であれば、食べ物がないため腸内細菌は漢方薬の配糖体をしっかり処理してくれるので、空腹時の方が好ましいと考えられているのです。

そのため、漢方薬は可能であれば食前に服薬しましょう。

しかし他のお薬のほとんどは食後に服薬するため、漢方薬だけ食前だと服薬の手間が煩雑になってしまいます。この場合は主治医と相談の上、漢方薬も食後に服薬することもあります。上記のように理論上は食前の服薬が良いのですが、実際には食前でも食後でもそこまで大きな効果の差はないと指摘する専門家もいます。

また、服薬回数は1日2~3回に分けて服薬することが推奨されています。

6.加味逍遥散の副作用

漢方薬には副作用がないから安全と考えている方がいますが、本当にそうなのでしょうか。

確かに漢方薬は化学的な物質ではなく生薬から作られているため、副作用が少ないのは事実です。

しかし副作用が全く生じないわけではありません。

それどころか、頻度は稀ですが命に関わるような副作用が発現してしまう事もあります。

「漢方薬だから絶対に安心」という考えは間違いで、漢方薬は副作用は少ないけども、お薬であるため副作用には一定の注意は必要です。「安全だ」と安易に考えるのではなく、その効果と副作用をしっかりと理解したうえで使うようにしましょう。

では加味逍遥散で注意すべき副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。

報告のある副作用としては、

  • 発疹、かゆみ
  • 食欲不振、胃部不快感
  • 悪心、嘔吐
  • 腹痛、下痢
  • 肝機能障害、黄疸

などがあります。頻度は多くなく、また程度も軽いものがほとんどです。

胃腸系の副作用は、加味逍遥散に含まれる「当帰(とうき)」が原因です。当帰は食欲低下、吐き気、腹痛、下痢といった副作用を時々起こすことが知られています。

また稀ですが注意すべき重篤な副作用として「偽性アルドステロン症」を知っておく必要があります。偽性アルドステロン症は臨床でたまに見かける副作用で、見逃してしまうと患者さんに苦しい思いをさせることになってしまいます。

偽性アルドステロン症は、「甘草(かんぞう)」を含む漢方薬に認められる副作用です。甘草は「グリチルリチン」という成分を含みますが、このグリチルリチンは「アルドステロン」というホルモンと似たようなはたらきをします。

アルドステロンは身体の中のナトリウムを増やし、反対にカリウムを減らす作用があります。

甘草によってこのアルドステロン様の作用が強くなりすぎてしまうと、身体のカリウムが必要以上に失われ、「高ナトリウム血症」「低カリウム血症」になります。

ナトリウムは水を一緒に引っ張る作用があるため、高ナトリウム血症になると血圧が上がり、むくみ(浮腫)が強くなります。カリウムは筋力や心臓の収縮に関わっているため、低カリウムになると力が入りにくくなったり、けいれんするようになったり、尿がたくさん出るようになってしまったり、不整脈が出るようになってしまいます。

これが偽性アルドステロン症です。

偽性アルドステロン症を見逃さないためには、何よりもまず服用している患者さんが偽性アルドステロン症について知っておくことが大切です。その上で、むくみや血圧上昇、力の入りにくさやけいれんなどが出るようになったらすぐに主治医に報告することです。

また加味逍遥散を服用の間は定期的に血液検査をしてナトリウムやカリウムの値をチェックすることも大切です。