選者:大木 俊秀
7月の題詠 「泡」
特選
| 特選第一席 | シャンプーの泡をアトムにして遊ぶ | 千草 |
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「比喩のうまい人は川柳もうまい」。これは、前に、番傘川柳本社の主幹をしておられた岸本吟一先生(水府先生のご令息)のことばです。確かにその通りと思う名句が多いですね。このことばを一寸拝借しますと、「想像力、連想力の優れている人は川柳がうまい」と言えるような気がします。
「泡」から「石鹸」、そして「シャンプー」さらに「アトム」へと、作者の想いは伸びて行くのです。豊かな泉をお持ちなのでしょう。
テレビ放送開始50年ということで、NHKも民放も、この間にヒットした番組をとり上げました。「ひょっこりひょうたん島」「アタックNO.1」そしてこの「鉄腕アトム」も、主題歌とともに懐かしい番組ですね。
| 特選第二席 | 大ジョッキ泡は鼻から飲んでいる | はがくれ |
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この夏は低温にたたられてビールの売行きがおもわしくなく、特に業界期待の発泡酒の伸びが予想より大幅にダウンしたと聞きます。閑散としたビアホールの写真が新聞にも載り、夏はやっぱり暑くなくてはいけないことを痛感します。低温と日照不足で、コメの作柄も憂慮され、はやくも「不作」が取沙汰されるようになりました。
そういう、あまりパッとしない今年の夏ですが、高気圧君にこの際頑張っていただいて、ビアホール、ビアガーデンに寄らなければ帰れないような酷暑をもたらして欲しいものですね。その、「ビール」と言えば、特においしいのは、キメの細かい生ビールの「泡」。本体の液の部分は口から、泡の部分は鼻からと、ビール党の飲みっぷりを活写した好吟
。
秀作
| 秀作(1) | 泡を吹く蟹と夕焼け見ています | 雅彦 |
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「われ泣きぬれて蟹とたわむる」が、思わず口をついて出ました。「泡」はことによると、蟹の涙なのかもしれません。夕焼け空へ人が抱く感傷が、泡を吹く一匹の砂浜の蟹を得て詩情豊かに高められた一句と申し上げてよいでしょう。これも、川柳です。
| 秀作(2) | 平常心抹茶の泡に聞いてみる | 雄風 |
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「泡」にもいろいろありますが、これはお抹茶の泡。茶は人の心を鎮め、落ちつかせてくれます。いただく前、そしていただいたあとも、そのお抹茶の泡に対して、「平常心とはいったいどういうものなのでしょうか」と問うてみる。その問う心こそが平常心なのかも。
| 秀作(3) | 灰汁の泡残して旨いふぐの鍋 | 越玄 |
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鍋ものをいただくとき、こまめにアクを掬う人がいる。素人考えだが、あのアクにこそほんとうの旨味が凝縮されているのではないかと、いつも思う。しかし、食したことがない。アクは、アカのように浮くので損をしているのかもしれない。
| 秀作(4) | 沸点にとどき泡立つ嫁姑 | きみ |
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「嫁姑」は、仲が悪いのが当たりまえなので、その争いをそんなに騒ぎ立てることはないという人もいる。しかし、世の中には実の娘以上に仲良しの嫁姑もたくさんおられる。この句、「泡」という課題から「沸点」、「嫁姑」に至ったユニークな作品。
| 秀作(5) | 乾杯の前置き長く泡も消え | 荒法師 |
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乾杯の発声者は、なぜあのようにお喋りをしたがるのであろうか。主賓に次ぐ立場の人がつとめることが多いので「ではお二人の前途を・・・」だけでは済まされない気持ちもわからないではないが、ビールは泡も消え、指から伝わる体温でヒトハダになってしまう。
佳作
| 佳作(1) | 卵白の泡に愛情包みます | 雅彦 |
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| 佳作(2) | 丁寧に泡立て髭に語る朝 | ruri |
| 佳作(3) | お勝手の隅でぶつぶつあさり貝 | きみ |
| 佳作(4) | 検診のセーフが泡を盛り上げる | 春樹 |
| 佳作(5) | この国をシャボンの泡で洗いたい | はがくれ |
| 佳作(6) | シンクロの泡に沈んだ脚線美 | ruri |
| 佳作(7) | 子に描いた地図を時代が泡にする | 春樹 |
| 佳作(8) | 夢は空子らのシャボンが乱舞する | めばる |
| 佳作(9) | 好敵手互いに泡を吹かせ合い | はがくれ |
| 佳作(10) | ビールにも注ぎ方のある泡加減 | 三鈴 |
| 佳作(11) | 弾けずに抱え持ってる修羅の泡 | ちいこ |
| 佳作(12) | ラムネ玉泡を閉じ込め井戸の中 | やくし丸 |
| 佳作(13) | 泉源は泡立つ地獄ぼこぼこと | 香呂 |
| 佳作(14) | 飲み足りぬビールの泡の所為にする | 蓬介 |
| 佳作(15) | 発泡酒泡も一味違う様 | 荒法師 |
| 佳作(16) | 立ち話口角泡に仕切られる | うしくびと |
| 佳作(17) | 洗濯機過去の清算急ぐ泡 | 雄風 |
| 佳作(18) | 大ジョッキ細かい泡に目を細め | 香呂 |
| 佳作(19) | 冷え過ぎて泡も立たない仲になり | 荒法師 |
| 佳作(20) | 吹く泡の成り行きを見て火の加減 | やくし丸 |
7月の雑詠
特選
| 特選第一席 | ポイ捨ての車の主はきれい好き | めばる |
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人間のエゴを、車とタバコの吸殻という具体で鋭く抉った好作品である。下五の「きれい好き」というとりすましが見事だ。一本のポイ捨てさえ許せないのに、高速道などを走っていると、灰皿にたまったたくさんの吸殻を一挙にばらまく不届者を見かける。煙草吸いの風上に置けぬ輩である。
どのビルも施設も、煙草を屋内から完全に締め出した。私鉄は、スモーキングエリアやコーナーを廃止した。今のところは「JTを締め出しはせぬJR」(俊秀)だが、これとて未来永劫というわけにもいくまい。喫煙者はますます追いつめられる。私が「無人島へタバコを吸いに行ってくる」を作ったのは5年ほど前だが、8月上旬にできた句は、「煙草囚人やがては市中引き回し」であった。
| 特選第二席 | スラスラと無職と書けるようになり | 越玄 |
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長いこと勤め上げて無事定年を迎えた無職と、リストラの嵐に呑み込まれたままその状態が継続する無職と、若い人のパラサイト無職と、その他無職と言ってもそうなった理由はさまざまである。しかし、一般的には「定年退職無職」であろう。
提出書類の職業欄にペンが行き当たると、ペンは思わず立ち止まる。「無職と書けっていうのかよ。何も書かずに空欄ではいけないんかな?」無職群新入りの一年生には、何かこの欄にあらがう気持ちをおさえることができない。決して、出世街道大驀進の現役時代ではなかったが、少なくともそこそこにはやって来た自負があるからだ。それが、今や無職かよ。
しかし、3ヶ月、半年と月日が流れるうちに、それも意外にスラスラと。今は町内会の役員で結構忙しいのだ。
秀作
| 秀作(1) | またひとつ涙を置いて丸くなる | ちい |
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「カラスの鳴かない日はあっても、わたしの泣かない日はありません」というセリフを小さい頃から覚えている。出典はさだかでない。ちいさんのこの句からこれが甦った。「涙を置く」とは人前で涙を見せぬことか。ましてや号泣など。耐えて堪えて丸くするのは背中だけではあるまい。人としての大きさ、丸さも指しているに違いない。
| 秀作(2) | シュワワーッと桧の香り旅気分 | 麗。 |
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旅が楽しいのは、あらゆる点で「日常」を離れ、解放されることであろう。そして家庭では味わうことのできぬ「事」や「物」に触れることであろう。旅館の桧の香りもその一つ。露天風呂もいいが、桧風呂もまた結構。「シュワワーッ」というオノマトペがよく効いている。
| 秀作(3) | 雑談がテーマを駆逐する会議 | はがくれ |
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「駆逐」という強烈なことばがおもしろい。「駆逐艦」のクチクである。雑談が花を咲かせる会議だから、社や組織の命運をかけるような重大・深刻なものではない。ひょいとしたキッカケで脱線は始まる。ゴジラ、イチロー、タイガース、高見盛、北島康介、ベッカム・・・おっと12時だ。ではヒルにしよう。
| 秀作(4) | 泣く為に帰って来た児母は留守 | 雄風 |
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「児」だから、小学生にしても低学年の子どもであろう。わるさをしたのか、テストの成績がひどかったのか、先生にこっぴどく叱られた?それともまたイジメに出会した?いずれにしても、早く母親の胸に飛び込みたくて一目散に飛んで帰ってきたのに。どこへ行ってしまったのか。また、どっと、涙。
| 秀作(5) | パソコンに夜通し向かい昼寝する | はがくれ |
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朝、眠そうな顔をしているのは、昔は酒かマージャンかに相場は決っていたものだが、昨今はだいぶサマ変りして、パソコンか、BSかになってきた。パソコンに夢中になっていてふと気がついたら、もう午前3時、4時。「無職」の人なら昼寝もできようが、勤めを持っていては睡魔との戦がきびしい。
佳作
| 佳作(1) | ストレスが風にもあって窓を打つ | 三鈴 |
|---|---|---|
| 佳作(2) | ジイちゃんもチーズバーガー夏休み | 写楽 |
| 佳作(3) | 神苑のしじまを襲う選挙カー | 雄風 |
| 佳作(4) | カメラから見えない場所で仮面脱ぐ | 麗。 |
| 佳作(5) | カマキリは首傾けて人を見る | 三鈴 |
| 佳作(6) | 夏越祭おみこしさまはトラックで | かつらこ |
| 佳作(7) | ひと皮がむけあか抜けた焼きなすび | はがくれ |
| 佳作(8) | 祝い事ほんまのビール飲もうかい | 荒法師 |
| 佳作(9) | 黒い海動かぬウキに星が降る | めばる |
| 佳作(10) | 死んだふりすれば素通りする時計 | 麗。 |
| 佳作(11) | 書き出しの挨拶文に先ずつまり | 千草 |
| 佳作(12) | 回らない寿司は手が出ぬ退職者 | はがくれ |
| 佳作(13) | ゴキブリも尻が灯ればかほどまで | 麗。 |
| 佳作(14) | まだ時間あると錯覚する余生 | 千草 |
| 佳作(15) | 降り過ぎて地は固まらず土石流 | はがくれ |
総 評(アドバイスと添削)
★(1)「中7」と「下5」は川柳の「いのち」
今回もたくさんのご投句をいただきありがとうございました。
毎回のように申し上げている「字余り」の作品が、あとを絶ちません。特に「中8」の句が、たいそう多いのです。川柳は「585」の文芸と思い込んでおられるのではないかと疑いたくなるほどです。「中7」と「下5」は川柳の「いのち」ですから、最優先で大切にして欲しいのです。
全部は挙げきれませんが、その例を少し並べてみましょう。
(A)雨がえる嫁さんまだかと泣き続け
(B)静けさや金魚が泡ふく音がする
(C)ぼくじゃない口角泡して孫三つ
(D)デパートは蛍の光に客が来る
(E)持ち主とケータイ主従が逆転し
この句は「中8」であるのと同時に、「し止め」の句でもあります。
(F)想い出の川原に石蹴り水の泡
(G)言い訳をEメールでする筆不精
(H)寝たきりの母のね顔を見て涙する
(I)満天の星まで一気に乾すビール
(J)節電と言いつつ朝から見るテレビ
(K)パソコンを始めて十年若返る
(L)銀閣寺シルバーじゃないと異邦人
・・・
これらの作品を声に出して読んでみてください。そして、入選となった作品と比べてみてください。もし「中8」の句をお読みになって異常に感じられないようでしたら、かなり重症です。
★(2)ことばを勝手に伸縮しない
次に、575が大事だからと言って、ことばを勝手に締めたり、逆に延ばしたりしてはいけません。
(M)ハッポ酒のど元過ぎれば泡と消え
(N)泡飛ばすふところ寒しビアガーデ
「カッポ酒」はありますが「ハッポ酒」はないでしょう。「ハッポザケ」と読ませるおつもりでしょうか。これはあきらかに「ハッポウシュ」(発泡酒)ですね。そしてこれなら堂々とした5音字ですから「ハッポウ」の「ウ」を取る必要は全く無いわけです。「ビアガーデ」は、正確に「ン」をつけると下6の字余りとなりますので、「ン」をカットしてしまわれたのでしょうか。「ガーデニング」に力を得て「ガーデン」は「ガーデ」で大丈夫と思われたのか。しかし、これは、「ビアガーデン」と言わないと正確なことばになりません。「ビアホール」ということばに取り替えるべきだと思います。
次は、助詞を正しく使おうというお話です。正しく使いたいのは助詞ばかりではありませんが、助詞を一つ変えただけでその句が見違えるほど良くなることは、みなさんも作句のご経験上よくおわかりのことでしょう。実は7月6日、石川県根上町で開催したNHK学園根上川柳大会で、「助詞という助っ人」というテーマで講演をいたしました。具体的に事例を挙げてお話しました。たとえば、私が選を担当させていただいている熊本日日新聞で3ヶ月ほど前に特選とした句に、「イチローもゴジラもガムを噛んでない」がありました。大リーグで大活躍の二人を登場させて、日本人選手は二人ともガムなんか噛んでいないことを、「も」という助詞を使って詠んだ作品で、ハッとさせられた名吟です。
私がこの句からふと思ったのは、助詞を、「も」ではなくて、二人を並べるようにしても、「イチローとゴジラはガムを噛んでない」としたらどうだろうということでした。「も」「も」でなくて、「と」「は」を使う。そのことによって、クチャクチャとガムを噛むのが多い外国人選手から、この二人をいっそう際立たせることになるのではないか、そんな気がしたのです。
川柳中興の祖として、阪井久良伎先生とともにあがめられる井上剣花坊先生の代表句の一つに、「咳一ツきこえぬ中を天皇旗」があります。「中を」の「を」を、かりに「の」として、「咳一ツきこえぬ中の天皇旗」と詠んでも一句は成立します。大先生のご名吟を勝手にいじっては、まことに恐れ多いのですが、「を」と「の」では全然違うのですね。「中の」だったら静止画像で終ってしまうのですが、「中を」としたことによって動きのある映像となるのです。
ついでに、「中を」を「中へ」としてみましょう。これでも「動く映像」にはなりますが、「を」よりかなり限定された視角になると思います。やっぱりこの句は、「中を」が最適・最高の助詞ということになるのではないでしょうか。
今年の全日本川柳香川大会で文部科学大臣奨励賞に輝いた、「動脈のような大河を抱く平野」(千葉市の渡辺惇子さん)は、スケールの大きい堂々たる作品でした。完璧な句です。しかしここで私の悪いクセが出ます。「動脈のような」は、「大河」を形容することばです。この「ような」を、「ように」としたらどうなるでしょうか。「ように」とすると、こちらは「抱く」に関わってくるのですね。わずか一字の差で句は微妙に、場合によってはかなり大幅に違ってきます。
講演の内容はそういうようなことだったのですが、さて、今回いただいた作品の中に、「定年が定番となる発泡酒」がございました。何となくそのまま通ってしまいそうな句ですが、ひょいとひっかかりました。「定年が」ではなくて、「定年で」が最適ではないのかと。もし、「定年が」とするのであれば、「となる」ではなくて「にする」が正解ではないでしょうか。「定年で定番となる発泡酒」あるいは、「定年が定番にする発泡酒」。これでこの作品は、ゆるぎのない句になるのではないかと。
要するに、一音一字を大切にしていただきたいのです。