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黒に近い灰色に染まった空の下、剣槍が立ち並ぶ荒野の中心で、その火は静かに燃えていた。
荒野に突き立つ数多の剣槍に囲われている一振りの剣。
その剣が突き立つ場所で燃える火こそが、今の世界の始まりを告げた偉大なる遺物『最初の火』。
数多の英雄たちの身を、心を、そしてソウルを薪として今この時まで燃え続けている万物の起源。
その小さくも明確なる存在感を放つ火を前に、1人の不死者は無言で屹立し、その火をじっと見つめている。
「……」
明確に其処に存在する故に、火は己の寿命が残り僅かという事実を、沈黙を以て不死者に告げていた。
解っている。ああ、解っていた。
火の寿命が僅かであることも、このまま放って置けば何れ火は消え、世界は闇黒に包まれるであろうことも。
そんなこと、遥 か な る 昔 よ り 知 っ て い た 。
思えばあの日、あの時より、全ては始まったのだ。
とは云っても、あの日というのが一体いつの日なのかなど既に忘れてしまい、どれ程の時が経ったのかも明確には解らない。
ただ、いつか彼方の日、この身に現れ出でた呪いの刻印『ダークリング』。
その呪われた証がこの身に生じた時、その時から自分は人間ではなくなった。
いや、自分自身はまだ人間であると信じていたが、他なる者たちがその言葉を否定し尽した。
死ねない体、失われていく理性、人間離れした異端の力。
もはや顔も名前も覚えてはいないが、あの時自分を見ていた者たちの目には、さぞ自分は恐ろしく見えたのだろう。
「……」
不死の使命。
それがこの長い旅の始まりだ。
不死院と呼ばれる辺境の巨大な牢獄に閉じ込められた自分を救ったのは、名も知らぬ1人の騎士だった。
その騎士もまた不死であり、曰く『不死の使命』を果たすために旅をしていたらしい。
だが自分を牢から出すための死体ごと鍵を渡した後、彼は敵に襲われたか、または別の理由でその身に傷を負い、もはや死を待つ身となっていた。
不死にとって死とは1度きりのものではないが、それでもできるだけ避けるべき事柄であることに変わりはない。
個人によって差こそあるが、数多の死を積み重ねた不死の成れの果ては、理性を失い、もはや獣同然の亡者だ。
今でこそ世界のごまんと存在する亡者共も、その昔は確かなる理性を備え、確固たる自我を有していた人間だったモノだ。
あの時、まだ『不死の使命』の何とやらを詳しくは知らなかった自分は、死に瀕していた彼の願いを聞き入れ、彼の代わりに使命を果たすことを決め、そしてあの監獄が如き不死院を去り、彼の地へと至った。
そこから先は長い長い戦いの日々が続き、人間ではない異形共と幾度となく殺し合った。
時に亡者を、時に英雄を、時に竜さえも殺し、果てはかつて『最初の火』より『王のソウル』と呼ばれるモノを見出した神々をも殺し、遂にあの場所―――いや、『最初の火の炉』 へと行き着き、彼の騎士より託された使命を果たした。
己が身とソウルを薪として捧げ、世界に再び希望と光を齎すための糧となって、そのまま燃え尽きる―――筈だった。
そう、使命を果たせば自分は消え、不死の呪縛から解放されるなどという甘い考えが微塵に打ち砕かれた瞬 間 だ。
使命を果たし、燃え盛る劫火の先にあったのは安らかなる眠りなどではなく、絶望に満ちた日々の繰り返し。
「……」
2度目の世界においては、過去に遡り、かつて岩の古竜たちとの戦いに参じた英雄と邂逅を果たした。
大王グウィンの四騎士と讃えられた者たちの内の3人と見え、1人とは事情があったが殺し合い、残り2人とは言葉を交わし、時にその力を借りて黒竜退治の手伝いをして貰った。
そして過去の世界へと遡ることとなった理由。
深淵の闇の生む者にして、かつては人間であったヒトの怪物、“深淵の主”マヌスと戦い、勝利して過去での戦いを終わらせた。
それから現代へと戻り、最後の戦いの後に選び取ったのは火継ぎではなく、闇の王への道。
あの得体の知れない世界蛇の言葉を信じるわけでなかったが、別なる道を選び取れば何かが変わるのではないか。
そう思い、火を継ぐのではなく、闇の時代を招くことを選んだが、結果は同じ。
自分は結局、繰り返される世界から逃れることはできなかった。
だがいつだっただろうか。
その地獄にも似た日々は、突如として消え失せ、自分の身は別なる世界へと運ばれたのだ。
「……」
次なる世界は、遥かなる未来。
どういうわけかロードランの神々の名は忘れ去られ、代わりに別なる伝説が語り継がれていた未知なる大地。
名は確かドラングレイグだったか、少なくともロードランを駆け巡っていた頃には一切耳にしなかった国の名である。
ここで為すべきは玉座への到達。
そのためには、かつてドラングレイグを興した偉大なる王。
ソウルの根源へと近付きし者、ヴァンクラッド王がかつて住まいし王城へと辿り着く必要があった。
名を禁じられた、偉大なるソウルを持ちし4人の者を打倒し、数多の英雄、怪物、王。
そしてその昔、大いなる闇と謳われた者より生じた闇の者たち。
ここでもやはり、世界は繰り返され、もはや武器を振るわぬ日は無かったと断言できる程に戦いに満ちていた。
だがしかし、『二度あることは三度ある』という東方の言葉が示す通り、やはり同じことが幾度目かの繰り返しの後に起こった。
「……」
何百年、いやもしかしたら何千年も経ったのだろうと思える戦いの日々。
最後に運び込まれた世界はさらに未来。
火継ぎが世界規模で知れ渡り、そしてこれまで見て来た2つの世界などよりも遥かに悲惨な道を進んだ世界。
そう、今自分が存在している世界こそが、その世界なのだ。
この世界は、かつて自分が火を継いだ後の世界。
火継ぎは既に自分の知るモノでは無くなっており、『最初の火』の寿命を延ばすための儀式へと成り果てて、数多の英雄たちを糧とし、火は尚も存在し続けていた。
違う。こんなのではない。
自分が―――私が望んだ世界 は、こんなモノでは断じてない……!
もはや数えることすら馬鹿らしくなった、幾十度目か繰り返し。
転輪する生の次なる体躯は、“火の無き灰”と呼ばれる、薪の王 に成れなかった不死者。
可笑しなものだった。
大王グウィンの後に火を継ぎ、薪となった自分が“火の無き灰”などとは。
しかし、呼び名や体躯が変わったところで、自分が成すべきことは変わらない。
戦い、殺し、そして奪い、先へと進む。
肉体をソウルで強化し、数多の武具と魔術の類を操りながら立ちはだかる全てを薙ぎ倒し、収集すべきソウルを全て掻き集め、この場へと至った。
『最初の火の炉』と呼ばれたそこは、もう自分の知るものでは無くなっていたが、何より驚かれされたのは、その灰色の荒野の中心にて待っていたモノだ。
『王たちの化身』―――歴代の“薪の王”たちのソウルが生み出した、『最初の火』を守るためにのみ存在する守護者。
髑髏の如き兜を被り、ボロボロの騎士甲冑を纏う化身が繰るのは、雷の槍、炎の剣、ソウルの魔術など数多にあったが、真に驚愕すべきはそこではなかった。
『王たちの化身』は歴代の“薪の王”たち、そのソウルが生み出した文字通りの化身だが、それでもその絶対なる守護者を顕現させておくには、土 台 と な る モ ノ が必要だった。
神の如き彼ら“薪の王”のソウルを受け、かつ壊れぬ程の強大なる肉体。
ただ頑強なだけではいけない。それだけなら巨人族あたりが一番適している。
ソウルという生命の源を、ほぼ無限に受け止められる程の肉体 。
そう―――あの『王たちの化身』を成していた体の、かつての持ち主こそが自分だったのだ。
薪となった以上、あの化身を構成するものの中に、間違いなく自分のソウルが入っていたことは確かだ。
だが奇妙なことに、自分はここに明確に存在し、そしてあの化身を打ち倒した。
ソウルが分かれ、片方が自分となり、もう片方が『王たちの化身』の一部となったのか。それとも別の理由があるのかは解らない。
だが云えることはただ1つ。
このまま行けば、この世界の未来には絶望しか残らない。
稀なる偉業を成し遂げた英雄たちが、その身とソウルとを薪として捧げ、『最初の火』の寿命を延ばして来たらしいが、所詮はただの延命行為。
来たるべき終焉を先延ばしにしているに過ぎない。
この灰の荒野に来るのは初めてではないが、まだ試していないことがある。
それが果たして、絶望しかない世界に光を齎すことができるかどうか。そんなものは解らない。神すらも理解できぬ事柄を、自分如きが理解できる筈がない。
だがそれでも、それが諦めの理由になるのかと問われれば、答えは否だ。
如何なる困難であろうとも、それが自分の諦めに繋がることは断じてない。
真に自分が諦めを抱く時、それは自分の心が折れた時だけだ。
これまでも、そしてこれからも。
「……始めるか」
使い続けたファーナムの兜の奥より声を発し、沈黙を破ると共に眼前の螺旋剣に手を添える。
籠手に包まれた右手が剣の柄に軽く触れると、それだけで火は燃え移り、体躯を薪として燃え盛る。
轟々と音を立てて燃えゆく火を感じながら、不死者は無言のまま空を見上げる。
光を大地に注ぐ筈の太陽は黒ずみ、闇黒の球体となって大地に住まう全てのモノを見下ろしている。
嗚呼、友よ。お前がこの光景を目にしたら、さぞ悲しんだだろうな。
膝を突き、剣と盾を落として、嘆きの絶叫を上げたに違いない。
偽らず、常に前を向いて進み続けたお前の姿こそ、私にとっては1つの太陽だったのだ。
「ソラール、アナスタシア、アンドレイさん、レニガッツ、ルカティエル……」
先に紡いだ5人の人物の名を後に、数多の名を呟いていく。
それは彼がこれまで歩み進んで来た道の長さと、体験して来た膨大なる時を表わしているに等しい行為だが、名前を紡ぐ彼の声は、心成しか嬉しそうに聞こえる。
これから火に焼かれ、いつか燃え殻となる者とは思えぬような喜びの込められた声は、きっと彼なりの、その名前を持つ者たちへの感謝の証明なのだろう。
終わりの見えない旅。
いつ解かれるか解らぬ不死の呪い。
嗚呼、だがしかし。それでもまだ心は折れてはいない。
ならば私は、己の為すべきを果たすのみ。
「薪の王、闇の王、絶望を焚べる者、探究者、火の無き灰、そして王狩り……数多の呼び名を得て、時には英雄と称されたこともあったが、結局私は1人の不死でしかない」
舐めるようにして身を包む火を見据え、その火の中へと手を伸ばし、核とも呼べる火種を掴み、自身が身に押し当てる。
「『最初の火』よ。万物の起源たる、始まりを告げた光よ。
もはや、後の薪は必要ない。この私の身を最後の薪とし、どうか世界を永久に照らしてくれ。
かつてお前に背を向けて、闇の時代を始めようとした私だが、故にお前が燃え盛るための燃料となるには充分過ぎるだろう」
『最初の火』が燃え移る前より彼の身に存在した火の力が、彼の言葉に呼応し、彼の体躯を赤熱させる。
そうだ。
数多の英雄、怪物、デーモン、竜、王、そして神さえも殺し、膨大なるソウルを取り込んできたこの身ならば、それを可能とできるだろう。
神々のためではなく、人のためにこの身を捧ぐ。
もはや遥か昔にそうではなくなってしまったが、今だけはこう云おう。
「私は王ではなく、しかし不死者でもない、1人の人間として―――この身を薪 とする」
轟……! と、『最初の火』が彼の言葉を耳にしたのか、より激しき勢いを以て燃え盛る。
火はやがて『最初の火の炉』全体に広まりゆき、豪炎となって世界を照らし始める。
その様は、かつての彼がロードランにて初めて火を継いだ時と同じ光景であり、そして彼がその身に抱く彼自身のソウルの強大さの証明でもあった。
―――願わくば、世界に永久の光あれ。
2人目の薪の王にして、闇の王。
数多の偉業を成し遂げて、しかし遂にその真名を残すことのなかった1人の不死は、その身を炎で灼かれて、灰色の世界より消え去った。
誰にも看取られることなく、自身という存在が居たという証明だけを残して。
世界を救った不死の英雄 は、これまでの通りにどこかへと消えていった―――。
*
使命を果たされ、再び彼の身はどこかへと運び出された。
意識がはっきりしていない以上、何が起きているのかを確かめることはできないが、それでも解ることは1つ。
ああ、またか。また運ばれているのか。
ロードランでの火継ぎや、闇の王となった後の時もそうだった。
ドラングレイグでの玉座への到達、若しくはその玉座を拒絶して探求の道を進んだ時もそう。
新たなる世界へと運び込まれる感覚は、やはり慣れないものだと思いつつ、彼自身は不確かなる意識の中で、うんざりとした気持ちで呟く。
“さあ、次はどこだ? どこに私を連れて行こうというのだ?”
今まで通りに未来か、それともウーラシールや王たちの記憶のような過去に遡るのか。
どちらにせよ、その先に何かがあることだけは確実。
未だ体躯に残る火の熱を感じながら、不死者は意識の明確化と共に瞑っていた双眸を開けると……
「―――!」
その視界に映ったのは、彼が想像していたものとは大きく異なる、別世界そのものだった。
荒野に突き立つ数多の剣槍に囲われている一振りの剣。
その剣が突き立つ場所で燃える火こそが、今の世界の始まりを告げた偉大なる遺物『最初の火』。
数多の英雄たちの身を、心を、そしてソウルを薪として今この時まで燃え続けている万物の起源。
その小さくも明確なる存在感を放つ火を前に、1人の不死者は無言で屹立し、その火をじっと見つめている。
「……」
明確に其処に存在する故に、火は己の寿命が残り僅かという事実を、沈黙を以て不死者に告げていた。
解っている。ああ、解っていた。
火の寿命が僅かであることも、このまま放って置けば何れ火は消え、世界は闇黒に包まれるであろうことも。
そんなこと、
思えばあの日、あの時より、全ては始まったのだ。
とは云っても、あの日というのが一体いつの日なのかなど既に忘れてしまい、どれ程の時が経ったのかも明確には解らない。
ただ、いつか彼方の日、この身に現れ出でた呪いの刻印『ダークリング』。
その呪われた証がこの身に生じた時、その時から自分は人間ではなくなった。
いや、自分自身はまだ人間であると信じていたが、他なる者たちがその言葉を否定し尽した。
死ねない体、失われていく理性、人間離れした異端の力。
もはや顔も名前も覚えてはいないが、あの時自分を見ていた者たちの目には、さぞ自分は恐ろしく見えたのだろう。
「……」
不死の使命。
それがこの長い旅の始まりだ。
不死院と呼ばれる辺境の巨大な牢獄に閉じ込められた自分を救ったのは、名も知らぬ1人の騎士だった。
その騎士もまた不死であり、曰く『不死の使命』を果たすために旅をしていたらしい。
だが自分を牢から出すための死体ごと鍵を渡した後、彼は敵に襲われたか、または別の理由でその身に傷を負い、もはや死を待つ身となっていた。
不死にとって死とは1度きりのものではないが、それでもできるだけ避けるべき事柄であることに変わりはない。
個人によって差こそあるが、数多の死を積み重ねた不死の成れの果ては、理性を失い、もはや獣同然の亡者だ。
今でこそ世界のごまんと存在する亡者共も、その昔は確かなる理性を備え、確固たる自我を有していた人間だったモノだ。
あの時、まだ『不死の使命』の何とやらを詳しくは知らなかった自分は、死に瀕していた彼の願いを聞き入れ、彼の代わりに使命を果たすことを決め、そしてあの監獄が如き不死院を去り、彼の地へと至った。
そこから先は長い長い戦いの日々が続き、人間ではない異形共と幾度となく殺し合った。
時に亡者を、時に英雄を、時に竜さえも殺し、果てはかつて『最初の火』より『王のソウル』と呼ばれるモノを見出した神々をも殺し、遂にあの場所―――いや、
己が身とソウルを薪として捧げ、世界に再び希望と光を齎すための糧となって、そのまま燃え尽きる―――筈だった。
そう、使命を果たせば自分は消え、不死の呪縛から解放されるなどという甘い考えが微塵に打ち砕かれた
使命を果たし、燃え盛る劫火の先にあったのは安らかなる眠りなどではなく、絶望に満ちた日々の繰り返し。
「……」
2度目の世界においては、過去に遡り、かつて岩の古竜たちとの戦いに参じた英雄と邂逅を果たした。
大王グウィンの四騎士と讃えられた者たちの内の3人と見え、1人とは事情があったが殺し合い、残り2人とは言葉を交わし、時にその力を借りて黒竜退治の手伝いをして貰った。
そして過去の世界へと遡ることとなった理由。
深淵の闇の生む者にして、かつては人間であったヒトの怪物、“深淵の主”マヌスと戦い、勝利して過去での戦いを終わらせた。
それから現代へと戻り、最後の戦いの後に選び取ったのは火継ぎではなく、闇の王への道。
あの得体の知れない世界蛇の言葉を信じるわけでなかったが、別なる道を選び取れば何かが変わるのではないか。
そう思い、火を継ぐのではなく、闇の時代を招くことを選んだが、結果は同じ。
自分は結局、繰り返される世界から逃れることはできなかった。
だがいつだっただろうか。
その地獄にも似た日々は、突如として消え失せ、自分の身は別なる世界へと運ばれたのだ。
「……」
次なる世界は、遥かなる未来。
どういうわけかロードランの神々の名は忘れ去られ、代わりに別なる伝説が語り継がれていた未知なる大地。
名は確かドラングレイグだったか、少なくともロードランを駆け巡っていた頃には一切耳にしなかった国の名である。
ここで為すべきは玉座への到達。
そのためには、かつてドラングレイグを興した偉大なる王。
ソウルの根源へと近付きし者、ヴァンクラッド王がかつて住まいし王城へと辿り着く必要があった。
名を禁じられた、偉大なるソウルを持ちし4人の者を打倒し、数多の英雄、怪物、王。
そしてその昔、大いなる闇と謳われた者より生じた闇の者たち。
ここでもやはり、世界は繰り返され、もはや武器を振るわぬ日は無かったと断言できる程に戦いに満ちていた。
だがしかし、『二度あることは三度ある』という東方の言葉が示す通り、やはり同じことが幾度目かの繰り返しの後に起こった。
「……」
何百年、いやもしかしたら何千年も経ったのだろうと思える戦いの日々。
最後に運び込まれた世界はさらに未来。
火継ぎが世界規模で知れ渡り、そしてこれまで見て来た2つの世界などよりも遥かに悲惨な道を進んだ世界。
そう、今自分が存在している世界こそが、その世界なのだ。
この世界は、かつて自分が火を継いだ後の世界。
火継ぎは既に自分の知るモノでは無くなっており、『最初の火』の寿命を延ばすための儀式へと成り果てて、数多の英雄たちを糧とし、火は尚も存在し続けていた。
違う。こんなのではない。
自分が―――私が望んだ
もはや数えることすら馬鹿らしくなった、幾十度目か繰り返し。
転輪する生の次なる体躯は、“火の無き灰”と呼ばれる、
可笑しなものだった。
大王グウィンの後に火を継ぎ、薪となった自分が“火の無き灰”などとは。
しかし、呼び名や体躯が変わったところで、自分が成すべきことは変わらない。
戦い、殺し、そして奪い、先へと進む。
肉体をソウルで強化し、数多の武具と魔術の類を操りながら立ちはだかる全てを薙ぎ倒し、収集すべきソウルを全て掻き集め、この場へと至った。
『最初の火の炉』と呼ばれたそこは、もう自分の知るものでは無くなっていたが、何より驚かれされたのは、その灰色の荒野の中心にて待っていたモノだ。
『王たちの化身』―――歴代の“薪の王”たちのソウルが生み出した、『最初の火』を守るためにのみ存在する守護者。
髑髏の如き兜を被り、ボロボロの騎士甲冑を纏う化身が繰るのは、雷の槍、炎の剣、ソウルの魔術など数多にあったが、真に驚愕すべきはそこではなかった。
『王たちの化身』は歴代の“薪の王”たち、そのソウルが生み出した文字通りの化身だが、それでもその絶対なる守護者を顕現させておくには、
神の如き彼ら“薪の王”のソウルを受け、かつ壊れぬ程の強大なる肉体。
ただ頑強なだけではいけない。それだけなら巨人族あたりが一番適している。
ソウルという生命の源を、ほぼ無限に受け止められる程の
そう―――あの『王たちの化身』を成していた体の、かつての持ち主こそが自分だったのだ。
薪となった以上、あの化身を構成するものの中に、間違いなく自分のソウルが入っていたことは確かだ。
だが奇妙なことに、自分はここに明確に存在し、そしてあの化身を打ち倒した。
ソウルが分かれ、片方が自分となり、もう片方が『王たちの化身』の一部となったのか。それとも別の理由があるのかは解らない。
だが云えることはただ1つ。
このまま行けば、この世界の未来には絶望しか残らない。
稀なる偉業を成し遂げた英雄たちが、その身とソウルとを薪として捧げ、『最初の火』の寿命を延ばして来たらしいが、所詮はただの延命行為。
来たるべき終焉を先延ばしにしているに過ぎない。
この灰の荒野に来るのは初めてではないが、まだ試していないことがある。
それが果たして、絶望しかない世界に光を齎すことができるかどうか。そんなものは解らない。神すらも理解できぬ事柄を、自分如きが理解できる筈がない。
だがそれでも、それが諦めの理由になるのかと問われれば、答えは否だ。
如何なる困難であろうとも、それが自分の諦めに繋がることは断じてない。
真に自分が諦めを抱く時、それは自分の心が折れた時だけだ。
これまでも、そしてこれからも。
「……始めるか」
使い続けたファーナムの兜の奥より声を発し、沈黙を破ると共に眼前の螺旋剣に手を添える。
籠手に包まれた右手が剣の柄に軽く触れると、それだけで火は燃え移り、体躯を薪として燃え盛る。
轟々と音を立てて燃えゆく火を感じながら、不死者は無言のまま空を見上げる。
光を大地に注ぐ筈の太陽は黒ずみ、闇黒の球体となって大地に住まう全てのモノを見下ろしている。
嗚呼、友よ。お前がこの光景を目にしたら、さぞ悲しんだだろうな。
膝を突き、剣と盾を落として、嘆きの絶叫を上げたに違いない。
偽らず、常に前を向いて進み続けたお前の姿こそ、私にとっては1つの太陽だったのだ。
「ソラール、アナスタシア、アンドレイさん、レニガッツ、ルカティエル……」
先に紡いだ5人の人物の名を後に、数多の名を呟いていく。
それは彼がこれまで歩み進んで来た道の長さと、体験して来た膨大なる時を表わしているに等しい行為だが、名前を紡ぐ彼の声は、心成しか嬉しそうに聞こえる。
これから火に焼かれ、いつか燃え殻となる者とは思えぬような喜びの込められた声は、きっと彼なりの、その名前を持つ者たちへの感謝の証明なのだろう。
終わりの見えない旅。
いつ解かれるか解らぬ不死の呪い。
嗚呼、だがしかし。それでもまだ心は折れてはいない。
ならば私は、己の為すべきを果たすのみ。
「薪の王、闇の王、絶望を焚べる者、探究者、火の無き灰、そして王狩り……数多の呼び名を得て、時には英雄と称されたこともあったが、結局私は1人の不死でしかない」
舐めるようにして身を包む火を見据え、その火の中へと手を伸ばし、核とも呼べる火種を掴み、自身が身に押し当てる。
「『最初の火』よ。万物の起源たる、始まりを告げた光よ。
もはや、後の薪は必要ない。この私の身を最後の薪とし、どうか世界を永久に照らしてくれ。
かつてお前に背を向けて、闇の時代を始めようとした私だが、故にお前が燃え盛るための燃料となるには充分過ぎるだろう」
『最初の火』が燃え移る前より彼の身に存在した火の力が、彼の言葉に呼応し、彼の体躯を赤熱させる。
そうだ。
数多の英雄、怪物、デーモン、竜、王、そして神さえも殺し、膨大なるソウルを取り込んできたこの身ならば、それを可能とできるだろう。
神々のためではなく、人のためにこの身を捧ぐ。
もはや遥か昔にそうではなくなってしまったが、今だけはこう云おう。
「私は王ではなく、しかし不死者でもない、1人の人間として―――この身を
轟……! と、『最初の火』が彼の言葉を耳にしたのか、より激しき勢いを以て燃え盛る。
火はやがて『最初の火の炉』全体に広まりゆき、豪炎となって世界を照らし始める。
その様は、かつての彼がロードランにて初めて火を継いだ時と同じ光景であり、そして彼がその身に抱く彼自身のソウルの強大さの証明でもあった。
―――願わくば、世界に永久の光あれ。
2人目の薪の王にして、闇の王。
数多の偉業を成し遂げて、しかし遂にその真名を残すことのなかった1人の不死は、その身を炎で灼かれて、灰色の世界より消え去った。
誰にも看取られることなく、自身という存在が居たという証明だけを残して。
世界を救った不死の
*
使命を果たされ、再び彼の身はどこかへと運び出された。
意識がはっきりしていない以上、何が起きているのかを確かめることはできないが、それでも解ることは1つ。
ああ、またか。また運ばれているのか。
ロードランでの火継ぎや、闇の王となった後の時もそうだった。
ドラングレイグでの玉座への到達、若しくはその玉座を拒絶して探求の道を進んだ時もそう。
新たなる世界へと運び込まれる感覚は、やはり慣れないものだと思いつつ、彼自身は不確かなる意識の中で、うんざりとした気持ちで呟く。
“さあ、次はどこだ? どこに私を連れて行こうというのだ?”
今まで通りに未来か、それともウーラシールや王たちの記憶のような過去に遡るのか。
どちらにせよ、その先に何かがあることだけは確実。
未だ体躯に残る火の熱を感じながら、不死者は意識の明確化と共に瞑っていた双眸を開けると……
「―――!」
その視界に映ったのは、彼が想像していたものとは大きく異なる、別世界そのものだった。
今まで色々なことがあって出来ませんでしたが、3より初めてオンライン使いました。
楽しいものですね、オンラインは。あと無名の王、強過ぎる。
今作ではオリジナル設定として、『王たちの化身』の体は無印の主人公の体を基盤としているという設定にしています。
身体の大きさとか色々と違いますが、そこら辺については今後作品内で語っていきます。