2014.07.14
熊本市民病院皮膚がん治療実績(2014年〉
2014年に熊本市民病院皮膚科において治療を行った皮膚がん患者数は106例でした(表1)。最も多かったのが基底細胞がんの45例であり、有棘細胞がんの21例が2番目でした。
表1 熊本市民病院における皮膚がん治療実績(2014)
| 疾患名 | 入院 | 外来 | 計 |
| 基底細胞がん | 34 | 11 | 45 |
| 有棘細胞がん | 17 | 4 | 21 |
| メラノーマ | 3 | 0 | 3 |
| 日光角化症 | 3 | 12 | 15 |
| ボーエン病 | 7 | 3 | 10 |
| 隆起性皮膚線維肉腫 | 2 | 0 | 2 |
| 乳房外Paget病 | 6 | 0 | 6 |
| 悪性リンパ腫 | 2 | 2 | 4 |
| 計 | 74 | 32 | 106 |
皮膚の構造
(1) ヒトの皮膚は、表面より表皮、真皮、脂肪組織の3層構造よりなります(図1)。
図1:ヒトの皮膚の構造
(2) 最外層の表皮を作っている細胞は、ほとんどが角化細胞(ケラチノサイト)です。この角化細胞は、生まれてから死ぬまでに、基底細胞→有棘細胞→顆粒細胞→角質と変化します。それぞれの細胞が存在する部分を、基底層、有棘層、顆粒層、角層とよびます。
図2:表皮の構造
(3) この角化細胞ががんになったのが、基底細胞がんと有棘細胞がんです。
(4) また、角化細胞はメラニンという色素を含んでいるためにヒトには色があります。角化細胞にメラニンを供給しているのがメラノサイトであり、このメラノサイトが、がん化したものがメラノーマです。
皮膚がんの疫学
近年、皮膚がん患者数は急増しています。全国的な患者登録制度が整備されていないために詳細は不明ですが、1998年から2007年の10年間で発生率が2倍になったとの報告もあります(岡山県医師会報第1312号、2011年6月25日発行)。その原因として高齢化と紫外線量などの環境の変化が考えられています。若い人の皮膚がんが増えていないことから、高齢化が最も大きな要因であると予想されます。従って、なお一層高齢化が進行する日本では、皮膚がん患者数は、今後も増加することが予想されます。
皮膚がんの分類
皮膚がんは皮膚の表面より起こる上皮(表皮)系と非上皮系に分かれますが、大部分(90%以上)は上皮(表皮)系のがんです。
1 表皮部分より起こる皮膚がん
(1) 基底細胞がん、有棘細胞がん、メラノーマ
(2) 日光角化症、Bowen病、乳房外パージェット病
2 非表皮部分より起こる皮膚がん
(1) 肉腫
ア 隆起性皮膚線維肉腫
イ 平滑筋肉腫
ウ 脂肪肉腫
(2) 悪性リンパ腫
ア 成人T細胞白血病/リンパ腫
イ 菌状息肉症
皮膚がんは、患者数が多いほうから基底細胞がん>有棘細胞がん>メラノーマの順番です。ただし、悪性度は逆で、メラノーマ>有棘細胞がん>基底細胞がんの順番です。
基底細胞がん(Basal cell carcinoma, BCC)
基底細胞がんは、皮膚がんの中でも最も患者数が多いがんですが、
1.転移を起こさない
2.従って、基本的に命には関わらない
3.ただし、十分な手術を行わないと再発する
を特徴とします。
基底細胞がんの分類
基底細胞がんは、その形や性格により以下の6つの病型に分類されています。
(1) 結節潰瘍型:最も多い型で、表面には潰瘍を伴うことが多い
(2) 瘢痕化扁平型:中央は瘢痕様で、周囲には堤防状の盛り上がりが見られる
(3) 表在型:扁平で、体幹に多い
(4) 斑状強皮症型:中央が窪んで、皮膚が硬くなってように見える
(5) 破壊型:結節潰瘍型が進行した型
(6) Pinkus腫瘍:
基底細胞がんの治療
①検査
基底細胞がんは基本的には転移することはないので、CTやMRIなどによる転移の検査をする必要はありません。
ただし、手術が必要な場合には、手術(局所麻酔または全身麻酔)のための検査が必要になります。
②手術
推奨文:臨床的に条件の良い基底細胞がんのほとんどは、3~10mm 離して切除することにより、高い完全切除率と長期寛解が得られる。(皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインより)
1. 斑状強皮症型以外の型では、腫瘍より3~5mm離して切除する
2. 斑状強皮症型では、腫瘍より7~10mm離して切除する
③抗がん剤、免疫療法などについては、基底細胞がんは転移を起こさないので、基本的に不要です。
④放射線療法は基底細胞がんの治療として有効であるが、手術と比較した場合には治療成績で劣ります。手術ができない場合には放射線療法を検討する価値があります。
⑤経過観察
基底細胞がんは、転移は起こさないが再発する可能性は高い(20%~40%が再発すると言われている)ので、治療後で、キズが落ち着いたら、自分で定期的に再発がないか(黒い斑点ができていないか、潰瘍ができていないかなど)をチェックしてください(セルフチェック)。もし、怪しいと思ったら早期に再診するようにしてください。
有棘細胞がん(Squamoid cell carcinoma,SCC)
皮膚の表皮細胞由来の皮膚がんで、基底細胞がん以外のものを有棘細胞がんといいます。その特徴は、先行病変(がんを発生する皮膚病)を多く認めることです。例えば、怪我や火傷のあとかた、日光照射、砒素(ひそ)曝露、放射線、ウイルス感染、ときには、先天性の母斑(皮膚の奇形)などが有棘細胞がんの先行病変となりえます。
有棘細胞がんは、皮膚がんの中では、基底細胞がんに次いで多いがんですが、
1.放置すると転移する
2.従って、命に関わる
3.臨床的には結節や潰瘍を作り、大きくなると特有の悪臭がある
4.前駆病変を含めると最も多い皮膚がんであり、早期(前駆病変)での手術が勧められる
を特徴とします。
前駆病変
日光角化症
長年の日光曝露によって起こった皮膚の老化(がん化)であり、5年以内に20~40%が有棘細胞がんになるとされます。ほとんどが、顔面と手背に発生します。
最近の皮膚がん増加の一番の問題は、この日光角化症の増加です。
ボーエン(Bowen)病
以前は、砒素(ひそ)摂取との関係が言われていましたが、最近はウイルス感染との関与が指摘されています。表面がカサカサして赤みがあるのが特徴です。数年から十数年で、有棘細胞がん(ボーエンがん)に移行します。
(熱傷)瘢痕
熱傷瘢痕上に起こった有棘細胞がん。熱傷による引きつれを放置すると、数年~数十年後にがん化することがあります。
脂腺母斑
大部分が頭部に発生する先天性の皮膚奇形。生まれつきの脱毛(禿げ)として気づく場合が多いです。放置すると殆どが、中年期までにがん化します。
有棘細胞がんの治療
①検査
前駆病変の時には、基本的には転移することはないので、CTやMRIなどによる転移の検査をする必要はありません。ただし、大きくなって表面が潰瘍を形成するような状態では、CT、MRI、エコー検査などで全身の転移の有無を検査します。
②手術
推奨文:原発巣は最低限4mm離して切除する。高リスク病変(解説および別表参照)の場合は6mm~10mm離して切除する。(皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインより)
仮に、全身検査にてリンパ節転移が疑われた場合にはセンチネルリンパ節生検(後述)やリンパ節郭清術の適応になります。
③抗がん剤については、術後の抗がん剤は勧められません。転移を起こした有棘細胞がんに対する抗がん剤治療は数種類のレジメがあります。
④放射線療法は有棘細胞がんの治療として有効です。ただし、患者さんが高齢であったり、腫瘍が巨大であったりして、手術ができない場合に放射線療法を検討します。
⑤経過観察
有棘細胞がんは、転移を起こす可能性があるので、キズが落ち着いたら、自分で定期的に再発がないかをチェックしてください(セルフチェック)。もし、怪しいと思ったら早期に再診するようにしてください。
メラノーマ(malignant melanoma, MM, 悪性黒色腫)
メラノーマは、皮膚がんの中で最も予後の悪いがんの1つです。メラノーマの患者数は全皮膚がんの5%程度に過ぎませんが、皮膚がんで亡くなる人の80%以上はメラノーマの患者さんです。
これは、
1.早期にリンパ節や肺に転移を起こす
2.有効な抗がん剤が少ない(抗がん剤が効きにくい)
3.放射線感受性が低い(放射線治療が効かない)
などによります。ただし、免疫反応を生じやすく(immunologic tumor)、いわゆるがんに対する免疫療法(モノクローナル抗体、T細胞認識腫瘍退縮抗原、遺伝子治療)が期待されています。
メラノーマの分類
(1)悪性黒子型黒色腫(LMM):左頬に発生したLMM。色素斑の中心は浸潤がんとなっています。
(2)表在拡大型黒色腫(SSM):網目状の色素斑を伴った腫瘤が特徴的です。
(3)結節型黒色腫(NM):色素斑を伴わない腫瘤。
(4)末端黒子黒色腫(ALM):足の裏にできやすいタイプで、日本人のメラノーマの約半数はALMです。
メラノーマの進行度(病期の進み具合)
メラノーマのステージ分類
→ステージ0~IVまでに分類する。
→ステージが進むに従って完治が難しくなる。
→ステージを決定するのは、
・腫瘍細胞の深さ
・腫瘍表面の潰瘍の有無
(腫瘍から血が出たりしていないか)
・リンパ節転移の有無
・他への転移の有無
pT N M 分類
例えば、深さが1mm(pT1)で、潰瘍がなく(a)、リンパ節転移、他への転移もなければ、pT1aN0M0で、ステージIAの状態となります。
皮膚悪性黒色腫の病期分類(UICC,2010改訂)
UICC病期 | pT分類 | N分類 | M分類 |
| Stage 0 | pTis | N0 | M0 |
| Stage IA | pT1a | N0 | M0 |
| Stage IB | pT1b | N0 | M0 |
| pT2a | N0 | M0 | |
| StageⅡA | pT2b | N0 | M0 |
| pT3a | N0 | M0 | |
| StageⅡB | pT3b | N0 | M0 |
| pT4a | N0 | M0 | |
| StageⅡC | pT4b | N0 | M0 |
| Stage ⅢA | pT1a~4a | N1a,2a | M0 |
| Stage ⅢB | pT1a~4a | N1b,2b,2c | M0 |
| pT1b ~4b | N1a,2a,2c | M0 | |
| Stage ⅢC | pT1b~4b | N1b,2b | M0 |
| Any pT | N3 | M0 | |
StageⅣ | Any pT | Any N | M1 |
メラノーマの治療
①検査
メラノーマの治療の主なものは手術、抗がん剤治療および転移の有無の検査です。手術前に皮膚以外への転移がないかどうかの検査を行います。
転移の有無の検査
1. エコー検査:リンパ節転移の有無などを検査する
2. CT検査:肺は肝臓などの内臓への転移の有無などを検査する(初期のメラノーマでは省略することもある)
3. MRI検査:脳への転移の有無などを検査する(初期のメラノーマでは省略することもある)
4. PET-CT検査:全身の転移を検査する(初期のメラノーマでは省略することもある)
5. 手術(局所麻酔または、全身麻酔)のための検査
②手術
1. 進行度(腫瘍の大きさや深さ)によって異なるが、所属リンパ節への転移の有無をセンチネルリンパ節生検術(付参照)にて判定
2. 腫瘍は、辺縁より、0.5cm(Stage 0の場合)、1.0cm(Stage 1~2の場合)、2.0cm(Stage 2~3の場合)離して切除
3. 手術前の検査にてリンパ節への明らかな転移を疑われる場合には、センチネルリンパ節生検術は行わずに、リンパ節郭清術を行う
③抗がん剤
進行度により、Stage1A以外の場合には基本的にインターフェロンによる免疫療法による治療が必要になります。
④経過観察
退院後は、定期的(当初は、1~2週間に1度程度、その後は、進行度によって、3ヶ月ごと、6ヶ月ごと、12ヵ月後と)に外来を受診していただき、メラノーマの再発・転移の有無を検査します。
具体的には、診察、エコー、CTなどの画像検査と採血検査を行います。
センチネルリンパ節について
メラノーマはほとんどの場合、リンパ行性転移を起こします。つまり、がん細胞が体のあちこちにいきなり飛んでいくのではなく、
1. がん細胞が、皮膚のリンパ管に入る
2. 所属のリンパ節まで流れていき、そこで増殖する
3. その後、周辺のリンパ節へも転移していく
というように転移します。
つまり、初期の頃には、転移するリンパ節は、1~2個の限られたものであると考えられます。
この、最初に転移するリンパ節のことを、センチネルリンパ節といいます。センチネルとは、歩哨(見張り番)のことです。
つまり、センチネルリンパ節を摘出して、そこにがん細胞の転移がなければ、まだ、転移を起こしていない初期のメラノーマであると考えられます。
この、センチネルリンパ節を採って、がん細胞がないことを確かめる手技をセンチネルリンパ節生検術といいます。
近年、このセンチネルリンパ節生検術の有用性が、メラノーマや乳がんで確認されており、保険適応されています。
乳房外パジェット病(extramammary Paget’s disease)
乳房外パジェット病は、以前は稀な皮膚がんでしたが、近年の高齢化に伴い増加が著しい皮膚がんの1つです。人種差が大きく、欧米人とくらべて日本人などの東洋系に多いとされています。乳房外パジェット病は、皮膚がんとしては、in situ(表皮内がん)に分類されますが、進行すると乳房外パジェットがん(腺がん)となり、リンパ節転移や遠隔転移をおこして死亡することもあります。
1. ほとんどが、陰部に発生し、稀に腋窩や臍部にも生じる
2. 外陰部に発生する紅斑のために、白癬(いんきん、たむし)やオムツかぶれと誤解されている例が多い
3. アポクリン汗腺由来の腺がんと考えられている
4. 表皮内がんであるが、毛嚢(毛穴)部分の表皮にもがん細胞が存在するため、毛嚢部を完全に切除しないと再発・転移する
5. がんの境界が不明瞭な場合が多い
6. がん細胞が色々なホルモン受容体を有するので、ホルモン療法や分子標的薬が効果的である
7. 放射線感受性は良好であるが、放射線療法での完治は望めない
を特徴とします。
乳房外パジェットの治療
①検査
転移の有無の検査
1. エコー検査:リンパ節転移の有無などを検査する
2. CT検査:肺、肝臓などの内臓への転移の有無などを検査する(進行した乳房パジェットがんで行う)
3. PET-CT検査:全身の転移を検査する(進行した乳房外パジェットがんでは、骨転移を起こしやすい)
4. 手術(局所麻酔または、全身麻酔)のための検査
5. mapping biopsy:乳房外パジェット病では腫瘍の境界が不明瞭な場合が多く、がんの範囲を肉眼所見だけで判断することが困難である。その場合には明らかながんの範囲から1cm離して6~12箇所の皮膚を病理検査し、予めがん細胞の有無を確認する
②手術
手術範囲:推奨文(皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインより)
乳房外パジェット病の原発巣を完全切除するのに必要な皮膚側の切除範囲(切除マージン)に関する信頼性の高いエビデンスは存在しないが、病巣の肉眼的境界が明瞭な部分や、mapping biopsyで陰性と判定された部位については、1cm程度の切除マージンでよいと考えられる。その他の境界不明瞭な部位については、3cm程度のマージンが推奨される。
センチネルリンパ節生検:手術前検査にて乳房外パジェットがんと診断された場合には、センチネルリンパ節生検(前述)を行います。
リンパ節郭清:手術前検査にて明らかなリンパ節転移を認めた場合には、リンパ節郭清術を行います。
③抗がん剤 転移した場合には数種類の抗がん剤レジメおよび分子標的薬があります。
④経過観察
退院後は、定期的(当初は3ヶ月ごと、6ヶ月ごと、12ヵ月ごと)に外来を受診していただき、乳房外パジェット病の再発・転移の有無を検査します。
具体的には、診察、エコー、CTなどの画像検査と採血検査を行います。