パースに住んでいると、地元西オーストラリアのニュースと言うのは気になりますね。
特に、毎日家族が食べる食事を作り、そのための食材を購入する立場として、西オーストラリアの食事情や農産物などに関するニュースは、自然と注目してしまいます。
先月のことですが、遺伝子組み換え(GM:Genetically Modified)作物に関する西オーストラリア発のニュースを目にしました。
オーガニック農家が遺伝子組み換えなたねを栽培している農家を訴えた裁判について、でした。
今回はそのニュースから、西オーストラリアの遺伝子組み換え事情を読み解いてみたいと思います。
オーガニック農家が遺伝子組み換え(GM)農家を訴えた?
10月6日付のABCニュースで報じられた、このニュース。
遺伝子組換えによる汚染?
オーガニック農家?
裁判?
・・・どういうことなのでしょうか。
関連記事や過去のニュースをたどってみると・・・
事の発端は5年前。
おおまかな経緯は、次のようです。
パースから約240km南東にあるkojonupという町で、Marshさんはオーストラリアの有機認定(NASAA)を受けたオーガニック農家として、麦やオーツなどを主とした農業を営んでいました。
その隣では、Baxterさんが、自分の農場でキャノーラ(なたね)を栽培していました。
西オーストラリア州は、2010年に、遺伝子組み換えなたねの商用栽培を正式に許可。それにより、BaxterさんはGMキャノーラの栽培を始めました。
その年の11月、Marshさんは、自分のオーガニック農場になたねの種子が多数落ちているのを発見。ある疑念の元に分析してみたところ、それは遺伝子組み換えなたねでした。
そしてそれは、隣のBaxterさんがなたねの収穫作業を行った過程で、強風に吹かれて飛んで来た、という結論に達しました。
その遺伝子組み換えなたねは、Marshさんの畑の広範囲で見つかりました。
なぜ裁判にまで発展したか?
ところで、農家がオーストラリアの有機(オーガニック)認定を受けるには、以下の条件があります。
・殺虫剤の使用禁止
・除草剤の使用禁止
・遺伝子組み換え作物の使用禁止
・成長促進剤またはホルモン剤の使用禁止
・食肉・乳製品・卵の場合は、抗生剤や成長ホルモン剤を投与されていない動物由来であること
『National Association for Sustainable Agriculture Australia (NASAA)』の基準では、これらのものが農作物から検出されないというだけでなく、農地の土壌からも検出されてはいけないことになっています。
有機認定を取得するには、NASAA等の組織の厳しい審査をクリアしなければならず、時間も手間もかかりますが、利点としては、「オーガニック」と表示してプレミアム価格で販売することができるのです。
Marshさんはそうしてオーガニック農家としてやってきましたが、農地から遺伝子組み換えなたねがみつかったことにより、約70%の農地のオーガニック認定を取り消されてしまいました。
そのため、Marshさんは、Baxterさんに対し、有機認定を取り消されたことについて、損害賠償を求める裁判を起こしたのです。
その結果は・・・
昨年5月のことですが、西オーストラリア最高裁判所(the West Australian Supreme Court)でMarshさんの敗訴が決まりました。
裁判所の結論では、「Baxterさんは法律にのっとって適切な農作物の管理を行っており、Marshさんの特別な栽培方法を不当に侵害したとはいえない。」ということのようです。Baxterさんは、専門家に事前に相談しGMなたねの栽培を始めたこと、また、Marshさんの農地との境界に5mのスペースを設けるなど、法にのっとった対策を取っていた、ということが理由のようです。
ただ、Marshさんは以前から、隣家のなたねが自分の敷地に飛んできていることはわかっていたので、近隣の農家がGMなたねの栽培を始めることを、たいへん懸念していたようですし、GMなたねの栽培をしないよう訴えてもいたみたいです。
Marshさんにとっては、恐れていたことが起きてしまった・・・という気持ちだったのでしょう。
この敗訴を受け、Marshさんは裁判所に異議申し立て(訳が正しいかわかりませんが)の手続きを行い、再審議が行われていました(the Court of Appeal)。1年以上かけて、今年の9月に結果がでましたが・・・
3人のジャッジのうち、1人はMarshさん側につきましたが、2人はBaxterさん側につき、結果としてMarshさんは改めて敗訴してしまいました。
この裁判、どんな人々が注目したか?
この裁判は、「オーガニック vs 遺伝子組み換え(GM)」裁判として、特に農業従事者や食の安全に関わる人々から広く注目されてきたようです。
↑オーガニック系ガーデニング雑誌「ORGANIC」にも、裁判の経過を報じる記事が(今年6月のもの)。
その注目は、西オーストラリア州内のみならず、オーストラリア全土から、また世界中からも集まったようです。
日本では、なたね油の原料のなたねをほぼ輸入に頼っていますが、オーストラリアは主要な輸入元であるため、日本国内でも一部の関係者から注目されました。
裁判の資金については、Marshさんに対してはSafe Food Foundationという、食の安全を守る活動をするオーストラリアの非営利団体が援助を行って来ました。この団体によると、30ヶ国の人々から寄付があったということです。
一方のBaxterさんに対しては、The Pastoralists and Graziers Associationという西オーストラリアの農業牧畜業の団体(組合のようなもの?)が資金援助をしてきたそうです。また、遺伝子組み換えなたねを開発した大企業のモンサント社も、何らかの形で支援を行っていたと言われています。
このような経緯のあった西オーストラリアの遺伝子組み換えなたね裁判。
冒頭に挙げた最新のニュースでは、Marshさんは、西オーストラリアの最高裁での敗訴を受けて、オーストラリア連邦政府の最高裁判機関に上告する方向で考えている、とのことなんですね。
西オーストラリア州を飛び出して、オーストラリア国内の争いに発展したこの裁判。今後も成り行きを見守っていきたいと思います。
以下、参考サイト(ABC Newsより)
西オーストラリアでは遺伝子組み換え作物の栽培が増える?
世界では、大豆、トウモロコシ、綿花、なたねが、主なGM作物として栽培されているそうです。
西オーストラリアについては、2015年現在、商用の遺伝子組み換え作物は、GMなたねのみのようです。
2008年から、西オーストラリアのある地域でGM綿花が商用栽培されてきましたが、現在は生産されていないとのこと。
オーストラリア国内では、連邦政府により、2003年に初めてモンサント社のGMなたね(Roundup Ready)が認可され、2008年にはNSW州とビクトリア州で商用栽培が許可されました。それ以来、GMなたねの生産は急速に広まったそうです。
しかしながら、西オーストラリアでは2003年に、 GM Crops Free Areas Actという法律が議会で可決され、西豪州では一切の遺伝子組み換え作物の栽培が禁じられてきました。
ところが2008年、西オーストラリア州の選挙で劇的な政権交代が起こりました。それを境に2008年にGMなたねの試験栽培が開始、2010年には商用の栽培が許可されました。
それ以降、年々GMなたねの作付け面積は増えているようです。2014年は、西オーストラリアのなたね栽培面積の約20%が遺伝子組み換えなたねだということです。
現在の西オーストラリア政府は、遺伝子組み換え作物の栽培を禁ずるGM Crops Free Areas Actを撤廃する方向で進んでいる、と言われているようです。
今後、西オーストラリアのなたねは、ますます遺伝子組み換えが増えていくのでしょうか・・・。
西オーストラリアのファーマー達の間で起きていること
先の裁判の行方を、かたずを飲んで見守っている西オーストラリアのファーマーは多いかもしれません。
特に、オーガニック農家の人達にとっては、まさに今回の裁判が示した通り、近隣でGMなたねを栽培されることは生活を脅かされることに等しいと言えるでしょう。。。
GMなたね裁判の舞台となった、Kojonupという町は、パースからアルバニーへ一直線につながるアルバニーハイウェイ(Albany Hwy)という道の途中にあります。
ちょうど季節は春・・・南の方へ近づくと、道の両側に菜の花の黄色いじゅうたんが次々と現れました。(写真がなくて残念ですが)
黄緑から黄色のさまざまなグラデーションが、パッチワークのようになだらかな丘を埋め尽くしていました。美しく、目が癒される光景でした。
きっとそのあたりがなたねの生産地なのだな、と思いましたが、この牧歌的な風景が、関わる人々の人生をゆるがすような問題の元となっていたとは・・・。
遺伝子組み換えなたねが問題となっている地域では、どのようなことが農家の人々の間で起こっているのでしょうか。
記事内の写真にありますが、ハイウェイを通る車に見えるよう、GM FREEを訴える看板を作ってアピールしています。
彼らは、西オーストラリア州政府に対し、「遺伝子組み換え作物の栽培を禁止する、現在の法律を撤廃しないでほしい。」と訴えているそうです。
一方、同じ町でGMなたねの栽培を始めた農家は、(GM作物を栽培することについて)何の問題もない、と語っています。
私自身が見たのは、アルバニーハイウェイのどのあたりか忘れてしまったのですが、道の途中で
「GM Crops are SAFE」(遺伝子組み換え作物は安全だ)
と書かれた、手書きの看板をみかけたのを覚えています。
どちらも、そこに住む農家の人たちの、本音なのでしょう・・・。
裁判で争うことになったMarshさんとBaxterさんも、元は幼なじみだったそうです。
その古く親しい人間関係が遺伝子組み換えの導入により引き裂かれてしまった、という点も、今回の問題のひとつの特徴といえるかもしれません。
そして本人同士だけでなく、その親兄弟、家族を含め、地元のコミュニティに大きなわだかまりを残してしまった可能性があります。
遺伝子組み換えの是非については、農家の人達の栽培方法に対する個人的なこだわり、という面を通り越して、農村のコミュニティ内の対立といった、住人同士の信頼関係さえも引き裂いてしまう可能性があるのでは、、、と思いました。
私の思いは・・・。
私もわずかながら、自宅の庭で季節ごとに野菜を育ててガーデニングを楽しんでいますが、殺虫剤や除草剤を使わないで育てることの大変さは実感します。せっかく茂ってきたバジルの葉やサラダ菜がなめくじや青虫に丸坊主にされたり、抜いても抜いても雑草が生えてきたり・・・わずかなスペースでもそうなのだから、農家の人達の苦労は計り知れません。それでも自然と共存しながら、食べる人達にとっても安全でおいしい食物を作り出そうとがんばっているオーガニック農家の人々を、支持したいなーと私自身は思います。
私の個人的な気持ちとしては、隣家の遺伝子組み換えなたねが飛んできたことで、心血注いで築き上げてきたオーガニックの環境がダメになってしまった、というMarshさんの無念に深く同情してしまいます・・・。
一方、今後、西オーストラリアではGMなたねの栽培が加速していく見通しですが、依然として遺伝子組み換え作物に反対している生産者も多くいるのだと思いました。今回の裁判のことから、GMなたねの栽培がどんどん増えて行ったときに、オーガニック農家を始め「遺伝子組み換えでないなたねを作り続けたい」、と思っている生産者の人達の意志は本当に尊重されるのか?ということが心配です。
近隣でGMなたねを育てている場合に、本当にその混入を防ぎ切ることはできるのか?
ひとたびGMなたねの種子が他所から混入してしまった時、非GMを守り通すことが可能なのか?
これは、遺伝子組み換えでない食品を選びたいと思う消費者にとっても、選択の自由に関わってくることですよね・・・