腸もみの威力
◆エイジングケアの大敵は「あきらめ」と「ひらきなおり」
わたしは数年前に還暦を迎えた、いまや立派なシニアです。でも、60歳になりたてのころは「老い」という ものを、さほど深刻に受け止めていませんでした。体もよく動いたしスリムだったし……。
それが、60の坂を越してからというもの、1年ごとに、ガタンガタンと階段を、それも何段跳びかで落ちる がごとくに、体のあちこちに異変が生じるようになったのです。
まず、目が見えなくなりました。老眼に加えて、白内障を発症したからです。次に、ウェスト周りが、なんと なくふくよかというかたくましくなってきたというか……、気がついたらぽっこりタヌキのようなお腹になっていまし た。
これはいけない、と焦ったわたし、ネットで話題になっている「1か月でお腹がへっこむ」という腹筋運動を はじめました。ところが、お腹はちょっとしまってきたような気はしはじめたものの、なんと、しばらくよくなってい た持病の腰痛を再発してしまったのです。原因は、その腹筋運動でした。
まあ、体の仕組みを知らないということはこわいものですね。その腹筋運動でわたしは、腰や背中を緊張 させ、しかも知らず知らずのうちに腰を反らしていたようなのです。これが腰痛がぶり返した原因でした。しば らく静かにしていたら前のようによくなるかなあ、と思って、シップを貼りながら様子をみていたのですが、腰 痛は悪化する一方。
東京にいたころは定期的に治療していただく先生がいたのですが、―― わたしは、数年前に住み慣れ た東京を離れてこの田舎でのスローライフを楽しんでいる最中なのです ――そのときは、長くおつきあいで きる治療院がまだ見つかっていない、といった状態でした。しかし事態は深刻になってきました。そこで手あ たり次第に、いくつかの鍼灸院やマッサージに通ってはみましたが、一時的によくなったように見えても、すぐ にまた元に戻ってしまうのです。
当然、腰をかばって運動もしなくなるので、どんどん体は厚みを増していく一方。脇腹のお肉もはみ出す ようになりました。あごの下にもたるみができて、あごから首にかけてのラインが消えてなくなりそうです。
どんどん醜くなる自分を鏡の中で見るたびに、「ああ、なんとかしなくっちゃ……」という思いと、「年をとった らみんなこんなもんだし、ま、いいか……」とひらきなおる思いとが心の中でせめぎあいます。そんな自分の 気持ちをもてあましながら何か月かを過ごしているうちに、とうとうお勝手に立つのも苦労するほどに腰痛が ひどくなってしまいました。
動けないので何もする気が起こりません。「もう、いいか……。もっと太っているひとって、いっぱいいる し……。これがシニアの魅力だわよ」と、ほぼあきらめとひらきなおりの心境に到達しようとしていたときでし た。
「えっ、どうしたの? あのほっそりした面影などどこにもないじゃないか。だめだめ、そんなんじゃあ!」法事で、それこそ10年ぶりくらいに会った従兄からいわれて、後頭部をガーンとたたかれたようなショック を受けました。そして決心したのです。 「まずは諸悪の根源の腰痛を治さなくては……」 と……。
◆あの腰痛が嘘のように軽く……
わたしの腰痛は、後ろすべり症によるものです。そり腰になっているために腰椎の4番目だか5番目だか が後ろに飛びでていて、神経を圧迫しているんですね。
小さいころから姿勢がよかったのですが、そり腰だから姿勢がよく見えたのか、そのような姿勢を長年して いたからそり腰になったのか、どちらが先かはわかりません。
わたしは、30代前半で腰痛というものとくされ縁をいただいたのですが、その発症の原因は腹筋の弱さ でした。
あのときは、3週間ほどの入院生活の後で腹筋が弱っていたんですね。退院のときに看護師長さんか ら、「入院中は運動していないでしょ。だから腹筋が弱ってしまっているから、退院して歩くときは、下腹にぐ っと力を入れて歩くようにね。重たいものをもったりするときもくれぐれも気をつけてね。じゃなきゃ、腰をやら れちゃうわよ」と、注意されていたことをすっかり忘れて、お腹に力をいれずに、庭の石を動かそうとしたので すね。ぎっくり腰ではなかったのですが、何となく腰に違和感を感じたのが最初でした。腰痛とはそれ以来 のおつきあいなので、かれこれ、三十数年になるでしょうか。
ずいぶんといろいろなところへ通いました。整形外科はもちろんのこと、さまざまな鍼灸院や整体院、カイ ロにもいきました。そしてよくなったり悪くなったりをくりかえしながら、加齢とともに腹筋が弱くなっていくにした がって、腰痛はじわりじわりと三十数年をかけて悪化の道をたどって……、とうとうお勝手にも立てなくなっ たというわけです。
そしてたどりついたのが、この「腸もみ」の先生、山本優生先生だったのです。
さて、その優生先生の「腸もみ」療法ですが、最初にその治療を受けたときに、まあわたしがどれほどびっ くり仰天したことか。
「腰痛は腰ではなく、お腹に原因があることが90パーセント以上なんですよ。だからわたしは、ぎっくり腰で 来院された患者さんの治療でも、ほとんど腰を触らないんですよ」
そう涼しい顔をしていいながら、優生先生はお腹をギュイーンと押すのです。それも、20分以上も、で す。しかも、よくテレビなどで紹介されているような箇所だけでなく、骨盤の内側からおへその2~3センチ周 囲までを、念入りに、じわじわーっと力強く、押すのです。
まあ、その痛さといったら半端ではありません。鍼とか指圧は、痛いながらも、「あ、そこそこ、そこなのよ」っ ていいたくなるような心地よさが伴う痛みですが、これはそんな生易しい痛みではありません。
これがこの優生先生の得意とされる「腸もみ(按腹=お腹の指圧)」という治療法なのですね。聞くところ によると、この腸もみは、古来から日本でおこなわれていた伝統的な、しかしかなり高度で難しい治療法 で、それなりの知識と技術をもったひとだけにしか施術できなかったようです。すごい治療法だったんです ね。おそらく、このような本格的な腸もみを治療に取り入れている先生は、ほとんどいないのではないでしょ うか。(こちらの治療院と先生については巻末の「もっと知りたい方へ」でご紹介しています。)
「ここにあるこれが腸腰筋なんですよ。うーん、かなり固いですねえ」 「痛いですよね。これって、いやな痛さですよね」 「でも、痛いということは腸の筋肉がそれだけ悪い状態だということなんですよ」
そんなことをいいながら、ギュイーンギュイーンと腸を押していく優生先生。その先生に、どうして腸もみが いいのか、を教えていただきました。
「腰の緊張は、お腹をゆるめることでとれます」
そういうと優生先生は、治療室から人体骨格模型をゴロゴロとひっぱってきて説明をはじめてくれました。
お腹には、上半身と足の付け根をつなぐ腸腰筋という筋肉があるんです。ほら、このあたりですね。この 筋肉がつっぱったりちぢこまったりすると、前かがみの姿勢になって、顔は下を向いてしまいます。この状態 で、前を向こうとしても、お腹がちぢこまっているので、腰を無理に反らすことになりますよね。そうすると、代 償作用が生じて、腰に負担がかかって腰痛を起こすんです」なるほど、思い当たる節がたくさんあります。わたしなどは、その腸腰筋が固くてお腹がちぢこまっているの に、胸を張って歩くという、小さいころからの悪癖(?)を維持していたがために、反り腰がどんどんひどくなっ て後ろすべり症になってしまったのですね、きっと……。
「腰が悪いひとは、お腹をゆるめると骨盤が起きて、姿勢も無理することなく自然によくなって、楽になりま すよ」力むことなく、ごく当たり前のように淡々と説明してくださる優生先生の治療では、腸腰筋だけでなくて、内・外腹斜筋といった、お腹全体をおおっている筋肉もじっくりほぐしてくださいます。良薬口に苦し、という ように、先生の治療は、決して気持ちがいいものではありませんが、終わった後の充足感は格別で、あの 腸もみの痛みにもだえていたことなどすっかり忘れて、次回も治療を受けたい、と思ってしまうので不思議 です。そして数か月後、気がついたら、劇的に腰痛は改善されて、いまでは週2回もプールに通っていると いうのですから、すごい技術です。
わたしは、腰の治療で、いえいえ、整体やマッサージに通って、いままで一度も腸もみをする先生などに 会ったことがありませんでした。というか、お腹を触る治療って、ほとんど、いえ、わたしの場合、一度も受けたことがなかったのです。優生先生はそんなわたしにこういいます。
◆便秘もすっきり、薬いらずに
「お腹は、体幹といって、体の中心にあります。『力』というのは、足の裏で地をつかみ、その力は、膝→お 腹と腰→胸と肩甲骨→肩→肘→手といった具合に伝わっていきます。野球選手にたとえると、冬場に走 りこみで足腰を鍛えても、お腹が固いとそこで力が止まってしまって、手投げや手打ちといった、上半身だ けの投球や打撃の動作になり、肩や肘を痛めてしまいます。これは一般の方々にも当てはまって、たとえ ば、重たい荷物をもち上げるとか、拭き掃除で手を伸ばすとか、ひとに呼ばれて振り返るとかの動作も、お 腹が固いと、足から上へと伝わる一連の動作がスムーズにおこなわれなくなって、どこかに痛みが出たり故 障が生じたりしてしまいます。そんなとき、肩や肘や腰など、痛みが生じた箇所だけほぐしてもよくはなりま せん。まずは、お腹をしっかりほぐして、足首の不正や股関節のゆがみ、背部の調整などをしていかねばな りません」
このように、力がどういった経路で伝達されるのかがわかると、体幹を鍛える大切さがよく理解できるよう になります。お腹さまさま、腸もみさまさまです。
さて、そんな腸もみは、わたしに腰痛との決別をもたらしてくれただけでなくて、なんと便秘の悩みも解消 してくれました。
最初の2回ほどは、優生先生がギュイーンと腸を押しても、腸からは何の音もしなかったのですが、3回 目くらいから、ゴロゴロと腸が動くような、腸の中でガスが発生しているような音がでるようになりました。
「こういう音がするのはいい兆候なんですよ」と優生先生。 「腸が動いているってことでしょうかね」とわたし……。
そのわたしのことばに、優生先生は当然のような顔をしてこういいます。
「お腹の指圧は内臓にもよい影響があり、便通がよくなったり、みぞおちの部分への指圧は逆流性食道 炎や胃の膨満感を改善したり、全身(主に下半身)に血液を送る腹大動脈に働きかけて血流をよくする ことで冷え性にもよい影響を及ぼしますし、自律神経へ作用して、ストレスを感じているときなどの交感神 経優位から、リラックスしたときの副交感神経優位へ変換したり、各自がもっている自然治癒力や免疫 力をさらに引きだす効果があるんですよ」要は、お腹は肉体のみならず精神の健康を維持するための大切な治療ポイントだということですね。そう いうことならば、腰痛といっしょに便秘も治るかなあ、と期待に胸がふくらみます。
実は、何を隠そう、わたしは50年という驚くべき便秘歴をもっていたのです。もともと小さいころからお腹は 弱くて、何かあるとすぐに下痢をしていました。ビオフェルミンなどの整腸剤は効かず、母の手作りの梅肉エ キスでなければ、腹痛も下痢も治りませんでした。それが、高校生になったころから、下痢ではなくて便秘 をするようになっていったのです。それも、通じ薬を飲むと下痢をし、飲まないと便秘になる、というやっかい な便秘です。
まあ、それはそれはいろいろな薬やサプリメントを試しました。漢方からはじまって、マグネシウムや乳酸菌 などなど……。どれも最初は効くのですが、すぐに腸が反応しなくなるんですよね。それで少し量を増やす と、今度はひどい腹痛と下痢に。やがて年をとるにつれ、わたしの腸の不調は、「過敏性腸症候群」に該 当する症状を呈するようになっていったのです。夜間に腹部にガスがたまって、激痛が生じ、救急病院や 夜間診療所に何度駆けこんだことでしょう。
それが、この腸もみをするようになって、その便秘というか、過敏性腸症候群の症状が徐々に軽くなって いったのです。もちろん、週1回の治療だけでなくて、優生先生の「できれば、腸もみはご自宅でもやられる といいですねえ」ということばにしたがって、自宅でも毎日腸もみを実践した結果です。優生先生は、わた しの腰痛が早くよくなるように、という思いで、自宅での腸もみを勧めてくださったのですが、腰痛の改善と 比例するかのように、便秘もよくなっていったのです。
「ああ、腸腰筋がとても柔らかくて弾力がついてきましたね」
優生先生のこのことばがまたうれしくて、自宅での腸もみにも力が入りました。
先生が推奨する自宅での腸もみは、なんとすりこぎを使った方法です。手で押すのもいいのですが、自 分の手だとどうしても力が入っていきません。天然木のすりこぎだと、先っちょが丸くなっていて、体に当てて もやわらかい感触がします。
軟式野球のボールの上にお腹を載せてゴロゴロするのもいいそうですが、下が布団やベッドだと沈みこん でしまって、効果が半減してしまいます。
わたしは、本来ズボラな性格なので、朝起きた時と夜寝る前にベッドの中でできるワークでないと長つづ きしないと判断。迷うことなく、すりこぎを選択しました。
ではこれからそのすりこぎワークの方法を紹介していきます。
◆腸腰筋を鍛えるためのすりこぎワーク◆
■用意するもの…天然木のすりこぎ(大)1本。
■押してはいけな箇所…オヘソの真上と肋骨は避ける。
■手順と要領 1.膝を少し立てた状態で仰向けに寝る。
◆すりこぎワーク
2.オヘソ中心に、下は恥骨の上から横は左右の腰骨(骨盤ライン)、上は肋骨の下までを範囲として、 パジャマや薄手の衣服の上から、ゆっくりやさしく、でも、力をこめてじわりじわりと深くまで、順番に押してい く。このとき、たたきつけるような乱暴な押し方はしないこと。押したら20~30秒ほどその状態を保つ。3.順番は特に決まっていないが、点で飛び飛びに押すのではなく、線を描くようにつながりをもって押して いく。たとえば、図のように、左から右、または右から左へ弧を描くように押していく。
1大腸左下の出口→腰骨の内側→ウェスト左部→肋骨の左下→みぞおち 2小腸の左下→オヘソから2~3センチ外側の左下→オヘソの2~3センチ左側→オヘソの2~3センチ 外側の左上→オヘソの2~3センチ上側 3大腸右下→腰骨の内側→ウェスト右部→肋骨の右下→みぞおち4小腸の右下→オヘソから2~3センチ外側の右下→オヘソの2~3センチ右側→オヘソの2~3センチ 外側の右上→オヘソの2~3センチ上側
4.押し方の基本…皮膚の1点に対しすりこぎを垂直にあてて、漸増・漸減圧でで押していく(漸増・漸 減圧とは、徐々にゆっくり力を増していき、ゆっくり抜いていくこと)。約5秒かけて押し、10秒止め、5秒か けて離していくのが好ましい。(注:このとき、固い部分を見つけたら、左右どちらかでもいいので、押すとき に皮膚を引っ張らないように、最初に皮膚を手前に引いてから押す。固い部分はとくに念入りに押す。)
5.腸腰筋への意識…お腹の奥の方を押しているという意識が大切。
6.時間…腸腰筋をゆるめることが目的の場合は20分くらいが理想的だが、10分でもいいので毎日つ づけることが大切。
7.朝このワークが終わった後と、寝る前にコップ1杯のお水を飲むとよい。
注:体調や押し具合によっては腸の動きが過剰に活性化されて下痢になることもあるので、その場合は 手加減すること。(ただし下痢は、体内の悪いものを出すための生理現象なので、わたしなどは、「おお、 腸もみが効いている」、と喜んでいます。)
さて、ここに挙げている図を見てもおわかりいただけるように、腸腰筋は、大腰筋と腸骨筋とでできていま す。
大腰筋とは、背骨と両足の付け根をつないでいる筋肉で、腸骨筋とは、骨盤と足の付け根をつないで いる筋肉です。これらの筋肉はそれぞれが固くなると縮こまって、くっついてしまうそうなんですね。そうする と、前かがみになって姿勢が悪くなる。すると必然的に腹筋が弱くなって、腰に異変が生じるだけでなく て、ポッコリお腹になってしまうのですね。
優生先生は、「この状態でどんなにトレーニングをしても、悪循環を繰りかえすだけです。鍛える前に、ま ずは、大腰筋と腸骨筋を切り離すことが大切なんですよ」とおっしゃいます。
肉体の健康と美の要はお腹にあり。そのためには、まずは腸腰筋を鍛えること。やわらかくて弾力のある、 融通の利く、ダントツに実力のある腸腰筋をつくるために、あなたも、すりこぎワークを試してみませんか。
腹横筋を鍛えてぺちゃんこ腹に
◆コルセット筋の役割
わたしは、反り腰ということもあって、特に上腹部、つまり、胃のあたりがぽっこりと出ています。 痩せてい るころはあまり気になりませんでしたが、太ってくると、何を着ても胃のあたりがぽっこりどころかボヨヨーン。シ ャツのボタンがはち切れそうな体型に、頭を抱える毎日でした。そんなわたしに先生は、腹横筋を鍛えてお 腹をへっこませると同時に、反り腰の改善に役立つワークを教えてくださいました。
いままでお腹の筋肉は「腹筋」ということばでひとくくりに考えていましたが、そんな単純なつくりではないの ですね。
一般的にいわれる「腹筋」とは、腹直筋、腹斜筋、そして腹横筋をさしています。よくみなさんが、仰向 けに寝た状態で上半身を起こす腹筋運動は、腹直筋、つまり、お腹の前の表面についているアウターマッ スルを鍛えるための運動です。でも、これはあまりウェストキュッやお腹ぺったんには効果がないといわれてい ます。それに腰にも負担がかかります。腹筋を強くしようとして腰を痛めたのでは、もともこもありません。
これに対して、腹斜筋と腹横筋は、インナーマッスルと呼ばれて、腹部の奥の方についています。そのう ち、腹斜筋は、脇腹のあたりについている筋肉で、これを鍛えることで、くびれたウェストが手に入ります。で も、先生が教えてくれたワークで、わたしがここでご紹介したいのは、腹横筋を鍛えるトレーニング法です。
ほら、腹横筋って、一番深い部分にあるでしょ。それも胴回りをぐるりと取り囲んでいます。これが、腹横 筋が「コルセット筋」とか「天然のコルセット」とかいわれる所以です。
この腹横筋を鍛えることで、往年の名画「風とともに去りぬ」のワンシーンのように、コルセットでギューッと 胴回りをしめたようなすっきりとしたウェストとお腹をつくることができるのです。しかも、骨盤もしっかり固定し て理想的な姿勢を保つことで、反り腰も改善されるというのですから、もうこれはやるしかないでしょう。
◆ずぼらな寝たままワークその1
ワークというものは、あれもこれも、と盛りだくさんになると、長つづきしないものです。なんでも、ちょっと控え めで、「えっ、これだけでいいの?」と思うくらいがいいと、わたしは思います。長時間のワークを短期間でや めてしまうよりも、短時間のワークを細く長くつづけていれば、必ずいつかは成果が目に見えてきます。
若いころはともかくも、シニアとなったわたしたち、「あら、これだったらやれるわ」といった「ずぼらワーク」がキ ーワード。
ここでご紹介するのは、ふたつだけ。どちらも寝たままで、たった10回を2セットおこなうだけ。称して、「寝 たままワーク」。これだったら、毎日、そして長ーくつづけていけると思っていただけるワークです。
さあ、その腹横筋の寝たままワークのその1をご紹介しましょう。
◆腹横筋を鍛えるための寝たままワーク その1◆
1.膝を立てて、左右の足首・膝・太ももの3か所をぴったりとつけた状態で仰向けに寝る。
2.両手をお腹の上に軽くのせる。
3.大きく鼻から息をお腹いっぱいに吸い込んだら、腰でベッドや床を押すようにして、お腹がぺっちゃんこに なるまで口から少しずつ息を吐きだしていく。このとき、意識を、恥骨の上あたりに集中させる。
4.これをゆっくり10回繰り返す。
以上をワンセットとして2セットおこなう。
このワークで大切なことは、腰でベッドや床を押すということです。それによって、腹筋でありがちな腰への 負担が軽減すると同時に、反り腰になるのを防いでくれます。いくらずぼらワークとはいえ、ポイントと意識 はしっかり維持してください。上腹部が緊張するかどうか。腰でしっかりベッドや床を押しているかどうか。この 感覚が大切です。
そのうち、何日かつづけているうちに、上腹部の緊張感がつづくようになります。そうなるとしめたものです。 それだけ腹部への負荷がかかっているということ。自信をもってつづけてください。
◆ずぼらな寝たままワークその2
「無理に反り腰を改善させる必要はないんだけど……」という方には、ワークその2をお勧めします。これ はワーク1よりも簡単かもしれません。ワークその1が、主に上腹部と反り腰にいい効果をもたらすとしたら、 このワークその2は、お腹全体を引き締めるのに有効です。
◆腹横筋を鍛えるための寝たままワーク その2◆
1.その1のワークと同じように、膝を立てて、左右の足首・膝・太ももの3か所をぴったりとつけた状態で仰 向けに寝る。
2.体の力を抜いて、両手をお腹の上に軽くのせる。
3.下腹部~上腹部~肋骨までが風船のように膨らむような意識で、深く鼻から息を吸い込む。4.その息を、「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハアー」と、4~5回口から吐き出していく。そのとき、胃から下腹部 全体、そして,腰もいっしょになって息を押しだしているといった感覚を忘れない。ことに、上腹部の振動が 大切。もうこれ以上息を吐きだせない、といったところまで、押しだすこと。
5.これをゆっくり10回繰り返す。
以上をワンセットとして2セットおこなう。
たったこれだけです。どちらも朝起きたときと夜寝る前にベッドの中でできますね。「まあ、こんなトレーニン グで本当にお腹がへっこむの?」と、わたしも思っていましたが、まずはつづけてみることです。1か月ほどし てお腹をさわってみると、「あれれ……?」と思うはずです。そしてそれが、歯磨きのように日常化してしまえ ば、もうしめたものです。
顔筋もみですっきり小顔と美肌を
◆顔の凝りとゆるみを追放してリフトアップ
「造顔」という美顔術がフィーチャーされたのは2006年くらいだったでしょうか。あなたはご存知です か? その提唱者の美容研究家、田中宥久子さんは、残念ながら数年前にお亡くなりになりましたが、 そのメソッドはいまだ健在のようで、ずーっとつづけておられる方も多いようです。
さて、ここでご紹介する「顔筋もみ」というのは、「造顔」メソッドとは少し違いますが、原理は同じです。つ まり、顔の筋肉を鍛えると同時に、顔周りのリンパの流れをよくして、むくみのないキュッとひきしまった顔をつ くるというものです。
筋肉が凝るのは、なにも首や肩や背中だけではありません。顔の筋肉も凝ります。ことに、食べたり話し たりしてしょっちゅう使っている顎関節や、頬骨の下側に沿ってついている筋肉は、顔の中で一番凝りやす い箇所だといわれています。
職業柄、いつもニコニコと笑っていなければならないひとや、しゃべることが仕事だというひとは特に要注意 です。顔の凝りは、このように表情筋のほかにも、咬み合わせも密接に関係しているそうです。つまりは、疲 労が原因なのです。そして困ったことに、この顔の凝りは、首や肩の凝りと違って痛みがあまり大きくありま せん。これは筋肉の量が少ないからだといわれていますが、だからこそ、ほとんどのひとがこの凝りに気がつ かないのです。
ではあなたの顔の筋肉はどうでしょう。ちょっとここでチェックしてみましょうか。
この図の矢印が示すように、人差し指、中指、薬指の三本の指の腹で、口角から頬骨の下のくぼみに 沿ってずーっと左右の顎関節のあたりまで、ぎゅーっと奥まで押していってみてください。コリコリしていたり、 押したときに痛みを感じたりするような箇所がいくつかありませんか?
わたしが最初にチェックしたときは、頬骨の下にゴリゴリとしたかたまりみたいなものがあって、押すとズーンとした痛みがその周辺に広がりました。実は、それが凝っている証拠なのです。そして、この顔の凝りこそが 美容の大敵なのです。
というのも、このあたりが凝っていると、頬が腫れたような感じになって、顔が大きく見えます。ひどくなると、 頬がたるんでほうれい線もできてきます。シワの原因になるともいわれています。
もうひとつ、顔を大きくしている原因があります。顎関節です。顎関節というものは、しょっちゅう使われるこ とで、どうしてもゆるんできます。このゆるみは、外側の筋肉にも影響を及ぼします。筋力が衰えた筋肉 は、このゆるみをしっかり支えることはできません。それどころか、そのゆるみから筋肉そのものもしまりがなく なってたるんだようになり、顔をどんどん大きくしていくのです。
顔の筋肉の凝りも、顎関節のゆるみも、こまめにメンテナンスをすることで防ぐことができます。それがこの 顔筋もみなのです。
しかし、いっておきますが、この顔筋もみは、そおっと皮膚の表面を優しくなでるようなものではありません。 首や肩の凝りだって、そんな手ぬるいマッサージでは治りませんよね。
顔も同じです。筋肉にたまった疲労を追いだして、弾力性に富んだキュッとしまった筋肉をつくっていくに は、それなりの負荷をかけなければなりません。良薬口に苦し、というように、この顔筋もみは、マッサージと いうよりは、その名のとおり「もみほぐし」なのです。
◆リンパの流れを利用した小顔づくり
もうひとつ、この顔筋もみで解消できる顔の問題があります。 そう、むくみです。むくみは、リンパの流れが滞って生じるトラブルのひとつです。
リンパの大きな役割には、細菌などの有害物質が体中にまわっていかないように、リンパ節でそういった 有害なものを濾しとってくれるという「免疫機能」があります。そしてこのリンパ節は、人間の体のいたるとこ ろに、なんと600個もあるそうです。
顔周りにもたくさんのリンパ節があります。リンパ節というのは、リンパ管の合流地点みたいなところです。リ ンパ管はリンパ液の通り道です。そしてリンパ液というのは、体の老廃物を運びだして排泄してくれるもので す。
つまりリンパには、免疫機能のほかに、「排泄機能」があるということです。この機能がうまく働かなくなる と、老廃物がたまってむくみとなって表れるわけです。というのも、リンパにはポンプの役割を果たすものがな いので、血液のようになにもしなくても常にサラサラと流れるというものではないのです。
ではどうやってこのリンパ液を循環させているのか。 筋肉なのです。筋肉が収縮することでリンパ液は元気に流れていくのです。すなわち、その筋肉の力が 弱ってくると、排泄がうまくいかなくなるということです。
これで顔の筋肉を鍛えるということがいかに大切なことか、よおくおわかりいただけるかと思います。リンパ 液の循環をうながせばいいということで、ちまたでリンパマッサージがさかんにおこなわれているのも理解でき るというものです。
ここでお勧めする顔筋もみは、顔の筋肉を鍛えると同時に、顔の中の主なリンパ節を刺激することで、リ ンパ液の流れが促進され、老廃物も滞りなく排泄され、すっきりした小顔を維持するのに役立つメソッドで す。
では、ここで、小顔づくりに大切なリンパ節はどういったもので、どこにあるのか、下図をご覧ください。この 顔筋もみで触るのは、ここに示されている4つのリンパ節です。
1.耳介前(じかいぜん)リンパ節…耳たぶの前、顔側にあるリンパ節。前頭部や額やこめかみなど、目か ら上にあるリンパの流れを受けて顎下リンパ節や鎖骨リンパ節へ老廃物を流していく。
2.耳介後(じかいこう)リンパ節…耳たぶの後ろ、頭側にあるリンパ節。頭頂部や側頭部のリンパの流れ を受けて鎖骨リンパ節へ老廃物を流していく。
3.顎下リンパ節…顎の下側にあるリンパ節。頭部や顔のリンパがここを経由して首に流れていく。このリ ンパ節の働きが低下することで、老廃物が首から下へ流れにくくなるために、顔がむくんだり二重あごになりやすくなったりする。
4.鎖骨リンパ節…鎖骨の上にあるリンパ節。ここは首から上のリンパの最終出口、つまり最終下水処理 場だといわれているくらい重要な箇所。ここの働きが低下すると、顔だけでなく、上半身の不調につなが る。
この顔筋もみでは、こういったリンパ節を刺激して、それぞれの働きを活性化し、老廃物を流してすっきりし た小顔づくりをめざしています。
その前に、顔筋もみの際に使用するクリームのお話をしましょう。顔につけてマツサージするクリームですの で、選ぶときには十分に注意してください。
◆マッサージクリームを選ぶときの注意点◆
1.鉱物油が入っていないこと……シミの原因になる。
2.延びがよく、すぐに吸収されないものがおすすめ……延びが悪かったりすぐに吸収されたりすると、肌の 上での指の滑りが悪くなり、摩擦が生じて肌を痛める可能性がある。
3.お手頃な価格のものを選ぶ……1回に使用する量が多目なので高価なものだと長つづきしない。
参考のために、いま、わたしが使っているクリームをご紹介しておきます。コスメプロの「フェイシャルマッスル」 という商品です。伸びがよく、量もたっぷり入っていて、わたしは気に入っています。
ただ、ひとによって肌のタイプも匂いやテクスチャー感の好みも異なるので、いろいろと試してご自分に合う ものをお探しになるのがよいでしょう。ネットで検索するときは、「造顔クリーム」というキーワードを使われると よろしいかと思います。
◆顔筋もみワーク
では、さっそく顔筋もみの方法をご紹介したいと思います。その前に、まず、注意点をあげておきます。
◆注意すること◆
1.このメソッドは、もみほぐしていくことが目的なので、目の周り以外は、どれもしっかり圧力をかけておこな うこと。ちょっと痛いなあ、くらいの強さが効果的。
2.図では線が複雑になるので省略されているが、すべての動作の最後に、必ず、鎖骨リンパ節まで指を しっかり運んでいくのを忘れないこと。
3.朝・晩の2回おこなうのが理想的。忙しいときは朝または夜だけでもOK。ただし、夜は、必ずメイクを 落としてからおこなうこと。汚れたままでおこなうと、汚れを毛穴に押しこむことになる。
4.クリームはマスカット粒大。あまり多いと耳の穴や目の中に入るし、少ないと圧力をかけたときに滑りが 悪くなって皮膚が引っ張られてしまう。
5.終わったら洗顔でクリームを落とすとさっぱりする。
◆顔筋もみワークの方法◆
1人さし指・中指・薬指の3本の指の腹全部を使って、耳の前(耳介前リンパ節)→鎖骨リンパ節へ、し っかり力をこめて押しながら滑らせていきます。このとき、指先ではなく、3本の指の腹全体を使います。
2母指球(親指の下の腹)を使って、口の下→耳の付け根の前で止めてそこを押してから鎖骨リンパ節 へ。
3母指球を使って、口角→耳たぶの下(耳介後リンパ節)で止めてそこを押してから鎖骨リンパ節へ。
4母指球を使って、小鼻の横→耳の前(耳介前リンパ節)で止めてそこを押してから鎖骨リンパ節へ。
5人さし指・中指・薬指の3本の指先の腹を使って、目の下→こめかみで止めてそこを軽く押してから鎖 骨リンパ節へ。
6と7は同時に、人さし指・中指・薬指の3本の指の腹を使って、眉毛の間→額の中心上(はえぎわの 下)→こめかみで止めてそこを押してから鎖骨リンパ節へ。
8中指の腹で目頭をキュッと押してから指の力を抜いて、中指・薬指の2本の指の腹を使って軽く上まぶ た~下まぶたの上を滑らせるようにして再び目頭へ→人さし指・中指・薬指の3本の指の腹を使って眉毛 の下に沿ってこめかみまで指を滑らせそこをキュッと押さえてから鎖骨リンパ節へ。このとき、眼球を押さない ようにすること。
9中指の腹で目頭の下をキュッと押してから指の力を抜いて、中指・薬指の2本の指の腹を使って軽く下 まぶたの上を滑らせるようにして目尻→人さし指・中指・薬指の3本の指の腹を使って鎖骨リンパ節へ。
以上を各5回ずつおこなったら、次のように、最後の仕上げをします。
◆最後の仕上げ◆
1.顎の真下(顎の口の下の部分)に左右の親指をぎゅっと押しこんでから、親指と人さし指を耳たぶの下 まで運んでいきます。そこで耳たぶをはさむようにして、人さし指の腹全体で耳の前(耳介前リンパ節)を押 し、親指で耳の後ろ(耳介後リンパ節)をぎゅーっと押してから、そのまま鎖骨リンパ節へ。これも5回おこな います。
2.右手の人さし指・中指・薬指の3本の指の腹で左側の鎖骨リンパ節をゴリゴリゴリともみ、左手の人さ し指・中指・薬指の3本の指の腹で右側の鎖骨リンパ節をゴリゴリゴリともみます。最初は痛くて声を上げ たくなりますが、そのうち、流れがよくなるにしたがって、「痛気持ちいい」感じになります。そしてそれが「気持 ちいい」になったとき、あなたの顔はすっきり小顔になっていることでしょう。
さあ、いかがでしょう。要領を得るまでの最初のうちは時間がかかるかもしれませんが、慣れてしまえば、3 分もあればできるワークです。1か月、2か月とつづけるうちに、顔がひきしまってきます。とにかく、毎日つづ けることです。
そして面白いもので、この顔筋もみをしていると、顔の筋肉が引き締まるだけでなくて、肌に透明感が出 てきます。これはおそらく、リンパの流れをよくすることで老廃物が排出されるからだと思われます。
周りのひとたちから「あれ、顔が小さくなったね」とか「あれ、何だか色が白くなった?」っていわれる日を楽 しみに、どうか毎日つづけてくださいね。
脳の筋肉を鍛える
◆かっこいいシニアは頭脳明晰
ここでいう「頭脳明晰」とは、何も、○○博士や△△教授がもっているような知識や高学歴などを意味し ているのではありません。そんな専門家がもつ高度な学問レベルのはなしではなく、ここでいっているのは、 人生を、粋にかっこよく生きていくための思考力や判断力がいつまでも衰えていない状態のことです。
ほら、あなたの身近にもいませんか? 見かけは、このひと、だいじょうぶかなあ……、と話しかけるのを一瞬ためらってしまうようなひとなのに、いざ 話をしてみると、こちらの話を完璧に理解し、それも行間までくみ取って、こちらが聞きたいことや知りたいこ とを的確なことばで返してくれるお年寄り。そう、「シニア」ということばなどとっくに通用しなくなった「ゴールド エイジ」に属するお年寄りの方々が……。
こんなお年寄りと出会うと、「わあ、かっこいい~」って思いませんか? わたしなどは、背筋がピーンと伸 びるような感覚におちいってしまいます。そして、わたしも何年か後にはこんな風になりたい、と思ってしまい ます。また、そういうお年寄りは、きっと生き方に自信がおありなのでしょう。必ずたおやかな笑顔がともなっ ているのです。だから益々すてきに見えてしまうのですね。
人間、どうしても年をとるにつれて、物忘れがひどくなって、ぼおーっとすることも多くなります。みんなと話 をしていても、話題についていけないことも多くなって、だんだんひとと会うこと自体がおっくうになっていきま す。すると、話をする機会も減ってきて、脳の老化はますます進みます。
脳の老化も、体を鍛えることである程度遅らせることが可能だとのことなので、どんどん外へ出て体を動 かす機会を作ることはとても大切なことです。ゴルフとか、水泳とか、ゲートボールとかは、シニアの方もたくさ んやっておられますよね。
この運動のほかに、もうひとつ、脳を刺激するために効果的なものがあります。読書です。わたしは、この 読書こそをあなたに大いに勧めたいと思っています。(読書は認知症予防に役に立つ、といろいろなところ でいわれていますが、現時点ではそれを立証するデータが確立されていないようなので、ここでは、明言は 控えさせていただきますね。)
いくら外見上、若返ることができても、ボヨヨーンとした頭脳をしていては、ちっとも粋でもなければ、かっこ よくもありません。見た目がいいと、最初は、みんなちやほやしますが、中身がなければひとの心は離れてい きます。外見はともかくも、話しこんでいけばいくほど、そのひとの内面に蓄積されたものに、そしてそのひとのもっている深ーい思索力や洞察力に、ひとは心惹かれていくものです。読書には、そういったものを培う力 があると、わたしは信じています。
◆読書を味方に
年をとると、近くのものや細かい文字が見えにくくなってきます。俗にいう「老眼」ですね。この老眼になる と、新聞や本や携帯メールなどが見えにくくなってきて、イライラします。老眼用のメガネをかければいいので すが、そのメガネがすぐに取りだせなかったりどこかへ置き忘れてしまったりして、もういいや、となることが多く なっていきます。年をとるにつれて、読書量が減ってきたというひとが多いのも、こういったことが原因なので はないでしょうか。
そういえば、わたしの友人が、つい最近、久々に会った弟さんに、「姉さん、なんか顔がおバカになってきた ね」といわれたそうです。とても仲のよい姉弟で、若いころから弟さんにとって彼女は自慢のお姉さんでした。 だから彼女にとって、彼のそのひとことはとてもショックだったようです。しかも、その後に彼は、「ねえさん、最 近、本、読んでないんじゃないか? 本を読まなくなると、人間バカになるからね。それが顔に表れてるのか もな」とまでいったそうです。
「わたし、老眼になってから本を読むことが少なくなってたから何も言いかえせなくって……」。そういってうなだれる彼女。うーん、ズバリといい当てられたって感じでしょうか。
読書は、脳にとてもよい刺激を与えてくれます。まず、目で活字を追うことで、視覚から脳に刺激を与え ます。そして文章のことばのつらなりを脳は瞬時に解読し、その文章の意味を理解していきます。
また、わたしたちは本を読みながら、登場人物やその背景や場面などを想像しますよね。匂いや音など も空想することができます。単に思い浮かべているだけのように見えますが、なんと、このときの脳は、実際 に体験しているときのように活性化しているそうです。幼児期には、これプラス、おかあさんの読み聞かせな どで聴覚からの刺激も加わりますね。このことから、幼児期のうちに本を読み聞かせたり絵本を読む習慣 をつけることがいかに子どもの知育に大切なことかがよくおわかりいただけるかと思います。
読書は大脳のトレーニング法だといわれています。認知症予防に役立つかどうかはさておき、シニアにとっ ても、こういった脳への刺激は必要ではないでしょうか。
脳によい刺激を受けると、人間だれしも、表情がきりりとひきしまってきます。こういう表情はひとを美しく 見せてくれますよね。
さらに、この表情に加えて、もうひとつ、読書には、美肌をもたらす効果があるといわれています。その根 拠は、ストレス軽減にあります。
人間、ストレスがたまると肌が荒れますよね。そのストレスを、読書は、大幅に軽減してくれるというので す。
このことを発表したのは、イギリスにあるサセックス大学のデイビット・ルイス博士です。彼は、音楽、散歩、 コーヒータイム、テレビゲーム、そして読書に分けて実験をしたところ、音楽では61パーセント、散歩では4 2パーセント、コーヒータイムでは54パーセント、テレビゲームでは21パーセントのストレスが軽減されたのに 対して、読書では、68パーセントもストレスが軽減されたというのです。読書に集中することで、筋肉の緊 張がほぐれ、心拍数も落ち着いてくるとのこと。すごいですよね。
このことを知ったからには、読書を味方にしない法はありません。本をどこにいくのにも持ち歩いて、移動 中の乗りものの中とか何かを待っている間とか、5分でも10分でも読書をする習慣をつけることで美肌を 保てるなんて、最高ではないでしょうか。
ことに寝る前の読書タイムはとても効果があるということです。活字を追っていると眠たくなるのも脳科学的 に証明されていることですが、ストレスを軽くした状態で眠りにつけるようにしてくれる読書は、それこそ心に も体にも優しい睡眠導入剤です。
ただ、眠る前に読む本としては、セックス描写が激しい官能小説とか暴力の場面が多く展開されるバイオ レンスものではなく、美しい情景や楽しい場面をイメージできるようなファンタジーものが、脳もリラックスでき ていいと思いますけれど……。
◆知識より思考力を
さて、このように読書は、子どもはもちろん、シニアにとっても、非常に大切な脳のトレーニング法ですが、 わたしはここで、シニアらしい読書法を提案してみたいと思います。
読書が脳に与える効果には、「思考力」を養うというすばらしいメリットもあります。でも、何でもかんでも本 を読めば思考力は高まるのでしょうか。
「読書について」(ショウペンハウエル:著、斎藤忍随:訳、岩波文庫)という本の中に、「読書とは他人に ものを考えてもらうことである」、という一節があります。
要は、本には著者の思想が書かれていて、それを読む人間、つまり読者は、読むだけではそれによって 何も得るものはなく、それどころか、多読すればするほど、「自分でものを考える力を失っていく」、といってい るのです。そして、何度も「熟慮を重ねることによってのみ、読まれたものは、真に読者のものになる」、とい っています。多読を重ねるだけで、読んだものを後で反芻したり考えたりしなければ、読んだものは自分の 「精神の中に根をおろすこともなく、多くは失われてしまう」とまでいっています。 読書によって知識を得ただけでは何も自分のものにはならないよ、そこに書かれていたことをじっくりと考え てみて、できれば自分なりの思想を生みだすことに意義があるんだよ、ということですね。
本の種類によっても、読書の目的や読み方もいろいろと異なってくるとは思うのですが、わたしは、著者 はここで何をいおうとしているのだろう、とか、どうしてこんな言い回しをしたのだろう、とか、わたしだったらこう いう風に書くな、とかを考えさせてくれる本は読んでいて面白いと思います。
そもそも出版された本に書かれている文章は、著者や編集者が何度も推敲を重ねて、贅肉が落とされ た、研ぎ澄まされたものになっています。ですので、そこに書かれていない文字もたくさんあるわけです。
つまり行間ですね。本を読むときにその行間で著者が何をいっているのかをくみ取りながら読むのも、読 書の醍醐味ではないでしょうか。また著者がこの本を書こうと思うに至った背景なども興味深いですね。
そういった思考や想像をしながらの読書。これこそがシニアにお勧めしたい読書なのです。そうすると、読 む本の種類はおのずと限られてくるでしょう。
どんな本を読むといいのか……。それはひとそれぞれ、嗜好も興味も違うので、あえてここでは明記しませ んが、ひとつだけいわせていただくならば、「良書」でしょうか。では何をもって良書というのでしょうか。
わたしが思うに、良書とは、読んで自分の中に何かが残るもの。つまり思考をうながしてくれるような書物 でしょうか。何も、昔から名作とされている文学作品や小難しい哲学書や思想書などでなくても、美しいこ とばで綴られたエッセイ集や、子ども向けの童話や寓話の中にもそういった本はたくさんあります。却って子 ども向けの本に良書は多い、といえるかもしれません。
乱読や多読で知識を片っ端から得る読書の年代をとっくに卒業したわれわれシニアにとって必要なの は、心の糧となるような本を手にして、ゆっくりとじっくりと、思考や思索にふけりながら読んでいく読書です。
熟読してしっかりと消化して自分のものにすることは脳の活性化にもつながって頭の老化を防いでくれま す。同時に、明晰な思考力や深い洞察力、そして的確な判断力を培うことができます。そしてそれこそが、いぶし銀の輝きを放っていくのだと、わたしは思うのです。
究極の美しさは心の筋肉で
◆心の筋肉とは
健康や頭脳も大切ですが、人間にとって一番大切なものは何だと思いますか? わたしは、人間にとっ て一番大切なものは「心」だと思います。
どんなに外見がよくてどんなに頭がよくても、心が醜ければ、ひとの心はそのひとから離れていきます。
人間の心は常に揺れ動いています。それは感情というものがあるからですよね。 あら、心って感情のことじゃないの、と思っておられるひともいるかもしれませんが、心は感情をも包みこん だ、もっと大きくて多次元的な構造をしている、というのがわたしのとらえ方です。つまり感情は心の一部 分、それも心の一番表面に近いところにあるもの。だからこそやっかいなのです。
この世のいろいろなできごとの影響をもろに受けて、わたしたちは、喜び、悲しみ、憎しみ、妬み、嫉み、 恨み、貪り、悲しみ、後悔、恐怖、不安……など、さまざまな感情を抱きます。そしてそれが心へいろいろ な影響を与えるのです。
この心と感情の関係は、大きな湖とその湖面の関係に似ているかもしれません。湖全体が心で湖面が 感情です。嵐がくると、湖面は激しく荒れ狂いますが、湖中もかなりかきまわされているようで水が濁りま す。それと同じような感じでしょうか。
さて、湖面に生じたこのような感情、特に「負」の感情が、心全体、すなわち、湖中にまで影響を及ぼさ ないようにするにはどうすればいいのでしょう。宗教家や悟りを開いた求道者ではないフツーのわたしたちは 感情を抱くことを阻止することなどできませんが、その感情の影響を極力少なくすることはできます。それ が、「心の筋肉」を強くする、ということなのです(心は目に見えないものですし、もちろん、筋肉などありませ んが……)。つまり自分の心をコントロールする力を養うということなのです。他人の心はコントロールできま せんから……。
要は、自分の心を鍛えることですね。そうすれば、表面の感情が荒れ狂っても、心全体でしっかりとそうい った感情を支えることができるので、心そのものが荒れることがなくなります。 ほら、腸腰筋を鍛えて体幹を強くすると、ちょっとやそっと押されても転んだりしなくなるのと同じです。それ がわたしのいう「心の筋肉」を強くすることなのです。
そしてわたしは、これこそが、シニアにとって一番大切なワークであり、またシニアがその本領を発揮できる分 野ではないか、と思っているのです。
なぜならば、この心の筋肉を強くするためのキーワードは、生きていることへの「感謝」だからです。
◆何ものにもまさる美しさとは
人生を長く生きてきたシニアは、個人差もあるでしょうが、人情の機微に触れることが多々あると思いま す。これは、シニアのもつ美徳のひとつですよね。
その一方で、人間、年をとってくると、頑固になります。長年かけて培ってきた自分の価値感だけを大事に 抱きしめて、その価値観に合わないひとや考え方を排斥しようと、ああでもないこうでもない、と上から目線 で批判しがちです。未熟な後輩を心の中でさばいたり、彼らの居場所を奪っていつまでもてっぺんの座にし がみついたりします。
本当に強い筋肉というのは、柔らかくて弾力に富んだ筋肉だ、ということは、何度か述べてきましたが、心も 同じです。
強い心というのは、自分を守るために外部に対して警戒心が強く、ガチガチに頑なに閉ざされた心ではな く、反対に、外部に対してあっけらかーんと開放された心です。何事に対しても柔軟に対応できる心、何 事も柔らかく包みこむことができる心、サラサラとこだわりのない心です。そして慈愛と感謝に満ちた心で す。
考えてみてください。人生長く生きてきて、いろいろな経験をして、それだけでも、あなたの心は宝ものがたく さん詰まっているのです。何も恐れることなどありません。あなたの心の中の宝ものはだれも盗むことができ ないのですから……。だれかに分け与えても減ることもないのですから……。
それって、とても豊かなことだと思いませんか? とても幸せなことだと思いませんか? こうして生きてこられてありがたいよなあ、と思いませんか? わたしは思いました。ああ、ありがたいなあ、とつくづく思いました。
実は、わたし自身、いままで、自分の心を守ることに必死になって、価値感の合わないひとや嫌いだなあ と思うひとに対して、頑なに心を閉ざして生きてきました。そうすると、人間というものは面白いもので、そう やって心の中から気にいらないひとたちを追い出そうとすればするほど、そのひとたちの一挙一動がとても気 になって、心が細かく揺れ動いてイライライライラとするのです。そして、気がつくと、眉間にしわが寄っていま した。
よくわたしは、機嫌が悪くなると、鏡の前にすわります。そして眉間にしわを寄せている自分に「アッカンベ エー」をします。すると、鏡の中の顔は益々醜くくなります。美しいシニアなどとは無縁の顔です。それを見て いるとたまらなくなって、何かを投げつけたくなります。(ときどきタオルを投げつけたりしますが……。)
このときにいつも思うのです。ああ~、こんな無様なわたしにも、家族がいる、何かあるとすぐかけつけてく れる友人がいる、って。そう思うと、申しわけないくらいありがたいと思うのです。そう思ってやっと機嫌が直っ て、笑顔が浮かぶのです。そしてだれかの声が聞きたくなるのです。
感謝の心は笑顔をつくってくれます。そしてその笑顔によって、周囲のひとの心も和みます。
心のコントロールは本当に難しくて、年をとったからって、なかなかできるものではないですが、何かあった ら、まずは「あ、いかんいかん」と反省して、いまある自分に感謝をして笑顔を浮かべることができたら、それこそかっこいいシニアですよね。
失敗も挫折も数多く経験し、大切なひととの別離も数多く経験してきたシニアだからこそ、この笑顔はと ても大きな意味をもつのではないか、とわたしは思います。
いままで生きてきたことへの感謝と自信に溢れた笑顔は、若者がどんなに努力してもつくれない、心の中 から自然に湧き上がってくる笑顔です。人生というものへの本当の感謝を知っている「お蔭さまで」の笑顔 なのです。
このわたしも、自分の心の筋肉のトレーニングには手こずってばかりで、大きく心が揺れ動いて落ち込むこ とも多々ありますが、深くてたおやかな笑顔が似合うシニアをめざして、あなたといっしょにこれからも頑張っ ていきたいと思っています。
とっておきのおまけ:より完璧をめざすためのワーク
◆その1:バレリーナワーク
まず1つ目です。これは、特に何をするというものではないのですが、日々日常生活において、気がつい たら意識してやっていただきたい動作です。お勝手に立っているときや移動中の電車の中などですぐにでき ます。足首~膝~太ももまで、ジッパーを下から上へ閉めていくような意識でぴったりとくっつけてお尻を緊 張させます。そしてそのまま、今度は、窮屈な水着を着るような感覚で、下腹をぎゅーっとへこましてそのま ま内臓を上に押し上げるようにします。
このとき、腰が反らないように、そして肩が持ち上がらないようにしてください。肩は下にぐっと下げて首を 伸ばすようにします。バレリーナになったような気分で……。
この格好が習慣づけられると、立ち居振る舞いが美しく見えるだけでなく、体幹が鍛えられるので、お腹 もひきしまってきます。ぜひお試しください。
◆その2:足踏みワーク
腸腰筋が大腰筋と腸骨筋でできていることは第1章で説明しました。これらの筋肉が弱くなると、姿勢 が悪くなり腹筋が弱くなると同時に、つまずきやすくなったり転びやすくなったりします。なぜかというと、これ らの筋肉は股関節につながっていますよね。つまりは、股関節の曲げ伸ばしをサポートする筋肉だ、という ことです。
ということは、足の上げ下げもこれらの筋肉を使うわけですよね。そう、これらの筋肉が弱くなると、頭の中 では足を上げているつもりでも、実際に、足が上がらなくなってしまって、つまずいたり転んだりする、という 事態が発生してくるのです。
ウォーキングがよいといわれていますが、これらの筋肉を鍛えるためには、普通に歩くだけではさほどの効 果は期待できません。姿勢をよくして、股関節が開くほど大股でしかも速く歩く必要があります。
ここでは、それよりも自宅で同じような効果を得られるワークをご紹介したいと思います。「足踏みワーク」 です。図のように、床の上に立って、片足ずつ交代で上げていくのです。背筋は伸ばして(ただし反り腰に ならないように)、膝を股関節の高さにくるまであげます。バランスがとりにくい方は、椅子の背や壁に片手 を添えておこないましょう。片足ずつ交代でゆっくりと、最初は10回ずつやってみてください。慣れてきたら 徐々に回数を増やしていきましょう。
このときに大切なことは、足の運動をしているのではなく、お腹の奥の方にある大腰筋と腸骨筋を使って いるんだ、といった意識をしながらおこなうことです。
いかがでしたでしょう、『五筋ワーク』によるエイジングケア。どれも自宅で簡単にできるワークばかりです が、すべて実際にわたしが体験して効果を実感したワークです。
実際に自分が健康を取り戻してみると、何をするにもまずは健康ありきだな、ということがよくわかります。 健康でなければ、何かをする気力もわいてきません。美しく、そしてかっこよく年を重ねるクールエイジングを 楽しんでいくためにも、まずは健康な体をつくっていきたいものです。