卵巣がん・卵巣腫瘍の看護計画|症状や検査への正しい理解 2015/7/10
公開日:2015年4月4日 / 最終更新日:2015年7月10日卵巣がん・卵巣腫瘍
1、概念
卵巣がんとは、卵巣に発生するがんで、卵巣中の異なる細胞から発生する。80%以上は卵巣の表面に発生する上皮がんで、残りは主として卵子を生じる細胞から発生する胚細胞腫瘍と結合組織に発生する間質細胞腫瘍が占める。
2、原因
都心で生活する女性に多くみられることから、ライフスタイルや食生活の欧米化が原因の1つではないかと考えられている。初潮が早い、閉経が遅い、妊娠出産の経験のない人は罹患する確率が上がるとされている。とくに、2親等内に卵巣がんに罹患した人がいると危険性が高くなる
3、病態と臨床症状
病態
卵巣悪性腫瘍の組織型は多岐にわたる。頻度の高い上皮性卵巣がんでは、漿液性、粘液性、類内膜、明細胞、ブレンナー、および移行上皮、混合型、未分化、分類不能に分けられ、なかでも初めにあげた4型の頻度が高く臨床上重要である。
⑴ 漿液性腺がん
上皮性卵巣がんの40%程度を占め、約半数が両側性、抗がん薬が最もよく効くタイプである。
⑵ 粘液性腺がん
上皮性卵巣がんの15%程度を占め、Ⅰ期症例ではほとんど片側性である。
⑶ 類内膜腺がん
子宮内膜症と関連があり、子宮内膜がんとの合併症もある。抗がん薬が効きにくい。
⑷ 明細胞がん
近年頻度が増加傾向である。抗がん薬が効きにくい。
卵巣がんのTNM分類は、原発腫瘍の進展度、所属リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無による分類で、FIGO臨床進行期分類がこれに対応して作成されている。
臨床症状
卵巣がんは「サイレントキラー」とよばれ、無症状のうちに進行するものが多く、病期が進行してから発見されるケースも多い。胚細胞腫瘍や間質細胞腫瘍の場合は、エストロゲンを分泌して子宮内膜を増殖して乳房を大きくする場合がある。また、腫瘍から男性ホルモンや甲状腺ホルモンに似た物質を分泌するため、男性化や甲状腺機能亢進を呈する場合もある。
⑴ 腹部圧迫感
腫瘍が腫大すると下腹部に腫瘤を感じたり、腹部の圧迫感が生じる。初期では消化不良の症状に似た漠然とした不快感から症状が出現する。
⑵ 頻尿
腫瘍が膀胱を圧迫することによって出現することがある。
⑶ 消化管障害(便秘、腸閉塞)
腹腔内への腫瘍の進展によって、とくにS状結腸、直腸ではその表面への転移や直接浸潤が起こりやすい。腫瘍による圧迫で狭窄したり、がん性の癒着や腹水の影響によって生じた消化管運動障害により腸閉塞を起こす。
⑷ 骨盤部の疼痛
腹膜播種が進むと腹水が貯留し、骨盤痛、貧血、悪液質などが生じる。
⑸ 深部静脈血栓、肺梗塞
卵巣がんでは、原発腫瘍や転移した腫瘍によって大動脈が圧迫されること、腹水貯留に伴って血管内脱水が起こること、腹部膨満などの症状から活動性が低下することなどから、深部静脈血栓症が起こりやすい。また、卵巣がんの手術は侵襲が大きく血栓形成のリスクも高いため、術後の肺梗塞につながりやすい。
4、診断(検査)
卵巣がんの患者は、多くの場合腹部膨満感が出現して初めて婦人科を受診する場合が少なくない。問診では結婚・出産歴、月経異常の有無や家族歴などを聴取する。
⑴ 内診
卵巣腫大の有無、圧迫による子宮の偏位をみる。閉経後数年たっても触知可能な場合は、精査の対象となる。
⑵ 腫瘍マーカー
①尿検査
尿中ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が非妊娠中に陽性の場合、卵巣絨毛がんなどの胚細胞腫瘍を疑う。5−ヒドロキシインドール酢酸(5−HIAA)は卵巣カルチノイドで高値を示す。
②血液検査
上皮性腫瘍の腫瘍マーカーはCA125、CA19-9である。しかし、ほとんどの腫瘍マーカーは正常組織からも産生されており、高値でも悪性腫瘍でない場合もあり、その逆もありうる。
⑶ CT検査、MRI検査
腫瘍の性状、腹部・胸部の転移などの把握を行う。CT検査は大動脈周囲リンパ節転移や石灰化像の確認に優れ、MRI検査は腫瘍の質的診断(良性・悪性の診断、組織型の推定など)を得意とする。
⑷ 超音波検査
非侵襲的で簡便に腫瘍の内部構造を詳細に観察できる。通常は原発巣の性状を検査するためには経膣プローブを用いて行われる。経膣での検査時は排尿してから行うが、経腹で検査する際には腸内ガス像が妨げになるので、排尿をがまんさせ、膀胱の拡張によって小腸を頭側へ移動させて卵巣の描出を容易にして行う。
⑸ 病理診断
卵巣腫瘍は腹腔内にあるため、腹腔穿刺やダグラス窩穿刺を行うと腫瘍の腹腔内漏出を惹起するため、基本的には病理診断は手術前には行われない。進行症例では転移巣(リンパ節など)を対象とした検査は可能である。
5、治療
⑴ 外科的治療(手術療法)
①根治手術
基本術式は正中切開による単純子宮前摘出術+両側付属期摘出術+大網切除術が行われる。腹膜内に播種があれば、播種病変を可及的に切除する腫瘍減量手術を行う。
卵巣のリンパ流は広い領域にわたるためリンパ郭清の範囲が広くなり、術後生じた骨盤内の死腔などにリンパ嚢腫が形成されやすく、下肢リンパ浮腫も合併しやすい。
さらに、閉経前の患者が両側の卵巣を摘出した場合、卵巣欠落症状とよばれる。のぼせ・めまいなどの更年期障害に似た症状が現れることがある。症状は個人差があるが、必要に応じてホルモン補充療法を行う。
卵巣欠落症状の晩期症状としては、膣自浄作用の低下、骨粗鬆症、脂質異常症がある。
②妊孕性温存手術
術式は患側付属器摘出術+大網切除である。進行期確定のために腹腔細胞診、健側卵巣の生検、リンパ節郭清または生検が含まれる。
患者が挙児を強く望み、患者・家族が治療や予後について深く理解しており、進行期がⅠa期で高分化型であることが必要条件である。
⑵ 化学療法
卵巣がんの約60%が治療開始時に腹膜播種を伴い、手術のみでは完治が望めないため、化学療法との集学的治療が必要となる。手術により腫瘍を減量し、引き続いて全身化学療法を行うTC療法(パクリタキセルとカルボプラチン)、DC療法(ドセタキセルとカルボプラチン)が標準的治療である。主な合併症は、悪心・嘔吐、骨髄抑制による易感染状態と易出血状態、貧血、味覚障害、手のしびれ、脱毛などがある。
⑶ 放射線治療
卵巣がんで放射線治療が適用となるのは、再発例や遠隔転移例に対して症状を緩和する場合に限られる。局所再発で痛みを伴う、脳転移・骨転移による症状があるなどの場合に行う。
⑷ 免疫療法
進行卵巣がんに対して上記治療では十分な効果が得られていないため、新たな治療法の開発が行われている。シグナル伝達阻害薬、インターフェロン、抗CA125抗体などが研究されている。
6、予後
治療を行った場合の進行期別の5年生存率はⅠ期で70〜100%、Ⅱ期で50〜70%、Ⅲ期で15〜35%、Ⅳ期は10〜20%とされている。腫瘍の組織学的分化度が低い場合、手術で明らかに浸潤している組織をすべて切除できなかった場合は、予後は不良である。
7、看護過程の展開
アセスメント
患者背景
①現病歴
- 発症の時期、発見のきっかけ
- 自覚症状の有無
②既往歴
③妊娠・出産歴
④生活習慣
- 定期健康診断の受診の有無
⑤術式
- リンパ節郭清の範囲
全身状態
①栄養状態
- 食事摂取内容・量、食欲
- 身長、体重、体重の変動
- 口腔、皮膚、粘膜の状態
- 検査データ(TP、Alb、Hbなど)
②代謝状態
- 代謝性疾患の既往歴
- 検査データ(血糖値、HbA1c、肝機能)
③排泄状態
- 排便・排尿回数、性状、排便・排尿異常
- 腹部症状(圧痛、筋防御、ガス)
- 便通対策、排便支障因子
- 水分出納
④卵巣欠落症状
- 血管運動神経障害
- 運動系障害
- 精神神経障害
- 知覚障害
⑤化学療法による副作用の有無
- 悪心・嘔吐
- 骨髄抑制
- 脱毛
活動・休息
①日常生活での活動状況
②ADLの程度と変化
- 入院前の活動状況
- 活動時の生理的変化
- 骨量減少の有無
③手術療法後の呼吸器合併症
- 初回離床時の胸痛など
知覚・認知
①病態・疾患・治療についての知識
- 疾患の受容の状態
- 治療法選択における意思決定
②コミュニケーション能力
③心理状態
- 不安
- ストレスコーピング
④ボディイメージ
- 女性性器喪失、脱毛などボディイメージにかかわる副作用の程度と知識
⑤苦痛の有無
- 疼痛
周囲の認識・支援体制
①家族構成
②家庭的役割
③キーパーソンの有無、キーパーソンの認識
④社会的役割
- 社会生活での活動状況
- 仕事の種類・内容・継続状況
看護計画
#1 知識不足に関連した組織統合性障害
患者の目標・・・リンパ浮腫のある部位のケアを理解し、自ら実践できる
<OP>
⑴ 術式など治療内容からのリスク評価
①リンパ節郭清の範囲
⑵ 症状の程度
①リンパ浮腫の発生場所・範囲
- 浮腫部位の周囲径
- 皮膚色
②圧迫痕の有無
③主に下肢の倦怠感の有無
④組織の肥厚の有無
⑤象皮症様変化の有無
⑶ 日常生活の状況
①正座などのリンパ流を遮断する動作の有無
②長時間の立位が必要か
③下肢の運動の有無
④リンパドレナージの必要性の理解度と実施状況
⑤弾性包帯、弾性ストッキング着用の有無
⑥日常の動作のしにくさ
⑦体重管理
⑷ 感染の予防と早期発見
①リンパ浮腫部位の感染徴候の有無
- 発赤、腫脹、熱感、疼痛
②発熱、CRP値上昇の有無
③清潔保持の自己管理方法
④損傷予防の必要性の理解度
<TP>
⑴ スキンケア
①皮膚の保湿を心がける
②保湿剤は刺激の少ない物を選ぶ
⑵ リンパドレナージ
①肩回しと腹式呼吸
②患肢のある側の腋窩リンパ節に向かって円を描くように皮膚だけを動かす。
③基本的な手技の流れ
- 腋窩→体幹→腹部→殿部→大腿→膝・下腿→足→まとめ(足先から腋窩までさすりあげる)
④急性炎症がある場合は医師に報告する。
⑶ 圧迫療法
①浮腫の状況に応じて弾性包帯を巻く、または弾性ストッキングを用いて圧迫する。
- 適切な圧で巻く
- しびれ防止のため、足背に圧力を入れすぎない
- 日常生活に影響のないように、足首や膝関節の可動性を保つ
- 弾性ストッキングは、サイズの確認を行う
- 装着による皮膚トラブルを確認する
⑷ 下肢の運動
①弾性ストッキングなどで圧迫しながら運動を促す。
- 足関節の屈曲・伸展
- 膝関節の屈曲・伸展
<EP>
⑴ 皮膚の症状管理に関する指導
①スキンケアの方法
②リンパドレナージの目的と方法
③弾性包帯、弾性ストッキングの着用方法
④運動療法
⑵ 症状を悪化させない生活習慣に関する指導
①注意すべき日常生活について
- 正座
- 長時間の立位
- 重い荷物を繰り返し持ち上げる動作
- 長時間の飛行機での旅行
- 温熱・寒冷刺激
②運動後の休息について
- 足を心臓より高く(10cm程度)して休む
- 側臥位の際は、足のあいだに枕などを挟み、足を重ねないようにする
③日常で起こりがちな皮膚損傷について
- 下肢の切創
- 日焼け
- 虫さされ
- 毛剃り
- 低温やけど
- 必要時、白癬の治療
④衣生活について
- 小さめの衣類、サイズの合わない靴、ハイヒールは避ける
⑤体重管理
⑶ 異常症状と対処方法
①受診が必要な症状
- 38℃以上の高熱
- 赤い斑点や広範囲の発赤
- 疼痛
②蜂窩織炎発症時の対処方法
- 炎症部位を冷やす
- リンパドレナージ、弾性包帯、弾性ストッキングなどによる圧迫の中止
- すみやかに受診する
#2 ボディイメージ混乱に関連した自尊感情状況的低下
患者の目標・・・否定的な発言がなく、現在の自分の状況を受け止めることができる
<OP>
⑴ 不安を表す生理的症状の有無
①不眠
②食欲不振
③いらいら感
④落ち着きのなさ
⑤疲労感、倦怠感
⑥心悸亢進、など
⑵ 女性性器喪失や脱毛に対する心理的な状態
①発言の内容
- 手術や治療によって変化した身体機能に関する発言の内容
- 自己尊重のレベル
②表情、態度、しぐさ
⑶ ボディイメージに関連する身体状態
①脱毛の程度・状態
②リンパ浮腫の有無と程度
③その他、合併症の有無
⑷ 家族の支援状況
①面会の状況
②キーパーソンの有無
③家族からの支援の有無
<TP>
⑴ 受容的・肯定的態度で患者の訴えや思いを傾聴
①患者について肯定的に述べる。
②状況に対処できる力があることを患者に伝える。
③目標達成に向けた患者の進歩を褒める。
⑵ 患者が気持ちを表出しやすい環境づくり
①頻回に訪室する。
②家族とゆっくり過ごせる場を提供する。
③必要時、家族との調整役となる。
⑶ 外見変化の影響を軽減する環境づくり
①面会者に会う前に外見を整えることができるよう援助する。
②脱毛が生じたときには、ベッド周囲をすみやかに整える。
<EP>
⑴ 外見変化の影響を軽減する方法を指導
①脱毛について
- 脱毛の機序
- 脱毛の時期と経過:一時的であること
- 脱毛への準備:短くカットしておく、など
②容姿の保整
- 帽子や医療用かつらに関する情報の提供
③洗髪の方法
- 刺激の少ないシャンプーを使用
- 泡立ててから優しく洗う
- 熱風のドライヤーの刺激を控える
④リンパ浮腫について(#1の<TP>⑵を参照)