脱毛 (美容)
かつては女性による脱毛が主流であったが、近年は男性が行うことも少なくない。
体毛除去の方法としての脱毛
体毛を除去するためには、かみそりを用いて剃毛する、クリーム状または泡状の除毛剤を用いて除毛をすることなどがあるが、脱毛は毛を毛根から抜くことを指し、毛抜きなどを使ったり、ワックス脱毛のように多くの毛を同時に毛根から抜くという方法がとられている。毛抜きなどにかわり、電動の脱毛器具も市販されている。
現在のような器具や脱毛剤を用いるか否かに関わらず、脱毛そのものは、考古学的には2万年ほど前から鋭利な石器や貝殻を用いて削り取るように剃っていた、と推測されている。
脱毛剤は美観や宗教的な目的で紀元前4〜3世紀の頃より存在し、香料を混入した粘り気のあるペースト状態の油脂や澱粉を肌の上に転がして脱毛する方法は、現代においても体毛を不浄と位置付けている宗教で婚姻の際などに花嫁に用いられている。また、溶岩が硬化する段階で火山ガスを放出して生成された、微細な気孔を多く持つ軽石や火山灰を混入した練り物も存在し、微粒子が摺り合って体毛の切断や除去に用いられている。紀元前3世紀頃のシュメール人はピンセット若しくは毛抜きを用いて脱毛し、古代アラビア人は縄を体毛の上に転がして縄目の撚りを利用して脱毛していた。紀元前300〜100年頃のものとされる古代ギリシアの出土品の中に青銅製のピンセットが現存する[1]。
一方で男性に関してはヘロドトスが「人間は死後に髪の毛や髭が伸びるのに関わらず、エジプト人はヒマさえあれば髭剃りをしている」と述べ奇異を表しているように、成人男性は髭を生やしているものと考えられていた[2]。
しかしローマではやがて男性も髭を剃るようになり、さらには体毛を除去する男性も現れるようになった。セネカが浴場では体毛を抜く時に上げるうめき声が聞こえてうるさいと記していることから、紀元1世紀頃のローマの公衆浴場ではそれはよく見られた光景と考えられる。ところが髭をのばす風習はハドリアヌスの時代に再び現れる。ギリシアかぶれとして知られるハドリアヌスはギリシア風に髭を生やしたままにしたという。ハドリアヌス以前には髭を生やした皇帝の彫像は見られないがそれ以降にはしばしば見られる。このような、顔面を初めとして体毛を除去する行為は、高貴な地位を表すステータスシンボルとされていた。
アラブやイスラーム社会では、成人男女共に首から下の体毛を剃毛することが、イスラームが勃興した1400年以上前から現代にいたるまで宗教的身だしなみとして既定されている。そのため男女共々10日に一度程度の頻度で、腋毛や陰毛を剃刀で剃ることが習慣である。
日本での歴史
平安時代(8〜12世紀)の日本では、表面が滑らかで、同種の貝でさえも別のものでは決して合わない二枚貝のハマグリの外縁部を使い、額の生え際を整えるため毛を抜いていた。ちなみに額の生え際の何らかの脱毛処理は13世紀頃の英国でも行われており、女王の肖像画から脱毛の存在を推し量ることができる。
江戸時代中期以降となると、ヒゲを含め体毛全般が嫌われるようになり、眉を抜いて薄くし、これを“かったい眉”として粋を競うことが流行。また、男たちは銭湯で脱毛に励んだ。男湯限定で常備されていた“毛きり石”という軽石や貝を擦り合わせ、削り取るようにして、すね毛、わき毛、陰毛、尻や肛門周辺の毛等の体毛を除毛していた。剃刀で剃ることもあった。当時は褌姿でいることが多く、そのときに覗く体毛が嫌われていたためである。このことについて川柳にも「石榴口蛙啼くなり毛切石」という句が残されている。[3][4] 一方で、女性も男性と同じように脱毛をしていたが、特に遊女は石を使った方法だけでなく、線香の先で焼切るという方法も取り入れていた。
体毛を処理する理由
脱毛の理由は様々である。文化的には上で見られるように、古代から体毛を除去する慣習が知られており、タンクトップや短いスカートの着用にあたって、皮膚が露出する部分の腋毛やすね毛は剃毛するか脱毛するかということが一種の身だしなみとなっている。ドミニク・アングルが19世紀に描いた女性の体には腋毛や陰毛が認められない。
男性にも長い間髭を剃るという慣習はあったが、近代までの西洋世界では日常的には髭以外の体毛処理はあまり行われず、例外的に自転車競技やサッカー選手、野球選手が、脚の毛を怪我に備えての処理をするくらいであった。また、美容目的ではボディビルダーが全身を脱毛する位であった。しかし露出や裸体への強烈なタブー感が薄まるにつれて、現代では脱毛も徐々に行われるようになった。
医師法との関係
針脱毛やレーザー脱毛は医療行為とされ、医師のいないエステティックサロンでの営業には法的問題があった。また、高額な内容であるにもかかわらず、その場ですぐに契約させようとするといった問題もあった。厚生労働省が、2001年に「医師免許の無い者がレーザー脱毛をすることは医師法違反」と通達したのを受け、各エステティックサロンは、業界団体の再編やそこでの検討を経て、レーザーの出力を一定値以下に抑えるなどして対応している。しかし、2009年には、神戸市をはじめ近畿・中国地方の西日本地区に店舗を展開するエステティックサロンチェーンが、医師免許を持たない従業員にレーザー脱毛を行わせていたことが判明し、兵庫県警が医師法違反容疑で捜索を行っている。この店の利用者の中には、火傷などのトラブルに見舞われた者もいるという。2012年3月には、2011年7月に医師免許が無いのに20代の女性に脱毛する医療行為を行ったとして、大阪府警生活環境課と曽根崎署は6日、エアフール(大阪府大阪市北区茶屋町)女性社長とエアフール梅田店店長従業員の3人を医師法違反で逮捕した。続いて同年6月には山形市のエステ店で医師免許を持たずに医療行為の「光脱毛」を行ったとして、山形県警生活環境課と山形署は29日、同店を経営する「ブラッサム」社長ら3容疑者を医師法違反(無資格医業)の疑いで逮捕した。また、2014年4月にも、姫路市のエステサロン「ハニーフラッシュ」の経営者と元店長の合わせて3人が医師法違反の疑いで逮捕された。同店では8年前から客に対して同様の脱毛行為を行い、これまでに少なくとも310人の客が店側に健康被害を訴え出ていたとのこと。またさらに厚生労働省研究班が医師を対象に調査した結果によると、エステ利用後に健康被害を訴える人が相次いでいることが判明。患者324人のうち41%が脱毛の施術を受けており、研究代表者は、エステで使われる光脱毛器の不適切な使用で火傷を負うケースが多いと指摘している。
痛みのリスクに関して
2017年5月11日、国民生活センターは、美容脱毛に関するアンケートの結果を発表した。うち7割以上が、脱毛による副作用のリスクについて説明を受けていなかったことが判明。同年3月にインターネットで実施したそのアンケートでは、回答した男女1000人のうち、255人(25.5%)が施術後に痛みなどの症状が出たと答えた。このうち事前にリスクの説明を受けていたのは67人にとどまった。脱毛施術を巡っては、全国の消費生活センターなどにトラブルの相談が後を絶たない。国民生活センターのまとめでは、2017年2月末までの約5年間に、やけどなどの症状が出たという相談が計964件寄せられた。治癒に1ヶ月以上かかる重症例も129件(13.4%)あった。相談内容は、脱毛エステを受けたら背中など広範囲に発疹が出た、美容外科でレーザー脱毛を受けたところ肌が腫れシミが残った、など。施術場所はエステが680件、医療機関が284件。 西山美容・形成外科医院の西山真一郎院長によると、脱毛の際は、患者の肌質によってレーザー照射時間を判断するなど慎重な対応が必要だが、それでも症状が出る場合もあるという。西山は「リスクについて事前に十分な説明を受けることが大切」と指摘する。一方、消費者に誤解を与える広告も多い。施設によっては「痛みゼロ」「トラブルの心配なし」などの表現で宣伝していた。完全に毛を生えなくする「永久脱毛」は医療行為のためエステではできないが「処理した毛はもう生えない」などと宣伝するエステもあり、国民生活センターは「医師法に抵触する可能性もある」としている。
ワックス脱毛
ワックス脱毛とは脱毛用に開発されたワックスを皮膚に塗り、毛とワックスとが接着する性質を利用し、これを引きはがすことによって、毛を毛根から取り除く方法である。家庭用での自己処理のために、室温で使えるジェル状のものや、シートに塗布された状態で市販されているものもある。
エステティックサロンで用いられる業務用のワックスは、室温では固形であり、金属の缶に入ったままヒーターで加熱されて融解させて使用する。この際、木製の使い捨てスパチュラを使ってワックスを脱毛する部位に塗る。ワックスは、綿や不織布でできた当て布を用いて引きはがすソフト・ワックスと呼ばれるものと、ワックス自体が固体化する性質のハード・ワックスと呼ばれるものがある。
レーザー脱毛
レーザー脱毛とは黒色、または茶色に吸収される波長のレーザーを皮膚に照射することで、毛や毛根、周辺組織にダメージを与え、脱毛する。また、毛のライフサイクルのうち、成長期に照射した分のみが永久的に脱毛されるといわれる。これは、毛根に対して十分な熱量が与えられるのがこの期間に限られるからである。
ニードル脱毛
ニードル脱毛は、電気針を使用する医療脱毛の一種。針脱毛とも呼ばれている。皮膚科や美容整形外科のある病院で行われる。医療行為のため、医師、もしくは看護師でないと施術は出来ない。1800年代の後半、アメリカで逆さまつ毛の治療法として誕生。日本には1960年あたりから取り入れられた。毛穴に絶縁針を刺し、電流と高周波熱で毛乳頭を焼き、組織を破壊して脱毛する。毛乳頭が完全に破壊されると、そこからは永久に毛が生えてこない。アメリカ食品医薬品局(FDA)が唯一、永久脱毛の効果がある脱毛方法と認めている。レーザー脱毛では行えない産毛や白い毛の脱毛や、日焼けした肌や、シミ、アザ、ホクロなどメラニン色素が濃い部分の脱毛がニードル脱毛では可能である。施術時に痛みを伴い、色素沈着や内出血等のトラブル事例も散見されており、施術時には注意を要する。
- 小林敏男、玉田伸二、山本貴弘、若松信吾(編)、日本医学脱毛学会(監修)『医学脱毛:多毛症の基礎からレーザー脱毛まで』(金芳堂、2000年)