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日本で保険適用となっている膵臓癌治療薬は、以外と少ないことはご存知だろうか

塩酸ゲムシタビン(GEM、一般名:ジェムザール)
ジェムザールは代謝拮抗薬に分類される抗癌剤で、北米にて行われた第III相試験にてフルオロウラシル(5-FU)よりも良好な症状緩和効果と延命効果を有することが示された
これを受けて米国では1996年より膵癌に対する使用が承認され、わが国でも2001年に保険適用が認められた
ジェムザールは、現在膵臓癌の化学療法(抗がん剤治療)において第一選択肢となることが多い抗がん剤であるが、腫瘍縮小効果はあまり期待できるものではない
痛みなどの症状緩和効果が23.8%と5-FUの4.8%に比較して優れていると言われている
ジェムザールの投与方法は点滴静注で、週1回の注射を3回繰り返し1回休むという方法を繰り返す
副作用や症状の改善度などを見ながら、隔週投与などに変更するなど投与法の調整を行う場合もある
主な副作用に白血球減少、血小板減少、悪心、嘔吐、肝機能低下、倦怠感などがある

ティーエスワン:TS-1(一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)
その後、わが国においては、5-FUのプロドラッグ(プロドラッグとは、そのままでは目的の薬理作用を発揮せず,生体内へ吸収された後,代謝されて初めて薬理活性を発揮するようになっている薬物を言います)であるテガフールとモジュレーターの配合剤であるTS-1の開発が膵癌に対して進められ、第II相試験にて良好な奏効割合が示されたことから、2006年に膵癌に対する保険適用が承認された
TS-1は内服タイプ(飲み薬)の抗がん剤であるので、通院治療でなく自宅で治療薬できるという利便性がある
主な副作用に白血球減少、血小板減少、貧血、悪心、嘔吐、肝機能低下、倦怠感、食欲不振、下痢、口内炎、色素沈着などがある

タルセバ(一般名:エルロチニブ)
一方、GEMの登場以来、より優れた治療の開発を目的とした研究も積極的に展開された
もっとも注力されたのがGEMと他の抗癌剤との併用療法(GEM+α)であったが、そのほとんどは第III相試験でGEM単独に対する延命効果を証明できずに終了している
それらの中で、GEM とEGFR チロシンキナーゼ阻害薬のエルロチニブ(タルセバ®:膵臓癌に対して我が国では2011年7月承認)との併用療法に関しては、北米で行われた第III相試験でGEM 単独に対する生存期間の優越性が示されたことから(MST:GEM +エルロチニブ群 6.24 カ月vs. GEM 群 5.91 カ月、p = 0.038)、2005 年より米国での使用が承認されている
しかし、生存期間の差が大きくなかったことから副作用やコストに見合う臨床的意義を疑問視する声もあり、GEM 単独に置き換わる位置付けにはなっていない
重篤な副作用として、間質性肺障害が高率(8.5%)に発生するという報告がある

シスプラチン(商品名:ランダ、ブリプラチン)
シスプラチンは強力な腫瘍縮小作用を持ち、いろいろな癌への適応があるが、我が国では膵臓癌に対して保険適用外である
しかし実際には、ジェムザールなどと併せて使われることがある
腎臓障害の副作用が強い

ゼローダ(一般名:カペシタビン)
我が国では膵臓癌に対して保険適用ではないが、海外では使われている
(日本では乳がん、大腸がん、胃がんに対して保険適用)
血中の薬物濃度が高くなりすぎるので、TS-1(ティーエスワン)との併用は絶対に行われない

その他の抗がん剤
GEMとアバスチン(一般名ベバシズマブ)やアービタックス(一般名セツキシマブ)などの分子標的薬の組み合わせは、大いに期待された、残念ながらGEM単独と比べて膵臓癌では延命効果は見られなかった

フォルフィリノックス(FOLFIRINOX)
1990年代後半にGEMが登場してから10年以上にわたってGEM単独よりも明らかに優れた延命効果を示す治療法を見いだせない状況が続いていたが、2010年のASCO(米国癌治療会議)にて5-FU/ロイコボリン(LV)とイリノテカン(CPT-11)とオキサリプラチン(L-OHP)の併用療法であるFOLFIRINOX療法と呼ばれるレジメンが、遠隔転移を有する膵臓癌に対してGEM単独よりも明らかに良好な延命効果を示したことがフランスのグループから報告された
本研究によるとFOLFIRINOX 療法はGEM 単独よりも抗腫瘍効果、無増悪生存期間、全生存期間が有意に優れていた(MST:FOLFIRINOX 群 11.1カ月vs. GEM 6.8 カ月,p < 0.001)ことから、我が国でも臨床試験が行われ、2013年12月に国内での切除不能な膵臓癌に対して保険適用が承認された
FOLFIRINOX 療法は、新しい抗がん剤の名前ではなく、これまで他の癌(主として大腸癌)の治療に用いられていたFOLFOX療法(オキサリプラチン+5-FU)とFOLFIRI療法(イリノテカン+5-FU)を発展させた多剤併用療法である
使用されるのは、オキサリプラチン(L-OHP)、イリノテカン(CPT-11)、フルオロウラシル(5-FU)の3種の抗がん剤とレボホリナートという薬剤である

オキサリプラチン(L-OHP、商品名:エルプラット〔ヤクルト〕)
第三世代白金製剤(その名の通り白金:プラチナを利用した薬のこと)で、DNA合成を阻害する作用を有する
癌細胞のような細胞分裂を活発に行う細胞は「DNA合成の阻害」による毒性を特に受けやすいため、細胞死が引き起こされる
なお、細胞毒性を示す薬であるため、副作用が強い薬でもある
主な副作用としては末梢神経症状、疲労、食欲不振、悪心、嘔吐、白血球減少、好中球減少、血小板減少などが知られているが、他の白金製剤と異なり、重篤な腎臓障害は改善されている

イリノテカン(CPT-11、商品名:カンプト〔ヤクルト〕、トポテシン〔第一三共〕)
カンレンボク由来の抗腫瘍性アルカロイド(植物体に含まれる窒素を含む塩基性の有機化合物で、毒性や特殊な生理・薬理作用をもつものが多い。タバコのニコチンや茶のカフェイン、ケシのモルヒネなど)であるカンプトテシンから合成された抗悪性腫瘍薬である
カンプトシンには、細胞が分裂して増殖する際にDNA合成に必要な酵素のひとつトポイソメラーゼⅠの働きを抑えて癌細胞のDNA合成を阻害し、癌細胞の増殖を抑えたり、死滅させたりする働きがある
なお、細胞侵害性(細胞分裂を抑える作用)のある薬であるため、副作用が強い
主な副作用としては白血球の減少や悪心、嘔吐、食欲不振、下痢、腹痛などが知られている

フルオロウラシル(商品名:5-FU〔協和醗酵キリン〕)
フッ化ピリミジン系の代謝拮抗剤、核酸のDNA形成に必要なピリミジンの合成を阻害し、抗腫瘍効果を表す
1956年にDushinskyらによって合成され、その後Heidelbergerらを中心として基礎および臨床にわたる広範な研究で抗悪性腫瘍剤としての評価が確立された
35年程前、私もこの薬の安全性/有効性試験に参加したことがある
その頃は自分がこの薬を使うことになるとは夢にも思ってもいなかったので、何か感慨深いものがある
吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、口内炎、味覚障害、発疹、痒み、色素沈着、脱毛など、いろいろな副作用が出やすいが、充分なコントロールが出来ればさほど重篤なものではない
重大な副作用として、脱水症状、重篤な腸炎、骨髄機能抑制(白血球減少、赤血球減少、血小板減少)、ショック、アナフィラキシー様症状、白質脳症、うっ血性心不全、心筋梗塞、安静狭心症、急性腎不全、間質性肺炎、肝機能障害、黄疸、消化管潰瘍、重症な口内炎、急性膵炎、意識障害を伴う高アンモニア血症、肝・胆道障害(胆嚢炎、胆管壊死、肝実質障害等)、手足症候群、嗅覚障害などがあるが、発症頻度は高くない

レボホリナート(一般名:レボホリナートカルシウム)
レボホリナート自体は抗がん剤ではなく、フルオロウラシル(5-FU)と併用することで、5-FUの抗腫瘍効果を増強させる働きがある


2ヶ月前、開腹手術をしたものの予想以上に大血管への浸潤が進んでいて、手術不適応と知らされた
後は、抗がん剤による化学療法、放射線療法及びそれらを併用した化学放射線療法が残されていた
主治医のO先生と相談して、膵臓癌には有効性が低い放射線療法ではなく、抗がん剤治療から始めることにした
この時点で候補となる抗がん剤標準治療は、ジェムザール単独投与、TS-1単独投与、ジェムザールとTS-1の併用投与、そして1番新しいフォルフィリノックス療法である
ジェムザール単独投与は術前治療として3クール経験しており、副作用も発熱と発疹(痒み)程度しかなかった

しかし、私は迷うことなくフォルフィリノックス療法を選択した
理由は、先ず昨年12月に認可された1番新しい治療法であり、最も延命効果が期待できること
…と言っても、治験データではジェムザールと比べて3ヶ月程、これから臨床データが集まってどう変わっていくか注目!…
それと、他の抗がん剤と比べて副作用が半端なく強いので、65歳未満で比較的体力のある患者のみが適正使用の目安となっていること
他の抗がん剤から始めてボロボロになった身体では耐えられない、だから、やるなら今でしょ!
ただ問題もある、それは遺伝的に5-FUに対する感受性が低い人が居て、それらの人への治療効果は期待できない
自分の遺伝的感受性がどうなのか? 時間と金を掛けて調べることも可能だが、1日も早く治療を始めるために見切り発車することにした
フォルフィリノックスと放射線との併用療法について質問したところ、今まで誰もやったことがなく(標準治療として認められていない)、仮にやったとしても、副作用が強すぎて死んじゃうでしょう、という答えが返ってきた

フォルフィリノックス療法は、2週間を1サイクルとして静脈内投与(点滴)を繰り返す
1日目は、制吐剤(吐き気止め)を30分間点滴後、オキサリプラチン(L-OHP)を2時間、その後レボホリナート(l-LV)2時間、l-LV開始30分後からイリノテカン(CPT-11)90分間、この後オリジナル・フォルフィリノックス療法では、5-FUを急速静注した後、46時間の持続注入を行う
これは、5-FUの半減期が10分間と余りにも短いので一気に血中濃度を上げるために行われるのだが、その分副作用も強く出るので、先生と相談して、急速静注を省いた修正法(m-フォルフィリノックス)を行うことにした
m-フォルフィリノックスでは、他の薬の用量も日本人に合わせて調整されているようだ

治療を始めてから2ヶ月、2日前に4クール目の投与が終わったところ
1日目は通院で処置を受け、5-FUの持続注入に切り替わってから帰宅する
5-FUの持続注入時間は46時間であるが、薬剤が入った風船がしぼみ込むのに大概はそれより2-3時間は遅くなる
いずれにしても、3日目に自分で針を抜かなければならないが、慣れればどうってことはない
副作用については、これまでにも書いてきたが、休薬期間に入って身体から薬が抜けていけば徐々に軽くなっていく
どうしても無くならないのが、手足の痺れなどの抹消神経症状と口腔粘膜炎による味覚障害
特に後者は、舌の痺れと疼痛感、味覚障害で食べ物の味が全く変わってしまった
以前は、食べたい物が食べられないならば死んだ方がマシだ!などと広言して、寿司、焼肉、しゃぶしゃぶ、ステーキ、スイーツなど、健康より美食大事の食生活であったが…
味覚障害で食べ物の味が変わったら何の事はない、口に入れても美味しくなければ食べたいとは思わなくなった

これほど辛い思いをしているフォルフィリノックス療法、果たして効いているのか?
その効果判定のためのCT検査を来週受けることになっている
結果が楽しみだ
もちろん上手く効いていて、癌が少しでも小さくなっていれば良いが、全く効果が無かったとしても後悔はない
それはそれで次に進むためのステップに過ぎないし、何よりも同じ病気で闘っている患者さん達への有益なエビデンスになるだろう



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