大腸がんに対して現在使用されている代表的な薬剤は、フルオロウラシル(商品名:5-FUなど)、イリノテカン(商品名:トポテシン、カンプト)、オキサリプラチン(商品名:エルプラット)の3剤です(表1)。抗がん剤には、作用のしかたによって幾つかの種類がありますが、フルオロウラシルは「代謝拮抗剤」と呼ばれる薬剤で、分裂を繰り返すがん細胞の代謝を阻害して、がん細胞を死滅させる働きを持ちます。
この作用を応用して、フルオロウラシルのプロドラッグ(体内で代謝されてフルオロウラシルに変わる薬剤)である、テガフールを配合した、テガフール・ウラシル配合剤(UFT)やテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1)も、大腸がんの治療に使われています。
イリノテカンは、植物から抽出した成分である「植物アルカロイド」を使った薬剤で、細胞内の特定の酵素を阻害することで、がん細胞の分裂を妨げ、がん細胞を死滅させる働きを持っています。オキサリプラチンは、プラチナ(白金)の化合物で、「プラチナ製剤」と呼ばれます。がん細胞の遺伝子に作用して、がん細胞の分裂を妨げます。
大腸がんの化学療法は、かつてフルオロウラシルとホリナートカルシウム(商品名:ロイコボリン、アイソボリン/ユーゼル)の併用療法が標準とされてきました。ホリナートカルシウムは抗がん剤ではなく、カルシウム塩で、フルオロウラシルの効果を強める働きをします。
近年、オキサリプラチンやイリノテカンが登場してからは、この併用療法に代わって、フルオロウラシル+ホリナートカルシウム+オキサリプラチン(フォルフォックス療法:FOLFOX療法)やフルオロウラシル+ホリナートカルシウム+イリノテカン(フォルフィリ療法:FOLFIRI療法)が、標準的治療となっています。
フルオロウラシル単剤による進行・再発大腸がんに対する奏効率は10~20%、フルオロウラシル+ホリナートカルシウム療法の奏効率は約20%、生存期間の中央値はおよそ1年といわれています。一方、FOLFOX療法やFOLFIRI療法では、奏効率は30~50%、生存期間の中央値は16~20カ月と、治療成績は大きく向上しました。
また2007年、「分子標的治療薬」と呼ばれる新しいタイプの薬剤であるベバシズマブ(商品名:アバスチン)が大腸がんの治療薬に加わりました。分子標的治療薬は、がん細胞だけが持つ特定の分子やがんの増殖・転移に深く関わる分子だけを狙って攻撃するように作られた薬剤です。
従来の抗がん剤は、がん細胞の分裂を妨害するなどしてがん細胞を死滅させますが、同時に正常の細胞をも攻撃してしまう欠点がありました。分子標的治療薬では、従来の抗がん剤よりも正常細胞が傷つけられることが少ないとされています。
ベバシズマブは、がん細胞の増殖に必要な、栄養と酸素を供給する血管の成長(血管新生)を促すVEGF(血管内皮増殖因子)というタンパク質を標的として、がん細胞の増殖を妨害します。
次いで2008年、セツキシマブ(商品名:アービタックス)という分子標的治療薬が大腸がんの治療薬に加わりました。セツキシマブは、がん細胞の細胞膜表面に発現しているタンパク質を目印にがん細胞を見分け、がん細胞の増殖を阻害する働きを持っています。がん細胞が増殖するときに出される信号を遮断することから、「シグナル(伝達)阻害剤」ともいわれます。
さらに、2010年にはパニツムマブ(商品名:ベクティビックス)という新たな分子標的治療薬が登場しました。セツキシマブと同じタンパク質を標的に作用し、がん細胞の増殖を阻害します。
最近では、分子標的治療薬が併用されることも多くなっています。FOLFOX療法、FOLFIRI療法、フルオロウラシル+ホリナートカルシウム(5FU/l-LV療法)のいずれかにベバシズマブを併用する治療法や、ベバシズマブの代わりにセツキシマブあるいはパニツムマブを併用する治療法が行われます。
| 薬剤の一般名 | 略語 | 薬剤の種類 | 治療対象 | 投与方法 |
|---|---|---|---|---|
| テガフール・ウラシル配合剤 | UFT | 代謝拮抗剤 | 大腸がん(結腸がん、直腸がん) | 内服 |
| テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤 | TS-1/S-1 | 代謝拮抗剤 | 大腸がん(結腸がん、直腸がん) | 内服 |
| カペシタビン | CAP | 代謝拮抗剤 | 結腸がんにおける術後補助化学療法 | 内服 |
| CPT-11 | 植物アルカロイド | 切除不能な進行性あるいは再発性大腸がん | 点滴で静脈内投与 | |
| L-OHP | プラチナ(白金)製剤 | 切除不能な進行性あるいは再発性大腸がん | 点滴で静脈内投与 | |
| BV | 分子標的治療薬 | 切除不能な進行性あるいは再発性大腸がん | 点滴で静脈内投与 | |
| 分子標的治療薬 | 切除不能な進行性あるいは再発性大腸がん | 点滴で静脈内投与 | ||
| 分子標的治療薬 | 切除不能な進行性あるいは再発性大腸がん | 点滴で静脈内投与 | ||
| 分子標的治療薬 | 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌 | 内服 |
表1 現在使用されている治療薬
●薬剤別にみる大腸がん化学療法
5-フルオロウラシル(5-FU)のがんに対する有効性は、1957年にNature誌で抗腫瘍効果が報告されたのが最初だとされています。以来、50年以上の長期にわたって、5-FUは大腸がん化学療法の主役を担い続けてきました。近年になってさまざまな薬剤が登場してきましたが、約40年にわたり、大腸がんで奏効が期待できる薬剤は5-FUしかありませんでした。そういう意味では、非常に稀有な薬剤と言えるでしょう。
5-FU単剤の治療効果を最初に示したのが、2000年にBMJ誌に掲載された論文です(BMJ 2000;321:531-535.)。切除不能な大腸がんに対し、緩和ケア(BSC)群と5-FUベースの化学療法を行った群を比較した13個の大規模な臨床試験の結果をまとめて解析しました。計866人のデータを調べたところ、全生存期間中央値はBSC群で8.0カ月、化学療法群で11.7カ月で、化学療法による明らかな延命効果が証明されました。
その後、5-FUの効果を高めるために、さまざまな薬剤との併用が試みられました。1980年代には5-FUの急速静注とカルシウム塩であるホリナートカルシウム(LV、商品名:ロイコボリン)の併用療法が注目を浴びました。特に米国では、この併用療法が標準治療として使われ、さまざまな治療レジメンが生まれました。しかし、5-FU+LV療法は5-FU単独と比較して、奏効率は上昇しましたが、明らかな生存期間の延長を示すことはできませんでした。
一方、わが国では、長らくLVが承認されませんでしたが、1999年にレボホリナートカルシウム(l-LV、商品名:アイソボリン)が承認されました。
また、5-FUの投与方法についても検討が進みました。フランスでは、持続静注法が急速静注法に比べて、生存期間では有意差を認めなかったものの、奏効率(32.6%対14.4%)、無増悪生存期間(6.9カ月対5.5カ月)、重い毒性が生じた頻度(11.1%対23.9%)については明らかに優れていたという結果が出され、注目されました(J Clin Oncol 1997;15:808-815.)。
ドイツでも、持続静注法が急速静注法に比べて生存期間および奏効率では有意差を認めなかったものの、無増悪生存期間(5.6カ月対4.0カ月)は明らかに優れていたという結果が示されました。毒性についても、血液毒性や下痢以外の非血液毒性、治療関連死亡はいずれも急速静注法で頻度が高くなる傾向にあり、持続静注法が優れているとの結論となりました(J Clin Oncol 2003;21:3721-3728.)。
以降も、複数の臨床試験が行われましたが、総じて持続静注法の方が急速静注法に比べて安全で有効との結論が得られ、5-FUは持続静注法が主流となりました。現在も汎用されている代表的な二つの投与レジメンを以下に示します(de GramontレジメンおよびsLV5FU2レジメン)。これらのレジメンは、次回以降に述べるFOLFOX療法やFOLFIRI療法という、現在標準的治療法とされている治療法へと発展していきました。
de Gramont(LV5FU2)レジメン
sLV5FU2レジメン
また、5-FUは内服できる経口薬の開発も進みました。現在、日本ではテガフール・ウラシル配合剤(商品名:UFT)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(商品名:TS-1)、カペシタビン(商品名:ゼローダ)の3剤が大腸がんの治療で使用されています。5-FUに置き換えるような治療も、一部では行われているようです。
1990年代に入ると、わが国で開発された「植物アルカロイド」を使ったイリノテカン(CPT-11、商品名:カンプト、トポテシン)という薬剤が、まずは単剤でその有効性を認められました。1957年以来、大腸がんにおいて5-FUのほかに初めて有効性が確認された薬剤の登場です。イリノテカンの母体となった化合物は米国で単離されましたが、副作用が強かったことから毒性の軽減を目指した研究が重ねられ、組織移行性の高いイリノテカンが選ばれてさらに開発が進められました。
そして1995年、イリノテカンは世界に先んじてわが国で大腸がんを対象に承認されました。ここまでは、わが国がイリノテカン開発の先陣を切ってきたわけですが、その後は欧米で積極的にイリノテカンの臨床試験での評価が進み、その後の新薬の開発においても、日本はどんどん欧米から後れを取っていきました。
1998年には、5-FUが無効となった大腸がんの二次治療として無治療群とイリノテカン群とを比較した結果、生存期間が無治療群6.5カ月に対し、イリノテカン群9.2カ月と、明らかな延長が示されました。また、QOLにおいてもイリノテカン群の方が優れているという結果でした(Lancet 1998;352:1413-1418.)。この結果から、イリノテカンはまず、大腸がんの二次治療における標準治療薬として、その地位を確立しました。
2000年、米国から5-FU急速静注+LV療法と、これにイリノテカンを上乗せするIFL療法とを比較した大規模な臨床試験結果が出されました。生存期間はIFL療法が14.8カ月と、5-FU+LV療法の12.6カ月よりも2カ月以上延長しており、また奏効率もIFL療法39%に対し、5-FU+LV療法21%と、大きな差がつきました(Engl J Med 2000;343:905-914.)。
同じ年に、欧州からは5-FU持続静注+LV療法と、これにイリノテカンを上乗せするFOLFIRI療法を比較した大規模な臨床試験の結果が発表されました(Lancet 2000;355:1041-1047.)。こちらも、生存期間がFOLFIRI療法17.4カ月に対し、5-FU+LV療法では14.1カ月にとどまったほか、奏効率もFOLFIRI療法49%に対し、5-FU+LV療法31%と、明らかな差がつきました。こうしてイリノテカンは、大腸がんに対して最初に行う化学療法(一次治療)で用いる薬剤であるとのエビデンスが広く受け入れられるようになったのです。
その後、IFL療法はFOLFIRI療法のような持続静注法と比べ、骨髄抑制や下痢などの副作用が出やすいことが明らかになり、慎重な経過観察や適宜減量などの調整が必要なことから、あまり広くは行われなくなってきました。現在、イリノテカンは単剤か、FOLFIRI療法で使用するのが一般的です。また、二次治療や三次治療として、他の治療法に上乗せして使用されることもあるようです。
下のFOLFIRIレジメンを見ると、5-FUの項で紹介したsLV5FU2レジメンと似ていることがおわかりいただけるかと思います。なお、世界的なイリノテカンの用法用量は180mg/m2ですが、わが国の承認用法用量は150mg/m2となっています。
FOLFIRIレジメン
最近、イリノテカンの白血球減少が強く起こるかどうかを予測する遺伝子検査法が保険適用となり、検査キットが発売されました。この副作用は、薬の量によって危険性が増加する傾向があることが、既に明らかになっています。肝障害があったり高齢者であるなど、白血球減少が強く出現すると重症化する危険性の高い人に対して検査を行うことで、より安全にイリノテカンが使用できるようになるのではないかと期待されています。
オキサリプラチン(L-OHP、商品名:エルプラット)は、1976年にわが国で最初に合成された「白金製剤」という種類の抗がん剤です。白金製剤としては他に、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンがありますが、オキサリプラチンは他の白金製剤とは構造が違い、性質も大きく異なっています。
オキサリプラチンについても、その有効性を検証する臨床試験は、欧米がわが国に先行する形となりました。最初に発表されたのは、欧州で5-FU持続静注+LV療法と、これにオキサリプラチンを上乗せするFOLFOX4療法を比較した大規模な臨床試験です(J Clin Oncol 2000;18:2938-2947.)。奏効率はFOLFOX4療法50.7%に対し、5-FU+LV療法では22.3%にとどまったほか、症状が悪化せずに生存している期間についてもFOLFOX4療法9.0カ月に対し、5-FU+LV療法では6.2カ月と明らかな差がつきました。ただし、生存期間については、FOLFOX4療法16.2カ月、5-FU+LV療法14.7カ月と、明らかな差までは認められませんでした。
この試験結果を高く評価し、欧州ではFOLFOX4療法を大腸がんに対して最初に用いる化学療法(一次治療)とすることが承認されました。しかし、米国では生存期間で差がつかなかったことから、承認は見送られました。
その後、米国で5-FU急速静注+LV+イリノテカンのIFL療法が無効になった後の二次治療として、FOLFOX4療法、5-FU+LV療法、オキサリプラチン単剤の三つを比較する試験結果が報告されました(J Clin Oncol 2003;21:2059-2069.)。症状が悪化せずに生存している期間は、FOLFOX4療法4.6カ月に対し、5-FU+LV療法2.7カ月、オキサリプラチン単剤1.6カ月で、明らかにFOLFOX4療法が優れていました。明らかな差がついた結果が得られたことから、米国でもFOLFOX4療法が大腸がんの二次治療に用いる治療法と認められました。オキサリプラチン単剤ではがんに対する効果が弱く、5-FU系薬剤などとの併用に適した薬剤であることがわかります。
2004年には、一次治療として、IFL療法、FOLFOX4療法、イリノテカン+オキサリプラチンというIROX療法の三つを比較した臨床試験の結果が明らかになりました(J Clin Oncol 2004;22:23-30.)。生存期間はFOLFOX4療法が19.5カ月と、IFL療法14.8カ月、IROX療法17.4カ月よりも2カ月以上延長しており、奏効率もFOLFOX4療法45%に対し、IFL療法31%、IROX療法34%と、大きな差がありました。症状が悪化せずに生存している期間についても、FOLFOX4療法は8.7カ月で、IFL療法6.9カ月、IROX療法6.5カ月に比べて明らかに延長していました。また、有害事象も少ない傾向にありました。
わが国でオキサリプラチンが発売されたのはこの翌年、2005年でした。なお、FOLFOX療法には1から7まであり、それぞれ投与スケジュールや薬剤の量が異なっています。わが国で承認されたオキサリプラチンの用量は85mg/m2のため、使用できる投与レジメンは以下に示すFOLFOX4レジメンとmFOLFOX6レジメンです。FOLFOX4レジメンは5-FUの項で紹介したde Gramontレジメンに、mFOLFOX6レジメンはsLV5FU2レジメンに似ていることがおわかりいただけるかと思います。世界的にはこの二つの療法のほか、FOLFOX6療法が標準療法とされています。
FOLFOX4レジメン
mFOLFOX6レジメン
では、オキサリプラチンを用いるFOLFOX療法とイリノテカンを用いるFOLFIRI療法のどちらを先に行った方がよいのでしょうか。現在のところ、どちらを先に行うかは関係なく、両方の治療をきっちり行うことでより長期間の生存が得られるとの結果が報告されています(J Clin Oncol 2004;22:229-237.)。現在は、大腸がんの化学療法では、使用できる薬剤をすべて使い切るような治療を行うことが、最も生存期間を延長させると考えられています。
これまでみてきた大腸がんの治療薬は、直接細胞を攻撃する作用を持つ薬剤でした。これらの薬剤は、がん細胞だけではなく正常な細胞も攻撃してしまうため、脱毛や白血球減少など、さまざまな副作用が問題となってきました。
21世紀になり、がん細胞を活性化させる特有の因子に作用してがん細胞の増殖を抑制する「分子標的薬」という薬剤が登場しました。分子標的薬はがん細胞のみにみられる因子に作用することから、従来の薬剤よりも正常細胞への影響が少なく、副作用も少なく済むのではないかとの期待が高まったのです。
わが国で2007年4月に承認されたベバシズマブ(商品名:アバスチン)は、がんが栄養や酸素を得て増殖するのに必要な血管を形成する作用(血管新生)を抑制し、がんの増殖を抑える血管新生阻害薬の一つです。具体的には、血液中の血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)に結合することで受容体への結合を防ぎ、受容体との結合によって起こる血管の形成を妨げる働きを持っています。
さらに、詳しい作用機序は明らかになっていませんが、がん組織特有の、異常に血圧が高くもろくて物質が届きにくい血管の状態を緩和する作用もあるようです。この作用によって、ベバシズマブと一緒に使用する抗がん剤ががん組織に届きやすくなり、効果を高めると考えられています。
ベバシズマブの有効性が最初に証明されたのは、一次治療として、5-FU+LV+イリノテカンのIFL療法にベバシズマブを上乗せするかどうかで効果を比較した臨床試験です。生存期間はプラセボ群の15.6カ月に比べ、ベバシズマブ群で20.3カ月と、大きな差がつきました(N Engl J Med 2004;350:2335-2342.)。
また、5-FU+LVにベバシズマブを上乗せした群も入れて検討したところ、生存期間はIFL+ベバシズマブ群20.5カ月、5-FU+LV+ベバシズマブ群18.3カ月、IFL+プラセボ群15.1カ月となり、5-FU+LVに対するイリノテカン併用(IFL+プラセボ群)に比べ、5-FU +LV+ベバシズマブ群の方が高く、ベバシズマブの上乗せ効果はイリノテカンよりも高いことが明らかになりました。
IFL療法後、イリノテカンの効果がみられなくなった場合に、二次治療としてFOLFOX4療法にベバシズマブを上乗せするかどうかで効果を比較した臨床試験も行われました。その結果、生存期間はFOLFOX4療法10.8カ月だったのに対し、ベバシズマブを併用すると12.9カ月と明らかに延長しました(J Clin Oncol 2007;25:1539-1544.)。これらの結果から、ベバシズマブは重要な大腸がん治療薬の一つであるという地位を確立しました。
その後、一次治療としてFOLFOX療法にベバシズマブを上乗せしたところ、症状が悪化するまでの期間が明らかに延びたという試験結果が出されました。一方、三次治療としてベバシズマブを使用した化学療法を行っても効果はなかったとの結果も報告されています。
分子標的薬を組み込んだ治療は、効果を最大化するためにまだ試行錯誤が続いているとの見方もできるでしょう。こうした課題の1つとして上げられていた、いったんベバシズマブの効果がみられなくなり、病状が進行してしまった場合にベバシズマブを継続使用するかどうかについても検討が行われ、最近、その結果が報告されました。この報告によると、ベバシズマブを含む一次治療が無効になって、二次治療を行う場合、ベバシズマブについては継続して投与し続けることで、生存期間を延長できることが示されました。
また、ベバシズマブを使用する場合には、高血圧や消化管穿孔、出血、蛋白尿、血管が詰まりやすくなる、傷が治りにくくなる――といった独特の重い副作用がまれに起こることがあるので注意が必要です。副作用を助長する可能性のある薬を飲んでいる患者さんではベバシズマブを使用するかどうか、慎重な判断が求められます。分子標的薬ではこのように、従来の抗がん剤とは異なる特徴的な副作用が生じることがあります。
わが国では、大腸がんの治療薬では二番目の分子標的薬として、セツキシマブ(商品名:アービタックス)が2008年7月に承認されました。セツキシマブは、がんの細胞膜上にある上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)に結合し、その作用を抑える働きを持っています。上皮成長因子受容体は、細胞の増殖や新たな血管の形成を指示する司令塔の役割を担っているので、がんの成長にかかわるさまざまな指示の伝達を妨げることで、がんの増殖を抑えたり、がん細胞を死に導いたりする働きを持っています。
セツキシマブについてはまず、三次治療での有効性が示されました。イリノテカンをベースにした治療で病状が悪化し始めた患者を対象に、イリノテカンとセツキシマブ併用群とセツキシマブ単独群を比較した臨床試験では、症状が悪化せずに生存している期間は、セツキシマブ単独群1.5カ月に対し、併用群4.1カ月と延長しました(N Engl J Med 2004;351:337-345.)。
また、同様に三次治療として緩和ケア(BSC)とセツキシマブ投与を比較した試験では、生存期間が緩和ケア群4.6カ月、セツキシマブ群6.1カ月と延長し、症状が悪化するまでの期間も緩和ケア群1.8カ月、セツキシマブ群1.9カ月でした(N Engl J Med 2007;357:2040-2048.)。
その後、二次治療としてセツキシマブとイリノテカンの併用とイリノテカンのみとの効果を比較する試験が行われました。その結果、症状が悪化せずに生存している期間は、イリノテカン単独群2.6カ月に対し、併用群4.0カ月と非常に優れていました。
この試験では、生存期間について差はみられませんでしたが、セツキシマブをはじめとするEGFRを標的とした薬剤に特徴的な皮疹などの皮膚症状の度合いと、薬剤の効果が相関していることが明らかになりました。皮膚症状の程度別に生存期間を調べたところ、皮疹の出ないグレード0の患者では5.8カ月にとどまったのに対し、軽い皮疹が出たグレード1~2の患者では11.7カ月、重い皮疹が出たグレード3~4の患者では15.6カ月と生存期間が延長していたのです(J Clin Oncol 2008;26:2311-2319.)。
皮膚症状としては、にきび様の発疹や皮膚の乾燥、かゆみ、爪の周囲の炎症――が挙げられます。顔面や胸部などによくみられるため、気にされるかと思いますが、積極的に保湿クリームやステロイド入りの軟膏などを使用すれば、症状は和らぎます。また、時間の経過とともに徐々に軽減していくことが多いので、前向きに治療を続けていただきたいと思います。
一次治療での有効性も報告され、セツキシマブは重要な大腸がん治療薬としての地位を確立しました。
さらに、細胞の増殖に主要な役割を果たしている「KRAS」という遺伝子に変異があるかどうかによって、セツキシマブの治療効果に差があることがわかり、注目を集めました。
例えば、FOLFIRI療法にセツキシマブを上乗せするかどうかで効果を比較した臨床試験で、得られた奏効率を患者のKRAS遺伝子タイプ別に調べたところ、KRAS野生型ではセツキシマブ併用群が59%、FOLFIRI群が43%と明らかな差がみられたのに対し、KRAS変異型ではセツキシマブ併用群が36%、FOLFIRI群が40%と、セツキシマブ併用の効果は認められませんでした(J Clin Oncol 2008;26:374-379.)。他にも、同様の結果が複数の試験で報告されています。
これらの報告を踏まえ、2010年にはKRAS遺伝子検査が保険で認められました。セツキシマブやパニツムマブを投与する際は、事前にKRAS遺伝子変異の有無を調べた上で投与することが推奨されました。セツキシマブの効果が期待できる患者を事前に把握することは、分子標的薬による治療が高額であることなどを考えると、非常に有意義なことと考えられます。
わが国では、大腸がんの治療薬では三番目の分子標的薬として、パニツムマブ(商品名:ベクティビックス)が2010年4月に承認されました。
パニツムマブは、セツキシマブと同様に、がんの細胞膜上にあるEGFRに結合し、がんの増殖を抑えたり、がん細胞を死に導いたりする働きを持っています。
セツキシマブと同じく、KRAS遺伝子変異のない患者(野生型)に対して、パニツムマブによる治療が有効であることが明らかになっています。そのため、投与前には事前にKRAS遺伝子検査を行うことが推奨されています。
KRAS遺伝子野生型患者への一次治療としての有効性を検討した試験では、FOLFOX4療法単独群の無増悪生存期間中央値は8.0カ月だったのに対し、パニツムマブ+FOLFOX4療法併用群は9.6カ月と有意に延長しました(Proc Natl Acad Sci U S A. 2004;101:2894.)。
また、KRAS遺伝子野生型患者への二次治療としての有効性を検討したところ、パニツムマブ+FOLFILI療法を併用した場合の無増悪生存期間中央値は5.9カ月となり、FOLFILI単独群3.9カ月より有意に延長しました。一方、全生存期間は、それぞれ14.5カ月、12.5カ月で有意差は認められませんでした(J Clin Oncol 2009;27:672)。
KRAS遺伝子野生型患者への三次治療として有効性を検討した試験では、緩和ケア(BSC)とパニツムマブ単剤投与を比較したフェーズ3がすでに報告されています。パニツムマブ単独投与群の無増悪生存期間が12.3週となり、BSC単独群の7.3週よりも有意に延長しました。全生存期間は、それぞれ8.1カ月、7.6カ月で有意差はありませんでした(J Natl Cancer Inst 2005;97:1221.)。
副作用としては、発疹と下痢が報告されています。
わが国では、大腸がんの治療薬では四番目の分子標的薬として、レゴラフェニブ(商品名「スチバーガ」)が2013年3月26日に承認されました。
レゴラフェニブは、がんの血管新生に関与する血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)や、がんの微少環境を制御する血小板増殖因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、腫瘍の形成にかかわるさまざまな因子の受容体(KIT、RET、RAF-1、BRAF)のチロシンキナーゼを阻害することが知られています。
レゴラフェニブは、標準的な治療を行って、残念ながら病勢が進行してしまった患者さんを対象に、偽薬(プラセボ)と比較して、全生存期間、無増悪生存期間を延長することが、日本人を含む国際共同臨床試験の結果から示され、承認に至りました。
具体的には、プラセボ+BSC(ベストサポーティブケア)群の全生存期間(中央値)が5.0カ月だったのに対し、レゴラフェニブ+BSC群の全生存期間(中央値)は6.4カ月と、生存期間を延長できるという成績でした。
経口薬であることから、服用しやすいのですが、他の大腸がんの治療薬ではあまり認められない副作用として、手足症候群や肝障害が起こりやすい薬剤であることに注意が必要です。手足症候群は手のひらや足の裏に発赤や痛み、腫れ、水疱などができる皮膚症状のことです。手足症候群は、積極的に保湿クリームなどを塗ることにより予防や重症化を防ぐことが出来ます。レゴラフェニブを服用する際には、手や足の保湿や保護を積極的に行うようにしましょう。