2014.10.23
いつかこういう日も来るだろう、と思っていたので
とりあえず書いておく。

今日、城ヶ島で釣り人が亡くなった。
というか、亡くなっていた。
だから今日亡くなったのかどうかは分からないが、だが多分状況的に今日だと思う。

発見したのは私だが、他にも遺体を見ていた人はいたのかもしれない。
あるいは誰も知らなかったのかもしれない。

ともかく通報したのは私だ。
だから17~18時くらいに城ヶ島の土産物街の奥にサイレンが鳴り響いた。


亡くなった方の身元は私の前で警察の方が確認していたので、
ともかく遺体は引き取られるのだろう。
一人暮らしかもしれないが、ともかく誰かは分かっている。


釣り人が遺体を発見する、という例はままあるようだ。
だからまあ知っておけば、ある程度同じようなシーンで役に立つかもしれない。
だから書いておく。


雨があがって、横浜を出発した。
たぶん14時過ぎだと思う。
アルジェントでルアー。

今日は寒かった。たしか12月の気温だという。
シャツにトレーナー、ウィンドブレーカー。
手袋はいらなかった。

16時近くに磯場へと向かった。
土産物街も今日はほとんど閉まっていた。

時間を覚えていることは重要だ。
何度も警察に聞かれた。
私は15時過ぎか16時過ぎか、現場付近に何時頃に到着したか、
最後までうろ覚えだった。

だが今になって思うのだが、スマホで撮影をしていた。
その写真の時刻は15時50分からで、まあ大体16時前後というわけだった。

まあ大体それくらいの時間ということで話はまとまっていたので、
帰宅時に安堵した。

ともかくスマホで写真を撮っておくことは役立つ。
Suicaの利用履歴はアプリからでは時間がわからんので役に立たん。

遺体は写っていないが現場はまさにこの長津呂湾のところだ。
猪子側に少し近い。


釣り場のポイント名を覚えておくのも大事だ。
110番すると、警察は場所を細かく聞いてくる。
釣り場名は私より詳しいのかもしれない。

長津呂(「ながつろ」じゃない→「ながとろ」だ)も猪子(いのこ)も通じた。

私は釣り場を見てまわった。
全然釣り人がいない。
ただ先端側にウキフカセと石鯛師。
また長津呂湾側に、たぶん前回と同じエギングのおじさん。
他にルアーマンも見かけた。

だが数人だ。
観光客はゼロ。
本当に人がいない日だった。

そのおじいさんは岩陰、テラス上の岩陰にいた。
横たわっているおじいさんにギョッとした。
だが、そこで私は寝ていると判断した。

この前も城ヶ島で釣り人が寝ていた。
あのとき私は寝るんだったらポイントを開けてくれ、と思ったものだ。

だが私自身釣り場で寝ることがあるから、ヒトのことは言えない。

私はおじいさんを背後に湾口でいくつものルアーを試した。
リールにはナイロンの3号、12ポンドを巻いた。
前回の横須賀のようなことは起きない。
それどころか根がかりしてもハリを伸ばして回収できる。
ナイロンだってなかなかやるな、と思った。


17時が過ぎて、暗くなってきた。
磯場を離れることにする。

おじいさんはまだ寝ていた。
周りには私一人。
さすがに起こしてあげたほうがよいだろう。
それにこの時点で嫌な感じがした。
普通起きるんじゃないか、と。

おじいさんは白く、これは気になったが、正直、笑っているような寝顔に見えた。
だからむしろ近付いてもまだ死んでいるとは思わなかった。
ただクーラーやバケツを手に持ったままでもある。

だからともかく、なんだか変な感じもするし、だけどやっぱり寝ているんだとも思っていた。

なんと呼びかけたか覚えていない。
おじいさん、とかもしもしとか、起きて下さいとか、
呼びかけつつ、身体を揺らして、一気に総毛立った。

硬かった。
皮膚は柔らかいのだが、腕がまったく動かない。

亡くなっていると一瞬で判断した。
判断というか、その感触で一発で理解した。

一気に手が震えてきたが、スマホの110番だけは条件反射でした。
事件か、事故か聞かれた。
事故です、と。
城ヶ島で……
あとはよく覚えていない。
倒れている、ではなく死んでいる人がいる、とたぶん答えたと思う。
つまり、亡くなっているから119番ではなく警察に連絡したのだ。

海の中に遺体があるのかどうかを聞かれ、海から離れた岩場、とか答えたと思う。
つまり流れ着いた人ではなく、釣り人が転んで死んだように見える、と。
海からも離れた場所で、崖ではない、といった話も。

位置はケータイの位置が警察に分かっているようだった。
そして磯の釣り場名を言ってくれと言われ、長津呂湾というところ、その海に向かって左側と。

ここで混乱していた。
私は最初右側と伝えた。
だが警察の人が青い建物が見えますよね?、湾を隔ててますか?など冷静なツッコミが入り、
左側と右側を言い間違えていると気付いた。

落ち着け落ち着けと言い聞かせても、やっぱり無理だ。
だが間違いに気付いたらすぐ直せ。

釣り竿やバケツがある、みたいなことも言った気がする。

まずは現場にとどまって、警察と消防が行くからまってくれ、と言われた。
住所、名前、生年月日も伝えた。

生年月日は西暦でこたえると、和暦に直すことになる。
だから最初から昭和なり平成何年と伝えればいい。

一瞬途方にくれた。
夕暮れのなか、遺体と一緒かと。

すぐにケータイがまた鳴り、今度は神奈川県内の番号だ。
消防か警察かだったと思う。
今向かっているという話。
また遺体の状況を確認するため、呼吸の確認を指示された。
おじいさんの鼻に手をあてて、まったく呼吸していないことを確認した。

そしてその後も何度も硬かった、と伝えた。
これはたぶん私にとってあの感触が一番衝撃だったからだろう。


次にまた警察か警察から電話があり、その頃には島にサイレンが響いていた。
ものすごく早かった。
あっという間にきた気がする。
だが時間の感覚がもうずっと変だ。

ともかくその消防車が土産物街を通って遊覧船のバス停みたいなところまでくる、と。
だからそこまで行って、現場へ案内して、と。
そうだ、このバス停みたいな場所を指示していたから、私の位置は大体分かっていたのだろうと思う。

暗くなった岩場を急いだのを覚えている。
雨上がりですべったが、ああいうときは気にならないもので、走っていたと思う。
よく転ばなかった。不思議。

消防の人が、通報した人ですか!?みたいな声があった。
三浦の消防の人だからだろう、現場もよくご存知のようで、私よりもさっさと進んでいく。

遺体のところまで案内して、すぐに亡くなっているのを確認してくれた。
まず消防か救急の人に見つけたときの様子を伝えた。

釣り場にきたときに、もういたこと。
寝ていると思ったこと。
暗くなって起こしにいったら亡くなっていたこと。
すぐに110番したこと。
それぞれがどれくらいの時間か。
住所と名前、たぶん生年月日と電話番号と職業も。

亡くなっているので、救急の人はタンカをもって帰って行き、
警察の方がくる。
城ヶ島の駐在さんもいた。

ここでも同じように事情聴取。
同じことを言うが、少しずつ思い出したこともあり、釣り場を見てまわったこと、
バスできたことを伝えつつ、
逆に曖昧な部分である
釣り場への到着時間は「15時過ぎか16時過ぎか」どちらかよく覚えていないと伝えた。

もう少し落ち着いていれば写真の時間ですぐに分かったのだが。

さらに鑑識?の人、刑事さんも後からきて、
それぞれに同じように答えた。

刑事さんは刑事課長ということとベテランの刑事風という。
ジャケットを着ていて、刑事ドラマの地方の刑事っぽいな、となぜかどうでもいいことを思った。
おふたりとも怖い人ではなく、ひょうひょうとしている感じ。
ちゃんと仕事をしているベテランでまったく慌てない。

刑事さんから聞かれるのは、ちょっと深い話で、
他に釣り人はいたか、喧嘩をしているような声を聞かなかったか、
釣っていたものは何か、といったことを聞かれた。

私のようになんの疑いもなく「事故」と思い込んでいないのが、さすが刑事だと思う。
たぶん私も一応事件の場合の容疑者なのだろう。
だけどそうは感じさせない、穏やかな語り口で、ああベテランなんだと感じた。
救急もほかの警察の方も、場慣れ感がはんぱではない。
私だけだ動揺していたのは。

だけど私としても、動揺しているとはいえ、なにもできず、ただ遺体をボーっと見るだけ。

刑事さんが周りの釣り人にも話を聞いてこいと制服の警官に指示をだしていた。
もっとも釣り人はとても少ない。
刑事課長さんはこのへんで釣りをしているとのことで、メジナが釣れる話も、夜釣している人もいつもは多いこともご存知だった。

ただ今日はあまりにも少ない。

そういえばおじいさんは、カワハギだか、石鯛の子供だかを釣っていたようだ。
バケツとバッカン?クーラー?にも釣った魚がいたようだ。
そんな話を刑事さんたちが話していた。

サイフだったか免許証だったかでおじいさんの身元は分かった。

真っ暗になった磯場で、刑事さんたちは遺体をどう運ぶか思案していた。
救急車や消防車はとっくに帰っていた。
その場には刑事さんら6人位いたと思うが、それでも運ぶのが大変とのことだった。

おじいさんは出血はしていなかったようだ。
すべって転んだのか、病気かはわからない。
ただ、亡くなったためにとても重くなっているらしかった。

葬儀屋さん?にきてもらうか、みたいな話にもなった。
だがこの滑る磯場で大丈夫なのか、と。
私としては「もう葬儀屋?」と驚いていたのだが、よくわからない。
そういうものなのか、もっと別の意味の言葉なのか。

通報から2時間くらい経った19時近くに、先に帰っていいことになった。
なにしろ私だけしか目撃していないし、発見もしていないので、いてもらうしかなかったとのこと。
申し訳無さそうに言って、帰りを心配してくれる刑事さんたちの口調は、刑事ドラマとは全く違う。そりゃそうなのだが。

2時間は長くなかった。
というかあっという間だった。

現場を離れる時、どう言えばいいのか分からなかった。

(来てくれて)ありがとうございます。
(遺体を)お願いします。

とりあえずそういう意味をこめて挨拶して磯場を離れた。


が、不思議なもので、おじいさんの死に顔が苦しんでいなかったこと、
その後の動揺も収まったこと。
まったく帰る気がおきなかったこと。
全然疲れていないこと。

など、よくわからないのだが、帰る気になれず、岸壁を歩いてまたルアーを投げた。
岸壁も全然釣り人がいない。
たぶん2名だけ。

魚もいない。静か。
ぴちゃぴちゃと冷蔵前の岸壁で小魚の群れがあったが、前回の夜ほどぴちゃぴちゃはしていない。

別の救急車が城ヶ島にまたきた。
たぶん集落で止まったから病人だろうか。
今日は大変な日なのか。
それともこんな日もある、その程度のことなのか。

まったく集中力は切れない。
だが20時過ぎに納竿。

あのおじいさんの遺族は辛いかもしれないし、警察は大変だろう。

だけどおじいさんの人生としてはどうなのか。
たぶんそれなりに良い釣りをして、その帰っている途中で突然の死。
苦しまずに死んだであろう(もちろん真実はわからないが)、あのおじいさん。

こういうとき帰宅したら塩を撒くべきなのか? だがまったく撒く気にならず。
動揺は完全におさまり、なにか納得感のような。

今日は私にとっては辛い日ではなかった。
衝撃だったが、恐怖や悲しいといったこともない。

ああ、こういう死もあるのだと。
ぼんやりとそう思った。

土日は仕事だ。
だから明日、釣りに行く。