ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 アマぐだ♂短編2本2017年2月16日 23:48オレは疲れていた。すぐにベッドに入って眠りたかったし、そのためにレイシフトから戻って真っすぐに自室に帰ってきた。そこには、アマデウスが眠っていた。金色の長い髪がベッドの上に散っている。あの大層な衣装は乱雑にベッドの上に脱ぎ散らかされており、くしゃくしゃになっている。それはもう、オレのベッドの中で。すやすやと。とても気持ちのよさそうな寝顔で。体に蓄積していた疲れがどっと増した感覚だった。アマデウスがオレは好きだった。アマデウスもオレのことを好きだと言ってくれた。好きな人が目の前にいれば嬉しいと思う気持ちもあるが、今はそれを上回るのが疲労で、オレが魔力振り絞って人理修復しているのにお前は恋人のベッドで夢の中か、とガンドを飛ばしたくなる。(相手がワイバーンだったので、仕方がないと言えば仕方がないのだが)「アマデウス…」声をかけてみるが、起きる気配がない。「アマデウスってば」今度はゆすってみる。やはり起きない。「アマデウス、起きてよ。邪魔、オレ眠いんだよ」「やだなあ、愛しい恋人の帰りを待ちわびるボクにキスの一つくらいくれてもいいんじゃないのかい」ガンドを撃たなかったオレを褒めてほしい。アマデウスはけろりとした顔でベッドから起き上がると、に、と口角をあげて微笑んだ。「お帰り、立香君」「ただいま、アマデウス…」限界だった。目の前のアマデウスめがけて体が倒れる、というのは認識できたが、膝が支えきれず、そのままアマデウスにのしかかるようになってしまう。細い、と思っていたアマデウスだが、わりと力はあるらしい。ベッドの上に倒れ込むことはなく、しっかりと体を支えられる。サーヴァントは霊体であり、体臭があるかどうかはよく分からないが、控えめな香水の香りがしたような気がした。「ごめ、ん…本当、今日は限界で…」声を出すのも億劫で、目すら開けられない。令呪も三角消費した。相手はキメラやドラゴンが多数で、使わざるをえなかった。サーヴァントたちも宝具を使用したし、魔力消費がかなり多かった。きっとその反動だろう、とは思うものの、思考も体もほとんど動かない。感じるのは、アマデウスの体の温かさと、匂い。あとは首元に感じる長い髪の感触。ゆっくりと唇になにかが触れる。冷たく、薄い、それが唇だとは思っても、声も、抵抗もできない。薄く開いた唇の間から、舌がするりと入り込んでくる。くちゅ、と小さな水音を立てて、唾液がからみあう。口内を探られ、舌を吸われ、ひく、と跳ねた体はベッドの上に丁寧に横たえられた。細い指が胸元をかすめる。思わずくすぐったさに身を揺らすと、上からアマデウスのくつくつとした笑い声が降ってきた。「処女は嫌いじゃないよ。何事も、初々しい反応をしてくれるのはいいよね」胸元のベルトがかちゃりと外される。胸元を広げられたのか、冷たい空気が流れ込んでくる。「アマ、デウス…」「うーん、困ったな。そんな顔をしないでくれ立香君。抱きたくなるだろう」やれやれ本気で魔力供給だけのつもりだったんだけどな、とアマデウスは肩を竦めた。しばらくアマデウスから与えられる何度かのキスを受けながら、次第に思考は明瞭さを取り戻していった。アマデウスのものと自分のものが混ざった唾液をこくりと飲み干すたびに、少しずつ、少しずつ。「おはよう」「…おはよう」にい、と吊り上がる口角。細くなる瞳。ベッドの上で二人で横になりながら、そんなことをする。悔しいがとても恥ずかしい。アマデウスとキスをしていただなんて。思わず、アマデウスの胸元に頭を寄せると、彼にはお見通しなのか再びけらけらと軽やかな笑い声が降ってくる。「甘えた?甘えたさんなのかな?」「うるさい」細いようにみえて、きちんとそこはサーヴァントであるので、筋肉はついている。薄い胸に額を預けながら目を閉じた。「確か、モーツァルトの…子守歌…あったよね」「ああ、うん。作曲したね、そういえば」「あれ、歌って」「歌はボクの専門外なのだけれど…まあ、いいや」心地の良い声が響いてくる。ゆっくりと瞼が重くなる。間近にあった温もりに身を寄せながら、夢の中へと落ちていく。おやすみ、とささやかれたような気がして、がんばって唇に力を入れてみたけれど、音になったかどうかは分からなかった。[newpage]人理修復の後、少年はしばらくはベッドから出ることが叶わなかった。ウルクから時間神殿へ。極限にまで酷使した肉体や魔術回路がついに限界を迎えたのだった。命を落とすことはないものの、壊死しかけていた肉体を元の状態に戻すまでには長い休養が必要になる。それまでは魔術の行使も、軽い運動すらも禁止され、病人のようにカルデアの一室に押し込められていた。元気だと言っても、マシュもダヴィンチも頷いてはくれなかった。「やあやあ!暇しているかい?」「ああ、アマデウス…うん、暇してる」正直なところ、暇だ。間違いなく。アンデルセンが持ってきた本、孔明が持ち込んだゲーム。色々と暇つぶしはあるが、それでも一人で過ごすには今は時間が有り余っている。窓の外も雪。カルデア職員たちは魔術教会やらなにやらとの交渉を暇なく行っている。そんな中で一人だけ何もせずにいるのはなんとなく居心地が悪いのだが、誰しもが休むことが仕事だと言ってきかない。心配をしてくれているのは分かっているし、確かにこの体は大分ガタがきているなあ、とは自分でも思うが、何もできない、というのはなかなか辛いものがある。「ボクのヴァイオリン聴きたくはない?そうか、聴きたいか~仕方がないね」「あはは、さてはマシュから逃げてきたな」今、カルデアの表に立って処理をしているのはマシュとダヴィンチだ。それをこのカルデアに残ったサーヴァントたちが補佐している。アマデウスは確かパラケルススや孔明と言ったキャスター組の中で情報処理を任されていたはずだ。「うんうん、君のそういうところは美徳だね」ヴァイオリンを肩に乗せ、すう、と息を吸ってから音色を奏で始める。アマデウスは誰がどう見たってクズだ。仕事はさぼるし、発言は下ネタばかり。でも、彼は誰よりも優しい人なのだろうと思う。もしかしたら彼は自分自身の優しさに微塵も気づいていないのかもしれないけれど。そんな彼が奏でる音も、優しい風のように感じられる。そもそも、モーツァルトだなんて偉大な作曲家、演奏家の演奏を生で聴けるなんて、本当はすごいことなんだろうけれど。曲はあっという間に終わってしまった。「アマデウス」「なんだい、もしかしてもう一曲所望かい?」「いいや、オレに力を貸してくれてありがとう」一瞬きょとんとしたアマデウスは、次の瞬間には大きな声をあげて笑っていた。「なんだい、急に!別にボクは君に力を貸していたつもりはちょっぴりもないんだけれどね!」そういうと思っていた。そして彼のそれは本音だろう。「それでも、だよ。いいから感謝は感謝として受け取っておくべきだよ」「うん、まあ…なら、今度美味しいワインをプレゼントしてくれないかい」「うーん…オレ、未成年だからあまりお酒には詳しくないんだけど…」いいお酒、と言われても困る。お酒など甘酒くらいしか飲んだことはない。「そんなもの、フランス人のサーヴァントに聞けばすぐに分かることさ。ああ、サンソンは止めておきたまえ。あいつは下戸だ。聞くならそう、あの君のストーカーがいいね。うん、とてもいい」「ストーカーってエドモンのこと?」そう聞けば、アマデウスはぷは、と噴き出した。「やだなあ、君、自覚があるんじゃないか!ストーカーと言われてすぐに思いつくのがあの紳士殿とはあははは!尻は大事にしておいたほうがいい…いたっ」手近にあった枕を投げ付ければ、アマデウスは盛大に顔面でキャッチした。まあ、確かにアマデウスの言葉には一理ある。ストーカー、で初めに思い出したのはエドモン・ダンテス、彼だった。いつも自分の身を案じてくれるよきサーヴァントだと思う。あの悪夢の中でのこともあり、彼には全幅の信頼を置いている。少しばかり、神出鬼没で心配性なだけで。「うーん…これは、失敗したかな?」「失敗?」あはは、とアマデウスは苦笑した。「実を言うと、ここにきたのは、依頼があったからなんだ。誰から、は流石に言わないけれど、君を心配する人から、ね」「オレを?」首をかしげるとアマデウスは頷いた。枕を持ったまま、ベッドに腰かける。気まずそうに頬を掻いてから、ボクはそういうキャラじゃないんだけれど、と溜息をつく。「体の傷は治っても、心の傷はそう簡単に治らないだろう」心の傷ってなんのこと、そう返すのが正しかったんだろう。だが、うまく返せなかった。言葉が喉の奥で絡み合って、詰まってしまったようで、声が出ない。アマデウスは聡い男だ。最古参のサーヴァントであり、ずっと共に旅をしてきた。オレのことくらいお見通しであるに違いない。「ドクターを、救えなかった」分かっている。オレのせいじゃない。あれはドクターの選択で、オレのせいだとか思う事自体が自意識過剰なのだと。だが、それでも、あの人には生きていて欲しかった。ただ、それだけが、ずっと心の隅に残っている。「聖杯って願いを叶えてくれる願望機なんだよね。そんなのが七個もあるのに、オレの願いは叶わない」なにが願望機。なにが万能の器。「今のアマデウスの演奏だって、あの人に聴かせてあげたかった」もっと色々なものを見て欲しかった。感じて欲しかった。あの人は、そうなるべきだった。「これは、オレの問題。オレが踏ん切りつかないだけ。ごめんな、アマデウスにも、みんなにも気を遣わせちゃって」迷惑をかけている自覚はある。だから、早く、前のような藤丸立香に戻らなくてはいけないのに、笑おうとするたびに、ドクターを思い出してあまりうまくいかない。時間が解決するとも何となく思えない。「叶わないことは、意外にもないものだよ」アマデウスの静かな声に立香は視線を向けた。「ボクも叶わない願いをもっていた。確かにその願いは、死ぬまで叶わなかった。だけれど、なんと、それが、死んでから叶った。全部ではないけれど、まあ、八割くらい」君のおかげでもあるのだけれど、とアマデウスは少し照れくさそうに笑った。「君の美点はがむしゃらなところだ。目標に突っ走る、ね。ボクらはそれをサポートする、それだけ。世界は救った、ならば、次は君の願いを救えばいい。ボクもそれに力を貸すよ。暇だしね」包帯のまかれた手を、手袋のはめられたアマデウスの手が握る。互いに温もりは感じない。だが、それでも、十分だった。ありがとう、と言いたかったけれど、うまく声がでなかった。頬を伝うものを見られたくなくて、アマデウスから視線をそらし、窓の外を見る。あはは、という声が背後で聞こえる。握られた手がとても熱かった。同時に、何故か、涙の流れた後の頬も熱い気がした。