久保 亮治
久保 亮治 Akiharu Kubo
慶應義塾大学医学部准教授, 博士(医学)
略歴
1994年 | 大阪大学医学部卒業 |
1994年 | 大阪大学医学部皮膚科研修医 |
1995年 | 大阪労災病院皮膚科 |
1996年 | 大阪大学大学院医学研究科入学 |
1996年 | 京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学講座(国内留学) |
2000年 | 科学技術振興事業団月田細胞軸プロジェクト研究員 |
2001年 | 京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学講座助手 |
2006年 | 慶應義塾大学医学部皮膚科助手 |
2007年 | 慶應義塾大学医学部皮膚科助教 |
2008年 | 慶應義塾大学総合医科学研究センター特任講師 |
2013年 | 慶應義塾大学医学部学部内講師 |
2014年 | 慶應義塾大学医学部専任講師 |
2016年 | 慶應義塾大学医学部准教授 |
学会活動
日本皮膚科学会
日本研究皮膚科学会(評議員・学術委員)
皮膚かたち研究学会(理事)
日本人類遺伝学会
日本分子生物学会
日本細胞生物学会
日本免疫学会
American Society of Cell Biology
Society for Investigative Dermatology
受賞
2010年 | 22年度日本皮膚科学会・皆見省吾記念賞 |
2010年 | 22年度日本研究皮膚科学会・JSID's Fellowship SHISEIDO Award |
専門
臨床領域・・・皮膚全般、アトピー性皮膚炎、遺伝性皮膚疾患
研究領域・・・皮膚バリア学、遺伝性疾患、皮膚免疫学、皮膚腫瘍学
資格
皮膚科専門医
臨床遺伝専門医
主な研究成果 - (1)
慶應皮膚科での研究成果(2006年~現在)
京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学講座(故・月田承一郎教授)時代に培った細胞生物学のテクニック・知識を駆使して、皮膚のバリア機能に焦点を絞った研究をおこなっている。皮膚には、空気による乾燥から細胞を守るための頑丈な角質層によるバリアと、角質層の内側で生きた細胞と細胞の隙間をぴったりとシールするタイトジャンクションによるバリア、の2つのバリアが存在する。角質のバリアが先天的に脆弱であると、アトピー性皮膚炎や喘息、アレルギー性鼻炎といったアレルギー疾患の原因となることがわかってきている。これらの疾患の病態を解明するためには、皮膚のバリア構造とその機能を詳しく解析することが必須である。我々は、皮膚のタイトジャンクションのバリアを立体的に観察することに世界で初めて成功し、表皮ランゲルハンス細胞が、タイトジャンクションバリアの外側に樹状突起を伸ばして、角質層を通り抜けてきた抗原やアレルゲンを積極的に捕捉することを明らかにした(J Exp Med 2009, J Clin Invest 2012)。また、角質層のバリアについて、質量分析顕微鏡(TOF-SIMS)を用いた解析により、角質層が3つの異なる性質を持つ層からなっており、それぞれが特有の機能を持っていると考えられることを初めて明らかにした(Sci Rep 2013)。これらの研究を通じて、皮膚には、これまで考えられてきたよりもずっと精緻で巧妙なバリア機構が存在していることを明らかにした。
一方、臨床領域においては、遺伝性皮膚疾患の網羅的な遺伝子診断方法の開発を行うとともに、原因遺伝子未知の遺伝性疾患について、エクソーム解析による原因遺伝子の探索を行っている(成育医療研究センターとの共同研究)。最初の成果として、長島型掌蹠角化症の原因遺伝子SERPINB7を初めて同定した(Am J Hum Genet 2013)。
代表的な論文 - (1)
(* corresponding author)
- *Kubo A, Nagao K, Yokouchi M, Sasaki H, Amagai M. External antigen uptake by Langerhans cells with reorganization of epidermal tight junction barriers. J. Exp. Med. 206:2937-2946, 2009.
http://jem.rupress.org/content/206/13/2937.abstract概略:マウスの耳皮膚より調製した表皮シートを用いて、皮膚のタイトジャンクションのバリアを立体的に観察することに世界で初めて成功した。タイトジャンクションの内側に存在する表皮ランゲルハンス細胞が、タイトジャンクションバリアの外側に樹状突起を伸ばして、角質層を通り抜けてきた抗原やアレルゲンを積極的に捕捉することを明らかにした。またこの時、ランゲルハンス細胞と表皮細胞の間には新たにタイトジャンクションが形成されており、タイトジャンクションのバリアを保ったまま、その外側にある抗原を取得するという、非常に巧妙なメカニズムが存在していることを明らかにした。本研究は、皮膚のバリアが、ただ受動的に敵の侵入を防ぐだけでなく、外部にある抗原を積極的に捕捉するメカニズムを持つことを初めて示し、皮膚バリアの概念を変える成果であった。本研究は、平成22年度日本皮膚科学会・皆見省吾記念賞を受賞した。
- *Kubo A, Ishizaki I, Kubo A, Kawasaki H, Nagao K, Ohashi Y, Amagai M. The stratum corneum comprises three layers with distinct metal-ion barrier properties. Sci Rep. 3:1731, 2013.
http://www.nature.com/srep/2013/130425/srep01731/full/srep01731.html概略:飛行時間型二次イオン質量分析顕微鏡(TOF-SIMS)を用いてマウス皮膚角質層を詳細に分析した。TOF-SIMSの生物試料観察への応用としても、これまでで最も高解像な観察を行っている成果である。本研究により、これまで一様な構造であると思われていた角質層が、3つの異なる性質を持った層からなることが初めて明らかになった。一番外側の層は、外から物質が簡単に染み込み、その物質を保持することができる層であった。中間層にはフィラグリン由来の天然保湿因子が多量に存在し、保湿機能を担っていると考えられた。フィラグリン欠損マウスでは中間層の天然保湿因子が著明に減少しており、フィラグリン変異を持つアトピー性皮膚炎患者皮膚でも、この層の保湿機能低下が起こっていると考えられる。また、中間層と一番内側の層は、それぞれ異なるバリア機能を持っていることが明らかになった。
- *Kubo A, Shiohama A, Sasaki T, Nakabayashi K, Kawasaki H, Atsugi T, Sato S, Shimizu A, Mikami S, Tanizaki H, Uchiyama M, Maeda T, Ito T, Sakabe J, Heike T, Okuyama T, Kosaki R, Kosaki K, Kudoh J, Hata K, Umezawa A, Tokura Y, Ishiko A, Niizeki H, Kabashima K, Mitsuhashi Y, Amagai M. Mutations in SERPINB7, Encoding a Member of the Serine Protease Inhibitor Superfamily, Cause Nagashima-type Palmoplantar Keratosis. Am. J. Hum. Genet. Am. J. Hum. Genet. 93:945-956, 2013.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002929713004552#概略:日本人に多い遺伝性掌蹠角化症である長島型掌蹠角化症の原因遺伝子を初めて同定した。SERPINB7の変異を両アレルに持つと、長島型掌蹠角化症を発症する。SERPINB7がプロテアーゼインヒビターであることから、SERPINB7と同様の蛋白分解酵素阻害活性を持つ物質を同定して皮膚に外用すれば、長島型掌蹠角化症の治療が可能となることが期待される。また、本解析の結果、長島型掌蹠角化症がアジアに多い遺伝性皮膚疾患であり、日本人に1万人以上、中国に数十万人の罹患者がいると予想された。本論文は成育医療研究センター、東京医科大学、京都大学、東邦大学、浜松医科大学との多施設共同研究の成果である。
主な研究成果 - (2)
慶應皮膚科に至るまでの研究紹介
大阪大学在学中に薬理学第二講座(故・和田博教授)にて福井裕行助教授(現・徳島大学教授)と稲垣直之助手(現・奈良先端大准教授)の指導の元、実験の見習いを始め、ヒスタミン神経系に関する研究を行った(Eur J Pharmacol 1991)。この経験により、研究に大きな興味を持つようになる。
1994年、大阪大学医学部皮膚科(吉川邦彦前教授)に入局。臨床を学ぶ傍ら、橋本公二助教授(現・愛媛大学教授)の指導の下、先天性表皮水疱症患者に対する自家培養表皮シート移植による治療を試みる。その成果を持って参加した水疱症研究会にて、玉井克人弘前大学講師(現・大阪大学准教授)、天谷雅行慶應大学講師(現・慶應大学教授)と出会い、大きな刺激を受ける。
橋本助教授、天谷講師の勧めにより、1996年に大学院生として、大阪大学医学部皮膚科より京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学講座(故・月田承一郎教授)に国内留学。科学技術振興事業団(ERATO)月田細胞軸プロジェクトに参加し、椎名伸之グループリーダー(現・基礎生物学研究所 准教授)の指導の下、中心体と微小管をテーマとした研究を始めた。
哺乳類の全ての細胞において、中心体の周辺にはcentriolar satellitesと呼ばれる直径約100nmの球状電子密な構造物が普遍的に存在している。1950~60年代の電子顕微鏡による観察により記載されていた構造物であるが、その構成蛋白は長らく不明であった。1999年、centriolar satellitesを構成する蛋白としてPCM-1蛋白を初めて報告し、centriolar satellitesが微小管上をダイニンモータによって輸送される、新しい非膜系オルガネラであることを示した(J Cell Biol 1999)。また、PCM-1蛋白がcentriolar satellitesのscaffold proteinであることを示し、細胞分裂時にPCM-1同士のhomophilicな結合が解離することで、centriolar satellitesの細胞分裂時特異的な消失が起こることを示した(J Cell Sci 2003)。
一方、PCM-1蛋白について研究を進めるうち、繊毛形成機構に興味を持ち始めた。繊毛形成に先立っては、繊毛の根元を構成する基底小体が多量に(1細胞あたり300~400個)複製される。この基底小体は、中心体を構成する中心小体とほぼ同じものである。基底小体複製が起こる前に、fibrous granulesと呼ばれる球状電子密な構造物が、細胞質内に多量に出現することが1968年に報告されていたが、長らくその正体は不明であった。PCM-1蛋白について研究を進めるうち、fibrous granulesがPCM-1蛋白によって構成されており、centriolar satellitesと同一のオルガネラと考えられることを示した(J Cell Biol 1999)。
これらの経験から、古典的な形態学の成果の中には、現在の分子生物学の手法を用いて解明するべき様々な宝が眠っていることに気づいた。その1つが繊毛先端部の構造である。空気呼吸をする脊椎動物の繊毛には、繊毛先端部に非常に特殊な構造が存在しているが、その構造蛋白質は全く不明であった。一方、同じ脊椎動物の繊毛でも、1細胞から1本ずつ生えている一次繊毛や精子の鞭毛には、そのような先端構造は存在しない。そこで、その特殊な先端構造を持つ細胞と持たない細胞の発現遺伝子を比較し、先端構造を持つ細胞でのみ発現している遺伝子をピックアップ、その中から繊毛形成時に発現誘導のかかる遺伝子を探し出すことにより、繊毛先端部にのみ存在し、その先端構造の形成を担っていると考えられる蛋白を初めて同定し、”sentan”(遺伝子名:SNTN)と名付けた(Mol Biol Cell 2008)。これは、何か新しい蛋白を発見して日本語の名前を付けたい、という積年の夢を叶える成果であった。
月田承一郎教授の没後、様々な方々の援助と好意を得て、慶應義塾大学皮膚科に参加。臨床活動を再開する傍ら、2008年10月より、慶應義塾大学・咸臨丸プロジェクトの特別研究講師に選ばれ、皮膚のバリア、特に物理的バリアと免疫的バリアの相互作用を中心とした研究に着手、現在に至る。
代表的な論文 - (2)
(皮膚科に至る以前のもの)
- *Kubo A, Sasaki H, Yuba-Kubo A, Tsukita S, Shiina N. Centriolar satellites: molecular characterization, ATP-dependent movement toward centrioles and possible involvement in ciliogenesis. J. Cell Biol. 1999, 147: 969-980.
”Centriolar satellites“の構成蛋白を初めて同定し(PCM-1蛋白)、”centriolar satellites“が、微小管に沿って輸送される新規非膜系オルガネラであることを示した論文。最近になって、”centriolar satellites“が繊毛形成機構の一端を担う重要なオルガネラであることがわかり、当時の推察が正しかったことが裏付けられた。また一次繊毛の研究が大きく盛り上がってきたことから、発表後10年を経てようやく多数引用されるようになった論文。GFP蛍光蛋白を用いたライブイメージングをいち早く取り入れた論文でもある。
- Kubo A*, Yuba-Kubo A, Tsukita S, Tsukita S, Amagai M. Sentan: a novel specific component of the apical structure of vertebrate motile cilia. Mol Biol Cell 2008, 19: 5338-5346
http://www.molbiolcell.org/content/vol19/issue12/cover.shtml (cover photo)京都大学分子細胞情報学から慶應義塾大学皮膚科へと移動しつつ進めた研究。繊毛先端部に存在する特殊な構造に局在する初めての蛋白を同定し、”tip”を意味する日本語「先端」にちなんで“sentan”と名付けた。自分で新しい蛋白を見つけて、それに日本語の名前をつけたいという、積年の夢を叶えた論文。再び雑誌の表紙を飾った。
- Yamane J, Kubo A*, Nakayama K, Yuba-Kubo A, Katsuno T, Tsukita S, Tsukita S. Functional involvement of TMF/ARA160 in Rab6-dependent retrograde membrane traffic. Exp Cell Res. 2007, 313: 3472-3485.
ERATO月田細胞軸プロジェクトから京都大学に移動した後、中心体の仕事をしている関係で、ある日突然に、中心体の新規蛋白を解析していた(はずの)大学院生の面倒を任された。まずは染色を丁寧にチェック。?!?!おーい、これ、中心体じゃなくてゴルジ体やん・・・。月田:「でももう抗体も作っちゃったし、久保ちゃん面倒みてあげてーや」、久保:「マジですか?」というところから始まった仕事。全く知らない分野に手を出しても何とかなる、という変な自信(?)がついた論文。中山和久京都大学薬学部教授には感謝してもしきれない程大きくお世話になりました。初めてのcorresponding author論文でもある。
- Furuse M, Hata M, Furuse K, Yoshida Y, Haratake A, Sugitani Y, Noda T, Kubo A, Tsukita S. Claudin-based tight junctions are crucial for the mammalian epidermal barrier: a lesson from claudin-1-deficient mice. J Cell Biol. 2002, 156: 1099-1111.
哺乳類の皮膚に機能的なタイトジャンクションが存在することを示した記念碑的研究。ひょんなことからこの研究に関わったことが、現在の皮膚バリアの研究テーマへと繋がっている。
- Matsuda M, Kubo A, Furuse M, Tsukita S. A peculiar internalization of claudins, tight junction-specific adhesion molecules, during the intercellular movement of epithelial cells. J Cell Sci. 2004, 117: 1247-57.
タイトジャンクションが常にターンオーバーを繰り返す、非常にダイナミックな構造物であることを示した論文。わずか5年後に、この時に得た知識が皮膚科での研究で生きて来ようとは、当時は想像だにしなかった。