ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 遅ればせながら新刊告知2013年1月5日 16:17[chapter:簡単にお品書き]コスプレ本です。コスプレについての本ではなくて、本にコスプレをさせたという想定の装丁という自主制作本です。ネクタイのついてるのが血界ほぼオールキャラ本、ついてないのがトライVWですよ。[newpage][chapter:五誌一話@HL]サンプル的に一本だけ。1 幸運を祈る【親指】 レギオカ千兄弟の件でビビアンさんのお店はまたオープンカフェ営業になった。「今日は一人かいレオ」 ええまあと頷き、注文をしてため息をひとつ。 あの時、ここでも庇われた。自分が弱くて嫌になる。 もうひとつため息をついたところで「レオ」と、ややきつい声と共に頭にかたいものをあてられる。伝票を挟んだクリップボードだった。「そんな顔でいられちゃ営業妨害だよ。こっち来な」 親指で背後を示される。「皿洗い。ぴっかぴかになるまで出てくるんじゃあないよ」 びしっと言われて従ってしまったのは、きっぱりとした物言いが、どこかミシェーラに似ていたからなのかもしれない。「できました」 時計を見ると数十分ほど経っていた。はじめは、なんでこんなことをと思っていたのだけれど。ひとつふたつと山が片付く頃にはなんだか気持ちがスッキリとしていた。「半分は合格。もう半分はやり直しだね。自分でもわかるだろ、ほら」 合格と不合格とのちがいは歴然としていた。「その汚れは、あんたの悩みで迷いだよ。全部洗い落として出ておいで」 唇の端と目元とを緩ませて言われて。「あの、僕」「いいから。ぴっかぴかにして出ておいで」「……はい」 優しくて強い人たちにばかり、ここでは出会う。「うん。よし全部合格。注文の品はここだ」 ビビアンさんが指差すのはカウンターの外側。「あのっ」「食べな。腹空かしてると弱気になるもんさ。……美味しいだろ」「はい」 ぽたんとしずくが落ちて顔を上げられない。「仕事のことだろ」 鼻水まで落とすわけにいかない。すすり上げる。「難しくないよ。終わった後に食べたもんを美味しいって思えたらさ、それはいい仕事ができたから、ってことにならないか。あたしはそうしてる。コーヒー、お代わりは?」「いただきます」 ぐずぐず鼻を鳴らしながら食べ終えてボードを裏返すと、代金のところには『皿洗い××枚分、受け取り済み』 と書かれていて、なんだか笑い出したくなった。「しっかりやんな」「はいっ」 親指を立てて送り出される。こちらも親指を立てて返事をした。ぴかぴかにしたお皿みたいに、心は晴れていた。[newpage][chapter:五指一話@NL]トライVWのウェブ再録。全文掲載。<1 幸運を祈る> 追われて飛び出した砂原、思うほど路銀をためる前でバイクのメンテナンスは不完全。 それでもだましだまし動かしてはいたのだけれど。 がたがたがた、ぷすん。「あああアンジェリーナぁ、あああああ」 叫びむなしく晴れ渡る空に響く。「ワイが悪かった。次のマチに着いたら腹いっぱいにしたる。スミからスミまで身体も洗たる。あとは、そや、シートも新調するで。今のよりもっと目の細かい防塵の特別製や。せやから、せやから、ワイにもっぺん微笑んでくれやぁー」「できもしないこと言うなよ」 砂の地面に額すりつけバイクに向かって懇願する黒いスーツの男へ、冷ややかに赤いコートの男は言った。「うっさいわい。ワイのアンジェリーナちゃんは気難しんや。見とらんでオドレも頭下げんかい」「嫌」「オンドレ。なあ、わかっとるか、緊急事態やで」 なんでこいつの機嫌までとらなあかんねんとは黒服の男の心中。「きみが他の女のヒトにそんな態度とるなんて、嫌」「アホ」 頭をかいて男は、そっぽを向いてふくらされた頬へ、きつい訛りを吐く唇をふれさせる。「ばかはきみだ」 そうするとさっきまで尖らされていた唇がふれ返してきた。 と、そのとき、この場にあるもうひとつの存在がうなりを上げて割り込んでくる。 反射的に二人は離れ、しゃあないな、かなわんなとこぼしながら男は愛機へとちかづいてゆく。「どう。いけそう」 問いに男はバイクにまたがって親指を立てた。「邪魔してくれてありがとうねアンジェリーナ」 コートの男はちっともありがたくなさそうに言って、その唇をバイクのハンドルへと与えたのだった。<2 話をさせて> 誰もいないその場所へ、まるでそこに誰かがいるみたいに、あの人は今日も話しかけている。「でもね、だからってそれはないと思うんだよね」 額の上ほんの一房の金髪、その他はまるで光を返すことのない黒髪。「しょうがないだなんて寂しいこと言うなよ。いや、そうじゃない」 首を振ると揺れる。左耳の銀色のループピアスも。「あの……さん? そろそろご飯の時間で」「ああ。うん、行くよ。じゃあね、また」 知っている。 あの人の、次第に黒ずんでいく緑色の目に映る人物は、最早とうにこの世の人ではないのだ。 ねえ、あなた。 名前も知らないあなた。その人をはなしてあげて、お願い。 たまりかねて叫んだのは一度は二度ではない。 ――そこには誰もいない。あなたが一人でそうしているだけ。 言った、何度も言った。 そのたびにあの人は悲しそうに笑って、人差し指を立てて唇の前にあてた。何もかもわかっているという顔で、全然別なことを口にした。「静かにしてもらえないかな」 ああ。「彼の声が聞こえなくなる」 ああ、ああ。 そんなことあるものか、そんなわけあるものか。 いないのに。 いないのに、そこには誰も、何もいないのに。 なのにどうしてわたしは感じてしまったのだろう。 ――泣きなやな嬢ちゃん。 あの人ではない別の誰かが、わたしの頭をなでていった。顔を上げても誰もいない。 あの人は吸わないはずのタバコの香りだけが残っていた。<3 堕ちろ>「なあオドレ。世界で一番長い単語て知っとるか」「なんだい」「なぞなぞや。コトバ遊びのな」「知らないなあ」「なぞなぞや言うたやろ。ちっとは頭ひねり」「だってわかんないもん。こういうのは直感だろ」「ちなみにワイは一ヶ月考えたで」「うそっ」「こんなんでウソついてどないすんねん」 ――ニコラス。おぼえておおき、だからそれは人を遠ざけもする。 謎の答えと一緒に教えられたのは教訓。「その顔が答えや。"SMILES"」「え。なんでさ」「考えろちうたやろが。オドレの頭ん中詰まっとるんや砂か。確かめたろやないか」「どうしてそこでデコピン。あいた、いた、いたた」「おお砂や。こん中は間違いなく砂や、そらわからへんなあ。脳みそ砂のオンドレにしゃあない解説したるわ」「はいはい。ご拝聴いたしますよ」「つづりはわかるやろ。ファースト・レター(S)とラスト・レター(S)との間にマイル(MILE)の隔たりがあんねん。やから長さ1マイルの単語、ちうわけや」「ふうん。面白いこと考える人もいるもんだね。どうしてまた急に」 そうやって遠ざける、微笑でまた1マイル。「オドレが」 感傷的になっているのはきっと砂嵐の所為だ。「オドレが空っぽな笑い方するからやないか。やから思い出してもたんやないか。オドレが」「えっと。わけわかんないんだけど」「うっさい。オドレなんぞくたばってまえ」 ――うん。おおきにな。 ――だからニコラスつらいことがあったら無理に笑わなくてもいいんだよ。 あのときの自分に、今目の前にいるこの男に、伝えたいと痛切に思った。<4 誓いを贈ろう> さびれてはいるが何とか教会の体裁を保っていた建物に一夜の宿を借りようと旅行者たちは忍び込んだ。 ――大丈夫だよ牧師だろきみ ――ワイはようてもオドレちゃうやん。神さん神さん不信心の不心得もんがずうずうしぅ上がってきよるで とかなんとかいつもの調子でやっていたのを聞きつけたものがあった。 ――牧師だって? ――牧師さまがいらっしゃるの!? 声からすると男女二人、無人かに思えたそこには先客がいたのだ。 ――お願いします牧師さま。私たちの結婚をお認めください そうして渡りの牧師は彼女らに押し切られる格好で立会人となった。「ありがとうございます牧師さま」 旅立つ花嫁はそう言って感謝のしるしに花束を渡す。彼女の手はそれ自体花のように美しかった。「お幸せに」 牧師の旅連れは心からの笑みで二人を送った。「幸せに、か。ムリやろな、手見たか。ちがいすぎる」 彼女らの姿が見えなくなってようやく牧師はつぶやいた。男の手はふれればそれだけで花を傷つけてしまいそうに、まるで岩のように見えた。「うん。それでもあの人たちは手をとりあった。薬指に愛を誓いあった、神さまときみの前でね。ぼくも」 旅連れはそこで一度言葉を切る。「ぼくもきみと、できることなら手をとりあいたいと思っている」 差し出されるその手には荒事をくぐりぬけてきた歴史が刻まれている。その歴史は同じく牧師にもあるものだ。 けれど牧師は手の正体を知っていた。異形と化し、月に大穴をあけた男の右腕だ。 旅連れは牧師の左手をとって薬指に口づけをした。 動かないでいる牧師を見て旅連れは、牧師を許すように笑みを浮かべた。旅連れの左腕が精巧な義肢であることも牧師は知っている。「この手でつかめるもんには限りがあんねん」 そう、この旅連れの男の存在は、自分の手には余るものだということも、嫌になるくらいよく知っていた。<5 約束を絡めて> 俺の葬式には皆で赤い服を着ておいで 俺の葬式には皆で赤い服を着ておいで この世じゃロクなことがなかったから 葬式くらいは派手にやってくれquotation words from Langston Hughes ――ねえだからあたしのお葬式には赤い服できてね、きっとよ。 彼女は笑って小指を立てた。やけに短く切りそろえられた爪に真っ赤なマニキュアがぬられていて、 まるで花びらのようだと思ったことをおぼえている。 花。 大好きよ 紅い花はよく愛情に例えられるわ 決して大輪じゃなくても自然に咲く花なんてチョー好み でもねゼラニウムの紅い花には別の意味もあるの その花言葉は「決意」・・・ 遠い昔あの人が言った。「なあオドレなんでそないに目立つカッコやねんな」 彼にきかれ思い出したのは二人の女性。赤いコートのそのわけを、そのまま語るのはいささか気恥ずかしかった。「ひょっとして女(コレ)か」「約束(コレ)だよ」 同じに小指を立てたけれど思うものはちがっていたのだろう。「スミにおけんやっちゃなあ」 そんな彼とも約束をした。 おんどれにも・・・感謝しとるんやで? 彼に礼を言われたのは、そのときが初めてだったような気がする。 笑えトンガリ おまえはやっぱり 笑ってるほうがええ 今はもういない人との約束はいつだって重い。 いいぜ葬式くらい派手にやってやるさ。 お前が言い残したとおりに笑ってやる。 赤い服で一人、これは決意の花言葉をもつゼラニウムの紅。 派手にやろうぜ、せめて葬式くらいさ。 なあ。 .