ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 ジャララクス・デトックス2016年5月18日 23:01 「ったくよぉー、久しぶりの出番だってのになんでお前と一緒になるんだよー。」ギルドからの討伐依頼を終え飛行島に戻るなりオズマはぼやいた。その相手は言うまでもなくバイパーだ。「まあそう言うなオッサン。俺はあんたと一緒に戦うのは楽しいぞ。」「いや別にお前に言われても嬉しくねえし。」バイパーの返事にオズマは力なくツッコミを入れる。飛行島ではもうすっかり見慣れた光景である。他から見ればオズマは人づきあいが悪いのかと初めは思われていたが、今となっては二人のやり取りは漫才コンビのネタの様にも見られており、どこぞの帝王が密かに注目しているとかいないとか言われる始末である。「まあまあオズマさん、僕たちもオズマさんの力になれて嬉しかったですよ。」「はい!それに今日のオズマさんとってもかっこよかったです!」同行していたヨシュアとミレイユがフォローを入れる。最近ではこのように親しい者たちが茶々を入れるようになっている。「お~♪さっすがお前ら、見る目あるじゃねぇか~。」「あれ?お兄ちゃんも一応男なんですけどそこはいいんですか…?」「一応って!?」「俺は子どもには優しくするって決めてんのさ。」「子どもに気を遣わせるとは地に堕ちたなオッサン。」「うっせぇよ黙ってろ。」「ねぇ!一応って何だよミレイユ!」突然の横やりに狼狽えるヨシュアをよそに一同は帰路につくのであった。 「「お疲れ様でしたー!」」夕暮れを前に宿屋で双子と別れる。日が暮れればここからは大人の時間だ。「というわけでこの後飲みに行くぞ。」例の如くバイパーがオズマを飲みに誘う。対するオズマはいつも通りに、「どういうわけなのかこの流れで全然わかんねーしオメーとは行かねぇっていつも言ってんだろーが。」この塩対応である。普段ならここで引き下がるバイパーだが今日は様子が違った。「まあそう言うなオッサン。俺は明日からしばらくここを離れるんだ。久々に積もる話もあると思ってな。」「ここを離れる?またなんで急に…。」オズマは顎鬚を弄りながら首を傾げる。しかしバイパーの目線の先に先ほど双子と別れた宿屋があるのに気付くと、「あー、そういうこと。」どうやら納得がいったようだ。「それに。」と、バイパーが続けて口を開いた。「あんたと飲む酒は旨く感じる。」「はぁーーーーっ、ったくよお。」オズマは肩を落としながら深くため息をついた。「あーもう!そんな誘われ方されたら断る方も気分が悪いだろうが!もっと断りやすく誘えっての!」「何!じゃあ一緒に行ってくれるのか!」「わかった!わかったからそんな目を輝かせながらテンションあげるなきめぇって!」「よし!そうと決まれば酒場に直行だっ!」根負けしたのかはたまたお人好しなのか、誰にも知り得ないが何はともあれ数か月ぶりに二人の飲み会が実現したのだった。(ったく、大の大人がこんなにハシャぎやがってよお。どんだけ俺と飲みに行きたかったんだこいつは…。)それでもオズマは内心毒づいていたのであった。 酒場は討伐帰りの冒険家たちでにぎわっていた。その中心に位置するカウンター席に二人の姿はあった。「今日は随分と騒がしいな。」「相変わらずタイミング悪いよなオメーは。どーせ騒がしいんだったら美女のひとりやふたりでも連れて来いっての。」やっぱり来るんじゃなかった、とでも言いたげにオズマはグラスを空にする。そんな様子を察したのだろうか、「俺はあんたと飲みたいんだ。」オズマに向き直すバイパーであったが、「だから平然と言うなっての気持ち悪い。」「ほう、照れ隠しか。」「いや割と本気なんだけど…。」どうやらフォローにならなかったようだ。二人の間の空気が若干気まずくなる。「そう言えばよ。」空気に耐え兼ね先に口を開いたのはオズマだった。「ガッコ、行くんだってな。」「ああ。」「今更学生なんて歳でもねーくせに何やってんだか。」「制服は俺の手作りだ。」「しかも結構ノリノリじゃねーかよ…。」「どうせなら形から入りたいしな!」「いや限度ってもんがあるだろ…。」自分から話題を振っておきながらオズマは若干引いていた。だがオズマは別にこんなことを聞きたくてこの話を始めたのではなかった。「あいつらのこと、頼むぞ。カティアの奴からもそう言われてっし。」「任せておけ。」「俺は一緒にはいかねーからお前の働きにかかってんだぞ。あいつらが学園生活を楽しめるかどうかは。」「ずいぶんと優しいんだな。」「だーから頼まれてるからだっつってんだろ。」酔いが回ったか、ついつい余計なことまで喋ってしまったなとオズマは自嘲気味に鼻で笑った。どうせなら余計ついでにと、「かぁーっ、いっそのこと俺も教師にでもなって若い女に囲まれるってのも悪くはなかったかもなーっ。」と呟くのであったがバイパーはここぞとばかりに食らいついた。「ほう、それなら俺もさらに楽しくなりそうだな。名案だ。」「本気にするな、あとなんでオメーまで楽しくなるんだよ。」「お前が一緒なら俺は楽しい。」「勘弁してくれ…。」まったく、コイツが一緒だと調子を狂わされる。せっかく飲みに来たというのにオズマはひどく気疲れしてしまっている。バイパーと飲みに来ると毎回こうなるのであってはオズマが一緒に行きたがらないのも頷ける。「大体なんで俺ばっかりなんだよ。ちったぁ他の奴も…。」そこまで言ってオズマは気付いた。バイパーは基本的に他人と群れることをよしとしない。孤独に戦ってきた彼にとって後半は余計な一言であっただろう。一瞬バイパーの表情が曇ったこともそれを物語っている。察したオズマはすかさずフォローを入れる。「ちったぁ他の奴もガッコで誘えるようになりゃいいな。」相手の表情を読み取り話す内容を瞬時に練り直す口先のテクニックは、半分は仕事のため、もう半分は女性を口説くために身に付けた。まさか本人もこんなタイミングで使うことになるとは思わなかっただろう。「ま、精々頑張れや。」ばつが悪そうに吐き捨てたが、思わぬ反応が返ってきた。「お前が一緒だと誘いやすくもなるんだがな。」「だーからいちいち俺を関わらせようとするんじゃねぇって!」「お前が一緒だと安心するんだ。」「はぁ!?」酒が回っているのもあるかもしれないが、今日はやたらとバイパーが絡んでくる。堪りかねたオズマが一歩踏み込んだ。「オメーさっきからどういう気持ちで言ってんの?」「正直なところ、俺にもよくわかっていない。」別にどういう答えを求めていたとかがあるわけではないが、どうにも腑に落ちない。「俺も別に知りたいとは思わない。仕事に必要ないしな。」「そうかよ。」「だがなオズマ。」これまでさんざんオッサン呼ばわりしていたバイパーが突然名前で呼んだ。思わずオズマが身構える。「お前という男は実に興味深い。俺たちの仕事に突然割り込んできたときは何だコイツとは思ったが、俺たちと同等かそれ以上に戦える。素性もわからない奴がこれ程の力を持っていれば気になるのも当然だろう?」「いや『だろう?』って訊かれても知らねぇよ。」「そんなわけで俺はお前のことをもっと知りたいと思った。」「聞いてねぇし。」このオズマへの興味はどこから湧くものだろうか。探求心か対抗意識か、はたまた憧れか。バイパー自身には皆目見当もつかなかったが、先にも本人が言ったように知る必要がないし知ろうとも思わない。「だからお前と一緒になれると楽しいし、邪険にされると少し寂しくなる。」「なんだオメー。まさか俺と友達になりたかったのか?」真剣な雰囲気に耐えられなくなったオズマが茶化す。「さあな。実際のところどうでもいいんだが。」「なんだそりゃ。まーいいけどよ。謎というジャケットで着飾るのが俺のスタイルだから、興味を持たれるのは悪い気分じゃないんだがな。」「それに謎を秘めた男にはどこか惹かれると言うしな。」「おっ、珍しく気が合うじゃねぇか。」「乾杯。」「いやそれはいらねぇ。」盛り上がったところでまた邪険にされる。やはり寂しい気分になる一方で、いつもの光景にかえって安心する部分もあった。「つか謎が多いのはオメーだって同じだろうがよ…。」ぼそりとオズマが呟いたのを毒蛇は逃さない。「なんだオッサン、俺に惹かれたのか?」「ンな訳ねーだろいちいちうぜーんだよお前は!」目を輝かせながら言い寄ってくるバイパーに、オズマは心底うんざりした。結局、こんなやり取りをあと何度か繰り返しながら夜が更けていくのであった。 気が付けば、時計の針が頂上を越えようとしていた。「いい時間だな、そろそろ帰ろうぜ。」「そうだな。…おっと。」オズマに続いて立ち上がろうとしたバイパーがよろけた。それをオズマがグッドタイミングで支える。「すまない。少し飲み過ぎたようだ。悪いが肩を貸してくれ。」「あーもう結局こうなんのかよ!だから嫌だっつったんだよ…。」かつてふたりが飲みに行ったとき、オズマは酔いつぶれたバイパーを散々解放させられた。毒蛇は決してうわばみではなかったようだ。「ねーちゃんごめんな、お代はここに置いとくから!ほら行くぞ蛇野郎!」「ああ…。」なんとか帰路につくものの、ふらふらのバイパーにオズマは呆れ果てた。「ったくそんなザマでどうすんだよ。あいつらに心配かけちまうぞ?それに学園デビューもうまくいかなくなっちまうぜ?」「それは…困るな…。でも…もしそうなっても…お前がいれば大丈夫だ…。」「へいへいそうですか。」最早突っ込む気力もない。だから代わりにこう続けた。「ま、他人に興味を持つのはいいことだと思うぜ?いい機会だ。あいつらの面倒ばっか見てねーで人脈拡げてみるのもいいんじゃねぇか?」「そうだな、気が向いたらいいかもしれないな。」「そうだろ?今まで散々戦ってきたんだ。そろそろ好きに生きてみるのも悪くねーんじゃね?」「悪くないな。だったら土産話でも期待しててくれ。」「へいへい、そんときゃ酒でも飲みながら聞いてやっからせいぜい頑張ってくれや。」「何、オズマの方から飲みに誘ってくれるのか!」「あー待った今のナシ!誰がヤローなんかと飲みに行くか。性別変えて出直して来い。」「ほう、じゃあ俺が女になったら言ってくれるのか?」「ありえねーことだから言ってんだよ本気にしてんじゃねぇバーカ。」「そうか、残念だ。」「ま、たまにはいいかもしれねぇけどな…。」「何か言ったかオッサン。」「別に。なーんにも。」すっかり毒気を抜かれたオズマは、抜け殻のようになった蛇を連れて宿屋へ向かう。 その後、学園から戻ってきたバイパーが、オズマと飲みに行くことができたのかどうかは、本人たちにしかわからない。-FIN-