イカダやカセから黒鯛(チヌ)を狙うダンゴ釣りは「紀州釣り」とも呼ばれ、ウキ釣りや落とし込み釣りと並ぶ人気釣法。繊細な穂先で小さなアタリを読み取る釣趣は多くの釣り人を魅了して止まないが、そんな古来からの様式に新たなエッセンスを採り入れ、自由なスタンスで黒鯛(チヌ)釣りを楽しむ人がいる。今回は愛知の若きダンゴ釣りマスター・稲垣昌巳さんの釣行をレポートしよう。
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黒鯛(チヌ)の宝庫・英虞湾にて
数釣りにチャレンジ!
初冬の朝。キンと張り詰める空気のなか、波ひとつない湾奥の水面を船外機付きの小舟が滑っていく。岸から張り出す木々。小鳥のさえずり。あたかもダム湖にいるかのような錯覚を覚えるが、ふと香る磯の匂いに、ここが海であることを気づかされる。
三重県の英虞湾は、真珠養殖発祥の地として知られる所だ。奥深い湾内は波静かで、アオノリの養殖も盛んである。水深は深い所で40mほどあり、水温が安定していることに加え、カキなどのエサが豊富なことから黒鯛(チヌ)の魚影は非常に濃い。湾内の所々にイカダやカセが設置されており、中京エリアはもとより、京阪神方面からも釣り人が訪れるイカダ釣りのメッカだ。
今回、お供をさせていただくのは、イカダ釣りの若きエース・稲垣昌巳さんである。幼少時にご兄弟の影響で海釣りを始め、堤防の落とし込みで黒鯛(チヌ)釣りに入門。その後、ブラックバスなどを経てイカダやカセからの黒鯛(チヌ)釣りに熱中する。
イカダ釣りは荷物の多い釣りである。ロッドケースにタックルバッグ、ダンゴ用のバッカンやコンテナにクーラーボックス、イスなどなかなかのボリュームであるが、バスフィッシングからの転向アングラーである稲垣さんは、ダンゴ釣りであってもシンプルな装備で活動的な釣りにこだわる。この日も渡船に持ち込んだのはロッドベルトでサッと束ねた竿を2本、ダンゴ用のバッカンのほかに、シラサエビ用の活かしクーラーと食料用のクーラーボックスのみであった。
また、季節による黒鯛(チヌ)の食性や行動に則した稲垣さんの釣りはクレバーかつアグレッシブで、そのファッショナブルな出で立ちも合わせて「稲垣スタイル」と称される。じっくりと腰を据えて黒鯛(チヌ)と対峙するイカダ釣りも趣があるが、稲垣さんの釣風は実にスポーティーなのである。
釣行日は昨年の11月下旬。黒鯛(チヌ)釣りにおいては落ちの終盤か寒のハシリかといった時期である。レポートが遅くなったのは、この日に使った「BLACK JACKイカダ」がまだ発売される前であったから。ダイワイカダロッドのニュースタンダードが晴れてデビューとなったこのタイミングで、稲垣さんの釣りをじっくりレポートさせていただこう。
英虞湾の夜明け。懐の深い湾内には多くの黒鯛(チヌ)が息づく
古来からのダンゴ釣りに新たなエッセンスを採り入れ、新時代の釣りを切り拓く稲垣昌巳さん。
シンプルな道具立てでスタイリッシュに!
稲垣スタイルの紀州釣り。
我々を乗せた大崎筏釣りセンター(☎0599・52・1619)の船は広大な湾内をひた走り、湾口に近い間崎島の深場に設置されたカセに船体を寄せた。水深は約30mある。
「三重県下のチヌ場には型狙いの場所と数を狙える場所があるのですが、ここは数釣りの場所です。サイズは20〜30cm台半ばが中心となりますが、ここのチヌは美味しいので人気があるんですよ」
「ベースは単体でもオールシーズン使える『速攻イカダSP』です。これに『若狭ダンゴ』で比重と粘り、『名人ダンゴ アタックアミノX』で集魚効果をプラスする感じです。『名人ダンゴアタックアミノX』はニンニクやアミノXが配合されていてあらゆる魚の活性を上げてくれます。アミノXは肉食系の魚に対して効果抜群なんですよ。ダンゴ釣りはもともとエサ取りに強い釣りですからね。フグでも何でもとにかく魚を寄せて、ダンゴを突っついて海底の水を濁らせてほしいんですよ」
付けエサは稲垣さんが全幅の信頼を寄せるシラサエビ。ダンゴの中にも少量混ぜて使用する。元気な活きエビは海底付近で散ってしまうので、強めに握って弱らせてから使うほうがよいとする向きもあるが、稲垣さんは構わずそのままダンゴにくるんでしまう。
「エビの動きがチヌを刺激すると思うんです。僕はまったく気にしませんね」
ダンゴの準備が整ったところでタックルのセットに取りかかる。この日の竿はもちろん「BLACK JACKイカダ」。海面からの距離が近いので、ラインナップ中で最も短い130をチョイスした。
「グラスのしなやかな穂先が搭載されていて、チヌに違和感なく、かつ長時間エサをくわえさせておける竿です。調子をひと言で形容するなら柔軟で粘り強いといえますが、穂先と胴の間にやや張りを持たせているので、ここ一番で余裕があるんです。大型が食っても安心だし、中小型の数釣りでも釣趣が損ねられませんね」
「振動伝達性に優れたSMT(スーパーメタルトップ)仕様の『BLACK JACKイカダ メタルチューン』が手感度の竿なら、『BLACK JACKイカダ』は目感度の竿です。メタル穂先が威力を発揮するのは、深場を狙うときや風が強いとき。またアケミ貝の丸貝やカキ、イガイなど重みのあるエサを使うときも、曲がり込んだ穂先のしなやかさが死なないので使いやすいです」
臨戦態勢は整った。あとは釣るだけである。
この日のダンゴメニューは「速攻イカダSP」「若狭ダンゴ」「名人ダンゴアタックアミノX」。エサ取り、黒鯛(チヌ)ともに活性を上げるブレンドだ。
寒期に多用する「ユルユルダンゴ」。このタッチが稲垣スタイルの「攻めの釣り」を可能にするのだ。
竿は新製品の「BLACK JACKイカダ130」。柔軟ななかにも大型を難なくリフトアップする粘りを備えたロッドである。
柔らかタッチのダンゴで
アグレッシブに攻める!
まずは大きめのダンゴを投入してポイントを作る。稲垣さんによると、このポイント作りが非常に重要とのことで、最低でも30分。ときには1時間も仕掛けを入れずにダンゴを入れることもあるという。
「釣り始めにチヌの活性を上げきってしまわないと数が伸びないんですよ。中途半端に仕掛けを入れると合わせた際の糸鳴りなどでチヌが警戒してしまいますので、まずはじっくりとポイントを作ることを心掛けますね」
ここで気づいたのは、稲垣さんのダンゴは非常に水分が多く、柔らかいことである。一般的なダンゴのタッチはバサバサであり、これを両手でカチカチに握って投入するのが通常だ。しかし、稲垣さんのダンゴはユルユルで、いわゆる「耳たぶ程度」も通り越して、つきたての餅ほどの硬さしかない。それも大きめのリンゴか小さめのカボチャほどの大きさに片手でまとめ、これをドボドボと投下するのである。
「エサ取りの多い時期はバサバサタッチのダンゴを使います。ただ、この時期はエサ取りが少ないので、ダンゴもエサ取りから付けエサを守るというよりも、集魚や速攻性といった要素が優先されます」
速攻性とは具体的にどのようなものなのか。
「ようはエサ取りがダンゴを割ってくれないので、頃合いを見てダンゴから付けエサを抜いてやるわけです。このような場合、本来の硬いダンゴだとラインを引っ張ると割れずに持ち上がってしまうので、ユルユルのダンゴのほうが適しているんです。この柔らかさなら片手で握れますしね。あと、水分の多いダンゴには、シラサエビを混ぜ込んでも弱りにくいというメリットもあります」
なるほど、と思わず僕は膝を叩いてしまった。ダンゴとは硬く握って付けエサを海底付近へ届けるものと思い込んでいた頭にこのユルユルダンゴは衝撃的であったが、初冬という季節と黒鯛(チヌ)やエサ取りの活性を踏まえれば、実に理に叶ったものであることが理解できた。稲垣スタイルと聞くと、シンプルかつスタイリッシュな釣りをイメージしがちだが、実はこの臨機応変な攻めこそが、稲垣流カカリ釣りの根幹をなすものなのである。
こんな話をするうち、半時間はダンゴを入れ続けたであろうか。ここでようやく稲垣さんが竿を手にした。シラサエビを手際よくハリに付け、リンゴ大のダンゴにふんわりとくるむ。海面でそっと手から放されたダンゴは、白濁した煙幕の帯を引きながら海中へと消えていった。
時間を掛けてダンゴを投入し、じっくりポイントを作ってから竿を握った。さぁ勝負だ。
穂先は海中の情報を察知する触覚のようなもの。「BLACK JACKイカダ」は繊細なグラストップを備える。
活発にアタックしてくるチャリコを
クレバーにかわす!
じっくりダンゴを入れ続けた成果であろう。最初のアタリは竿出しから間もなく訪れた。しかしこれは20cmほどのマダイ。一般に言うチャリコサイズである。その後もアタリは活発であったが、そのほとんどは真鯛。しかし、釣り続けるうちに中小型の黒鯛(チヌ)が混じり始めた。
何となく見ているだけでは「ああ、黒鯛(チヌ)の活性が上がってきたんだな」程度にしか思わなかったかもしれない。しかし、稲垣さんは猛然と付けエサにアタックしてくる真鯛をかわし、黒鯛(チヌ)を選んでハリに掛けていたのである。
「ダンゴが着底してから短時間で付けエサを抜くと真鯛が食ってきます。でも、ダンゴが着底してもしばらくは我慢し、やや時間を置いてから付けエサを抜いてやるとチヌが混じり始めました。チヌは真鯛よりも遅れてダンゴに寄ってくるようですね。そして真鯛のほうが上ずったエサに食ってくる傾向にあります。付けエサを抜き急がず、海底付近に漂わせる。今日はこのパターンですね」
この後、ただならぬペースで黒鯛(チヌ)が釣れ上がり、特大のスカリが瞬く間に釣果で埋まっていった。漠然とダンゴから付けエサを抜いているだけでは真鯛ばかりになっていただろうし、魚の活性を考慮せずダンゴが割れるまで気長に待つだけでもスローな釣りに終始していたはずである。待たず、急がず、釣り人側から仕掛ける。これぞ「攻めの釣り」である。
また、ソフトタッチのダンゴを用いて静かに付けエサを抜くという釣りに対して、しなやかな「BLACK JACKイカダ」をセレクトしたセンスも光った。海中の状況を的確に見抜き、戦略とエサ使い、そしてタックルが見事にリンクしている。稲垣昌巳、この人はやはりタダ者ではない。
まず食ってきたのがチャリコサイズの真鯛。この1尾を起点に稲垣さんのクレバーな釣りが展開された。
待たず、急がず。真鯛が去り、黒鯛(チヌ)がダンゴに忍び寄るタイミングを伺う。
「よし食った!」。パターンをつかめば稲垣さんの独壇場。黒鯛(チヌ)を選んでハリに掛けるさまはマジックを見ているようだった。
中小型の黒鯛(チヌ)が次々に宙を舞う。大型のスカリが瞬く間に釣果で埋まっていった。
美しいフィールドは美しいまま後世に受け渡したい。釣り場の美化は釣り人として当然のマナーである。