私たちと地球の未来に向けてのビジョンを語る 今月のラインナップ

第三部『やはり好きなことをやっていられる社会が一番のユートピア~質疑応答、企業と未来の働き方~』

竹村
皆さんからご質問やご意見を伺いたいと思います。
会場
本日はお姿を拝見できて光栄です。先ほどおっしゃられたように、業界がなくなって、インターネットを使ってどんどん業際もなくなっていくというお話の中で今、日本を見ていくと、日本のカルチャーが世界に発信されていく一方で、過去、日本の優良と言われていたメーカーが買収されたり、いろいろな会社の不正が発覚したりということが起こっています。 私が思うに、日本はこれからそのようにカルチャーというもので新しく変わっていくことができるのか、それとも旧来の会社のようなものがずっと残ってしまって、アンバランスなものが残ってしまうのか、不安に思うことが多々あります。先生から見られて、これから日本はどうなっていくのか、ビジョンがあれば教えていただきたいと思います。
夏野
最後のチャンスが今だと思っています。まさにおっしゃられたように様々な問題がありますが、もっと早く事実上ダメになっているのです。ダメになっているのを生きながらえさせてしまっているので、あのような騒ぎに発展してしまうわけです。新陳代謝はどの業界でも必要ですし、生物学の世界では当たり前に起きなければ進化は起きないので、辛いかもしれないけれども、そういう新陳代謝が起こるのは良いことだと捉えなければいけないと思っています。たとえばアメリカには巨大なグローバル航空会社が昔ありました。それが全然ダメになったから、バラバラになって今はあらゆる航空会社になりましたが、今、アメリカの航空会社はとても強くなっています。そういう昔は良かったな、という気持ちはあって良い。けれども、本当にそれを実行してしまうと新しいものが生まれないので、そこは変えなければいけないと思っていて、日本で昔からやってきていることを変えないほうが無難かなと皆が思ってしまう背景には、もし、ぼくがその立場だったら嫌だな、と思う国民の感情にあると思います。むしろワクワクしなければいけないと思うのです。そこの人たちはバラバラになったけれども、それぞれが新しい開発をはじめたら物凄いメーカーがまた出てくるかもしれないとワクワクしたほうが良い。それよりも、今のまま置いておくことが皆の幸せではないかと思っていると新陳代謝は起こらない。 今がラストチャンスと思うのはただひとつ、人口が減っていきます。今、既に2010年をピークに日本の人口は100万人以上減りましたが、これから2020年まであと4年で300万人減ります。2020年から2030年のあいだに700万人減ります。あと15年後にはだいぶスカスカになります。 すると、そこから産業をつくって盛り上げていくことは、国内市場が小さくなるのでますます厳しくなります。となると、オリンピックもくるし、盛り上がっている今、変えられるところをどこまで変えられるか。変えるというのは、昔からやってきたことを正しいと思わないことです。そこが大事だと思います。
竹村
夏野さんはオリンピックをどう考えておられますか?
夏野
オリンピックは、いろいろとありますけれども、このタイミングでくることになったのは良かったと思っています。今回、リオを見ていただいておわかりのように、オリンピックが開催される国への世界的な注目度は、これに勝るブランディングはない。それから国内でいうと、オリンピックがくるんだからと、新しいことをやっても良い雰囲気になるのは前回のオリンピックでも証明されていますしね。 ですからここで委縮しないで、実は日本はお金がたくさんあって、人がいて、そして文化、テクノロジーもあるので、ということはこれをフルに生かしてどこまで変えられるか、その最後の秒読みの期間がこれから4年間だと思います。
竹村
リオオリンピック閉会式の日本の引継ぎセレモニーで、思い切った、今までの日本らしくないことをやりましたからね。
夏野
あれは感動しました。リオのオリンピックの閉会式のハンドオブセレモニーを歌舞伎でもなく、相撲でもなく、伝統文化ではなく、新しいデジタルの日本を全面に出して演出しきった。あれを良しとしたのは、「なかなかやるな、組織委員会」と。新聞はなかなか褒めませんけれども、森会長も、ひょっとすると良い人かもしれない(笑い)、と思いましたね。
竹村
表面的にはそうだけれども、大変な文化のOSが底辺にはあります。
夏野
もちろんです。ですから旗の振り方ひとつ、踊りの振り付けひとつ、ぼくはエンブレム委員だったので、あのエンブレムを選んだのですけれども、あのエンブレムにして良かったと、あのハンドオブセレモニーで思いましたね。
竹村
はい、次の方いかがですか。
会場
世界的に携帯が普及するときに、東南アジアは固定電話のインフラがなかったので日本よりも浸透が早かったそうですが、それと似たことが、従来の銀行がAIやフィンテック(FinTech)を活用したネットバンキングその他のIT企業に少しずつ侵食されているのに近い絵が見えているような気がしますが、既にアセットを持ってしまっていることで足かせになる事例と言いますか、そういうことに関して先生の知見をお聞かせいただけたらと思います。
夏野
それは、たとえばウォークマンをつくったソニーがなぜiPodをつくれなかったのかとか、それからなぜ日本の自動車メーカーは自動運転では後塵を拝しているのかとか、これはイノベーションのジレンマでして、余りにも成功してしまったので新しいことができないのは、世界中の企業に、あるいは国に当てはまることなのです。それを打破する唯一の手は何かというと、自分の社内に多様性を抱えることなのです。ですから日本の企業がもし上手く再生したり、上手くリバイブしたり、あるいは新しい力を取り入れてやっていくことができるとしたら、それはいち早く、同じ釜の飯30年というのを捨てられるかどうかにかかっていると思います。 社会の論理で外でも通用すると思ってしまうのもそうだし、中国企業に負けているのに負けていないと思ってギリギリまで頑張っていた会社もそうだし、ですから早く多様性を社内に取り込む。われわれは、昔から「井の中の蛙大海を知らず」と戒められてきたのに、日本の名だたる大企業はほとんど井の中の蛙経営者しかいないのは、これは明らかにおかしい。当たり前におかしいことは止めていく勇気が持てるかどうですね。持てないと自分のところは変われないので、他の企業にやられてしまう、あるいは海外の企業にやられてしまう。日本の企業が皆同じにダメになり、海外の企業にやられてしまった例は、ぼくも加担した携帯電話業界で起こったことでございます。
竹村
夏野さん、理系とか文系とか、そうした問題について何かありますか。
夏野
理系、文系をここまで分けている国は日本だけなのです。たとえば数学がわからない人には近代経済学はできないのです。ですから経済学部出身のくせに、微積がわからないのは、経済学の勉強を一ミクロンもしていないと断言して構わないですね。一方で、たとえば意匠とか、建築の世界は、これは普通ですと理系ではないのです。工学系は、土木はエンジニアリングですが、建築は基本的にファインアーツの世界なので、意匠はいわゆる芸術学部の中にあるべきですね。日本で言われる文理は明治時代ですかね、明治時代か何かにできた仕組みで、しかも業際がなくなったと同じように今は学際もないので、そういう意味ではちょっと意味がない。しかも18歳くらいで選択しなければいけないのは、全く意味がない。もったいないです。
竹村
数学というリテラシーを、皆がある程度身に付けていないと、プログラミングもそうですけれども、もったいないことですよね。
夏野
一方で、語学ができないと論文も書けないので、理系に行く人が英語と国語が嫌だというのも問題で、ですから、そこはもうちょっと柔軟にいかないといけないと思います。
竹村
先ほどの、異業種とか、自分で全然考えたことのない畑違いのところに新しいビジネスチャンスがあるかもしれないとなると、やはりいろいろなことを経験する必要があります。先ほどの自分の人生で多様なモードを持つことと関連してきますけれども、たとえば小学校、中学校、いつでもいいのですけれども、農業体験を半年、1年体験することで食料の問題から、気候変動の問題から、リテラシーが生まれますね。
夏野
これは難しい議論で、全員にそれを経験させるのが良いのか、希望者で良いのか、ここは文部科学省が一番悩んでいるところで、制度にしてしまうと、どうしても全員にその機会を与えようとします。よく考えると、浅田真央ちゃんは最初からアイススケート一押しだったと思うのですね。すると農業経験は、やらなくても良いと思うのです。今回、リオのオリンピックはメダル数最多でしょう。皆、小学校、中学校くらいからそのスポーツに出会って、人生賭けて頑張ってきた子たちです。一律ではないことと、多様な経験というものを両立したいと思います。
竹村
もし一流になろうとすると、スポーツは前倒しせざるを得ないわけですね。そうなると後半生でいろいろなことができる可能性が出てきます。
夏野
またその経験が生きてくると良いと思います。
竹村
夏野さんに素晴らしいお話をいただきました。人間の生き方と同時に、人間のあり方を未来まで見据えていただいたような気がします。 最後に、100年後が良いのかどうかわかりませんが、たとえば100年後、どんな世界に生きたいでしょうか。あるいは夏野さんだったらどんな世界をつくりたいか、のほうがピンとくるかもしれません。
夏野
本当の意味のユートピアとは何だろうと考えると、やはり好きなことをやっていられる社会が一番のユートピアではないか。もちろん人に迷惑をかけないことは前提ですけれども、でも自分が好きなこと、打ち込めること、時間を忘れること、どんなに苦労していても苦労だと思わないこと、こういったことを突き詰めていると生きていける。こういう社会をどうやってつくれるかな、ぼくはこういう社会をずっとユートピアではないかと思っていて、IT技術、AI技術、インターネットは確実に、そちらの方向へ後押ししてくれるのだと、日々感じます。ですから、ぜひ皆さんに、食わず嫌いしないでほしいのです。新しいテクノロジーができたといったら、「エー!?そんなもの」ではなく、ちょっと試してみる。だからぼくは既に「iPhone7」ですし、乗っている車は「テスラ」ですし、とにかく新しいものを全部試します。やってみて、まだ早いかなと思うものもあります。でも、それがやはり楽しくなります。そういう社会になってほしいと思います。
竹村
どうもありがとうございました。