ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 キツツキとかくれんぼ2013年10月10日 00:00銀さんお誕生日おめでとう!本文は誕生日全く関係ない村塾の話です。黒子野のかくれんぼの時、村塾のメンツだけが頭に木の枝差してたのは、つまり松陽先生の影響ですよね、分かります。というn番煎じネタのお話。実際の地名がいくつか出てまいりますので、ご注意ください。 松本村の吉田先生は、少し変わった人。 好奇心旺盛で、何をやるにも一生懸命。 子ども以上に子どもっぽい、けれど博識で、藩主の前で講義を行える程の知識と度胸を兼ね備えた人物。 全体的に細くて、遠目から見れば女性に見えなくもない、けれど腕っぷしは強い優男。 銀時が聞く師の評価は、大体いつもこんな感じだ。合っているかいないかで問われれば、銀時は迷うことなく頷いてみせる。器用なクセに生活能力は皆無、という一言を付け加えて。……とはいえ、銀時が周囲の人間――それこそ、師と毎日顔を突き合わせている塾生達以外――と関わり合う機会など、そうそうないのだけれど。 ゴロンと、銀時は自分の腕を枕代わりに縁側に寝転がる。師も塾生達もいない杉家は、常の喧騒が偽りだと思うぐらいに静かで、平和だ。コオロギの鳴き声が遠くのほうで聞こえる。藩主に呼ばれた師が城から帰って来るのは、いったいいつ頃になるだろうか。 もう、帰途についているだろうか。仮に帰途についていたとしても、城下町に知り合いの多い師のことだ。お茶に呼ばれて、世間話に花を咲かせているかもしれない。 いっそ、師が帰って来るまで一眠りしようか。欠伸がてら思う。見上げる空は見事な秋晴れで、雲一つない。こんなに良い天気に昼寝しないなんてダメだよな。一人ごちて、銀時は目を閉じる。 すると、睡魔がすぐにやって来て。抵抗することなく睡魔に身を預け、――――……しかし、自分以外の人の気配を感じ、銀時は目を開けた。起き上がり、近くの柱に立て掛けてあった刀を手に取る。この気配は……、察し、自然と入っていた肩の力を抜いた。「ただいま帰りました」 ひょっこりと、師が顔を覗かせる。それはそれは、楽しそうな顔で。 銀時は、器用に片頬だけを引き攣らせた。え……、何あの顔……。何であんな嬉しそうにしてんの……? 少なくとも、行きはあんな顔をしていなかったはずだ。あんな、すごく面白いものを見つけましたと言わんばかりの子どもみたいな顔。銀時は経験上、この顔をした師がこの後何を言い出すのか、嫌という程知っている。 じり……、銀時は一歩後退する。師の後ろを、金魚の糞よろしく桂小太郎と高杉晋助がついて来ていた。城下町で拾ってきたのか、奴らが勝手について来たのかは不明だが、あれらが増えると、面倒事が更に面倒になってしまうことは、目に見えていた。 とりあえず、厠辺りに逃げるか? だが、周囲を窺っている間に一足早く師に呼び止められてしまう。「銀時、」 心なしか、師の声は弾んでいた。銀時の肩が大きく上下する。「せ、先生……?」 両の拳を固めて、師は銀時の前に仁王立ちした。「かくれんぼしましょうか?」「は……?」 口をポカン、と開けた。何でかくれんぼ? あんた、何しに城に行ったんだ? 様々な疑問が渦巻くが、どれも口をついて出てくることはない。冗談だよな? 窺うが、師の目は至って真剣で、残念ながら嘘を言っているようには全く見えなかった。 松本村の吉田先生は、少し変わった人。 誰かが言っていた師の評価。銀時は今、猛烈にこれを修正したい。 吉田先生は少し変わった人なんかじゃない。少しどころではなく、アホみたいに変わった人だと。 外へおいでと、手を差し伸べる師に、銀時はガックシと肩を落とした。「……で、何でかくれんぼなんだよ。分かりやすく簡潔に説明しろ」 杉家の敷地内のツツジ――銀時の肩程の高さの低木だ――の背後に身を潜め、銀時は師が連れて来た晋助に事の真意を確かめる。けれど、晋助から返ってきた答えは、到底銀時が満足できるような答えではなかった。「城で川中島の戦いの啄木鳥戦法の話を聞いたら、かくれんぼに行き着いたらしい」「いや、意味分かんねぇんだけど……」「何で分かんねぇんだよ。それぐらい察しろ、バカ」「いや、お前がバカ」「って言う、お前が一番バカ」 顔を顰めてみせるけれど、晋助は楽しげに笑ったまま。銀時は察する。あ、コイツ、かくれんぼをエンジョイする気だな、と。 相変わらず、師の誘いやお願いには無条件で乗る奴だ。銀時や小太郎が頼もうものなら、ゴミを見るような目で拒否するだろうに。何だ、この扱いの差は。 にじゅいち、にじゅに。目を手で覆いながら踞り、数を勘定する鬼役の小太郎などは、これも授業の一貫だと完全に思い込んでいるようで、自ら鬼役を買って出た程。悲しいかな、銀時以外の誰一人として、城へお出掛けからのかくれんぼ大会に違和感を覚える者はいなかった。「あっち行けよ、銀時。お前までこっち来たら、ヅラにすぐ見つかんだろ」「見つかるも何も、こんな見つかりやすい場所に隠れてる奴に文句言われたかねーんだけど!」 晋助と銀時が今息を潜めている場所は、ちょうど杉家と私塾の建物の間にあるツツジの背後。しゃがめば姿も隠れるし、ツツジ自体複数本生えているので、すぐ見つかることはないだろうが、いかんせん鬼との距離が近すぎる。数を数え終えた小太郎が立ち上がった瞬間、確実に視界に入り、一発で見破られてしまう危険性を多分にはらんでいた。 灯台もと暗し、と狙ってここに隠れているのか、それとも考えなしのバカか。どうだ! と言わんばかりに高杉が笑っているので、おそらく前者であろうけど。「こっからならヅラの勘定が終わった時、すぐ飛び出して行けるからな!」「飛び出して行くって何!? かくれんぼに、そんなルールねぇけど!?」「それでヅラのヅラを蹴れば、こっちの勝ちだ!」「それもはや、かくれんぼじゃなくて別の競技じゃねェかァァァァ!!!!」 缶蹴りに近い気がするが、小太郎の頭部を狙う時点でそれとは違う。というか、とんでもなくバイオレンスなえげつない競技だ。「啄木鳥戦法なんだから、そうしないとダメだろ!」「ダメなのはお前の頭! 先生の発言から、何勝手にありもしない行間読んでんだ!」 もういーかーい。もういいよー。小太郎の声に、師が声を被せた。目を覆っていた手を離し、小太郎が立ち上がる。まずい、焦って晋助を見れば、ニッと口元を歪めていて。「おい、高杉!」 待て、早まるな! 銀時の制止は、ツツジから飛び出して一直線に小太郎を目指す晋助には届かず、「高杉見ーっけぶぶふァッ!!!!」 晋助の張り手が、小太郎の頭にクリーンヒット。ガードもできず良いように殴られた小太郎が後方に吹っ飛び、井戸に頭突きをして止まった。「…………ヅ、ヅラ……?」 死んだか? ドヤ顔で腕を組む晋助は放置して、小太郎に近づいて行く。ピクリ、小太郎が微かに身動いだ。「ヅ……、ヅラじゃない……、桂だ……ッ!」小さくはあるが、しっかりとした小太郎の声。どうやら、生きてはいるようだ。「いきなり何をする、高杉! 貴様、それでも侍か!?」 反動をつけて起き上がり、小太郎が晋助に詰め寄る。だが晋助は鼻で笑うばかりだ。「お前こそ、侍のクセに簡単に吹っ飛ばされてんじゃねぇよ。先生が啄木鳥戦法だって、おっしゃってただろ」 桂がハッと息を飲み、「そうだ……、これは課外授業であったはずなのに……!」頭を抱えた。「俺としたことが、先生のおっしゃったことを鵜呑みにし、真意を探究しなんだとは……!」「いや、何でお前までありもしない行間読もうとしてんの。先生、そこまで絶対考えてねぇから、ただかくれんぼやりたくなっただけだから、絶対」 ツッコミを入れるが、頭を抱えて唸る小太郎には、きっと届いていないだろう。「銀時、高杉! 今からでも遅くはない、潜伏している松陽先生を見つけ出し、前後から挟み撃ちにするぞ!」 ……うん、確実に届いていなかったようだ。もうダメだな、コイツら。銀時は舌を巻く。てか、前後から挟み撃ちって何だ。かくれんぼでも、ましてや缶蹴りでもない競技をするつもりか。 ……もう、帰っても良いかな。帰って、昼寝しても良いかな。拳を固めて意気込む小太郎と晋助には悪いが、もう勝手にやってくれという気分だ。 大体挟み撃ちをするにしても、肝心の師の気配が全くないのだ。もしかして、杉家の敷地の外に隠れているのではなかろうか。……だとすれば、正直探しに行きたくはないのだが。「行くぞ、銀時!」 けれど小太郎も晋助も、そんな銀時の心情に構うことなく、銀時を連れ出そうとする。「外出るのはメンドーだから、オレはここで……」 待っている。言い切る前に、勢い良く小太郎に腕を引かれた。「何を言うか! そうでなくとも、お前は外に出たがらないんだ、こういう時に外に出んでどうする!」「バカなクセして、細けェこと気にしてんじゃねぇよ。行くぞ」 いつの間にか背後に回っていた晋助に、背を思い切り蹴られる。足が縺れたが、銀時の腕を掴んだ小太郎は、何事もなかったように腕を引いて歩き出した。「ってーな、高杉! ヅラも! オレはまだ行くなんて一言も!」 引きずられるように、足を動かす。晋助も小太郎も止まらない。「松陽先生の『もーいーよ』は、オレの耳にはしっかりと届いた」「ってことは、田床山の方には行ってねぇな」「範囲を村に絞って探した方が良いかもしれん」 銀時の主張は無視して繰り広げられる会話。聞く耳すら持っていないようだ。 もう、勝手にしろ! 銀時は乱暴に頭を掻いた。 ――――……その後、三人で師を探したけれども、一向に見つからず白旗を上げ。 子どものように嬉しそうに姿を見せた師の頭には、何故か角のような物が生えていた。 角といっても、正確には角ではなく、木の枝をそれぞれの耳に差し、角のように立てていただけなのだけれど。さながら、丑の刻参りの際に頭に立てる蝋燭のようにも見える。「何で頭に角生やしてんの、先生」「角ではありませんよ、銀時。これこそが、私がかくれんぼで逃げきった秘密道具なのです」 師が拳を固めて、意気揚々と語る。そんな馬鹿な。にわかには信じがたい話なのだが、横目で見た小太郎と晋助は、爛々と目を輝かせていて。銀時は器用に片頬を痙攣させる。 松本村の吉田先生が教えている子ども達は、少し変わった子。 かくれんぼの時は、皆で頭に木の枝を差している。 ――――周囲にそう評価されるようになるのは、もうまもなくのことである。