人間の知的活動は汗の賜物である
最近汗をかかない人が増えているといいます。あるいは臭くなる、ベタベタするといって汗をかきたくないという人も多いそうです。この状況は専門家から見れば、「文明の危機」と言っても過言ではありません。
汗ごときで文明の危機とは大きく出たものだと思われるかもしれませんが、この文明社会をつくり出したのは人間の脳、その脳の働きと汗とは非常に密接な関係にあるのです。
人間は恒温動物であり、ある一定の範囲内で体温を調節して生きています。なぜ体温をある程度一定に保たなければならないかというと、脳細胞が温度変化に弱いからです。
運動前に準備体操をしてウォーミングアップするように、筋肉にしろ、臓器にしろ、私たち人間の体は温めたほうがよく機能します。しかし、脳だけは例外です。誰しも経験があると思いますが、平均体温が37度の人が38~39度に上昇した時、会社に行くことはできても頭はボーっとして、じっくりものを考える、細かい計算をやる、難しい資料を読みこむなどといった頭を使う仕事は困難になります。これは体温の上昇と同時に脳の温度も上昇しているからです。
この事例からわかるように、脳の温度が1℃でも2℃でも変化すると人間は思索する、哲学する、文明を発達させるような発明・開発に取り組むなどといった知的活動が行えなくなります。そこで人間の体温、というよりも脳の温度を一定に保つために重要な働きをしているのが汗なのです。
ここで体内における熱と汗の関係を簡単に説明しましょう。
人間は生きていくためにエネルギーが必要であり、このエネルギーを生みだす働きを「代謝」といいます。車のエンジンが回り出すと熱くなるのと同じ原理で、代謝をすると体内に熱を生じます。するともっと代謝が活発になります。つまり、代謝する→熱が出て体温が上昇する→もっと熱が出て、さらに体温が上昇する・・・というように、放っておくと人間の体温はらせん状に上昇していくことになります。
しかし実際に体温が上昇し続けることはありません。それは次の3つの方法で熱を外へ放出しているからです。
1つは放射といって、体温より外の温度が低い時、熱は自然と体外へ出て行きます。2つ目は伝導といって、豚や象、カバの水浴びなどがそれに相当します。例えば豚が泥水の中でゴロゴロしているのは、ただ泥んこ遊びをしているのではなく、冷たい水に触れることで体内の熱を放出しているのです。要は打ち水の原理です。しかし人間は体温が上昇したからといって、いちいち水浴びをしていられるほど暇ではありません。もっと効率的に熱を放出しなければなりません。それが発汗なのです。
良い汗・悪い汗
私たちはエクリン腺という汗腺から汗を出していますが、人体の発達段階からみると非常に未熟な器官です。重要な役割を担っていながら怠け者で、実際に「汗を流して」働いているのは半分程度。子どもの頃から空調の整った環境で育った現代人は汗腺を使う機会が減っているため、エクリン腺がどんどん退化しています。
しかし、汗もただたくさんかけばいいというものではありません。汗にも良い汗と悪い汗があるのです。次の項目でみなさんが普段かいている汗が、良い汗なのか悪い汗なのかチェックしてみてください。
○平均体温が低い
○汗はめったにかかないが、かくときは玉のような大粒の汗がとめどなく流れる
○汗をかいた後はベタベタして臭う
○慢性疲労である
○冷え症である
これらに該当した方は、おそらく悪い汗をかいているのではないかと思われます。
そのメカニズムを簡単に説明しますと、人間には適応能力があり、うまく汗をかけないとなるべく熱を出さないよう、低代謝で低体温の体質へ変わっていきます。発汗による体温調節ができませんから、外気温が上がれば一緒に体温も上がり、下がれば下がる。つまりカエルやトカゲなどの変温動物と何ら変わらなくなるのです。
機能している汗腺が少ないと、いざ体温が上昇した時、限られた働き者の汗腺から一気に汗を出さなければなりません。本来、脳の温度を下げるためにかく汗はさらさらしていて水に近いのですが、どっと噴き出した汗には体内のいろいろな成分が含まれ、ベタベタや汗の臭いの元となります。また、人間の元気の源であるミネラルまでもが流失してしまうため、慢性疲労に陥りやすくなってしまいます。
ベタベタする、汗臭くなる、するとますます汗をかきたくなくなる。ますます代謝をしなくなる。その結果血行不良になり、冷え症になって、さらには体内の血液が濃くなり血栓ができやすくなります。当然、脳梗塞や心筋梗塞への危険性が高まっていきます。
また、脳の視床下部には体温を調節する中枢がありますが、その温度が上がったり下がったりして乱れると、隣接する自律神経の中枢やホルモンの中枢も乱れます。最近、自律神経の失調やホルモン系のいろいろな失調を訴える人が増えているのも、汗をうまくかけないからだと指摘する専門家も少なくありません。
汗が私たちの体にとって非常に重要な存在であることを認識していただけたと思います。冒頭で、「汗をかかなくなったことは文明の危機」と申し上げたのも納得いただけるでしょう。
自然塩入浴で汗腺トレーニング
日本には四季があり、かっての日本人は夏には夏の、冬には冬の皮膚感覚で、五感を働かせて汗をかいていました。空調機能が整った現代でも、外気温との差を5℃に設定したりするなど汗腺を眠らせない努力が必要です・・・、などと昔を懐かしんだり、現実味のないことをいっても始まりません。
この冷房列島日本では汗腺機能を高める積極的な方法を考えなくてはなりません。そこでお勧めするのが、「自然塩入浴」です。
自然塩をお風呂に入れるだけ、という至って簡単な入浴法ですが、その効果は絶大です。
何と言っても、塩には温熱効果があり体の芯まで温まります。お湯だけの場合、最初に皮膚表面が温まりますが、芯まで温まるには時間を要します。皮膚表面が温まって出る汗はどっと噴き出すベタベタ汗、芯から温まって出る汗は、粒状でうっすら皮膚に浮かぶ水のようなサラサラ汗です。
冷え症や冷房病などは体の芯が冷えているため、内臓部に一所懸命血液を集め、手足に血液を届けられないことが原因です。芯から温まれば自然と改善されるでしょう。
ただ汗をかくだけならば精製塩を使った入浴でもいいのですが、先ほどお話しした通り、汗と一緒に体内に必要なミネラルも流失してしまいます。それを補うために、ぜひ海水のミネラルが入った「自然塩」を使っていただきたいのです。
また、自然塩入浴には体内の毒素を排出する働きもあります。
毒素にも体内でできるものと、体外から入ってくるものの二通りあって、体内でできた毒素、つまり老廃物は腎臓でほとんど分別され、尿と一緒に排出されます。
しかし、現代社会では環境汚染によって水銀や鉛、カドミウムなど、体外から入ってくる有害金属があります。これらの物質は腎臓がその働きを完成させた500万年前には存在しなかったため、尿として排出することはできません。
一方、前述の通り汗腺は、未熟な器官であるため、あれこれと分別することもなく、体内に入り込んできた有害金属を汗と一緒に排出するのです。かって水俣病が問題になった時、水銀中毒の患者に発汗を促して水銀を体外に排出させたことをご記憶の方もいらっしゃるでしょう。
また、自然塩入浴では皮脂腺の毛穴を広げてくれる作用があります。有害金属は脂肪とくっつきやすいため、毛穴が広がって皮脂が出やすくなる分、有害金属も一緒に排出されるのです。自然塩入浴で眠った汗腺を呼び起こし、トレーニングさせることによって、日常的にいい汗をかけるようになるでしょう。
自然塩入浴を効果的に行うために
さてここで、「自然塩入浴」を行う際の留意点やポイントをいくつかお話ししておきます。
(1)自然塩を使う
前述の通り、流失するミネラルを補うためにも自然塩を使いましょう。精製塩を使用する場合は、「にがり」を入れて、ミネラルを補完してください。
(2)自然塩の量は約30~50g
浴槽の大きさやお湯の量によっても異なりますが、家庭の標準的な浴槽の場合、30~50gが適当。
(3)お湯の温度は38~39℃程度
自然塩によって温熱効果が高まるので、38~39℃くらい。ぬるくても十分体は温まり、汗が出てきます。
(4)入浴時間は約15~20分
慣れないうちは長く入っていると皮膚がふやけて、汗腺の出口をふさいでしまうので、15~20分が目安です。うまく汗腺が働くようになるとそういうことはなくなるので、徐々に長くしていけばいいでしょう。
(5)お風呂あがり、要注意!
「ああ、暑い、暑い」と言って、すぐビールを飲んで冷房のきいた部屋で過ごしていませんか?実はこれが一番よくないのです。お風呂あがりはまだ体温は上昇したままで、タオルで拭いてもまだ汗は出てきます。しかし、そこで服を着たり、冷房を浴びると皮膚のセンサーが「汗を止めろ!」という指令を出し、止めてしまいます。体は熱を持ったままなので、睡眠に入ってからどんどん汗が出てきます。それが寝汗となって、明け方寝冷えするのです。出る汗は出しきってから服は着たほうがいいのです。
(6)水分補給はたっぷりと
自然塩入浴はたくさん汗をかくので、その前後はしっかりと水分を取ってください。酢に含まれるクエン酸は代謝を促進させるので、リンゴ酢や黒酢など摂取するとより効果が上がるでしょう。
繰り返しますが、汗は人間が生きていくのに欠かせない存在です。いきいきと知的生活を送っていくためにも、汗をかかない低代謝、低体温のサイクルを断ち切っていかなければなりません。空調が完成されたこの現代社会で、いい汗をたくさんかくことが心身ともに健康に生きる秘訣です。
致知 2005年9月号より