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7月
2017
デジマ in USA 第8回:オーガニックの伝道師Whole Foodsはどこへ行く?

こんにちは、金澤です。
ニューヨークは6月から7月が一番いい季節です。あちこちで結婚式があって、爽やかでキラキラな季節です。一方、8月になると不快指数は東京並みで、湿気が多く空気も淀んできます。ともあれ、ニューヨークの夏はみなさんが思っているほどよくありません。で、お金持ちはバケーションに出かけてしまうので、高級飲食店の売上が上がらない、という現象が起こります。そんな飲食と同様に、高級食材を売るスーパーも夏は結構ピンチになるようです。今回は、その高級スーパーの雄、Whole Foodsのお話です。なんと、この記事を校正しているうちに、Amazonによる買収ニュースが出たのは皮肉としか言いようがありません。何故なら、私が昨冬、大学のファイナンス授業でのファイナル・プロジェクトの題材にしたのはAmazon Freshであり、その競合分析の題材の一つがWhole Foodsの配送を支えるinstacart(後述)だったのです。ある意味、予言者の気分です。(笑)

1. オーガニック・フードを広めた元祖的存在のWhole Foods

Whole Foodsは、1978年、テキサス州のオースティン市のダウンダウンでオープンした、ベジタリアン向けの小さなスーパーマーケット、SaferWayから始まりました。2年後の1980年、Clarksville Natural Groceryという別のスーパーと合併し、現在の名称、Whole Foods Marketとなります。
1960年代のヒッピームーブメントからオーガニック・フードの愛好者が増え始め、大企業が提供するプロセスフードへのアンチムーブメントも強くなっていきます。そんな流れの中でWhole Foodsは生まれ、そのマーケット・ポジションを確固たるものにしていきます。
また、彼らがビジネスを始めた1980年代とは、度重なる不況からレーガノミクスによって脱却を図るアメリカ再生の時代。消費喚起の減税措置が取られ、産業構造も工業からIT、金融にシフトしていく中で、Whole Foodsはヒッピー世代の新興富裕層に受け入れられ、彼らのライフスタイルを反映するシンボリックなスーパーマーケットとして知られるようになっていきます。現在では、主に都市部を中心に約400店舗を展開。最大規模のナショナルチェーンであるKrogerの2700店舗には遠く及びませんが、主要都市では常に強い存在感を持っていて、アメリカのスーパーとしてはありえないほど接客サービスがよい、高級スーパーの第一人者です。日本でいえば、紀伊国屋や成城石井のような立ち位置といえるでしょう。

2. ミレニアルを狙って再起をかけるWhole Foods

そんなWhole Foodsも、2009年あたりから売上が伸び悩み始め、数千人単位のリストラが行われるなど低迷します。そこで彼らは、またミレニアル層を狙ったマーケティングによって局面の打開を図り、自ずとデジタルの活用に力が入ります。2012年、一部店舗でグロッサリー商品のデリバリーサービスを開始しますが、買い物は店舗で行い、帰りにそれをカウンターに預けると、$5で届けてくれるという、ちょっと中途半端なもの。これが、2014年に大幅に変化し、本格的なネットスーパーのサービスを開始します。実はこの年、Whole Foodsは、フードデリバリーを専業とするスタートアップ、Instacartという会社との提携を発表しておりまして、実際の配送オペレーションとWEBサイト上のカート機能を含め、Instacart社が提供することになりました。また2016年には資本提携も発表しています。
情報:Whole Foods Invests in Instacart at 2014 Valuation, Bloomberg (2016)

(注)以前の記事、”第3回: 本場のAmazonで買ってみる(2)”で、Whole Foodsは自前のデリバリーを使っていると表現しましたが、実際にはInstacard社のものを使っています。お詫びして訂正申し上げます。

また、以前も少し触れましたが、2015年にはWhole Foods 365と言われる郊外型店舗の展開を開始。倉庫兼用のシンプルな店舗様式、8:00 – 23:00と早朝から深夜まで対応、生鮮食品だけではなく、チョコやアイス、ビールなどの嗜好品や、ピザやスープなどの半完成品食材を売りして、価格帯も比較的廉価にするなど、ミレニアル層の嗜好に合わせた「ちょっとかっこいいWalmart」を意識した店舗展開を開始しました。もう一つの特徴は、365 Rewardsというメンバーシップで、オンラインから無料入会。WEBサイトかアプリを開くことで会員バーコードが表示され、特定商品の割引やBuy 5 Get 1 Freeなどの大量購入割引(同じもの5個買えば1個タダ)が可能になります。
2017年の現段階でオープンしているのは西海岸の4店舗のみで、ニューヨークを含む13店舗が開店予定となっています。ちなみに、Whole Foods 365の店舗では今のところデリバリーに対応していません。この辺はちょっと不思議ですが、郊外型店舗である故の買い物習慣(みんなクルマで来る)と配送コストの問題(やたら家まで遠い)とが影響しているとは思います。
https://www.365bywholefoods.com/

3. Whole Foodsのオムニチャネル

Whole Foods はWEBとスマホアプリの2つを用いて、オムニチャネル戦略を展開しています。
基本的に販売チャネルは店舗とWEBサイトで、アプリからのオーダーは出来ません。

– Web Siteからのオーダーについて
一般的なネットスーパーの場合は、近隣店舗を指定して、そこの在庫が注文可能となりますが、Whole Foodsは店舗指定を必要としません。どうやら、注文した情報を最寄りの流通センターか複数店舗の在庫で引き当てているようです。

 

 

原則、1ユニット単位から注文でき、注文から3時間後の配送スケジュールに載せることが出来ます。配送スケジュールは2時間単位で、最低注文金額は$10です。さて、気になる配送料ですが、昨年までは注文$35以下だと$4、$35以上だと10%という料金設定でした。そして、Instacart Expressというプログラムに参加すると、年間$149で何度でもいくらでも配送無料になりました。
しかし、現在は$10以上なら30日間無料。最低注文が$10なので、事実上送料無料キャンペーン中です。

 

これはAmazon Freshへの対抗策から、今年の春に方針転換したものですが(Amazon Freshは、Prime会員$99であることが前提で、かつ$14.99の月額配送費が必要)、Amazonに買収された今、これは統合されていくのでしょう。

さて、肝心の使い勝手ですが、正直、あまり良いとはいえません。
生鮮食品となると圧倒的な品数とカテゴリー数になるので、検索のしやすさは生命線です。あいまい検索への対応や、カテゴリ分類、リコメンデーション、レシピからのアプローチなど様々な試みが考えられますが、Whole Foodsの場合、トップページにはディレクトリメニューが表示されず、キーワード検索がメインになります。

そして、スペルを間違えるとこうなります。(本当はAvocado)

そして、しばらく検索でスタックしていると、30分くらいでこんなメールが飛んできます。

 

Whole Foodsで注文して2時間以内に配送されたい?Uh、僕らは便利さの意味を再定義しようと思ってたとこさ」

という、全く空気を読んでないメールが飛んできます。
メールの差出人がInstacartとうことは、カートに商品を入れてしばらく決済しないとメールが飛んで来る、いわゆる「カート放棄」のオートメーション・メールをInstacartが設定しているのでしょうが、これは何の効果もないどころか、逆効果ですね。。。

こんなこともあってか、Whole Foodsの生鮮デリバリーはあまり繁盛しておらず、ニューヨークでは、Amazon Freshの上陸と、Farm to People (旧Quinciple)などの産地直送型の生鮮定期便配送スタートアップ(週に1,2回、箱単位で野菜セットや肉セットが送られてくる)や、シカゴのオンライン生鮮販売の老舗、peapodの本格進出を招き、かなり苦戦している様子です。

店舗のホスピタリティは素晴らしいのに、デジタルだとギクシャクしてしまうあたり、非常に残念な感じです。

4. スマホアプリをどう使うか

前述のように、Whole Foodsはスマホアプリも展開していますが、機能はかなり制限されています。基本的に、店舗検索と、各店舗のセール状況、そして、たまにクーポン、と言う感じで、購買機能はありません。

 

 

レシピ機能は案外面白く、特定のレシピを検索すると、必要食材を買い物リストとして登録できます。
ただ、あくまでメモ機能なだけで、それ以上はありません。また、当初は積極展開していたバーコードクーポンはすっかり出現しなくなっています。(iTuneのアプリ紹介画面では、まだフィーチャーされています)
同様な機能を、イギリスのTescoが3年くらい前からやっていますが、こちらは買い物リスト上のアイテムを店舗内でナビしたり、リコメンデーションを出したりといろいろ工夫されているだけに、後発の利を活かして、もうひとひねり欲しかったところです。

 

 

これはおまけですが、たまたま素材収集中にこんな画面が出てきました。

 

 

要は、アプリの利用満足度サーベイなのですが、どうもコミュニケーションのとり方が微妙ですね。。。正直、「これの何に夢中になるんじゃ!」といいたくなります(苦笑)。

5. Whole Foods買収から始まる次のリテール・マーケット

なんとなく、Whole Foodsをこき下ろすような記事になってしまいました。実際、冒頭に書いているようにAmazon Freshの競合という視点で調べたので、粗探しのような書きっぷりになっています。しかし、いち消費者として言うならば、Whole Foodsはかなり素敵です。ニューヨークでまともな鮮度の魚が手に入るのはこことEatalyなど、ほんの少しのお店だけです。店舗のホスピタリティは圧倒的に良く、スタッフだけでなく、レジの行列裁きのシステムも秀逸。生鮮食品だけでなく、200種類以上のビール、夜中のスープバーや朝のサラダバーも最高です。

ただ、最近ではUnion Martなどの小規模オーガニックスーパー(実はここが個人的には最高)も存在感を増し、デジタルではAmazonやスタートアップに圧されるなど、Whole Foodsのマーケットポジションは色んな方向から攻め立てられています。WalmartやTargetのような大型GMSも出店計画を縮小したりと、小売流通は全方位的にデジタルと小規模のカテゴリーキラーに圧されているのがアメリカの現状です。
私が2016年に渡米してから、アメリカで最も急速に、大きく変化したのが小売流通業だと感じておりますが、この流れは加速するでしょう。Uberというライドシェアリングというビジネスが、個人の配送屋ネットワークを生み出したことも、デリバリー激戦の潮流を強くしています。

日本においては、規制やシステム連携など、まだまだ様々なブレークスルーポイントが必要ですが、生鮮デリバリー需要の本格化は時間の問題でしょう。そして、もし一度本格化すれば、小売流通市場における競争優位性が根底から変わるかもしれません。

ただ一つ言えることは、デジタルだけでもフィジカルだけでも、人は便利にも幸せにもならない時代を本気で理解するプレイヤーが勝つ時代に突入しているのだと思います。Whole Foodsは案外早くからデジタルの活用にトライしていましたが、最後まで店舗と同じレベルのホスピタリティを発揮することは出来ず、片手落ちの状態が長く続いたことは否めません。日本ではあまりニュースになっていませんが、WalmartもAmazonのライバルであるJet.comを2016年の8月に買収しています。デジタルとフィジカルどっちが強いという話よりも、ユーザーの幸せを願うビジネスが生き残る時代なのです。
Walmart is buying Jet.com for $3 billion, Recode (2016)

 

ストラテジック・フェロー 金澤 一央(記事一覧)


・I-COM Data Creative Award 審査員
・ニューヨーク大学大学院、School of Professional Study, M.S. Integrated Marketing在籍中
・主な講演・セミナー・寄稿等:日本経済新聞社、JADMA、インプレス、ビジネスブレークスルー大学など

 



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