ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 アパートそらまふ【パロ】2017年3月5日 20:45アパート管理人そらるさん×住人まふくんのパロディです。腐向けナマモノです。全ては筆者の妄想捏造であり、ご本人様たちとは一切合切関係ありません。【まふまふサイド】桜の見頃も終わりに近づく4月の中旬。先日、某大学を卒業したばかりのボク、まふまふは一人暮らしのための新居を探していた。ボクは学生の頃から音楽の仕事をしている。と言ってもまだまだ駆け出しの身なので、稼ぎは当然少ない。なので、それ相応(お値段的な意味で)で、なおかつ多少音を出しても許されそうな物件を探して、駅前を離れ郊外を散策している。近隣に家が無い、小さめの一軒家のような…そんなものがあればベストなんだけど。そうそう上手くは見つからないもので。「あ…」ふと目についた趣のあるアパート。木造の平屋建て。時代を感じさせる「青空壮」と書かれた木の看板。まぁ言い方を悪くすれば、ボロいの一言に尽きるんだけど…。でも何となく興味を引かれて、こそこそと共通門の中に入ってみる。「お…お邪魔しまーす」どこの部屋にも洗濯物などはなくて、住んでる人の気配が感じられない。あれ…?もしかして廃墟だったりして…。オバケとか出たらどうしよう。真昼間だというのに途端に背筋を寒いものが走った、そんな時…。「何か用?」「ヒィ!?」突然後ろからかけられた声に情けない声が出た。振り返ると、ホウキを持った若い男の人。ふんわりクセのある黒髪と、吸い込まれるような目が印象的で…。「あっあの…!勝手に入っちゃってすみません!ボク…その…新しく住む家を探してて… あっ怪しいものじゃないんですほんとごめんなさい!」「そんなに謝んなくてもいいよ こっちこそ驚かせちゃってごめん」吹きだしたように笑われてホッとする。怖い人じゃなくて良かった…。「ここ、見ての通りのおんぼろアパートだよ?君みたいな若い人には嫌なんじゃない?その分家賃は安いけどね」「ボク…お金が無いんで…。あ、あの、ここって…楽器…なんかひいちゃダメですよね?あと…歌、とか…」「音楽好きなの?」「あ、はい!好き…も勿論なんですけど、音楽を仕事にしてるんです。だから、機材とかもいっぱい…なんですけど」共同住宅で騒音はNGだよなぁ…とダメ元で聞いてみる。「へぇ…。音楽の仕事してるんだ。オレもさ、音楽好きなんだよね」「ホントですか!なんか嬉しいです」初対面だというのに、ふにゃっとだらしない顔をしてしまった。それを見た黒髪の彼もつられたように笑ってくれる。何か…魅力的な人だなぁ。「良かったら、中見てみる?」「いいんですか!?ありがとうございます」案内されて、引き戸の共同扉から中へ入る。部屋は全部で4つしか無かった。「空いてるお部屋はありますか?」「んー…。実はね、今全室空いてる。あ、一部屋はオレが住んでるけどね。オレはそらる。一応このアパートの管理人」「え!?か…管理人さん!?」「て言っても普通の住人と同じようなもんだけど。ここは亡くなった爺さんの物件でさ。」「へー…若いのにすごいですね」「凄くないよ。さっきも言ったけど、他に住人は居ないから気ままな一人暮らしとおんなじ」「あ…じゃあボク…」自分が入居したいと言ったら迷惑になる。そう思って言葉を濁すと…「名前、なんていうの?」「あっ まふまふ…です」「まふまふさえ良かったらさ、住んでみない? 楽器も弾いていいし、オレ音楽の仕事とか興味あるんだよね」家賃も安くしとくよ。と言われて「いいんですか!?」と二つ返事。渡りに船というか…ちょっと美味い話過ぎて怖いくらいだったけど、今思えばその時ボクはこの素敵な管理人さんにもう魅了されていたんだと思う。++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++【そらるサイド】不思議な出会い、というのは本当にあるんだと思った。爺ちゃんから受け継いだ築三十年のおんぼろアパート。家賃がかからないからという理由で住んでたけど、ボロイし場所は不便だし、正直売りに出してしまおうかと考えていた。他に住人もいないし。あ、住人が居ない理由の一つに、怪しそうな人間は入居させなかったというのもある。何しろこんな物件を希望してくる中にはいかにもな人物も少なくはなかったから…。本当はバイトと学業に負われてる絵に描いたような頑張り屋の女子大生でも住んでくれたらな…と淡い期待を抱いてたけど、現実は甘くない。でも、今日入居を決めたこいつ、まふまふは…何だか不思議と一度きりの縁にはしたくないと思ってしまって。女の子ではないけれど、ホストみたいな見た目とは裏腹に、笑った顔が無邪気で可愛くて。下の兄弟が三人もいるオレの保護欲が発揮されたのかと思ったけど。今思えば…きっと、一目惚れに近かったのかも…なんて柄にもなく運命に感謝してる。++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++さっそくまふまふとの共同生活(部屋はもちろん別だけど)が始まった。前もって聞いていた通り、音楽関係の機材が次々と運び込まれていくのを目を輝かせて見るオレ。すげぇ…カッコいいな。引っ越し屋を頼んだわけではなく、まふまふは自分でバンで何往復かして荷物を運びきった。金が無いのもあるけど、やっぱり精密機器は自分の手で運びたいらしい。ひとしきり部屋の中に荷物を納め、一息つく。「あ゛~~~~~もうダメ動けない……」「大丈夫かまふまふ~」段ボールの隙間で突っ伏したままのまふまふの横でオレは水を飲む。「って言うかそらるさん、すごい手伝って貰っちゃってすみません!!」ガバッと顔を上げ謝ってくるまふまふ。行動がいちいちあざといな。「いいよ別に。暇だったから」「ありがとうございます~。正直助かりました。ボク力ないから…」「みたいだな。じゃあ明日の荷解きも手伝ってあげましょうかね~」「え!?いやいや!そこまでしてもらう訳には…」「いいってば。その代わりさ、ひとしきり片付け終わったら音楽の仕事してるとこちょっと見せてよ。あと、歌も聴いてみたい」「そ…そんなボクなんてまだまだ人に見せられるような実力じゃ…。それに…ボクの声って独特でしょう?歌も、こう人によっては耳障りというか…何というか…」自信なさげに項垂れるまふまふ。確かにまふまふの声は男にしてはちょっと高めで、オレとは正反対な感じの印象だ。でもオレはそんなまふまふから紡がれるメロディーはどんなものなのかと興味津々だった。ポンっとまふまふの頭に手を置き、軽くわしゃわしゃっと混ぜる。「取り敢えず、今日はこんなもんにして休めよ。また明日頑張ろうな」おやすみ、と言って部屋を出て行こうと振り向いた時、まふまふは頭に手を乗っけて真っ赤な顔をしていた。「あ…」ちょっと馴れ馴れしかったか…と反省。「お…おやすみなさい…」はにかむように目を逸らすまふまふの挨拶を聞き終わってから、バタンと立て付けの悪い扉を閉めた。(何だよアレ…。可愛いんだけど)ちょっと危ない扉を開きかけてる気がして、オレはブンブンと頭を振って部屋に戻る。人付き合いに飢えてたせいで、ちょっとおかしくなってるだけ。そう言い聞かせてサッとシャワーを浴びると疲れた体をベッドに投げ出した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++次の日の朝「よ、おはよまふまふ。よく眠れたか?」「眠れましたけど…体中が痛いです~…」「はは…オレも」二人して苦笑い。「朝ご飯食べた?」「あ…まだです。でも、食べなくても別に平気ですけど…」「これから力仕事するんだから。良かったら家おいでよ。大層なもんはないけど」でも…と遠慮するまふまふの手をちょっと強引に引き、俺の部屋に入れる。軽くよそった白飯に、夕飯の残りの味噌汁をかけてまふまふの前に差し出す。「ね?遠慮するようなもんじゃないでしょ?」「わ~!猫まんまだ!充分です。ありがとうございます」こんな質素な飯でそんな顔が見られるんなら安い。二人、いただきますと声を重ね、箸をつける。久し振りに人と食べた朝ご飯は旨かった。それも、まふまふだからなんだろうけど…なんて自分の内心は見て見ないふり。少し食休みをし、段ボールに埋もれたまふまふの部屋の荷解きを開始する。「何かお前の服、ビラビラな布みたいなのと猫ばっかりだね」「いっ いいじゃないですかも~!そういうのが好きなんです!」似合ってるけどね、という言葉は飲みこんで。まふまふの動きはトロいが、その分オレが手際よく荷物を片付けていく。食器などの生活必需品は少なくて、思ったよりも早く部屋の中はスッキリとした。「わーー!!終わった!ありがとうございますそらるさん!」「後半お前ほぼヘバってただろ」「えへへ…」「明日はオレ、夜までバイトで居ないから」「あ、バイトしてるんですね」「そりゃまあ、家賃以外の生活費もかかるし」「そっかぁ…。ボクも明日からはお仕事再開できます」「ん、お互い頑張ろうな」作業机に乗った機材やパソコンを見て、そこに座って真剣な顔をするまふまふを想像して顔が綻ぶ。部屋を出ようと思った時、また自然と手をまふまふの頭の方へ出しかけて、思い留まった。(またやっちゃうとこだった…)ふとまふまふの方を向くと、ジーっと物欲しげにソワソワしている。(え…、何それ。して欲しいって事?)ポフッと自分よりもほんのちょっぴり高い位置にある頭に手を乗せ、昨日みたいにわしゃわしゃ掻き混ぜる。まふまふはやっぱり顔を赤くさせたけど、今日は照れくさそうに、でも嬉しそうにヘニャっと頬を緩ませた。ギュッと胸の奥を掴まれたような感覚。おやすみを言い合って、まふまふの部屋を出る。(あー……、ヤバい…)口元に手を当て、零れ出してしまいそうになる悶え声を必死に抑える。オレ、そろそろ戻れなくなりそうじゃね?(…どーすっかなぁ)狭い湯船にチャプリと浸かりながら、体の汚れを洗い流しても無くならない胸のモヤモヤを持て余す。取り敢えず、明日早いし、今日は疲れたし、早いとこ寝てしまおう。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++次の日の夜。スーパーでの仕出しのバイトを終えたオレは、いつも貰う賞味期限の迫った食材をいくつかぶら下げて帰路に着いた。まふまふにはオレが居る居ないに関わらず音は出していいと言ってある。アパートに近付くと、あいつが出しているのであろう音が聴こえてくる。うん。すぐ近くに住宅はないし、あのくらいの音なら近所迷惑にはならないな。門を開けて共同廊下に入ると、控えめに聴こえていたそれがハッキリとしたものになる。オレは一瞬、音にとりつかれた様にその場へ立ち尽くした。「……すげぇ」激しくて魂を弾けさせたようなギターの音。突き抜けるような高音で奏でられるハイテンポなロック。(めちゃくちゃカッコいいじゃん…。これあいつが演ってんの?)今すぐにでも部屋を訪ねに行きたかったが、邪魔をしては悪いかなと思ったのと、もう少しその音楽に浸っていたくて。思考のほとんどをそっちに持っていかれながら、夕飯を作った。夕飯が完成するのと同じくらいのタイミングで、まふまふの部屋が静かになる。丁度いいとばかりに、オレはまふまふの部屋の扉を叩いた。「あ、お疲れ様です。そらるさん」出迎えてくれた顔は激しい演奏の後だからか、ちょっと汗ばんで紅潮している。思わずドキンと心臓が脈を打った。「演奏、すげぇカッコいいね」「あ…やっぱ聴こえてましたよね。うるさくありませんでした?」「あのくらいなら大丈夫」「良かった…」「あの…さ、飯作ったんだけど、食いに来ない?」「…え?」自分でも距離の縮め方が急すぎるという自覚はあった。引かれたかな?オレが管理人だから、断りにくかったりして…。「いや、こういうの困るっていうんだったら全然言って。ついでだからどうかなって…思っただけだから」「逆に…。ボク、そらるさんの迷惑になってませんか? こんなに色々、良くしてもらって…。ボク何も返せないのに」「迷惑なんかじゃないし…。迷惑だったら元から何もしないし…。なんかオレ、まふまふの事になるとさ…」「ボクの事になると…?」うつむかせていた瞳をオレに向けるまふまふ。思わず言葉に詰まる。オレってば何を言おうとしてんだバカ…。「何でもない!ほら!飯食うの!?食わないの!?」「いただきます!!」ピシっと手を上げて言うまふまふにプッと吹きだす。先程までの気まずさもどこへやら、二人して笑いながら部屋を移動した。これまたメニューは質素なものだけど、まふまふは美味しい美味しいと言って食べてくれた。「さっきやってたの、誰のなんて曲?」「あれは『ベルセルク』って曲で、ボクが作ったんですけど…」「お前作曲も出来んの!?凄くない?」「作曲も作詞もミックスも演奏も、何でも屋って感じです。でもどれもまだまだ精進しないとなんですけどね」「いいなぁ…。自分の好きな事で飯食ってくの、憧れる。カッコいい」「ありがとうございます…」照れくさそうな顔を隠すようにまふまふが味噌汁をすする。「声さ、めっちゃ高い音出るんだなお前。オレも歌うの大好きだけど、あんな音域絶対ムリだわ」「キンキンするってよく叩かれますけどね。そらるさんの歌ボク聴いてみたいです!」「別に好きってだけで、そんな期待するようなもんじゃないよ。歌い方とかも、お前から見たら物足りない感じかも…」「いいじゃないですか!ボクの歌聴いたんだからそらるさんも聴かせてくれなきゃズルいです!」「なんだそれ…」ブーブー言い合いながら結局、食器を片付けた後にまふまふの部屋に再移動。まふまふのギターに合わせてバラードを一曲歌うという事に。「オレお前みたいなプロじゃないんだから、ほんとガッカリしても知らないからな」「ボクもプロって程じゃないですよ。あとギターは間違えても大目に見て下さいね」ジャラン…とまふまふがピックを降ろした音を合図に、演奏が始まる。さっきはロックだったけど、バラードもすげぇいい。生の楽器って…やっぱいいな。緊張を抑えながら息を吸う。無理に上手く聴かせようなんて思っても出来ないから、普段通りの声色で、ギターの音に歌声を乗せた。恥ずかしくてまふまふの方を見れない。ちょっと声が震えてしまう。歌詞も間違えたような気がする。こんな風に人と演奏をするなんて、学生の頃の音楽の授業以来で…。少しだけ緊張が張り詰めるけど…。(楽しい…)素直にそう思えた。ジャラン…。始まりと同じようにギターが曲の終わりを告げる。出来るだけ平静を装ってまふまふの方を振り向いた。どうだった?と聞くより早く…「好きです!!!」「は…はぁ!?!?」「ボク!そらるさんの声すごい好きです!!」「そ…そう…?(声、声ね…なるほど)」「も…もし良かったら…」「ん?」「今度、ボクが作った曲、一緒に歌って貰えませんか?」「唐突だね。…いいよ別に。」「ありがとうございます!」満面の笑顔のまふまふ。テンション高くはしゃいでいる。オレの歌がそんなに気に入って貰えたのか?胸の柔い部分がこそばゆくなる。まふまふと一緒に歌うのは大歓迎だけど、オレ達の声って合うんだろうか…。でも、性格もこんなに違うオレたちがこんな風に笑い合っているのだから、歌声もいい化学反応を起こすのかもしれない。何だかお前と出会ってからのほんの数日間で、オレの生活にちょっとずつ奇跡が起き始めてる、そんな気がして。お前は、どうなんだろうな…。焦るような事じゃないし、知るのが怖いのもあるけど。このフワフワとした気持ちと関係に確かなものが欲しくて…。もどかしい日々を過ごす事になる。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++【まふまふサイド】このアパートに住んでから二ヶ月が過ぎた。必ず毎食というわけじゃないけど、そらるさんとご飯を食べる日は多い。たまに一緒に歌ったりして、あちこち出かけたりもした。そうしてボクはどんどんそらるさんに魅かれていった。それがただの友情や尊敬だけじゃない事は分かり始めてる。でも叶うはずのないものだから。出来るだけ自覚しないように。自分が苦しくならないように。そらるさんに迷惑をかける事が無いように。(住む場所だって…無くすわけにいかないし)梅雨のどんよりとした空が頭痛を増長させる。薬を飲んで、余計な考えを振り払うようにボクは作業に没頭した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++【そらるサイド】あいつが来てから、二ヶ月。色々と分かった事がある。まふまふは体が弱い。すぐに熱を出す。それなのに作業に没頭し過ぎて気付いたら朝でしたなんて毎度のこと。職業柄しょうがないのもあるんだろうけど、あいつは音楽が本当に好きなんだ。意外と真面目で律儀な事。ゴキブリが大の苦手な事。料理がさっぱりできない事。どういう舌をしてるんだってくらい辛いものが好きな事。猫が大好きなのにアレルギーな事。他にもたくさん、たくさん。あいつの事を知ることが出来た。お風呂上がりが眩暈がする位いい匂いな事も。そして、明るく振舞ってるけど、人一倍繊細で、過去にいっぱい心に傷を負っていたこと。一度だけ、たった一度だけ。夜中に突然オレを訪ねてきたことがある。オレはまふまふが夜中にうなされてたり、悪夢から逃げ出して悲鳴と共に起き上がるような事があるのを知っていた。相談に乗れればと思って、それとなく聞いてみた事はあったけど、困ったような顔をしてはぐらかされたので、オレもそれ以上は踏み込まなかった。でもオレの部屋に来たあの時は、限界を超えてしまったのであろう苦しみを、ボロボロと大粒の涙に混ぜて排出するように…。色々と言葉をかけてはみたけれど、そらるさん…そらるさん、と。名前を繰り返すだけだったから。オレも黙って、まふまふを強く抱きしめたまま、一緒に眠った。起きた時にはもうまふまふの姿は無くて、残されたメモに『昨夜は迷惑かけてごめんなさい。恥ずかしいから、起きたらいつも通りにして下さいね』と書かれていた。まふまふがそう望むならと、努めて平常心を保ったけど、泣き腫らした眼の痛々しさを今でもハッキリ覚えている。でもそれも、たった一度きりの事だった。「なんでもっと…頼ってくれないんだよ」不謹慎にもオレは、嬉しいと思ってしまったんだ。お前が自分から助けを求めてくれたこと。オレに身を預けて安心してくれたこと。…でも、普通に考えれば当たり前のことで。オレは住居の管理人。あいつは借主。まぁ、友人…とまでは言ってもいいかもしれない。でもオレがあいつに求めているのはそれ以上の事で。もう誤魔化しようがないほど確かなものに育ってしまったそれは、紛れもない恋情で。はぁ…と大きなため息を吐く。出会った直後には感謝した出会いも、今は胸をギューギューと苦しませる原因になっているのだから皮肉なものだ。それでもまふまふを手放したいなんて、少しも考えられないのだけど。むしろ、他の誰にも取られたくないし、…出来ることなら、オレのものに。ピンポーン!不埒な考えを抱いてる最中に鳴り響いた古めかしいベルの音に一気に現実に引き戻される。扉を開ければニコニコと小さな箱を持ったまふまふ。「ケーキ買ってきたんです!一緒に食べましょう」「お前、もう夕飯の時間だよ?」呆れたように笑って返す。「いいじゃないですか別にー。やっと仕事一段落したんですよ。なのでお祝いケーキです」「はいはい、じゃあ夕飯食べてから、デザートに食べましょうね~」「えー!そらるさん細かい…」「夕飯お前の好きな温野菜と焼肉なんだけどな~」「あ!食べます食べます!!」「はい、じゃあ大人しく席に着く!」「は~い」子供かよと思いながらご機嫌に飯をよそってやるオレも大概だ。まふまふの仕事が一段落したので、いつもよりのんびりと食べながらゆうげの時間を過ごす。食後にはまふまふが買ってきてくれたケーキに、淹れたての紅茶。まふまふはイチゴのタルト。オレのはチーズケーキ。ひと口下さいなんて言うから、掬い取って口に入れてやれば、自分から言い出したくせに恥ずかしそうにしている。お返しにオレもひと口タルトを貰った。うん、甘い。「…あの、そらるさん。時間があったら、この後、ボクの部屋に来てくれませんか?」「別にいいよ」そんな風にお呼ばれして貰う事はあんまり無くて。しかも何やら恥ずかしそうにモジモジしてるから、あらぬ期待をしてしまう。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++「これ、新しく書いた曲なんですけど、そらるさんと歌いたくて…」「へー…見せて。ん!?曲名難しい…えっと、桜花…?」「桜花ニ月夜ト袖シグレ、です」「いつも思うけど、すごい言葉思いつくよね」「あ!相変わらず頭おかしいとか思ったでしょ!」「いや~、曲とか作る人はそのくらいでもいいんじゃない?」「否定はしないんだ!も~、それよりちゃんと曲見て下さいめっちゃいい曲だから!」「分かった分かった」お前のそういうところ、好きだよ。ちゃんとオレが歌う部分のパートはキーを配慮してくれてあるのか、歌い易い。うん、いい曲。これ、まふまふがオレと歌うために作った曲なんだ…。この曲を世界で一番初めに、オレたちが歌うんだ…。そう考えるだけで気持ちが高揚してきて、素人なりに曲に相応しい歌声を、お前に届けたい。そう思った。練習をして、お互いにあーだこーだ言いながら曲を覚えていく。「じゃあ、合わせてみましょうか」「おっけー」スピーカーから流れるインストに、歌声を乗せていく。緊張する。でも気持ちがいい。オレは、やっぱり音楽が…好きだ。そして、…まふまふの事も。オレ達の声は不思議なほどに心地よく、混ざり合っていく。『キミに届け 月夜ニ袖シグレ』音が完全に消え、フッとまふまふが力を抜いたのを確認して自分も息を吐く。向かい合わせた顔は、誇らしい笑みをお互いに浮かべて…。「最高ですそらるさん。この曲を、あなたと歌えて良かった…」「オレも、まふまふが一緒に歌う相手にオレを選んでくれて、嬉しいよ」そう言えば、今まで見てきた中で最高の笑顔を輝かせるから。もう限界だった。これ以上隠すのはもう無理だ…。この歌が、二人で歌う最後の歌になってしまうかもしれない。でも、もし、お前が許してくれるなら…。これからも一緒にご飯を食べて二人で笑って時には喧嘩したっていい虫が出たなら馬鹿みたいに騒いでオレを呼んで奇声を上げてオレに呆れた声を出させてアパートの掃除を手伝ってくれたらご褒美のアイスをあげる一緒にくだらないこと言い合いながら夜更かししてゲームしようもっともっとオレと一緒に色んな曲歌ってそれで、お前が泣きたいほど辛いときは、また朝までオレの腕の中にいてよ…「そら…る、さん…?」気が付いたらオレはまふまふを抱きしめていた。気を緩めたら涙が滲んでしまいそうなのをグッと堪えて、鼻先が触れ合う程に顔を近づける。「まふまふ…。オレ、お前が好きだ」まふまふの目が大きく見開かれる。『…ボクも』まふまふの音にならない声を、唇がかたどるのを見て、オレは少し強引に口付けた。「…んっ」開かれていた口に重ねたものだから、勢いづいて舌を絡め取ってしまう。「んぅ!?んっ むぅ…」抗議するまふまふの拳が軽くオレを叩くけど、逃がしてやらない。まふまふから力が抜け、ヘタリとしゃがみこんだところでようやく我に返って解放する。「…そらるさんっ い…いきなりがっつき過ぎ!」「ごめん」にやけてしまう口元を隠せないまま、座り込んだまふまふに手を差し出した。築三十年のおんぼろ木造アパート。だけどそこには、幸せに、幸せに、愛を紡ぎながら暮らす青年たちが住んでいる。おしまい☆