『WOCNursing』2014年6月号<がん患者のW・O・Cケア~躍動する皮膚・排泄ケア~>より抜粋。
皮膚GVHD(移植片対宿主病)のケアについて解説します。
Point
- 造血幹細胞移植の治療原理とGVHD発症機序の概要を把握する
- 造血幹細胞移植における予防的スキンケアについて理解する
- 急性GVHD・慢性GVHDの皮膚障害の特徴について理解する
- 皮膚GVHD発症時のスキンケアについて理解する
赤川順子
(静岡県立静岡がんセンター副看護師長)
〈目次〉
はじめに
造血幹細胞移植における特有の合併症である移植片対宿主病(graft versus host disease;GVHD)は,急性期,慢性期で症状が異なり,症状の増悪は患者のQOLを阻害し,重症化すると致命的となることがあります。
皮膚GVHDは,日々患者と接する機会が多い看護師の観察によって症状を把握し,医師との情報共有を図りながら,適切な全身および局所的治療やスキンケアを行うことで症状の軽減を図ることができます。
造血幹細胞移植とは
造血器の悪性腫瘍である白血病や,再生不良性貧血などの造血不全性の疾患は,病気の本体である骨髄を正常人の骨髄と入れ替える,全身的な治療が必要となります。
骨髄のなかにある血液のすべての成分(白血球,赤血球,血小板など)の種になる細胞を造血幹細胞といいます。この造血幹細胞を入れ替え,患者の骨髄や血液の細胞をすべて正常なものに置き換える治療を,造血幹細胞移植といいます(図1)。
強力な化学療法と放射線療法によって患者の病的細胞を破壊し,ドナーの正常な造血幹細胞を移植することにより,骨髄機能を回復させる治療法である
造血幹細胞移植は,患者と健常人である造血幹細胞の提供者(ドナー)によって成り立つ治療法です。家族や他人からの移植を同種造血幹細胞移植(以下,同種移植)といい,本コラムでは同種移植について述べます。
同種移植のながれ
移植日の1週間ほど前から,移植前処置(大量化学療法や全身放射線照射を併用した治療)を行います。これは病的な細胞を破壊するとともに,ドナーの造血幹細胞がうまく働くことができるように患者の免疫を抑制する目的で行います。
その後,ドナーから採取した造血幹細胞を移植します。移植前後の期間は無菌室で過ごし,移植後2〜3週間でドナーの造血回復(生着)を迎えます。生着後も数年にわたって合併症に対する注意が必要です(図2)。
移植治療における予防的スキンケア
移植時はさまざまな皮膚障害が発生します。その要因としては主に生理的要因,物理的要因,感染要因,治療要因があります。とくに治療要因では,移植前処置やGVHD(移植片対宿主病)によるダメージがあります(1)。
そのため,皮膚のバリア機能を維持させ,皮膚障害の発生を予防または軽減させるスキンケアを習慣化することが重要です。移植決定時から患者教育として,皮膚の清潔保持と保湿の必要性を説明し,セルフケアが習得できるよう支援します(表1)。
GVHD(移植片対宿主病)とは
移植した造血幹細胞が生着するとドナー由来の血液細胞が増え,ドナーのリンパ球が患者の身体を異物・外敵とみなして攻撃する反応,GVHD(移植片対宿主病)が起こります。本来,リンパ球は身体のなかでウイルスなどの外敵を攻撃し,自分の身体を守る働きを持っていますが,自分の身体を外敵と認識することでさまざまな臓器にさまざまな症状を引き起こします。
GVHDは移植が成功するか否かを左右する重要な合併症であり,急性期に発症する急性GVHDは重症化すると生命を脅かす危険性もあります。
一方,ドナーのリンパ球は患者の体内に残っている病的な細胞を攻撃して消滅させてくれる効果もあります。これをGVL効果(graft versus leukemia effect)といい,移植後の再発率を低下させる効果があります(図3)。
GVHD:ドナーのリンパ球が患者の身体の組織を攻撃する反応
GVL:患者の身体に残っている微小病変を攻撃して消滅させる反応
急性GVHD(移植片対宿主病)
主に移植後100日以内に発症するものを急性GVHDといいますが,移植後半年から1年経って,免疫抑制剤を減量していく過程で急性GVHDが発症することもあります。GVHDの主な標的臓器は皮膚,肝臓,腸管です。この3つの項目で,重症度分類を判定します(2)(図4)。
標準的な重症度分類として,Glucksbergの分類法が用いられ,皮膚,肝臓,腸管の3つの項目で評価しステージングする。皮膚は皮疹面積で評価し,成人では熱傷の評価に使用されるrule of nine(9の法則),小児ではrule of five(5の法則)を用いる。各臓器のステージを合わせて総合的にグレードを判定し,治療方針を決定する
急性GVHDの皮膚障害
移植後の免疫抑制状態では,臨床経過においてさまざまな形態の皮膚症状が出現します。皮疹の出現時期を把握し,生着症候群,ウイルス感染,薬疹などとの鑑別が必要です。
皮疹は比較的急激に発症し,顔面,手掌,足底,前胸部に初発することが多く,腹部,前腕内側,大腿内側などの比較的皮膚の軟らかい部分に出現し,重症化すると全身に及びます。皮疹の種類には,紅斑,小丘疹,膨隆疹,出血斑様発赤疹,毛孔一致性の皮疹などがあり,重症化すると水疱形成や表皮剥離がみられます。
皮疹に伴う症状としては,灼熱感,ピリピリ感,掻痒感,疼痛などがあり,温熱刺激やシャワーなどの水圧によって,症状が増強します(図5)。
局所治療
Stage2以上の皮疹は,ステロイド外用薬で皮膚症状を抑える場合があります。ステロイド外用薬は抗炎症効果が強いものから弱いものまで5段階あり,炎症が強い皮疹にはstrongestやvery strongを用いますが,顔面は皮膚が薄いためmediumを用います。軟膏の効果を発揮するため塗布する部位を清潔にして,指示回数を守り,薄く塗布します。
強力なステロイドを長期的に使用することで,表皮の菲薄化が進むことも多いため,症状が落ち着いた後は保湿剤単独の処置に切り替えていきます(3)。
全身治療
皮膚症状も含め,GradeⅡ以上の急性GVHDと診断された場合は,免疫抑制剤の増量あるいはステロイド点滴で治療を開始します。その場合は,ステロイド外用薬は控え,保湿ケアを強化します。
急性GVHDの皮膚障害に対するケア
看護師は皮膚症状の特徴やその変化を注意深く観察し,症状に合わせたケアを適切に選択し,丁寧に継続していくことが重要です。医師の治療と看護師のスキンケアとの協同が皮膚障害の緩和につながります。
主な皮膚症状として,灼熱感・疼痛,掻痒感,皮膚剥離,水疱,滲出創などがあります。よく使う手掌や,体圧のかかる足底に紅斑が出現すると灼熱感や疼痛を伴うことが多く,日常生活に支障を及ぼすことがあります。掻痒感による掻爬は,末梢神経の損傷により,さらに掻痒感を増強させます。掻爬による皮膚の損傷は2次感染を引き起こす場合もあります。
患者は,皮膚症状による苦痛が日常生活に及ぼす負担感や,症状がいつまで続くのか,いつよくなるのかという思いを抱えながら過ごします。治療意欲が維持でき,患者自身が症状を軽減できるケア方法や生活を送るうえでの工夫を獲得できるように支援していきます(4)(表2)。
慢性GVHD(移植片対宿主病)
慢性GVHDは,一般的には3か月以降,平均して6か月頃から発症するため,外来へ移行してから発症することが多く,症状が遷延する場合も多くみられます。
さまざまな臓器障害が生じ,特徴としては硬化病変が多くみられます。とくに肺の硬化は呼吸機能に深刻な影響を及ぼし,口腔や消化管粘膜の硬化は経口摂取が制限されるなど,QOLに大きく影響します。適度な慢性GVHDはGVL効果を兼ね備えているため,患者にとっては,症状と向き合いうまくつきあうことが大事になります。
一方,GVHDやそれに対する免疫抑制治療が長期にわたると,さらなる免疫不全状態となり,肺炎や腸炎などの感染症を合併しやすくなります。これらの合併症は重症化すると生命にかかわることもあります。
慢性GVHDの皮膚障害の特徴
慢性GVHDの皮膚障害は,皮膚や毛髪など身体のさまざまな部分に症状が起こり,膠原病や自己免疫疾患とよく似た症状を呈します(2)(表3)。
皮疹の形態としては扁平苔癬に類似した丘疹が多く,他にもさまざまな形態の皮疹が認められます。強皮症様の皮膚病変は慢性GVHDに特徴的です。下着などで圧迫・摩擦される部位に多く,進行すると真皮・皮下組織・筋膜まで到達することがあります。
色素沈着と脱失が混在し,皮膚の硬化や表皮の萎縮がみられ,難治性潰瘍の症状を呈することもあります。汗腺や毛包,脂腺に及ぶと,脱毛(頭髪や眉毛),発汗低下,皮膚乾燥が機能障害として残ります。爪の変化も多く,形成異常,縦裂,翼状爪などが認められます(図6)。
慢性GVHDの皮膚障害に対するケア
退院後はタイムリーなケア介入は困難であるため,患者の自己管理が重要です。退院指導では,患者個々の生活環境や生活パターンに合わせ,セルフケアが継続できるよう教育的介入を行います(表4)。
表4慢性GVHDの皮膚症状に対する予防的ケアと介入のポイント
移植後は長期的なフォローアップが必要です。外来では,GVHD症状と前向きに向き合う患者を労いながら,多彩で長引く症状や新たに出現した症状を受容し,対処できるよう支援します。慢性GVHD症状によるボディ・イメージの変化は心理面にも大きな影響を及ぼすため,多岐にわたって継続的に支援していく必要があります。
おわりに
スキンケアの目的は,皮膚のバリア機能を維持・更新させ,皮膚障害の発生を予防または軽減することです。GVHDを発症した皮膚は脆弱となるため,移植決定時から早期に患者指導を行い,予防的なスキンケアを継続することが重要です。
皮膚症状の変化を見逃すことなく,担当医師と情報共有しながら早期対処を行い,必要時は皮膚科医,皮膚・排泄ケア認定看護師などの多職種で連携し対処方法について検討していく必要があります。
[引用・参考文献]
[Profile]
赤川順子(あかがわじゅんこ)
静岡県立静岡がんセンター副看護師長
1990年青森県立青森高等看護学院卒業,青森県立中央病院勤務。在職中,2008年青森県立保健大学大学院修了,看護学修士。2010年より現職にて血液・幹細胞移植科病棟勤務。
*略歴は掲載時のものです。
本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014医学出版
P.54~「皮膚GVHDのケア」