色素失調症(ブロッホ・サルツバーガー症候群)
(Incontinentia Pigmenti)
[Synonym: Bloch-Sulzberger Syndrome]
Gene Review著者: Angela Scheuerle, MD, FAAP, FACMG and Matilde Valeria Ursini, PhD.
日本語訳者: 河合美紀、大江瑞恵、倉橋浩樹(藤田保健衛生大学・総合医科学研究所・分子遺伝学研究部門)
Gene Review 最終更新日: 2010.10.28 日本語訳最終更新日:2014.9.23
要約
疾患の特徴
色素失調症は、皮膚、髪、歯、爪、目、中枢神経に症状が現れる疾患である。特徴的な皮膚病変は、次の4段階で進行する。第1期 水疱期(出生時から4ヶ月まで)、第2期 疣状発疹期(数ヶ月)、第3期 渦巻状色素沈着期(生後6ヶ月から成人まで)、第4期 線状色素消退期である。脱毛、歯牙欠損、歯牙形態異常、爪の栄養障害を呈する。網膜の血管新生が一部の罹患者に見られ、網膜剥離を起こしやすい。神経における所見では認知能力の遅れ、知的障害が見られることがある。
診断・検査
色素失調症の診断は、臨床的所見と、色素失調症に関係することが知られている唯一の遺伝子であるIKBKG遺伝子(かつてはNEMO遺伝子と呼ばれていたもの)の分子遺伝学検査による。IKBKG遺伝子のエクソン4からエクソン10の欠失が、罹患者の約80%にみられる。
臨床的マネジメント
対症療法 :水疱と皮膚感染症への標準的な治療をする。網膜剥離のリスクを下げるために網膜の新生血管へは、凍結療法やレーザー光凝固術を行う。網膜剥離へは標準的な治療をする。小頭症、痙攣発作、筋痙性、局所神経障害に対する神経学的評価を行う。神経学的機能異常や網膜の新生血管をみるためには脳のMRI検査を行う。小児歯科医による歯の診療を行う。必要に応じて小児期のインプラント治療を行う。歯の異常が咀嚼や発語に困難をもたらしているときは言語聴覚士や小児栄養士による診療が必要である。精神発達遅滞があるときは、発達支援プログラムや特別教育が必要である。
二次的合併症の予防 :視力低下や斜視が現れたり、頭部を外傷したときは、網膜剥離の評価を行う。
経過観察 :生後4カ月までは1ヶ月に1回、生後4カ月から満1歳までは3ヶ月に1回、1歳から3歳までは半年に1回、3歳以降は1年に1回の眼科検査を行う。神経機能の評価は、小児科、小児神経科、発達小児科による定期検診時に行う。小児歯科または歯科では定期的に評価を行う。
リスクのある血縁者の評価 : 罹患者が眼科の定期検査を受けることができるように、罹患者の血縁の小児へは身体的診察や網膜検査を行って、幼いうちに罹患者を発見する。
その他:発疹の初期段階の局所的、全身的ステロイド使用は効果がない。
遺伝カウンセリング
色素失調症はX連鎖遺伝形式により遺伝する。多くの男児では胎生致死的である。誕生した罹患男児は、共通したIKBKG遺伝子欠失を持った47,XXYの核型であるか、体細胞モザイクである。罹患女児はIKBKG変異を母親から受け継いだか、新生突然変異である。親は臨床的に罹患しているか、非罹患で生殖細胞モザイクのいずれかである。女性罹患者が妊娠において、IKBKG遺伝子の変異アレルを伝える確率は50%である。 しかしながら、機能喪失型変異IKBKG遺伝子をもつ罹患男児は流産する。したがって、生誕する児のおよそ33%が非罹患女児、33%が罹患女児、33%が非罹患男児であると予測される。家系内でこの疾患を引き起こす変異が同定されれば、リスクの高い妊娠に対する出生前診断が可能である。
診断
臨床診断
色素失調症には厳密な診断基準はない。皮膚、歯、毛髪、爪の色素失調症に特徴的な臨床所見により診断が確定する。
色素失調症の臨床診断は、下記の大基準のうち少なくともひとつの項目に当てはまるものがあれば診断される。
小基準にあてはまるものがあれば、臨床診断を支持するものとなる。小基準に当てはまるものが全くなければ、その診断に疑いが生じる [Landy & Donnai 1993]。
X連鎖遺伝の家族歴、または複数回の流産の既往も診断を支持する。
大基準(乳児期から成人期までに生じる皮膚病変)
- 紅班
この紅班は後に水疱(小水疱)になり、顔以外の体のどの部位にも現れ、一般的には線状に分布する。水疱は数週で消退するが、新たな水疱群が現れることもある。紅斑は第1期に現れる(生後1週から4ヶ月)。 - 線状、渦巻状の色素沈着
ブラシュコ線に沿って色素沈着が起こり、主に体幹に生じ、思春期に消退する。― 第3期(生後4カ月から16歳)。 - 線状、もしくは斑状に脱色し毛髪がなく委縮した皮膚 ― 第4期(思春期から成人期)。
小基準
- 歯
歯牙欠損、無歯症(部分または完全無歯状態)、小歯症(歯が小さい状態)、歯牙形態異常 - 毛髪
脱毛、羊毛状の毛、(光沢がない、針金状のごわごわした疎毛) - 爪
穏やかな隆起状、もしくは、陥凹状の爪、爪鉤弯症(肥大し彎曲した爪) - 網膜
周辺部の血管新生
検査
末梢血
特に第1、2期において白血球増多症が生じ、その65%までもが好酸球である。好酸球増加の原因は不明である。
皮膚生検
- 罹患女児
女児の診断を確定するための皮膚生検の組織学的検査は、分子遺伝学的検査が普及したこと、その感度が高いことから、現在ではあまり必要とされない(分子遺伝学的検査の項参照)。しかしながら、好酸球湿潤や細胞外メラニン顆粒を評価するための皮膚生検は、臨床所見が境界線上であったり不確実な女児で、分子遺伝学的検査で疾患を引き起こす変異が検出できなかった場合には、診断を確定するのに役立つ。 - 罹患男児
罹患男児の場合、体細胞モザイクのため、機能喪失型変異IKBKG遺伝子を検出することが困難である。そのような理由で、分子遺伝学検査で、もし血液サンプルから変異が見つからなかった時には、皮膚病変部位などの組織サンプルが必要になるかもしれない。IKBKG遺伝子の機能喪失型変異の体細胞モザイク頻度は、組織間で異なる。
分子遺伝学的検査
GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.
遺伝子 IKBKG遺伝子 (かつてはNEMO遺伝子と呼ばれていたもの)は色素失調症に関係することが知られている唯一の遺伝子である。
臨床検査
- 標的変異解析
罹患女子のおよそ65%(770人中500人)では、IKBKG遺伝子のエクソン4からエクソン10を欠失させるような、11.7kbの欠失(c.399-?_1260+?del)がみられる [Fusco et al 2008]。 - シークエンス解析
共通した11.7kbの欠失に加え、IKBKG遺伝子内の微小な変異が発見されている(Fusco らの研究によると、女性罹患者の186人中16人、8.6% [2008])。IKBKG遺伝子の微小な塩基置換、欠失、重複は遺伝子全体に分布する。しかしながら、エクソン10には、反復変異を繰り返す領域があり [Fusco et al 2008]、そこではとりわけGC含量が高い。エクソン10内の7個のシトシンが続く、同一塩基が並ぶ領域の欠失と重複も、報告されている [Aradhya et al 2001b, Fusco et al 2008]。 - X染色体不活化検査
色素失調症の女性はX染色体不活化に偏りがあり、変異IKBKGアレルをもつX染色体は優先的に不活化される [Parrish et al 1996]。注意: 色素失調症罹患者のX染色体不活化の偏りは血液検体でのみ実証されており、他の組織のX染色体不活化パターンについては、研究されていない。
表1 色素失調症に用いられる分子遺伝学的検査の概要
遺伝子記号 | 検査方法 | 検出された変異 | 検査法1による、検出される変異の頻度 | |
罹患男性 | 罹患女性 | |||
IKBKG | 標的変異解析 | 共通した | 3/18(16%)2 | ~65%3 |
シークエンス解析 4、5 | シークエンスバリアント 6 | 不明 | ~8.6%3 | |
- 当該遺伝子にある変異を検出するのに用いられる検査方法の能力
- 18人中3人は、11.7kb欠失の体細胞モザイクの男性罹患者 [Fusco et al 2007]
- Fusco et al [2008]
- ゲノムDNAのシークエンス解析は、女性のX染色体のエクソンまたは遺伝子全体の欠失を検出できない。
- シーケンス解析に先だって行うPCR法において増幅がみられなければ、男性罹患者のX染色体でエクソンまたは遺伝子全体が欠失していることが推定される。共通した欠失の標的変異解析や、欠失や重複を分析する追加の検査での確認が必要である。
- シーケンス解析で検出された変異は、遺伝子内の微小な欠失や挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位の変異を含む可能性がある。
- Chang ら [2008] は、c.1167dupC (1167insCとしても知られる)変異を持つ男性患者を報告している。この罹患者は、HED-ID(無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症)と色素失調症の皮膚所見とを示す唯一の罹患者として知られている。
検査結果の解釈
- シーケンス解析の結果の解釈で考えておくべき問題点は付録参照。
- ランダムではないX染色体不活化は色素失調症に限ったことではないため、X染色体不活化の検査の結果は参考程度にとどめ、臨床所見や家族歴などから正しく診断する必要がある。
- IKBKG遺伝子の変異を同定できなくても、色素失調症との診断を除外できるわけではない。
検査方法
男性女性それぞれの発端者の診断を確定するために
- 仮の診断を下すために、家族歴の詳細や皮膚異常の経緯を含めた臨床的評価を行う。
- 支持的な所見として、好酸球の増加を評価する。
- 診断を確認するために、下記の分子遺伝学的検査を行う。
- IKBKG遺伝子の共通する11.7kbの欠失を同定する標的変異解析。
- 診断基準を満たすものの共通する欠失のない罹患者にはIKBKG遺伝子のシークエンス解析。
- 上記の方法によってIKBKG遺伝子の変異が同定されなかった罹患者には下記の検査を行う。
- 女性の場合 順不同で下記の検査を行うことができる。
- 白血球のX染色体不活化検査
注意 : X染色体不活化の偏りはX連鎖遺伝子の関与を示すが、色素失調症に限ったことではない。 - 病変部位の皮膚の組織学的生検やIKBKG遺伝子の分子遺伝学的検査
- 白血球のX染色体不活化検査
- 男性の場合
IKBKG遺伝子の共通する欠失の体細胞モザイクを同定するための2個目の組織(病変部位の皮膚など)の分子遺伝学的検査
- 女性の場合 順不同で下記の検査を行うことができる。
色素失調症男性罹患者へは下記の追加的検査を検討する。
- 色素失調症男性罹患者の7%は47,XXY であると推定されているので、核型を検査する [Pacheco et al 2006]。
- 46,XY/47,XXYのモザイクを同定するため、X染色体とY染色体特異的プローブを用いて間期核FISH法を行う。
リスクのある女性親族への検査
色素失調症の臨床所見がほとんどない、または全くない女性へは、下記の検査を行う。
- 親族内の罹患者ですでに同定されている変異の分子遺伝学的検査を行う。または、共通する欠失を検出するための標的変異解析を先に行い、共通する変異が検出されなければシークエンス解析を行う。
- IKBKG遺伝子変異が同定されなければ、X染色体不活化検査を行う。
リスクのある妊娠への出生前診断と着床前診断(PGD)には、罹患している家族に病因となる遺伝子変異が同定されている必要がある。
遺伝子レベルでの関連疾患
IKBKG遺伝子変異に関連する他の表現型
- X連鎖無汗性外胚葉形成不全免疫不全症(HED-ID(EDA-IDとも表記される))、大理石骨病リンパ浮腫無汗性外胚葉形成不全(OL-HED-ID)がある [Zonana et al 2000, Doffinger et al 2001]。
- 無汗性外胚葉形成不全免疫不全症と大理石骨病リンパ浮腫無汗性外胚葉形成不全は男性のみが発症する。これらの疾患は、IKBKG遺伝子内のミスセンス変異(フレーム内欠失、フレームシフト変異、スプライシング変異、他の変異も知られている)によって引き起こされ、NF-kBシグナル低下(消失ではない)を引き起こす [Fusco et al 2008]。
注意:無汗性外胚葉形成不全免疫不全症と大理石骨病リンパ浮腫無汗性外胚葉形成不全は、EDA遺伝子の変異や欠失によって引き起こされるX連鎖外胚葉形成不全とは異なる(外胚葉形成不全の項参照)。
その他のIKBKG遺伝子に関連する表現型
- 初期には化膿菌に感染しやすく、後にマイコバクテリア感染を引き起こしやすいX連鎖の症状を示す、非定型抗酸菌感染症(AMCBX1、OMIM300636)が、男性のある種のIKBKG遺伝子変異との関連が報告されている [Orange et al 2004]。
- Filipe-Santos ら [2006] は、カルメット-ゲラン桿菌(BCG)のような、弱い毒性のマイコバクテリア株に感染しやすいという特徴を持つX連鎖のマイコバクテリア易感染症(MSMD、OMIM209950)と男性のIKBKG遺伝子ミスセンス変異との関連を報告した。
臨床像
自然経過
色素失調症は、皮膚、眼、中枢神経に症状を示し、主に罹患者は女性でまれに男性もいる。女性罹患者は、出生時またはその直後に紅斑水疱性の発疹がみられる。発疹は時間をかけて徐々に進行し、疣状、色素沈着、萎縮という経過をたどる。成人では、線状に色素が消退する。脱毛、歯牙欠損、歯牙形態異常、好酸球増加による白血球増多症、網膜の血管形成異常、その他の眼の所見がみられる。ときどき、骨奇形、痙攣発作、知的障害もみられる。
色素失調症の女性罹患者700人と男性罹患者60人に関する最近の報告では、上記の疾患の症状を支持し、さらに詳しく報告している [Hadj-Rabia et al 2003, Phan et al 2005, Ardelean & Pope 2006, Kim et al 2006, Pacheco et al 2006, Badgwell et al 2007, Fusco et al 2007, Fusco et al 2008]。
これらの最近の報告では、標準化された診断基準に基づいて報告されており、他の疾患と診断が下される患者を含む可能性が以前の報告より少ない。今まで、1200人もの色素失調症罹患者が報告された。しかしながら同一人物が複数回報告されているか否かは未確認である。
また、多くの報告では分子遺伝学的確認は含まれていない。
皮膚(図1,2,3参照)
色素失調症は、各段階が連続的に進行する。初発と各段階の期間は、個人によって違い、罹患者すべてが、前掲の4段階に進行するのではない。各段階を規定している皮膚異常は、ブラシュコ線と呼ばれる胚から胎児へと皮膚が発達する方向を示す線に沿って現れる。ブラシュコ線は、胚発生の時期におこる細胞移動や成長経路に一致している。皮節と同じく、四肢では線状で、体幹では円周状である。ブラシュコ線は、皮節とは違い、神経支配の分布パターンや脊髄レベルとは一致しない。
図
図1 色素失調症罹患女児 第1期 水疱期
注意 水疱は必ずしも線状とは限らない。
図2 色素失調症罹患女児 第3期 色素沈着期
図3 網目状色素沈着の成人
- 第1期 水疱期
水疱期は、水ぶくれ状の水疱性発疹が現れる。四肢では線状で、体幹では円周状である。発疹は紅斑状であったり、感染症のように見えることもある。第1期は、生後6週から8週以内に始まるが、出生時にあることもある。第1期の発疹は生後18か月までに次第に消失する。しかしながら、すでに第4期を示していた5歳の女児に小水疱性発疹が現れたとの報告がある [Darne & Carmichael 2007]。 - 第2期 疣状発疹期
疣状発疹期は、四肢では線状で体幹では円周状の肥大した疣状の発疹が現れる。生後数ヶ月以内にこの段階になる。出生時にあることもあるが、典型的には第1期が消失し始める頃に第2期が始まる。第2期は普通数カ月続くが、数年にわたることもある。第2期に爪の栄養障害と歯牙萌出異常が現れることもある。 - 第3期 色素沈着期
色素沈着期は、斑状の青みがかった濃灰色または茶色の色素沈着が現れる。色素沈着はマーブルケーキ状や渦巻状であり、それはブラシュコ線に沿っているためであり、一般的には体幹では円周状、四肢では線状である(図2)。色素沈着期は、色素失調症において最も特徴が現れる時期である。広範囲の色素沈着がすべての女性にみられるわけではなく、限られた範囲であることもある。最もよくみられるのは鼠径部と腋窩である。特徴的な模様を発見するために全身の皮膚表面を調べる必要がある。色素沈着は生後6カ月から1才の間に始まり、多くは第2期が消失し始める頃である。出生時には決して現れない。第3期は成人まで続く。色素沈着は一般的に10代から20代初期に消失し始める(図3)。色素沈着は線状であったり、渦巻状であったり、網目状であったりする。30代以降の罹患女性には、色素失調症に関連する皮膚変化は現れない。 - 第4期 閉鎖期
閉鎖期には線状色素消退と脱毛症が現れる。特に目立つのは四肢であり、もし起こるとすれば、頭皮である。Phan ら [2005] は、罹患者53人中の92%でふくらはぎに第4期の病変があったと記している。第4期の定義は未だ定まっていない。真の色素消退というよりも、脱毛と上皮腺を失うことかもしれない。第1期から第3期と同じように、模様はブラシュコ線に沿って現れる。第4期はすべての罹患者に起こるのではない。もし現れるとすれば、色素沈着が消えた後である。
毛髪
脱毛症は頭部におこるが、体幹、四肢にもおこる。頭髪の斑状脱毛する部分は、第1期の水疱の瘢痕に一致するが、頭皮に第1、2期の病変がなかった罹患者でも起こる。脱毛は、第4期の皮膚変化の一部としての色素消退が起こった場所に起こる。小児期は、頭髪は細くまばらである。毛髪は、光沢がなく、針金状で、ごわごわしており、頭頂部ではしばしば「羊毛状母班」を呈する。脱毛した部分が非常に小さいと罹患者自身も気が付かず、特に他の部分の頭髪に覆われてしまえば発見するのが困難である。睫毛と眉毛がまばらになる事例も報告されている。
胸部
乳房組織の異常には、乳房形成不全から副乳までにわたるいろいろなものがある。Badgwell ら [2007] は、副乳、無乳頭、乳頭の非対称などを、対象罹患者の11%に発見したことを報告しているが、他の3つの大規模な罹患女性の調査では、乳房組織異常は報告されていない [Hadj-Rabia et al 2003, Phan et al 2005, Kim et al 2006]。ただし、後の2つの研究は思春期前の子どもを対象にしたものである。
歯
歯牙欠損(歯の数が少ない)、小歯症、歯牙形態異常(円錐歯、副咬頭)、萌出遅延、歯牙埋伏がある。エナメル質と歯の強度は普通である。Wu ら [2005] は、2人の罹患者に、歯冠部が長く、歯根部が短い、チューリップ形の上顎中切歯の永久歯があったことを記している。3人の罹患者に高口蓋が記されている [Minic et al 2006]。
爪
爪の栄養障害(線の入った、凹んだ、脆い)がある。これらの変化は、爪の真菌感染症にしばしば似ている。爪の栄養障害は第2期に最も共通して起こる。爪の変化は一過性のこともあるが、単一の慢性の縦の隆起は、ある研究によると罹患者の28%に見られた [Phan et al 2005]。
中枢神経
歴史的には、痙攣発作、知的障害、その他の中枢神経異常は、色素失調症罹患者の30%に及ぶと報告されてきた。しかしながら、遺伝子検査が利用される以前の事例では、色素失調症という診断が適切であったかどうか不明である。最近の罹患者の研究では、中枢神経異常の有病率は以前よりも低い。色素失調症男性罹患者は、女性罹患者よりも、神経異常になりやすい。
中枢神経所見は、下記の4つの後方視的研究で示されている。
- Hadj-Rabia ら [2003] によると、小児47人中、深刻な神経異常があったのは、7.5%である。
- Phan ら [2005] によると、53人中、痙攣発作は病歴が確認できる47人中11人(23%)、知的障害は4人(全員眼科異常を伴う)である。注目すべきことに、痙攣発作と知的障害がみられたのは発端者だけであった。家族歴から罹患していることが判明した血縁者は、全員神経学的に正常であった。
- Kim ら [2006] は、女性罹患者38人中、痙攣発作がみられたのは7人(18%)(1人は点頭てんかん)、脳性麻痺は4人、両方は1人であった。さらに1人は白質軟化症であった
- Badgwell ら [2007] の報告によると、罹患者198人中、中枢神経所見がみられたのは28%であり、知的障害や重度の運動障害などの深刻な障害がみられたのは9%だけであった。1/3は、例えば合併症のない新生児痙攣などのような軽い一過性の中枢神経異常があった。残りは、緩やかな発達遅滞や片側不全麻痺があった。
- Fusco ら [2004] の報告によると、罹患者60人中、中枢神経障害(痙攣発作、痙性不全麻痺、運動障害、知的障害、小頭症など)がみられたのは、13%であった。
診断時にMRI検査を受け、また臨床経過によって再度検査を受けた12人の罹患者についての前方視的研究で、Pascual-Castroviejo [2006] は以下の通り結論付けた。
- 神経学的機能障害のある5人の少女は、脳に異常があった。病変は出生時に既に存在し、血管支配領域とは一致せず、進行しない。著者らは、脳の病変と第1期の頭皮の病変と眼球異常には直接に相関があることを示した。
- 機能的に正常な7人は脳に異常はなかった。
Triki ら [1992]、Wolf ら [2005] は、脳炎のような症状を示し、特徴的な広範囲な皮質壊死を起こした新生児について報告した。1例は、生後2日目に無呼吸を起こした罹患者にMRI検査で変化があった。生後5カ月に再びMRI検査をすると、嚢胞性病変、委縮性基底核、髄鞘形成不全がみられた。Abe ら [2010] は、生後2ヵ月に痙攣発作、脳症をおこした罹患者の脳MRI検査をしたところ異常があったと報告した。
網膜
色素失調症の罹患者は網膜剥離のリスクが増す。網膜剥離のリスクが最も高い時期は乳児期から幼児期である。6歳以降ではほぼ起こらない。網膜剥離の前に、網膜周辺部の血管新生がおこり、網膜剥離のあとは滲出や線維化する。散大した瞳孔への倒像眼底検査によってそれらの変化がわかる。
患者30人を対象にしたある研究では、77%に何らかの眼科的所見があり、43%に視力を脅かす問題があった [Holmstrom & Thoren 2000]。深刻な所見では、網膜剥離、眼球萎縮、網膜隆起、重度の近眼、視神経萎縮、斜視があった。軽度の所見では、網膜色素上皮異常と角膜混濁があった。この研究ではそれまでの報告よりも眼科の問題の発生率が高いことを示している。
眼科所見は、4つの後方視的研究によって示される。
- Hadj-Rabia ら [2003] の研究では、小児47人に眼球異常を認めたのは20%で、重症例は8%であった。
- Phan ら [2005] は、知的障害のある4人は眼の異常を伴っていたと結論付け、網膜の血管新生が他の神経学的異常の指標となると示唆している。
- Kim ら [2006] は、罹患者40人(女性38人男性2人)に網膜症があったのは10人(25%)で、斜視や他の眼科異常は7人(17.5%)であった。
- Badgwell ら [2007] は、罹患者198人に眼の異常があったのは20%であったと報告した。
- Fusco ら [2004] は、眼科異常(斜視、白内障、視神経萎縮、網膜血管異常、色素異常、小眼症)は22%であったと報告した。
Pascual-Castroviejo ら [2006] は、眼科異常は、構造的脳病変のある罹患者に限られると記した。
知能
色素失調症罹患者の多くは、男女ともに知能は正常である [Hadj-Rabia et al 2003, Phan et al 2005, Kim et al 2006]。色素失調症の診断基準に達する男性罹患者の知的障害や発達遅滞の発症率は、そのような所見を明確に報告した研究においては、およそ25%-35%である [Scheuerle 1998, Ardelean & Pope 2006, Fusco et al 2007]。男女ともに、重度の視力低下を引き起こす眼球異常が、二次的に精神運動の発達に影響を与える。男性罹患者においては、同時に47,XXYの核型であることが、色素失調症の知能表現型に影響する。
その他
好酸球増多症はどの臨床症状とも一貫して関係しているわけではなく、典型的には自然に消失する。
重度の原発性肺高血圧症の3人の女児は、他の心臓血管の異常はなかった [Triki et al 1992, Godambe et al 2005, Hayes et al 2005]。3人とも脳に病変があり、1人は右手に横断性四肢末端欠損があった。3人とも肺高血圧の合併症で死亡した。推定される原因は、肺の微小血管異常である(2人は病理解剖を断られ、1人は肺所見が記されていない)。
IKBKG遺伝子には炎症と免疫反応を制御する役割があるため、この遺伝子が変異を起こすと、これらの片方または両方の経路が阻害される。色素失調症男性患者では、免疫調節異常は表現型の重要な特徴のようである。女性罹患者の免疫不全も報告されている。女性が、免疫不全にならないのはX染色体不活化の偏りによって保護されているのかもしれない。疾患の診断基準が流動的であるため、免疫制御異常がある女性は色素失調症ではないかもしれないと議論されている。
色素失調症の男性
色素失調症は「男性致死的」な疾患とされているが、60人以上の色素失調症診断基準に達する男性が報告されている。男性が生存するのは下記3点のうちのどれかの働きによる。
- 色素失調症男性罹患者の7% [Pacheco et al 2006] は 47,XXYの核型である。
- 体細胞モザイクである。
- 46,XY/47,XXYの低頻度体細胞モザイクが、1人の男児において、XおよびY染色体プローブを用いた間期FISH法によって実証されている [Franco et al 2006]。この罹患男児はIKBKG遺伝子の変異は実証されていない。
- 部分的な」色素失調症(病変部位が四肢のひとつだけに限局される)を示す男性も数名存在する。所見は体細胞モザイクと一致している。
- 18人の罹患男性は特徴的な臨床的特徴を示し、調べた罹患者においては特徴的な組織学的皮膚異常がある。うち6人は神経学的、眼科、歯科の症状がある [Fusco et al 2007]。
- 軽症型をもたらす変異は免疫不全症(男性に発症するX連鎖無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症(HED-ID)として知られる [Fusco et al 2008])に常に関係している。IKBKG遺伝子変異1167insCに関連して、無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症(HED-ID)と色素失調症の臨床所見を示す男性が1名だけ報告されている [Chang et al 2008]。
平均寿命
新生児期や乳児期の重篤な合併症がない罹患者の平均寿命は通常と同じである。
生殖適応度
色素失調症の女性は、流産のリスクが普通よりも高い。男児の胎児の生存率が低いことに関係していると推定される。色素失調症の女性が複数回の流産を経験することはよくあり、流産は妊娠3ヵ月から4ヵ月ごろが多い。それ以外の妊孕性は損なわれていない。病気でない胎児を妊娠した場合は、妊娠、出産時に合併症を伴わないと考えられている。
病態生理学
IKBKG遺伝子変異が微小血管系に異常をもたらすという証拠は、中枢神経の機能障害は一過性の虚血性発作や本格的な出血性脳卒中を引き起こす血管障害の二次障害であるという考え方を支持している [Fiorillo et al 2003, Hennel et al 2003, Shah et al 2003]。しかしながら、これ以外の研究では、脳の異常と血管形成の関係を示すことはできていない。
IKBKG遺伝子がコードするタンパク質は、免疫経路で機能する。従って免疫不全は色素失調症の表現型のひとつであるということになる。しかしながら、色素失調症の免疫系異常は、今まで十分に研究または実証されていない。色素失調症女性罹患者に免疫異常が起こらないことは、血液細胞のX染色体不活化の偏りの結果である可能性が高い。
色素失調症で男性が致死的であることの理由は、変異IKBKG遺伝子のあるX染色体をもつ男児の胎児では、生存に必要な正常のタンパク質が欠損するからである。男性が致死的であることの正確な機序は、不明である [Hatchwell 1996] が、マウスの実験では肝不全が関与していることが示唆されている [Rudolph et al 2000]。
遺伝子型と表現型の関連
IKBKG遺伝子の主にエクソン10の微小な変異(ミスセンス変異、1塩基の挿入や欠失によって引き起こされるフレームシフト変異、ナンセンス変異)は、色素失調症女性罹患者の軽症型の表現型に関係していて、男児の胎児の流産のリスクが低い。実際に、これらの変異では、無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症(HED-ID)と、無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症と大理石骨病とリンパ浮腫(OL-HED-ID)の男性が生存することができる(「遺伝子レベルでの関連疾患」の項参照)。これらの変異ではNF-kappaBシグナルが低下するが消失しない [Fusco et al 2008]。
浸透率
色素失調症は、浸透率が高い。色素失調症のほとんどの罹患者は、生後数ヶ月以内に表現型を示す。
しかしながら、表現度は非常にさまざまである。加えて、皮膚所見は時が過ぎると消失し、年齢とともに他の皮膚疾患と区別できなくなる。さらに、歯、毛髪、爪の異常は美容的に目立たなくすることができるので、罹患女性は診察において臨床的に明かな診断所見がないかのようになりうる。
命名
X染色体構造異常がある人では、たとえその構造異常がIKBKG遺伝子座(Xq28)を含んでいなくても、渦巻状の色素沈着が現れることがある。このことは、Xp11の遺伝子座に変異を持つ、色素失調症I型という別の病態を定義することにつながった。詳細な研究では、Xp11との一貫した連鎖や、一貫した表現型について実証できていない。従って、色素失調症I型というのは、不適当であると考えられている [Happle 1998]。
X染色体構造異常のある罹患者の色素失調症と部分的に重なる臨床症状は、特定の遺伝子の変異によってというよりも、X染色体が物理的に破壊されていること(欠失、転座)それ自体から生じたX染色体不活化によって引き起こされている可能性が高い。
頻度
色素失調症の頻度は不明である。色素失調症は、「稀な」「珍しい」といわれる。およそ900-1200人の罹患者がこれまで医学文献に報告されている。大規模な後方視的研究のデータの合算であるため、報告されたそれぞれの事例が別々の罹患者であるかどうかは不明である。IKBKG遺伝子の変異が原因であることが発見されて以来、700人の女性が確認のために分子遺伝学的検査を行った。
鑑別診断
罹患者が(神経学的障害の二次症状以外の)骨格病変、重度の神経学的障害、重度の脱毛、非定型色素沈着、重度の色素消退があるときには、色素失調症以外の診断が検討される。身体の部分的非対称性は色素失調症に普通は関係しない。しかしながら、横断性の四肢末端欠損がある色素失調症罹患者が1名報告されている [Hayes et al 2005]。
色素失調症の皮膚症状の鑑別診断は症状の段階によって変化する。色素失調症の児童は感染症を合併しやすいことから、たとえ色素失調症であっても、感染症に一致する所見はそれに応じて評価されるべきである。
- 第1期 水疱期
下記の事項が考慮されるべきである [Wagner 1997]。先天性単純ヘルペス、水痘、ブドウ球菌や連鎖球菌の水疱性膿痂疹と(重度の症例では)表皮水疱症(栄養障害性表皮水疱症、単純型表皮水疱症の項参照)。感染状態は、一般に、発熱と全身性の毒性などの炎症の兆候と関連している。病変部位の皮膚掻爬・培養による、感染症の診断をする。軽い外傷の痕に出現する水疱性病変は、表皮水疱症の特徴である。皮膚生検の解析、透過電子顕微鏡法、免疫蛍光抗体/抗原マッピング、分子遺伝学的検査によって診断が確定する。 - 第2期 疣状発疹期
この時期の所見は、他の疾患と混同されにくいが、軽度の色素失調症の事例では、単純な疣や伝染性軟属腫のようにみえることもある。病変部位が多く特徴的な模様であるときは、疣にも伝染性軟属腫より色素失調症を考える。色素失調症の病変1カ所と単純な疣の鑑別は、生検を行わないと困難である。 - 第3期 色素沈着期
皮膚の例外的な部位への色素沈着や、ブラシュコ線に沿って発生する他の異常との鑑別診断を行う [Nehal et al 1996]。
一般的に最も混同して診断されるのは、同じ「渦巻状の」色素沈着を示す伊藤母斑症である[Happle 1998]。色素失調症と伊藤母斑症との最も明らかな違いは、色素失調症罹患者では色素沈着の部位が異常だが、一方、伊藤母斑では色素消退が典型的であるが局所的な色素沈着の部位も観察されることである。伊藤母斑はしばしば染色体モザイクによって発症する。染色体モザイクの罹患者には、知的障害や脳異常を含む先天性奇形があることが多い。色素失調症でありながら、伊藤母斑でもある罹患者が報告されていることで、大規模な研究と比べて、色素失調症の罹患者に知的障害と中枢神経異常を発症する確率が高いことが説明でき [Scheuerle, unpublished]。伊藤母斑の所見を示す罹患者へは、血液の核型、そしてそれが正常であれば皮膚の繊維芽細胞の核型による染色体モザイクの評価が推奨される [Nehal et al 1996]。
- 第4期 閉鎖期
閉鎖期の皮膚症状は、瘢痕、(限局性脱毛を伴う)白斑、色素消退と限局性脱毛が現れる他のすべての症状に似ている。鑑別は、主に病歴に基づいて行う。白斑は進行性で、色素消退した部位は色素沈着した部位に囲まれていることもある。白斑であれば、色素失調症の他の段階の症状が先行せず、皮膚以外の症状を伴わない。まだら症は常染色体優性遺伝形式の色素消退で、皮膚だけに症状が現れ、しばしば出生時に発症しているが進行しない。
色素失調症の他の症状を鑑別診断する際には、下記の疾患を含む。
- ネーゲリ症候群
ネーゲリ症候群は、常染色体優性遺伝の稀な疾患であり、皮膚と皮膚関連組織に症状を示し、色素失調症に似ているが、多汗症と掌と踵の点状角化症を呈する。色素失調症と違ってネーゲリ症候群は、皮膚所見は段階的に進行しない。ネーゲリ症候群は非常に稀である。線状、疣状病変のある罹患者は、色素失調症である可能性が高い。 - 網膜の血管新生
網膜の血管新生は、未熟児網膜症や家族性滲出性硝子体網膜症にみられる。ノリエ病(ノリエ病網膜症の項参照)関連疾患の部分症としてX連鎖劣性形式で遺伝したり、常染色体優性遺伝形式(常染色体優性遺伝の家族性滲出性硝子体網膜症の項参照)で遺伝する。皮膚所見はこれらの疾患では現れない。
臨床的マネジメント
最初の診断時における評価
色素失調症と診断された罹患者の疾患の病状を確定するために、下記事項の評価が推奨される。
- 症状の有無と程度を確定するために特に皮膚、毛髪、爪、神経系に重点を置いた身体的診察を行う。
- 網膜の新生血管の証拠を見つけ出すために色素失調症や網膜の疾患に詳しい眼科医による診察を早急に行う。
- 痙攣発作や他の神経学的異常や網膜の血管過多がある場合、脳波検査やMRI検査を行う [Wolf et al 2005, Pascual-Castroviejo et al 2006]。
- もし神経学的障害が脳卒中様パターンと一致するなら、脳血管病変を同定するために有効な可能性がある磁気共鳴血管造影法を行う。
- 重度の発達遅滞が同定されるなら、さらなる評価のための発達スクリーニング検査を行う。
症状に対する治療
治療は下記のとおりである。
- 水疱へは標準的な治療(切開しない、外傷を避ける、など)をする。不快を取り除くため局所的な治療(投薬、米糠風呂)をする。
- 蜂巣炎などへの感染症への治療をする。
- 網膜剥離を引き起こす網膜の新生血管へは凍結療法、レーザー光凝固術を行う [Wong et al 2004]。
- 網膜剥離へは標準的な治療をする。
- 小頭症、痙攣発作、筋痙性、局所神経障害があるときは、評価のために小児神経科を紹介する。
- 神経学的機能異常や網膜の血管新生がある児には、脳のMRI検査を行う [Wolf et al 2005, Pascual-Castroviejo et al 2006]。
- 生後6ヵ月か歯牙萌出かの早い方の時期に小児歯科紹介する。早くて7歳からインプラント治療が行われている(同様の歯科障害がある外胚葉形成不全の児と同じである(無汗性外胚葉形成不全の項参照))。
- 乳歯の萌出遅延や不適切な萌出が咀嚼や発語の発達に困難をもたらしているときは、言語聴覚士や小児栄養士を紹介する。
- 発達遅滞があるときは、適切な発達刺激プログラムや特別教育が必要である。
二次病変の予防
新生児期の臨床的マネジメントの目的は、標準的医学治療によって、水疱への感染症のリスクを減らすことである。水疱は切開せず、病変部位は治癒するまで清潔に保ち、過度な炎症と全身への波及の兆候を注意深く観察する。
両親は、特に7歳以下の児については網膜剥離の可能性を知らされるべきである。視力の明らかな変化や後天的な斜視の証拠は、迅速に評価されるべきである。頭部の外傷は網膜剥離を引き起こすことがある。それゆえ、頭部の外傷の評価には、詳細な眼科検査が含まれなければならない。
定期検査
眼科検診の日程計画は確定されていないが、下記のことが推奨されている [Holmstrom & Thoren 2000]。
- 生後3-4ヵ月までは1ヵ月に1回
- 生後4ヶ月から満1歳までは3ヵ月に1回
- 満1歳から満3歳までは、6ヶ月に1回
- 満3歳以降は1年に1回
神経学的機能は小児科、小児神経科、発達小児科による定期健診時に評価する。
小児歯科や歯科での継続的な評価が適切である。
リスクある親族への評価
年少のリスクある親族に対する、罹患者を同定する網膜検査を含む身体的診察は、色素失調症であるとわかった者が定期的な眼科検査を受けることができるように、なされるべきである。
遺伝カウンセリング目的の、リスクある親族への検査に関する問題点については、遺伝カウンセリングの項参照。
研究中の治療法
疾病と症状のいろいろな臨床研究の情報にアクセスするためには、ClinicalTrials.govを参照する。注意 : この疾患の臨床試験は行われていないかもしれない。
その他
局所的、全身的なステロイドが第1期と第2期の発疹を抑える目的のために処方されてきた。さまざまな局所的治療をおこなった事例報告がある [Kaya et al 2009, Jessup et al 2009]。しかしながら、色素失調症の局所的治療の比較臨床試験は行われていない。
遺伝カウンセリング
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
色素失調症は、X連鎖遺伝形式により遺伝する.
患者家族のリスク
発端者の両親
色素失調症の女性罹患者は新生遺伝子変異を持っているか、変異IKBKG遺伝子を母親から受け継いだかである。
- 新生突然変異の結果として色素失調症を発症しているとき、変異は父親から受け継いだIKBKG遺伝子アレルに起こっていることが多い [Smahi et al 2000, Fusco et al 2004]。
- 母親が色素失調症の診断基準に達しているとき、または、母親の第一度近親者に罹患者がいる場合、母親はIKBKG変異を持っている。
- 発端者にIKBKG遺伝子の疾患を起こす変異が同定された場合
- 臨床所見のある親や親族の分子遺伝学的検査が推奨される。
- 表現型は幅広い表現型を示すことから、いずれの両親にも臨床所見がない場合、母親の分子遺伝学的検査を行う。身体的所見は、幼少時軽度であれば気が付かれず、成人するころには容易に認識できなくなっているからである。
発端者の同胞
同胞へのリスクは、両親の遺伝的状況による。
- 女性罹患者の母親もまた罹患している場合、妊娠においてIKBKG遺伝子の変異アレルを同胞に伝えるリスクは50%である。しかしながら、機能喪失型変異IKBKG遺伝子を持つ男児の胎児のほとんどは流産する。したがって、誕生する児のおよそ33%が非罹患女児、33%が罹患女児、33%が非罹患男児である。
- 母親が色素失調症で、活性が低下しているが、活性が欠失しているわけではないIKBKG遺伝子を持っているとき、男児の胎児は生き残り、出生時に無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症を示す。注意 : 母親が色素失調症であり、共通した11.7kbの欠失(活性は失われている)である場合、誕生した児が無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症となるリスクは高まらない。
- 両親が色素失調症でなく、また色素失調症に関係したIKBKG遺伝子変異を持たない場合、発端者の同胞が色素失調症であるリスクは1%以下である。少ないながらもリスクが残る理由は、次の2つの可能性によって説明される。
- 同胞が新生突然変異である。
- 両親のうち一方が生殖細胞モザイクである。
- 色素失調症女性罹患者のどちらかの親に体細胞モザイクが起こっていることがある。IKBKG遺伝子の新生突然変異は共通している。色素失調症で共通した11.7kbの欠失のある罹患女性の91人中59人(65%)が新生突然変である [Fusco et al 2009]。
発端者の子(図4参照)
図4 誕生する児の遺伝子型と比較した胎児の遺伝子型
- 罹患女性
- 色素失調症罹患女性の子のリスクは、妊娠期間において罹患男児が致死と予想されることを考慮に入れなければならない(図4)。
- 妊娠においてIKBKG遺伝子の変異アレルが伝わる確率は50%である。しかしながら、機能喪失型変異IKBKG遺伝子をもつほとんどの男児の胎児は流産する。したがって、誕生する児のおよそ33%が非罹患女児、33%が罹患女児、33%が非罹患男児であると予測される。
- 完全欠失ではなく、活性が低下する変異IKBKG遺伝子を持っている罹患女性の場合、男児の胎児は生き残るが、生下時に無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症となる。注意 : 色素失調症で共通した11.7kbの欠失(活性がない)をもった母親は、無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症の児を産むリスクが増すことはない。
- 罹患男性
今まで、すべての色素失調症男性罹患者は、変異IKBKG遺伝子の体細胞モザイクである。モザイクは生殖細胞を含まないため、色素失調症は罹患男性から娘へは伝わらない。
他の家族
発端者の両親のうちどちらかが、疾患を引き起こす変異を持っているとき、その家族は罹患するリスクがある。
保因者の発見
家系において変異が同定しているのなら、リスクのある女性親族に対する保因者検査は可能である。
偏りを見つけるためのX染色体の不活化検査は、発端者にIKBKG遺伝子変異がなかった場合に、変異のある女性親族を同定するのに役立つ。遺伝カウンセリングに関連した問題
早期に診断と治療をするための、リスクある親族へ行う検査に関する情報は、「臨床的マネジメント」「リスクある親族への評価」の項を参照する。
他の多くの遺伝子疾患と同じく、新生児に色素失調症の診断をすることは、結果として、それまでは家系内にこの遺伝性疾患があると気が付いていなかった母親や他の家族の評価と診断をすることになる。新生児に色素失調症の診断をすることは、健康への影響や子孫の疾患へ対する責任感のため、母親や母系の親族にとって心理的な困難をもたらす可能性がある。それらの問題を予測する努力がなされなければならない。家族計画
- 遺伝学的リスク評価や出生前検査の可否などについての議論は、妊娠前に行うのが、望ましい。
- 患者であったり、IKBKG遺伝子変異を持っていたり、そのリスクある若年成人に、遺伝カウンセリング(子孫への潜在的リスクや生殖に関する選択肢についての議論を含めて)を提案することは適切である。
DNAバンク
DNAバンクは、主に白血球から調整したDNAを将来利用する可能性のために保存しておくものである。検査法や遺伝子、変異、疾患へ対するわれわれの理解が将来深まるであろうことから、罹患者のDNAの保存は考慮に値する。
出生前診断
リスクのある妊娠に対する出生前診断は、通常15-18週頃に行った羊水穿刺によって得た胎児細胞や、10-12週頃に採取した絨毛から調整したDNAの解析によって行うことが可能である。罹患女性の予後は罹患男性とは異なるので、正確な遺伝カウンセリングのためには胎児の核型が決定されていなければならない。加えて、出生前診断を行う以前に、罹患している家族において病因となるアレルが同定されている必要がある。 胎児の核型が46,XXの場合、両親は胎児の50%は色素失調症に罹患していると知らされる必要がある。
- 胎児の核型が46,XYの場合、カウンセリングは、妊娠初期以降に罹患男児が流産するリスクが高いことについての議論を含むべきである。
- 胎児の核型が47,XXYの場合、カウンセリングは、胎児が男児で色素失調症の重度の表現型であり、クラインフェルター症候群であることについての議論を含むべきである。
注意:(1) 軽度の表現型となるエクソン10の重複と点変異は、流産のリスクが低い可能性が高い(「遺伝子型表現型の関連」の項参照)。
(2) 胎生週数は最終月経の開始日、あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。
着床前遺伝子診断
病因となる遺伝子変異が同定されている一部の家族においては、着床前遺伝子診断がひとつの選択肢となる。
日本における色素失調症の患者家族への情報
分子遺伝学
「分子遺伝学」の情報とOMIMの表は、GeneReviewの他の項目と異なっている可能性がある。
表A 色素失調症 : 遺伝子とデータベース
遺伝子記号 | 染色体座 | タンパク質 | 遺伝子座 | HGMD |
IKBKG | Xq28 | NF-kappa-B | IKBKG@LOVD | IKBKG |
データは以下の標準的な引用先から集めた。
遺伝子記号:HGNC
染色体座・染色体座名・責任領域・相補群:OMIM
タンパク質名:UniProt
表B 色素失調症のOMIMの項
300248 | INHIBITOR OF KAPPA LIGHT POLYPEPTIDE GENE ENHNCER IN BCELLS, KINASE OF, GAMMA; IKBKG |
308300 | INCONTINENTIA PIGMENTI; IP |
分子遺伝学的発症機序
IKBKG遺伝子周辺のゲノム構造は複雑である。MER67Bと呼ばれる2つの870bpの順方向反復配列がIKBKG遺伝子内にある。ひとつは、イントロン3にあり、もうひとつは、IKBKG遺伝子の下流域にある。MER67B領域間が組み換わると、IKBKG遺伝子のエクソン4からエクソン10が欠失する。これが、色素失調症の罹患者に共通する11.7kbの欠失である(表2)。この領域内の他の複雑な反復配列間の再構成は、対照群によく見つかる(推定される頻度は1-2%である)正常な(非病原性の)遺伝子多型アリルの原因となる。
正常遺伝子多型アリル
機能しているIKBKG遺伝子は、IKBKG偽遺伝子(IKBKGP1またはDelta-NEMO)から22kb離れている。IKBKG遺伝子と偽遺伝子は、逆向きに配置している。
IKBKGP1偽遺伝子は、エクソン3からエクソン10までだけを含む [Aradhya et al 2001a]。近年、色素失調症罹患者の両親の10%-12%が2つの非病原性の多型を持っていることが発見された。1つは、IKBKGP1偽遺伝子のエクソン4からエクソン10までの11.7kbの欠失である。もう1つは、 正常IKBKG遺伝子の下流域でエクソン4からエクソン10を反復するMER67B領域の重複である(MER67Bdupと呼ぶ)。両者の多型は、対照群において稀にみつかる正常な多型アリルである [Fusco et al 2009]。これらのデータは、色素失調症の遺伝子座は、子孫にリスクある11.7kbの病原性の欠失の突然変異を引き起こす多型を繰り返し生み出すような組み換えをおこしているということを示唆している。
病原性の遺伝子多型アリル
色素失調症罹患者の最も共通した変異は、IKBKG遺伝子のエクソン4からエクソン10の11.7kbの欠失である(「分子遺伝学発症機序」の項を参照)。
活性を低下させるが、失活はしないIKBKG遺伝子の微小な変異(多くはエクソン10)が報告されている [Zonana et al 2000, Aradhya et al 2001b, Doffinger et al 2001, Fusco et al 2008]。それらの変異は女性では軽度の疾患になり、男性の生存を促すが無汗性外胚葉形成不全と免疫不全症(HED-IDと大理石骨病リンパ浮腫無汗性外胚葉形成不全(OL-HED-ID)になる。(「遺伝子型と表現型の関連」の項参照)。さらなる情報は表Aを参照のこと。
表2 選択的病原性IKBKG遺伝子多型アリル
| DNAヌクレオチド変異 (別名1) | アミノ酸変異 | 参照配列 |
c.399-?1260+?del | NM_003639.3 | |
p.Glu390Argfs | p.Glu390Argfs |
- 多型の命名は現行の命名法に従っていない。
正常遺伝子産物
2.8kbの IKBKG遺伝子のcDNAは、酸性でグルタミン酸とグルタミン残基が多く(各13%)、315番目から342番目のアミノ酸にロイシンジッパーモチーフを含む419個のアミノ酸をコードする [Yamaoka et al 1998]。IKKタンパク質-α 、β 、γ -は複合体を形成する。IKBKG遺伝子によってコードされるNF-kappaBエッセンシャルモジュレータタンパク質は、一般的にIKKγ として知られている。アミノ酸419個のIKKγ タンパク質(NP_0036301.1参照)は、ジンクフィンガードメインとロイシンジッパーモチーフで構成されている。IKKγ は、2量体、3量体を形成し、IKKβ 、IKKα と相互作用する [Rothwarf et al 1998, Li et al 1998, Hayden & Ghosh et al 2008]。 NF-kappaBエッセンシャルモジュレータタンパク質(IKKγ )は、胚形成の初期に産出され始め、普遍的に発現する [Aradhya et al 2001c]。正常産物は複合体としてNF-kappaBを活性化させ、他に多くの機能があるが、中でも腫瘍ネクローシス因子α によって引き起こされたアポトーシスを防ぐ働きをする。
異常遺伝子産物
NF-kappaBエッセンシャルモジュレータタンパク質(IKKγ )の異常または欠失によって、IKKα とIKKβ との正常な複合体の形成ができなくなるので、色素失調症罹患者の細胞は正常なNF-kappaBの活性化が失われている。活性化したNF-kappaBはアポトーシスを防ぐ。したがって、色素失調症の細胞はアポトーシス促進シグナルに非常によく反応し、たやすく死滅する [Smahi et al 2000]。共通する11.7kbの欠失は、NF-kappaB活性化の欠損につながり、そのため、結果としてアポトーシスへの感受性が高くなる。それゆえ、男児の胚性致死と罹患女性の大きな偏りのあるX染色体不活化の説明ができる [Smahi et al 2000, Courtois & Smahi et al 2006]。重症の色素失調症に関係する2カ所のIKBKG遺伝子変異が分子レベルで研究され、多様な外部刺激に反応してのNF-kappaB活性化の障害が、この疾病の原因であると解明した [Sebban-Benin et al 2007, Gautheron et al 2010]。